沙月の相談
食堂は少し混み合っていたが席自体はそこそこ空いていたので、3人でメニューを選んでから席を探していたが、知り合いを見つけたのか日和が歩いていく。
「氷川部長」
一人で食事をしていた氷川さんを日和が呼ぶ。
「おう、日和も今から夕食か?」
「はい、ご一緒してもよろしいですか?」
「ああ、構わないぞ」
こちらも確認しながら了承を得たこともあって、4人で食事をすることになった。
「探索はどうだね、順調かね?」
「そうですね、二人共超優秀で今日は300のスライムを狩ったんですよ。完全にスライムスレイヤーです」
「それはすごいな!そこまで狩れるってことは二人共何か運動をしていたのかね」
「そうですね、昔ちょっとやってました」
昔、本格的に身体を鍛えていた為、あの程度の運動はそれほど苦ではなかった。
「私は、部活でガッツリやってます!バスケ部です!」
「そういえば沙月は学校はどうしてるんだ?」
最初に会った日は土曜日だったが、今日はガッツリ平日月曜日である、学生であれば今日は学校があったはずだ。
「学校は、怪我でお休みしますって連絡が入ってるそうです」
「こちらの管理科から学校には怪我で入院中と連絡が入れてあります。とりあえず5月のGWまではこちらで探索活動をしてもらう予定なので」
「部活はよかったの?」
ガッツリやっていたということであれば部活を休むのは問題がありそうに思えた。
「ああ、部活は・・・もう大会とかには出れないので」
「えっ!?」
「ああ、それは私から説明するよ」
そういって日和が説明を始めた。
「現在の競技性のある大会は基本的にレベルがあがった人は参加することは出来ないの。明らかに能力に差が出てしまうからね」
考えてみればそうだった。レベルが上がれば身体能力が上がるということは、その分だけ一般の人とは差が出来てしまう。しかもその差はレベルが上がれば上がった分だけ明確に差がついてしまう。平等な勝負にはならない。
「じゃあ沙月は、部活は・・・」
「ああ、ご心配なく。その話を聞いたうえで私は探索者になることを選んだので」
「ほんとだったら卒業まで待ってもよかったんだが・・・」
そう言ったのは氷川さんだった。
「どうせやるなら早い方がいいと思ったのと、ずっと警護される生活も嫌ですしね」
なるほど、もしすぐに探索者にならなかった場合は、警護対象としてずっと警護されることになっていたのか。
「だけど、決断早かったね、結構迷う人多いんだけど・・・」
日和としては、きっぱりと諦めた沙月を疑問に思っていたようだ。
「これが、運命ってやつかなと思ったので」
そう言って笑う沙月の表情には、特に後悔など微塵も無いように見えた。
そんな会話をしつつ食事を終え解散となった。
食後の運動ということでトレーニングルームに寄ろうとした所、氷川さんも同じ目的だったようで一緒にトレーニングをすることになり、隣同士のルームランナーで走り始める。
「昼間、かなりハイペースに狩りをしたのにまだ動けるのかね」
「そうですね、昨日よりは疲労を感じますが、体力的にはまだまだ行けそうです」
「これが若さか・・・」
「言うて氷川さんも役職の割には若く見えますけど」
俺がみたことある部長職の人間は50~60代の人間が多い。氷川さんは30代後半位に見える。
「まぁそうだな、まだ42だから一般的な部長職の人間よりは若いとは思うが」
「それでかなりハードに仕事してるのにトレーニングしてる辺り、さすがだと思いますけど」
「まぁ元々探索者からの生え抜きでこっちに移ってきたからな、身体は一般人よりはかなり鍛えてある」
「ダンジョンには今でも?」
「そうだな、機会を見ながらだが潜っているよ。ほんとはこの時期は暇なはずなんだがね。色々バタバタして潜れてないがね」
心当たりが多すぎて踏み込むのをやめた。
お互いにかなり余裕がある為か、雑談しながらトレーニングに励み、1時間ほど身体を動かした後に部屋に戻った。
風呂で汗を流しゆっくりしていたら沙月から連絡が来た。
[夜分にすいません、まだ起きてますか?]
まだ時間的には21時を回った所で寝るには少し早い時間だった。
[起きてるよ、何かあった?]
[相談したいことがあるんですが、今からそちらに伺ってもいいですか?]
さすがにこんな遅くに男と二人きりになるのはいかがなもんかと思い
[さすがに夜遅いし明日じゃまずい話?]
[出来れば誰にも聞かれない所で話したくて]
そう言われると確かに二人で話せて他の人は聞かれないとなると部屋しかない・・・
[やっぱり迷惑でしょうか?]
そこまで言われると意識のしすぎかもしれないと考え
[そういうことなら大丈夫だよ]
[ありがとうございます、いまから伺います]
その連絡後、少ししてからチャイムがなった。
ドアをあけるとジャージ姿の沙月が立っていた。
「ほんとはこんな時間に男の部屋に来るのは感心しないんだが」
少し牽制を入れておく。
「すいません、悩んだんですけどどうしても話しておきたくて・・・」
その表情からきっと結構重要な話なんだろうと察し、
「まぁそういうことなら仕方ないか、どうぞ」
部屋に招き入れた。




