手甲
ホテルの部屋に招き入れて向かいあわせに座る。
見る人が見たら完全に逮捕案件だが、仕方ない。
「話って何だ?」
「まず最初にこれをお渡しします」
そういってテーブルの上に手甲が出される。
今、装着しているのはミスリル性の手甲を沙月から渡されて装備しているがそれと形はほとんど変化はなかった。
目立った変化箇所は手の甲部分に青白く光る宝石のような物が付いている位だ。
「これは?」
「先日拾ったオリハルコンで作成しました」
「おお!オリハルコン」
先日拾ってから製作が難航しているとだけは聞いていたのだがどうやら作成できたようだ。
手甲を手にとり重さなどを確かめる。
「まず最初に伝えておきますが…物理と魔法無効の効果がついてます」
「は!?」
物理無効と魔法無効と言われて驚く。
「まぁあくまでもその手の甲部分だけではありますがどんな物理攻撃も魔法も遮断します」
狭い部位ではあるが無効というのは凄すぎる。
「衝撃とか反動はどうなるんだ?」
「無効になります。その部位にあたった物はすべて無効です」
「なるほど、付けてみてもいいか?」
「はい、もし違和感あったら調整するので教えてください」
装着して調整をする。
今までつけていたものと遜色はないので特に問題はなかった。
「大丈夫だ、今までのと一緒でしっくりくる」
「それは良かったです、是非使ってください」
無効部位は手の甲部分だけだがこれがあればすべて無効だと言うなら戦略の幅が広がる。
「あくまでも、その部分だけですからね!無茶してほしくて渡した訳じゃないですからね」
「大丈夫だ、それでこれを渡したかっただけなのか?」
「いえ…もう一つありましてそっちのが大事ですね」
「ん?」
言いづらそうにしている沙月だったが急かしても仕方ないので覚悟が決まるのを待つ。
少しの沈黙が流れた後に深呼吸をした後に口を開いた。
「お母様と話しをしたいですか?」
その言葉に衝撃を受け、その後詳しく話を聞いた。
沙月が部屋を後にした。
「あくまでもアキラさんが希望するなら手に入れる目処が立ったということだけお伝えしておきます。無理強いをするつもりはないので…希望するのであれば…」
これが沙月からの伝言だった。
「それでどうするの?」
シトリーから声をかけられる。
「わからん」
それが素直な自分の心境だった。
「話が出来るのならしたほうがいいんじゃないの?」
「そうかもしれないが…」
どうしても踏ん切りがつかずこの件は少し時間を置くことにした。
その後、モヤモヤした気分だったので風呂に入り頭をリセットしてから眠りについた。
朝というか夜中に目が覚めたので支度をしてセーブポイントに向かう。
最近はボスだけ倒して雑魚の相手をしていなかったので発散も兼ねて複数のモンスターを相手に昨日の手甲を使って試す。
沙月にいっていた通り、甲部分は完全に無効にされるようで当たった的の衝撃もすべて吸収していた。
「これは反則だなぁ」
ある程度倒してすっきりしたのと同時に海上に上がって呟く。
「自身に電気纏った場合の反動も無効になるのかしらね?」
「どうだろうな…」
自身をレールガンの球として放つあの技は、現状自身を硬化状態にしておけばダメージは防げる。
しかし魔力消費がかなり大きくなるので多用が出来ない欠点があった。
それが硬化をせずにこの手甲で防げればそれだけでかなりの利点があった。
「試してみたい所だがここじゃできないんだよな」
10層はキャンプとしては非常に優秀なのだが8~9層は虫、11層~12層は最悪のモンスター配置なので実は10層からだと俺は移動が困難だったりする。
「まぁどちらにしても試すのならそれなりのモンスター相手じゃないと意味がないんじゃないの?」
「それはそうだなぁ」
また機会を見てグリフォンを狩りにいきたいなと思っているがレベル上げが落ち着くまでは無理そうだ。
30層に勝手にセーブしにいくのもカレンにバレてそうで難しい。
そして集合時間までに風呂に入り支度を整える。
身体を動かした事で考えていなかったのだが時間が空いた事で昨日の事を思い出す。
「話したいかどうかか…」
話したいかどうかと言えば話したい…しかし、怖くて仕方ない。
殺した相手とまともに話が出来るのか…?
自分自身で答えを出せなかった。
「あの子もあなたが望むならと言っていたのだから無理をしなくてもいいんじゃない?」
「だが、機会を逃すことも怖いんだ」
この機会を逃せば恐らくそんなチャンスは何度も訪れるものではないと言っていた。
希少なスキルであるが故に入手機会が限られている。
話したい気持ちを殺してしまった相手と会話が出来るのか…それだけが反芻して自身の心を惑わせていた。
「とりあえずもう少し考える…すっと出して良い答えではないと思うからな」
悩めば答えが出る訳ではないし恐らく最終的には話す事を選択すると思っている。
だけど気持ちの整理をつけた上で受けなければ、いざその時が来た時に躊躇ってしまう…だからこそしっかり踏ん切りをつけなければいけない。




