呪い
それぞれ驚きを隠しつつリビングのソファへと移動してくる3人。
段差のせいかランファの母親と思われる女性がよろける。
「大丈夫か!?」
近くにいた俺が手を出そうとすると…
「だめ!触らないで!」
ランファに静止される。
「ごめんなさい…今から理由をご説明します…」
母親から謝罪され、2人はソファへと座った。
「私の名前は、李…いえその性を名乗る必要はもうないわね。アイラと申します」
「藍華です」
2人とも頭を下げる。
「私は、呪いと呼ばれるモノに侵されています…まずそれについてご説明します」
彼女の口から呪いについての説明を受ける。
『衰弱の呪い』
・経験値が減る呪い=レベルが下がる呪い
・レベルが0になると死に至る
・触れた人間、そして周囲の人間からも吸収する
・身体も衰弱しており日常生活が困難
周囲の人間からという言葉で全員が警戒したが、触れている人間がいる場合は、そこからしか吸収しないそうで現在は、ランファが吸われている状況らしい。
「あれ?でもランファさんはレベルがあがってないのではなかったですか?」
カレンが呟く。
「はい、そのとおりです。ランファのレベルは1ですが触れていればその人から優先して吸収する仕様のようで周囲からは吸わなくなります。そして本人以外はレベルが減っても死ぬことはありません」
説明が補足されたことでランファがずっと母親の手を握っていることにも納得がいった。
「吸収をしてないって事は今はアイラさんのレベルが下がっていっているということですか?」
俺が質問を投げかける。
「そうです、私のレベルは現在11…元々は28だったのですが2ヶ月で17レベル下がりました」
28ということはそれなりの探索者だったことがわかる。
「レベル0になると死ぬというのは」
「同じ呪いに掛かった主人が亡くなったからです」
なるほどすでに被害者がいた訳かしかもご主人…。
「主人と呼ぶにはいささか語弊がありますがね…」
なにやらかなり思う所があるようで顔が険しくなっている。
「まぁそれについてはいいのです…この呪いを解除できると聞いてこちらに伺いました」
身体も辛いだろうにその顔には決意みたいなものが宿っていた。
「解除出来るかどうかはお伝えしていなかったと思いますが?」
沙月が氷川さんの顔を見た。
「いや、そのようにお伝えしております」
「申し訳ございません…緊張の為、先走ってしまいまして…対処は可能と伺っております」
「今のところは、確実に延命させることは可能とだけ言わせて頂きます」
それに関しては出来るのだろうなと俺も考えていた。
2ヶ月で17レベル下がったというが俺達は1ヶ月で30以上レベルが上がっている。
という事はレベルが0になって死ぬという事態は防ぐことは可能だ。
「「ありがとうございます…」」
2人が頭を下げる。
どうやらかなり緊張していたようで安堵からか2人で抱き合い涙を流していた。
かなり重い空気だがそんな中物資の受け渡しが進む。
俺の注文のしたスクロールを受け取る。
1億の残高が3分の1になってしまったが仕方ない…これでアレが試せる。
他のメンバーもスクロールで頼んでいたものがあったようだ。
「アキラさんも頼んでいたのですか?」
「ああ、急遽注文したんだが便に間に合ってよかったよ」
「言ってくれればパーティの経費として計上しましたよ」
「そういう仕組みだったのか…すまん。普通に個人の口座から送金してしまった」
「了解です。こっちで処理しておくのでまた入金しときますね」
「いいのか」
「税金ってものがあるのでちゃんと計上しとかないとめんどくさいのですよ…」
とお小言をもらい、払った額はそのまま後で補填されていた。
手間を取らせてしまったので今後は気をつけねば。
「他にもスクロール頼んだんだな」
「彼女達の分がほとんどですけどね…後は効果不明のスクロールも買い取っちゃいました」
という訳で箱いっぱい詰められたスクロールを沙月は受け取っていた。
「各国からミスリルの依頼料として各国からも徴収予定なので今後もっと増えますよ」
怖い…。
