吸魂玉
部屋に戻り気持ちを落ち着かせている。
すべてを告白するつもりでいた。
でもあそこまで感情を剥き出しにするつもりは毛頭なかった。
冷静に彼女たちに判断を委ねるだけのつもりだったのがミレイのせいというよりはおかげと言ったほうがいいか…自分の抑えていた感情を吐露してしまった。
「かなり強い言葉を使ってしまったしそこは反省だな…」
「そう気にしなくてもいいんじゃない?弱ったあなたはなかなか唆ったわよ」
急に声がして辺りを見回す。
「その声はシトリーだな。どこにいる!?」
「そんなに探さなくてもあなたの近くにいるわよ」
そう言われてふと思い出し例の吸魂玉を取り出した。
そしてその玉からシトリーが飛び出した。
「ふぅ…ようやく霊体化までは回復した」
シトリーは背伸びをしていた。
身体をストレッチのように動かす。
「やめろ!やめろ!見えるだろ」
そう言って目を塞ぐ。
「恥じるような身体はしてない、好きなだけ見ると良い!」
そうやって見せつけるようなポーズを取る。
「やめろって言ってんだろ」
こいつといるとペースが乱れる。
一通り動いて満足したのか俺の身体に纏わりつく。
「うーん。霊体じゃ触れないのが難点ね…つまらないわ…」
そういってるシトリーだったが俺の身体に抱きつくようにくっついている。
「所で一体全体どうなったんだ?あの時は叫んだらそのままいなくなっちゃったし」
「そうね。まずはこの玉について説明しましょうか」
シトリーが吸魂玉について説明をしてくれた。
・吸魂玉
モンスターの魂を吸収出来る玉。
吸収出来るのは一部のモンスターのみだが吸収したモンスターは呼び出した人間の命令に従う(一部例外あり〉。
吸収したモンスターを実体化させるには所有者の魔力を消費する。
ドロップ率は驚異の1000億分の1。
なにそれ怖い…相当運が良かったようだ。
「なにそれあの某ゲームのボールみたいなもん?」
「それに近いわね…まぁでも実体化させるには魔力が必要だからあなたじゃ私を実体化させるのは不可能だけどね」
ここに来てまた魔力値問題に直面する。
「この魔力値なんとかならねーかな…あっあの飲み物で上がったのでは!」
「ああ、あの飲み物は一時的なもんだからもう戻ってるわよ」
「ああああ!!!!くそが!じゃああの飲み物ってなんとか手に入らない?」
「あれは40階層より下のドロップアイテムだから頑張れば行けるんじゃないかしら?それでも効果は重複しないしあなたの魔力を増やしたってたかがしれてるわ」
改めて低魔力値だという事実を突きつけられて落ち込む。
「なんとかならんのか?」
「そうねぇ~魔力値に関してはワタクシの管轄外だから何もわからないわ」
「役に立たねーな」
その言葉に腹がたったのかシトリーは…
「なら役に立つ所を見せてあげようかしら?ダンジョンのワープポイントについて知りたいんじゃない?」
「知ってるのか!?」
この情報については聞くのを忘れていたので非常に助かる。
「どうしようかしら~役立たずらしいし~教えないほうがいいのかしら~」
「教えてください!お願いします!」
素直に頭を下げる。
前言撤回…やはり元管理者役に立つ。
「仕方ないわね~」
勿体つけてはいたが素直に教えてくれた。
10階層の海にポイントがあるのは間違いないがそこは海の中ではなく海面にでているそうだ。
「それは良い情報だな。ありがとうシトリー」
「うっ…どういたしまして…」
「どうかしたのか?」
「ワタクシはモンスターの格としては最上位…吸魂玉の拘束力はほとんどないのだけど…お礼を言われると気持ちがイイのは多少なりとも影響はあるみたい…」
「そんなもんなのか…」
霊体化してるシトリーは俺の周りをふわふわ飛び回っている。
「そういえばお前のその姿って俺以外にも見えるのか?」
「見せることも出来るし消えたままも出来るわよ」
「それは便利だな」
「まぁ見せるとなるとそれなりに魔力を消費しちゃうけどね…あなたにだけ見せる位ならそんなに魔力消費はないわ」
後で説明する時は姿を現してもらうとするか。
「後はこの玉って他人に譲渡ってできるのか?」
「もしかしてワタクシをどこかの変態金持ちにでも売る気!?」
「しねーよ。実体化が必要になった時に沙月に使ってもらえばいけるかと思ってさ」
「なるほどそういうこと…出来ないわよ」
「出来ないのか?この玉を渡せばいけるものかと思ったけど」
「あなたがあの時、吸魂と叫んだ時点であなたとワタクシにパスが繋がった。だからあなたが望むならこの関係は終了してワタクシは無に帰るわ」
「なるほど…じゃあこの玉は肌見放さす持ってた方がいいのか?」
「あなたと玉が一定の距離が開いたらワタクシはこうやって現れる事ができなくなるわ…」
「そういうことなら後でなんとかしとく」
加工してアクセサリーにして持っておくのが良いか?戦闘中邪魔にならないようにしないといかんけど。
誰か詳しそうなメンバーに相談するかと思い部屋を出ようとした。
しかし、その時ふと気になることがあった。
「さっきの提案をしてきたってことは結構前から意識はあったってことか?」
10階層のワープポイントの件を知っているということは俺に話しかける以前から意識があったということにほかならない。
「意識自体は吸われた段階からあったわ。顕現出来るようになったのはついさっきだけど」
「くっつまり俺の情けない姿も…」
「バッチリよ」
そういってニッコリとこちらに笑顔を向けるシトリー。
綺麗な顔立ちなのに無性に腹が立つのはなんでだろうか…。
「まぁイイじゃない運命共同体な訳だし仲良くいきましょ」
騒がしくも頼もしい同居人に辟易しつつ部屋をでた。
気付けば先程までの気持ちは落ち着いておりなんだかんだ良い気分転換になったようだ。
「ありがとなシトリー」
「あっん…いきなりの感謝は良くないわ…変な声がでちゃう」
「みんなの前では気をつける」
そんな話をこそっとしつつみんなと合流した。