覚悟
その日の狩りは特に問題なく終えた。
まぁ大した相手でもないのと電気漁をするだけなのでこれといった事はなかった。
しかし、俺が休憩の際に一人で考え事をしているとアイラさんがやってきた。
「どうしました?」
「何かありましたか?」
朝の訓練をキャンセルした件だろうか?
今日は誰かと練習をする気にはならず本日の早朝の訓練は事前に伝えて中止していた。
「いえ、それもありましたけど何か悩んでませんか?」
「えっ…」
一体どこで気付いたのだろうか平然に務めていたつもりでいたのだが…。
「うーん、何かおかしかったですかね…すいません」
「なんとなくというかほんとに些細な違和感なんですけど…うちの娘が水辺に立っていた時に明らかに過敏に反応して敵を返り討ちにしてたので…」
どうやらいつもよりも気を張っていたせいで過剰な反応をしてしまっていたようだ。
「いつもなら危険がないと判断してある程度様子を見てから対処していたので…」
そもそもこの階層のモンスターであれば危険はない。
恐らく襲われても大した怪我をすることはないしあまり過保護にしてもそれは成長に繋がらないので基本的には俯瞰する事にしている。
しかし、今日はいつも通りに務めようとしていたせいで過剰に迎撃してしまった。
「そこからバレますか…」
「大した事でじゃなければいいんですけど」
聞いてはまずいことかもしれないという気持ちもあったのだろうが年長者として声をかけてくれたみたいだった。
一人で決めると覚悟したつもりだったのだが、アイラさんに声をかけられたせいで少し気が緩んだのかもしれない。
「話を聞いてもらってもいいですか?」
誰かに話す事で…楽になりたかった甘えだったのかもしれない。
自然にそう口にしていた。
「これから話す話しはここだけの事にしてください。以前、俺が母を殺めてしまった件はお伝えしましたよね?」
「はい…」
「沙月からもし、話が出来るとしたらどうしますか?と聞かれまして…」
「それは…」
突拍子もない話ではあるのだが、死者と会話が出来る。
それは夢のような能力であり恐らく全世界で求められる能力の可能性が高い。
そんな事がもし可能であれば色々な所が確保に乗り出すだろう。
それほどまでにその能力の特異性は高い。
アイラさんの反応がそれを物語っていた。
「俺は、自分が殺めてしまった母と話したいと思っています…だけどその気持ちとは裏腹に何を言われるか怖いという気持ちがあるんです…」
どんな状況であったとしても俺が母を殺めてしまったことは確かなこと。
どんなに謝っても奪ってしまった命は戻っては来ない。
人を殺めるというのはそういうことだ。
先日奪ってしまった命に対しても罪悪感を覚えている…こんな状況でまともに話ができるのか?
そう思うと踏ん切りをつけられなかった。
アイラさんは何かを決めたように深く息を吸ってから口を開いた。
「あなたのお母様と私は別の人間です…だからこそ軽々しくもその想いを語る事はできません」
「だから、母としての立場の言葉と思って聞いてもらえますか」
俺は特に口を挟まずにその言葉に耳を傾ける。
「どんな事情があったとしても子供とは向き合いたいと思ってると思いますよ」
世の中に色々な事情をもった親子がいる…それが正解だとは限らない。
それでも息子として向き合う…そうか、殺してしまった相手ではなく息子としてか…その考えは抜けていた。
どうしても息子としてよりも殺人者としての考えが先行してしまっていた。
アイラさんの言葉で覚悟が決まった。
「息子としてという考えが抜けてました…そうですね…母親ですもんね。しっかり向き合おうと思います」
偉大な母である京香の息子として向き合いたいと少し前向きに考えることができた。
「ありがとうございます」
そういって頭を下げた。
覚悟は決まったので沙月の元に向かって答えを伝える。
「それでは近日中に用意を整えます」
これがどういった結末になるかはわからないが、それが俺が前に進む為には必要な事だと今は考える事が出来た。
その後の狩りをこなした。
順調に討伐数を増やしこのペースであればまた10日後には『節制』が使えそうであった。
覚悟を決めた以上切り替えて昨日もらった手甲を試す為に夕食後にカレンに声をかけた。
「悪いんだが、30層のグリフォン戦付き合ってもらえるか?」
「まじっすか!?」
驚いた顔をしていたが一度どころか何度も単騎討伐をしているのもあってカレンも一緒にボス部屋に入る事を条件に説得した。
多少ヘイト管理が必要にはなるがそこまで気にする必要があるほどの攻防になるとは思えなかった。
それに最悪の場合はスキルで退避してもらう事を伝えてあった。
ボス部屋へと入室し構える。
せっかくならとカレンも魔力を使わせてもらい電磁フィールドを張る。
後は誘導型のレールガンを放ち敵にダメージを与える。
そして相手の鉱石操作による攻撃が飛んでくるがそれを甲部分で受ける。
「マジで衝撃ないからちょっと違和感あるな」
どんな仕組みになっているのかわからないが甲で受けた衝撃はすべて吸収されるので当たった感触すらないのが少し困りものだった。
そしてグリフォンから飛んでくる雷撃に関してもすべて手の甲で弾く。
手の甲部分だけではあるがほぼ無敵というのであればこれほど楽な事はない。
ある程度の攻撃をやり過ごした後に接近する。
鋭いツメによる攻撃をしかける為に振りかぶる。
そしてそれに合わせて手の甲でツメを弾く。
「当たった感触ごと無効にしてるの気持ち悪いな」
そんな事を呟きながらも応戦する。
ある程度の接近戦をこなしたので本命の攻撃を準備する。
急所に一撃を加えて怯んだ所で距離を取る。
そして自身に電気を纏い硬化して電磁フィールドを走らせる。
手の甲部分に当たるように調整してグリフォンへと体当たりを食らわせる。
その攻撃によってグリフォンは消滅した。
「なるほどな…」
手の甲部分に関してはノーダメージだった。
しかしそれ以外の部分には衝撃が入りダメージを受けた。
手の甲部分にだけに当てればこちらへの反動ダメージは入らない事がわかった点については収穫だったがスピードの関係上手の甲だけ当てるなんて器用な事はできないので結局は硬化を使用する必要があった。
「難儀だぁ」
そんな呟きをしているとカレンが駆け寄ってきた。
「すごい!ほんとに圧倒できるんですね!」
「パターン覚えたのもあるけどこれのおかげでもうノーダメージで狩れる」
そういって手甲を見せる。
今まではそれなり傷等を受けていたが完全にノーダメージで狩れるようになってしまった。
こうなってくるとそろそろ40層のフェンリルへと興味が移る。
「40層にもそろそろ挑戦したいなぁ」
「アキラさんなら倒せちゃいそうですね」
「まぁもう少しレベルを上げてからだな」
アイラさんとランのレベルが追いついてからでも別に遅い訳では無い。
それでも現状世界中で倒されていないフェンリルに挑戦したいと日に日に思いが強まっていた。