そんなこんなでこちらからの納品物も含めて受け渡しが終わり、氷川さんはいそいそと帰っていった。
念の為という事で俺と沙月が見送りをする。
「行き帰りの飛行機はゆっくり寝れるので助かってます…」
と言っていたので本当に大丈夫なのだろうか…。
沙月が作ったスタミナポーションやらの薬品も渡していたのでまだ激務は続くようだ。
「ダンジョンの物なので害はないと思いますけど常用して大丈夫なものなんでしょうか…」
と沙月のつぶやきが聞こえてきた。
「絶倫の効果を教えてあげればいいんじゃないか?」
「詳しい効果がわかっていないせいで性欲目的で使われる事が多くてかなりお高いんですよね…あのスキル」
どうやら体力、気力などの効果よりも性欲の効果を期待されてか年を取ったお金持ちの間で人気らしくかなり効果なスクロールらしい。
最近の売却額は5000万からというから驚きである。
「今回は誰も潜り込んでなかったんだな」
ここに来たのもその確認があったからだ。
「警告が効いたみたいですね…まぁ後は私の『索敵』から逃れられるとは思いませんけどね」
と沙月が言っていたのでどうやら警戒は続けていたようだ。
元々前回の襲撃の際も『索敵』スキルには引っかかっていたそうなのでそこらの隠蔽系のスキルで沙月の目は誤魔化せないことはすでに証明されていた。
「さて分配と報告をやってしまいましょう。彼女たちにも色々と説明をしなければいけませんし」
「そういえば、彼女の母親もパーティメンバーに入れるつもりなのか?」
『怠惰』という大罪スキルを持つランファに関しては入れるというのは聞いていたが母親まで加入させるとは沙月は言っていなかった。
「彼女の情報は聞いてましたが…当初聞いていた固有スキルであればパーティメンバーに入れるつもりはなかったんですけどね…面白い効果を保有してたので本人が希望するのであれば入ってもらおうかと思ってます」
「そんなスキルしてたのか」
「ええ、恐らく固有スキルの半分も活かせてないんじゃないですかね…」
「そんなにか」
「それに『怠惰』に関しては想像以上でした。楽しみです」
にこやかな表情の沙月であったが、一つ気になる事があった。
「呪いの内容は知っていたと思うが…本当に延命しかできないのか?」
家に戻ろうとする沙月に問いかける。
「先程も話しましたが母親の事を不憫に思って助けたいと思ったのは本当です…それでも私はそれを利用しようとも考えています…この答えでも良いですか」
「そうか…実に俺好みの答えだ」
「それは良かったです」
そういって沙月は家に入る。
ただ善意を振りまくだけではこの世界では食い物にされる。
善意を持って他者をコントロールしてこそ沙月らしいと言える。
「ただの聖人君子だったら俺はついてこなかったからな…」
そんな彼女だからこそしっかり守らなければとも思う。
「ちなみにシトリーは、あの呪いの解除方法知ってるのか」
「知ってるわよ」
「う…そだろ…」
「たまにあなたワタクシのこと馬鹿にしてない?」
「割と肝心な所を知らないから知らないものかと思ってた」
「まぁ解除方法を知っていても解除できるとは限らないのが呪いってものよ」
「そんなに難しいのか?」
「かなりとだけ教えておいてあげるわ」
「それよりも呪いの出処の方が気になるわね…」
「それは俺も気になるな」
あんな呪い喰らったら溜まったものではないから対策できるのなら対策をしたい。
「あなたは状態異常無効があるから効かないわよ」
「呪いも無効にするのか」
「当然よ、無効なんだから」
それは安心だなと思ったが他のメンバーがなっても厄介な呪いなので出処は気になる。
「モンスターに使ってくるのはいるけど…何ヶ月も続くものではないのよね」
「となると固有スキル関連か…」
「そういうことね…」
そんな固有スキルがあることに恐怖を感じつつも沙月の後を追って家に入った。
後から入った理由は、どうもあの2人から警戒されているようで俺にだけ険しい視線を送ってきていたからである。
何かしてしまったかと考えてみるが思い当たる節もなく…出来るだけ目立たないように影に徹しようと考えていた。




