沙月の決意【沙月視点の話】part2
自分以外、頼る者がいない、そんな状況下でもし魔力が無しという状況になれば、今後の人生にかなり制限がかかることになることは、検査を受ける高校生達の間では常識となっていた。
一人で待っている間に色々と考えがマイナス方向に向かっていった。
こんな時、家族がいれば相談して不安を話すことも出来たのだが私にはそんな相手はいなかった。
中学には幼い時から一緒にいた友達も多かったがその友達も失った。
受験に関しても、受験勉強に集中することも出来ず入学しようとしていた当初予定していた高校をやめ地元から離れた高校に入学した。
通学に1時間以上かかる高校で知り合いもいない状態だったが、その状態が沙月には有り難かった。
地元ではそれなりに有名だった事もあり、同情の目を向けられる事が多かったが、自分の事を誰もしらない土地でそういった目を向けられることはなかった。
部活を通してそれなりに仲良くしてくれる子も増え傷を埋めるように日常を送っていた。
しかし、自分の心情を打ち明けられるような友達は作れなかった。
作らなかったのが本音かもしれない。
また大切な物を失うのが怖かった。それを避ける為に、一線を引いていたように思う。
だからこそ不安は自分の中で増大し検査の前の日はほとんど眠ることができなかった。そして会場についてからも一人で俯き悪いことばかりを考えていた。
そんな時に、声をかけてくれたのが、アキラさんだった。
急に話しかけられて驚いたが、それよりもその顔を見た時に言葉が出てこなかった。
その人物は5年前に私を暴漢から助けてくれた人物に非常に似ていたからだった。
まだ両親も妹も生きており、今思えば幸せだった、5年前の中学1年生だった私は、初めて友達と東京に遊びにいった。
初めて行く都会に胸が踊り、ついつい遊びすぎてしまい、お店から出た時には辺りが薄暗くなってしまっていた。
友達3人で薄暗くなったせいで急に不安になり、足早に駅に向かって歩いている時に、ガラの悪い3人組に絡まれてしまった。
穴場といわれるカフェにきていたせいもあり人通りもなく、こちらが中学生ということで甘くみたのか、断っても断ってもしつこくついてくる、次第に3人で道を塞ぎ通れないようにされてしまった。
その時の恐怖は未だに思い出すと手が震えるほどだった。
知らない土地で、自分よりも大きな大人の男性3人に前に立たれた時は、恐怖で声を出すことも出来なくなってしまっていた。
でもその恐怖の思い出は、ある出来事のおかげで恐怖を塗り替える一生の思い出に変わる。
3人に手を捕まれ路地裏に連れ込まれそうになる時に、私のヒーローはやってきた。
3人のうちの一人を横から出てきた一人の男性が拳でふっとばしたのだ。
男はフードを被り、顔がよく見えなかったのだが、そのまま二人の男を突き飛ばすと
「あっちだ、早く逃げろ!」
その指示に従い三人で一斉に走る。
恐怖で固まっていた私達3人はその声がスイッチとなりその人の言うままに走った。
しかし途中でどうしても気になり後ろを振り返る。
友達に引っ張られ一瞬しか見えなかったがその時に見た顔は、一生忘れられない人物となった。
今日この日まで名前もわからず、ただ顔だけは忘れずにずっと記憶していた。
この測定会場で会えたのは本当にただの偶然だった。
家から近く、時間に関しても友達に言われて朝イチにきただけで、こんな所で会えるとは夢にも思っていなかった。
そんな戸惑いをよそに、気を紛らわせようとしているのか話をしてくれて、先ほどまでの不安が嘘のようになくなった。
おかげでかなり心が軽くなった。
そんなこんなしてるうちに番号を呼ばれる。
いかなければならない、でも名前が聞きたい。だけどそんな気持ちに反して、彼は私の背中を叩いた。
「ほらいっといで」
その言葉に逆らうことはできず、戻ってきたら名前を聞こう、そう思い魔力値測定に向かった。
魔力測定では、鑑定石がとんでもない光を放ったことで色々な人が集まり、魔力値Aという判断が下った。
聞いていた話とは違い、かなり時間がかかっていた。
魔力値Aという結果よりも私は、彼に名前を聞きにいきたかった。
そしてあの時のお礼をしたかった・・・。
そんな望みは、思いもよらぬ形で叶うことになる。
待合室で待っていたら、彼が魔力測定で魔力ありとなって、また会うことができた。
戸惑っている彼に今度はこちらから声をかける。
それから移動する車内のなかで、ようやく彼の名前を聞くことになった。
暁 アキラ それが私を助けてくれた人の名前。
心に刻み込んだ。
しかし、それが後に私のきれいな思い出だと思っていた出来事が、彼に大きな代償を背負わせてしまった出来事だったことに気付くきっかけとなってしまった。
それからは本当に楽しい時間だった。思い出の彼といっぱい話すことができる、それだけで私は幸せだった。
家族を失い、この先に不安を抱えながらも生きていた私にとっては、自分の過去を知らず、私の境遇も知らず、普通に接してくれる彼に惹かれていた。
今、思えば、助けてもらった時にすでに一目惚れしていたのかもしれない。
あの出来事以降、男性が怖くなってしまい父以外の大人の男性は恐怖を感じてしまうことが多々あった。
