西園寺side
ハワイで起きた出来事は氷川から報告を受けた。
「大変だったみたいだね」
「そうですね…死の恐怖を味わったのはあの時、以来かもしれません」
昔、ダンジョンで危ない目に遭ったがその時と同じ位の恐怖だった。
「レベル50超えとはね…」
現在自衛隊、警察含めても40代が数人いるが50には誰も届いていない。
「実際、あれほどのレベルになるとこちらの攻撃もほとんど効きませんしほんとに兵器ですね」
「まぁ人間である以上色々とやりようもあるが…」
色々と対策は出来るが最悪フィジカルで突破される可能性もある。
「倒し方については報告した通りです」
「50超えの者に近づいて電気ショックね…しかも脳みそに直接」
「それでも死なないそうなので相当かと」
「そもそも近づける人間がほとんどいないと思うわ」
実際この方法を試せるのは日本では彼だけじゃないかしら…そもそも電気操作スキルなんて貴重なスキルを覚えている人間が彼を除くと日本には1人しかいない。
「過小評価していた訳ではないのだけど彼の戦闘能力は全世界でも5本の指に入るんじゃないかしら…」
「そう考えると最初に彼を彼女に付けたのは大正解でしたね」
彼女が早々に結果を見せてきたのも彼の存在が大きかったように思う。
運命だと片付けてしまえばそうなのかもしれないけれど同じ日に試験を受けにきた2人がここまでの成長を見せるというのは本当に驚きだ。
「結局、事後処理についてはアメリカ側がやるのかしら?」
「はい、遺体になってしまった彼もアメリカなら有効活用も出来るかと。他の2人に関しては見せしめの為に隷属化してロシアに帰国させるのでこちらに輸送されてきます」
「そう…あっちは無差別にできないけど50超えだったら条件としては悪くないわね」
「損傷も少ないので有効活用するそうです」
「中国からの要求に関しては応えても良いという話と一緒に武器も一緒に渡されました」
「なるほど…つまり彼女を引き取るということで話を進めて良いのかしら?」
「はい、あちらで面倒を見るそうです」
「わかったわ、そのように手配します。向こうは割と喫緊で動きたいそうなので早ければ数日中にはこちらに来るわよ?」
「問題ないとのことです。ただ引き取るのであれば親戚一同すべて日本に移住してもらうのが条件だそうです」
「彼女は、母親しかいないからそこは問題なさそうね」
「脅迫の材料は減らしておかないといけないのでと事でした」
「つまりこちらで厳重に守れということかしらね…」
「そういうことかと…」
彼女の母親は調査した所、難病を患っている。
彼女が探索者になったのもその関係だと言われているが他国の事だということで残念ながら詳しい事は調査出来ていない。
「病状などを確認して手配はしておいて頂戴」
「了解しました」
そして、氷川からの報告書のある情報の確認を行う。
「本当にこれは彼女が提案してきたのよね?」
「はい…なんならサンプルだと言ってこれを渡されました」
やってくれるわね…。
「世界がひっくり返るわよ…マジックバック」
アイテムボックスの効果を持ったカバンだ。
魔石類の確保が可能になりそれなりの数が量産可能になった。
しかも使用者登録が可能になりそれ以外の者は使えないという代物だ。
「このバックは私が登録してありますが本当に良かったのでしょうか?」
「あなたは持ってても損はないでしょう?今後も輸送をするのであれば尚更」
そして氷川が預かってきたのは未登録のマジックバッグが10個。
「これを彼女は各国に配れと言われたのよね?」
「はい、ロシアを除いてということでした」
「国の配分はこちらに任されたのだけどアメリカには?」
「今回の件があるので日本が配布する形を取ってほしいとの事です」
「なるほどね…」
対応をおざなりにした場合、こういう形で報復を行うと誇示する為でもあるようだ。
「総理と早急に対応を協議しましょう…」
そこから総理とすぐに連絡を取る。
第一声が大きなため息だったのだが1時間後にリモートで会議を行うことになった。
残念ながら今はこちらに来るのは難しいそうだ。
まぁ理由はあれのせいだが。
そして部屋のパソコンのモニターに総理が映る。
氷川も同席だ。
「ようやく一人電子戦の専門家を雇えたそうですね」
「ああ、なのでこの会話については漏洩の心配はない」
「彼女達のおかげで潤沢になった予算のおかげですね」
「全くその通りではあるが…そしてまた問題か?」
「そちらも転移石の件が漏れて大変なようで」
「ああ、まさか使用方法まで漏れるとは…」
「隠蔽工作はしていたのですけどね…これはすぐに全世界に広がりますよ」
「わかっている…そしてさらなる問題とは何だ?」
「まずは今送った情報をご確認ください」
私の送った資料に総理は目を通す。
そして深い溜息を付き…そして口を開いた。
「我が国のせいではなくて良かったと思うべきだな」
