叡智と特攻
そしてついに100匹目を倒した。
かなりのハイペースで狩っていたが当初の想定よりも早く達成することができた。
その時、眼の前に突然ウインドウが現れた。
『討伐特典』
【1】特攻モンスターの変更
【2】特攻モンスターのドロップ品開放
【3】特攻モンスターの攻撃値アップ
【4】特攻モンスター以外への攻撃値アップ
【5】特攻モンスターからの経験値アップ
と表示されていた。
何がなんやらわからなくなっていたが、ひとまず状況を伝える為に、目の前の相手にそれを相談した。
「頭おかしくなったのかもしれないけど、いま目の前に変なウインドウが表示されてて、討伐特典って出てるんだけど・・・」
「ほんとですか!なんて書いてあります?」
沙月は驚くというよりは、安心したような表情で内容について尋ねてきた。
表示されてる内容を沙月に伝えたところ・・・
「なるほど、そういう仕組なんですね。とりあえず攻撃値には困ってないので経験値アップにしましょう。RPGとかだと経験値アップは基本です」
「わかった」
言われるがままにウインドウの経験値アップを押した所
『経験値倍率1→1.5』と表示された。
それをそのまま沙月に伝える。
「なるほど1が1.5ってことは、次は2になるんですかね、楽しみですね!」
沙月には慌てる様子が感じられなかった。
「ああ、でも効果を実感するのにドロップ品を選んでもよかったかもしれないですね・・・いやそれだとすぐバレるから・・・」
そんなことを沙月がつぶやいていた。
「君は、こうなることを知っていたのか?」
俺は沙月に問いかける。
少し気まずそうにしていたが、明らかに沙月はこの状況について知っていたようだった。その理由を聞かずにはいられなかった。
「はい、どんな効果があるかまでは知らなかったですけど、100体倒せばこういう事象が起きることは知ってました」
「尋ねずにいようと思っていたが、君の固有スキルの効果を教えてもらえないだろうか?」
固有スキルの効果を聞くのはタブーと思い、特にレアスキルだという彼女のスキルを尋ねるのはやめておこうと決めていたのだが、こうなってしまうとどうしても聴きたくなってしまった。
自分の中ではすでに予測は付いていたが、彼女に直接聴きたかった。
「私の固有スキルの叡智はそうですね、わかりやすく言うと対象のステータスを確認するみたいな能力です」
「ステータスの確認?」
「はい、対象の人物のステータスを見ることができます、名前、レベル、スキル、次のレベルまでの経験値なんかも見れます」
「それは・・・」
すごい能力だと感じたが、それは鑑定石でもできるのではと感じたが、そのスキルだけではこの討伐特典についてはわからないはずだった。
「このスキルだとスキルの詳細まで出るんですよ。暁さんの持っていた特攻スキルには、さらに詳細情報があるんです。その内容は
『特攻モンスターへのダメージ10倍、特攻モンスター以外へのダメージ10分の1、特攻モンスターのドロップ率アップ、特攻モンスターを24時間以内に100体討伐毎に討伐特典』
これが私のスキルで把握できる暁さんの固有スキルのすべてです」
言われたスキルは一部は聞いていた通りの効果だったが、ドロップ率アップと討伐特典については寝耳に水の状態だった。
「君は、このスキルで全員のスキルを確認できるのか?」
「そうですね、意識しただけで確認できてしまうので、これはまずいスキルだなと思い、まだ誰にもこのスキルの能力は伝えてません」
まぁ確かになんの制約もなく相手の情報を確認できるなんて、かなりのやばいスキルだと言うことがわかる。
「個人情報を勝手に見れるのはかなりまずそうな能力だなぁ」
「なんで強くなるまでは黙っておこうと思いまして・・・なのでこのことは内密に・・・」
「今の所はなんて伝える予定なの?」
ずっと何も無しって訳にはいかない。何かしらの情報は伝える必要がある。
「ああ、それは敵の情報を確認できるって伝える予定です。このスキル敵のステータスも見れるので」
「へぇそれはすごいな。敵のスキルとかも見れるんだ」
「そうですね、敵のステータス情報が丸見えなんで、ただまだHPとかそういうのは見えないんですよね・・・」
ゲームのようにステータス情報の中にHPとかそういうのが表示されてるのかと思ってたけどそうではないらしい。
「固有スキルにもレベルがあるので、それを上げれば見れるようになるかもしれません」
「へぇ固有スキルにもレベルがあるんだ」
固有スキルのレベルについては確定的な情報はなかったが、あるのではないかとネットでは言われていた。
使用していると明らかにスキルの使い勝手がよくなったりとか、威力があがったりすることがあるので、スキルにもレベルがあるのではないかというのは定説である。
「それはそれで有用な能力だけど、敵限定となればまぁ伝えて大丈夫かなぁ」
しかし敵が見れるのならば味方もとなりそうな気がしているが、本人以外にそれを確かめる術はない。他に同じ固有スキルの持っている人間がいればバレるかもしれないがこの能力を持っているのは現状では沙月だけバレる危険性は少なそうだ。
「同じ系統の能力にすると人間にも作用するって疑われかねないから、全然違う能力のほうがいいかもしれないよ」
「うーん、それは確かにありますね。そこまで考えてませんでした」
「とりあえずまだなんのスキルかわからない、で通しておいたほうがいいかもしれませんね」
「まぁ未知のスキルだしな、今日潜ってすぐわからなくても問題ないだろう」
「俺の特攻スキルについては、報告しても問題ないかなぁ」
特攻スキルについては未知スキルではないが、この仕様については世間一般では知られていないというのが現状だ。この仕様がわかれば、他の特攻スキル持ちの人が探索者として戻って来るかもしれない。
「それなんですけど、まだ報告しない方がいいかもしれません」
「何か問題があるのか?」
沙月の言い方に何か引っかかるものを感じた。
「固有スキルについては人によって差があります。恐らく同じスキル持ちであっても、全く同じ仕様になっていない可能性があります。昨日も含め、色々な探索者の方のスキルを見ましたが、基本スキルは一緒でも差異がありました。例えば『剣技』スキル持ちの人の中には、補正の入る剣の種類に違いがありました。昨日から数百人の探索者を見ましたが、固有スキルが全く同じ人はいませんでした」
「それは・・・」
その場合は、特攻スキル持ちにそういった仕様があると公表してもなにも起きない場合がある。
そうなった場合は、ただ世間に混乱を起こしただけになってしまう。
「スライム狩りのライバルが増えてしまってもやりにくいので、しばらくはお互いこのままでいきませんか?」
沙月としてはこの流れを崩したくないようで隠すことを提案してきた。こちらとしては特に不都合は無い、どちらかといえばプラスの要素のがでかい。
「わかった、そうしよう」
その要求を飲むことにした。
「これで共犯者ですね」
そういって沙月はにっこりと微笑んだ。
昨日から怖い女性とばっかり関わっている気がしてきた。