そのせいで、同級生の男子からも少し距離を置いていたこともあり、こんなに男性と自然に話せたのは、初めてだったかもしれない。
そしてそんな楽しい時間も終わりタワーに着いてしまった。
彼とは別れて検査を受ける。多少の待ち時間があった為、彼の名前を検索バーに入力していた。また会えるのかな、次は連絡先を聞かないと、そんな浮ついた考えを名前を眺めながら思っていた。
しかし、ふと画面に指が触れ、検索がかかってしまった。そんなつもりはないのに彼の秘密を暴いてしまった罪悪感にかられ、すぐに閉じようとした。
しかしサジェストには・・・[暁アキラ 処分] [暁アキラ 事件] といった不吉な言葉を見つけてしまった。
そんなものを見てしまい、気になって仕方なくなってしまう。悪いことだとは思いつつ記事を読んでしまった。
その記事はある見出しから始まっていた。【期待の天才 暴力事件】という見出しだ。
自分の心がざわつき、嫌な予感が記事を読んでいくと確信に変わっていった。
彼の暴力事件はあの日の事件だった。時間と場所すべてが、あの日のあの場所で起きたことだった。
彼は、ボクサーだった。大学で始めたボクサーだったが、天性の才能でめきめきと実力をつけ、プロにスカウトされ、試合が決まった時期だったそうだ。
デビュー前なのに注目を集めていたのは、有名なプロボクサーが直々にスカウトしデビュー前にも関わらず彼をメディアにだし盛り上げていたせいだった。
しかし、それが裏目となり路地裏の喧嘩で相手が彼だと気付き通報したようだ。一般人に怪我をさせてしまったせいでプロの話は無くなり、大学も退学。最後は、その後の彼の行方は知らないという終わりになっていた。
事件は幸いにも不起訴となっていたが、その事件の内容は自分が知る状況とはあまりにも食い違っていた。
3人に彼が絡み、怪我を負わせたことになっていた。どちらの証言も不十分だったが、彼がプロボクサー候補だったことが向かい風となり、彼が責任を取って謝罪するという形で収束していた。
事件を知り、あの時の事が、こんな問題になっているとは思っても見なかった私は、彼への罪悪感でいっぱいになった。私のせいで彼の人生を壊してしまった・・・その事実だけが私の胸に突き刺さった。
そんな心理状態で、迎えた検査は、ほとんどのことが上の空でほとんど記憶がなかった。その後に私の固有スキルがわかった。
【叡智】、現在発見されているスキルには存在しない為か、どんなスキルかわからないとのことだった。
表示された説明にも叡智を得るという意味のわからない文一つだけだった。
自身の持ってるスキルが【叡智】だと認識した時点で、すぐにスキルを使う事が出来た。眼の前にいる相手の名前、レベル、スキルを事細かく知ることができるアニメや漫画でよく見るステータスを表示するスキルだった。
アニメや漫画ではよくあるスキルだが、こんなスキルは今まで発見された事はなかった。
使うことができるかという質問もされたが、その場では使えないといって誤魔化した。
どう考えてもこんなスキルを持っていることがバレたらとんでもないことになるという事を頭で分かっていたからだ。
現状、レベルや所持スキル、魔力値は個人情報でもかなり重い情報だ。管理は厳重にされており、登録されているデータベースは、特別なサーバーが用意されており外部からアクセスすることも出来ず、一部の人間しか見ることができない状態になっている。
それが見ただけで丸わかりなんてスキルは最悪監禁され兼ねないと思っても仕方ない事だった。
彼への罪悪感に加え、スキルの危険性も加わり、自分の中で不安を抱えていたが、彼を【叡智】で見た時に見えた彼の固有スキルが世間では、ハズレスキルと呼ばれている特攻スキルだったことで覚悟が決まった。
このスキルを使えば彼の役に立てると思ったからだ。
国の為に働いてほしいと言われた時に、まず見返りとして何かスキルを渡すとのことだったが、自分の身を守れるスキルを希望したところ、【生命感知】のスキルをもらえることになった。
これは、意図せず彼をサポートする為に最適なスキルだった。
スキルの隠れた詳細すら見れる彼女にとっては、使いこなすのには時間はかからなかった。
そのおかげで順調にモンスターを狩り、見事に彼に自身のスキルの真価を見せることが出来た。
そして、私の能力の確認にもなった。
彼を利用してしまったみたいで罪悪感もあったが、これで彼と共に強くなることが出来ると思えた。
翌日も順調にモンスターを狩り、順調にレベルがあがって嬉しそうにしている彼だったが、時折みせる申し訳無さそうな顔に心が痛んだ・・・違う、申し訳ないことをしたのはこっち。こんなことで返せる恩じゃないけど、私はあなたの役に立ちたい。その一心ではあったが、彼はやはり私に申し訳ない気持ちがあるみたいで、その申し訳ない表情をさせない為に、彼にすべてを打ち明ける決意をした。
自分でも、彼にのめり込んでしまっている気がしたが失う物がない私は、彼の人生を台無しにしてしまった罪滅ぼしとして彼に尽くすことを決めた。
そして意を決して彼に連絡を入れた。
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