「そうだね~向こうは、はしごを外してもなんとかできるだけの力があるし」
「アメリカに対してもこの強気な態度は素直に感服する」
「さすがは元政治家の娘ね…」
「彼は傑物だったからね…末恐ろしい…」
沙月の両親は、政治家としても人間としても相当なキレモノで彼の在任中は不正が一切起きなかった。
それは彼が表にでないように対処していたのではなくそんなことはなかったように事前に処理していたからである。
彼によって選ばれた内閣は優秀な人物ばかりで、しかも不正も一切しない清廉潔白な人物が選ばれていた。
まぁそんな人達もあの災害で全員亡くなってしまい金森のような人間が増えてしまったのだが…。
「まぁというわけで彼女を怒らせてしまったロシアには仲間ハズレという名の制裁が行われる結果になった訳だね」
「今後の製作品の取引はこのマジックバックを介して行われるので介入や追跡をすることも不可能…なるほど考えたものだ」
沙月の新たに制作したマジックバッグは制作者と登録者しか使用することが出来ず、沙月の方で遠隔で機能を停止させることが出来る機能が追加されている。
そしてこのマジックバッグはダンジョンでは使用することが出来ない制限が付与されている。
各国の攻略に使用しようとしても不可能という訳だ。
ミスリル製品の制作に関してはこのマジックバッグに詰めたミスリルを沙月へと届け加工品を沙月が入れた上で返却される。
まぁしばらくはミスリル製品の取引になるが…他の物の取引も始めるつもりなんだろうなと、このマジックバッグの性能を見て察してしまった。
「そしてそのマジックバックは氷川のマジックバックに収納することによって行方は追えなくなるわけだ」
「はい、こちらも同様の制限機能がついていますがこのバックはマジックバックを収納出来るようになっているそうです」
つまりこれでどこに運ばれるのかわからない状態になる。
「そしてすべてのマジックバッグは沙月が追跡可能というおまけ付きか」
「運用方法としては完璧といってもいいですな」
ちなみにすべてのマジックバッグは形が違っている。
しかも既製品のデザインを踏襲しているようで一目見ただけではわからないようになっている。
「現状ミスリルの加工が出来る職人がいるのは日本とアメリカと彼女だけですからね…」
ミスリル武器や防具を制作する際にとんでもなく魔力を消費するそうで量産は出来ない。
日本はランクCの技術者に使用したのだが1日に1本~2本が限界だそうだ。
「これが彼女の希望なので早急に叶える必要がありますよ」
これはロシアに対する報復の一歩なのであまり動きが遅いと彼女の方でもっととんでもないことを仕掛ける可能性すらある。
「はぁぁああ…わかりました…すぐに各国首脳に連絡します」
「配る国についてはエルフのいる国でエルフに運用させた方が良いと進言しておくよ」
「そうなりますね…了解しました」
使用者が襲われる可能性もある以上アンタッチャブルとされているエルフに登録してもらうのが一番安全である。
なぜアンタッチャブルとされているのかというとエルフ達に手を出した場合、彼らが作った魔石の運用装置がすべて活動を停止することになっているからだ。
そんなことになったら世界中が大パニックになる。
特に大きな国家ほどその混乱は大きくなる為、彼らに手を出すことは禁止されている。
「となると…10カ国なのですが…ロシアの分はどうしますか?」
「一応保管しておけば良いんじゃない?正式に謝罪を入れて彼女が許すようなら渡せば良い」
希望がなければ何をするかわからないが…希望を持たせておけば早々下手な事はしてこないと沙月も考えたのだろう。
「荒れるのが目に見えるんですが…」
「まぁでも手を出したのだから仕方ないね。見せしめも兼ねてしっかり対応しておいて」
大きなため息と共に画面が消えた。
本当に彼女が来てから厄介事ばかりだが着実にダンジョンの攻略は進んでいく。
そして私…いや私達の残業時間がどんどん膨らんでいく…。
ちなみにミレイの後釜である彼女も転移石の件で各地を奔走している。
やはりもう何人か入れたいのだが信用が出来て実力のある探索者は、現在ほとんど出払っており対象となる候補すらいない。
沙月が現れるまでの月の残業時間は10時間程度だったというのに彼女がきてから100時間を優に超えている。
「身体が丈夫なのが憎いな…お互い」
そういって氷川と目配せをしてまた業務に戻る。
マジックバックの運用方法については首相に任せるがこちらも準備をしておく必要がある。
「霧崎と日和を返して欲しい…」
そんな嘆きをしても現実は非情であり、積み重なった仕事を早くこなさなければ日が変わる前に帰宅出来なくなってしまう…。
実は現在の業務量でもミレイと日和がいたら月の残業は、20時間ほどで収まっていたりする。
そんなこんなで今日も夜が更け23時を回り残り10分で24時という所で業務が終了した。




