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心機一転

 俺の話を全員が静かに聞いてくれた。

 ミレイとカレンに至っては涙を流している。


「俺の過去を知った上で後はみんなの判断に任せる」


 俺の生まれは明らかに異質であり問題の塊だ。

 例の大物権力者との繋がりも切れてはいない。

 そして俺は殺人者だ。その事実に関しては消すことはできない。


「何の問題もないです。私はアキラさんを信じてます」

 沙月が真っ先に声を上げてくれた。

「今更だな…お前と離れるつもりなんか毛頭ないぞ」

 カナタも続いた。


「ワタシもです…付き合いは短いけどアキラは信頼してます」

 ソフィアはまだショックを受けているようで言葉に詰まりながらも言葉にしてくれた。


「私も問題ないです!それに…」


「カレン待って」

 カレンが何かを言おうとした所をミレイが止める。

「うっうん」


「ミレイは受け入れられないのか?」

 カナタからミレイに質問が飛ぶ。

「いえ、正直私の立場から言ってアキラを批判する権利は私にはないです…ただ、アキラは自身の罪についてはどう考えてるんですか?」

 ミレイとしては罪を犯した上でそれを免除してもらってここにいるのを気にしている。

 だからこそミレイはアキラがその罪についてどう思っているのか気になったのだろう。


「一生懸けて償うって言ってもそんなのはただの自己満足…死んだ時に向こうで怒られないように生きるだけさ」

 罪に対する罰を受ける機会を失った俺に取っては生きている事が罰であり償い。

 少しでも母達に顔向けできる死に方ができるかどうかだけ。


「ならなんで自分を犠牲にするんですか?お母様たちに恥ずかしくないんですか?」


「ああん?」

 母の事を持ち出され感情が表面化する。

 冷静にと思っていても自身の逆鱗に触れられると我慢できないのは悪癖だ。


「くっ…二人のお母様はあなたの為に色々尽くしてくれたのにそれを犠牲にして二人に胸を張れるんですか?」


「…」

 俺だってこんな事してあの二人が喜ぶかどうかなんてわからない。

 だけど俺の手には…


「あなたの身を削った犠牲を償いと思うような方々なのですか? それは罪悪感を紛らわせる為に一番楽な道を選ぼうとしてるだけです」


「楽な道…楽な道だって!?俺が今までどんな思いで過ごして来たのかわかっていってんのか!?楽な道だって言うなら何度自分で自分の命を絶とうと思ったか数え切れない…それでも生きているのは…生きているのは…」


「二人の為でしょ?矛盾してるんですよ…その生き方」


「違う…違う…違う違う違う…俺は…」


「自分の中の自己矛盾に気付くのがまず第一歩です。あなたはどうしたいんですか?」


「どうしたい?どうしたいだって!?自分の母親を手に掛けた俺にどうしたいってか?とんだお笑い草だな!俺に生き方を選べる権利なんてあるわけ無いだろが!」

 声を荒げ否定する。

 受け入れてしまったら自分の今まで否定されるような感覚。

 だからこそ認められない。


「じゃあ、ここにいるのはなぜですか?なんでこんな所まで来たんですか?」


「それは…沙月の」


「他人を自分の正当化の理由に使うな!」

 俺の言葉を遮るようにミレイが声を荒げる。


「あなたは、自分で選んだ。いくらでも離れるタイミングはあったのにあなたはここまで来た。そこにあなたの意思が全くないとでも言うつもりですか?」

 ミレイの言ってる事は正しい…なし崩し的にここまで来てしまったが別に俺はここまでくる必要はなかった。

 そう言われてカナタに言われた事を思い出す。


「俺が選んだ…」

 俺はこの生活を好ましく思っている。

 色々としがらみはあるが自分のちからだけでどんどん強くなる。

 身ひとつで成り上がれる。

 その状況を俺は楽しんでいる…。


「あなたのやってるのは犠牲の押し付けです!私達はそんなに弱くない!あなたが身を無駄に犠牲にする必要なんて無いんです」


「黙れよ!お前に何がわかるっていうんだよ!母親を殺した人間の気持ちがわかるのかよ!」

 自分が言葉にしてその言葉がダメな事がわかる…

 ああ…これは後でずっと後悔するやつだ。

 吐いた言葉は飲み込めない。無かったことにも出来ない。


「その気持ちがわかる人間がいればあなたは満足できるんですか?それがあなたにとってなんだっていうんですか?探せばいますよそんな人間も…その人達の気持ちを感情を全部聞いて回れば正解が見つかるとでも思ってるんですか?」


 くそっ…ミレイの言葉がいちいち胸に刺さる。

 図星をつかれると人間は黙るか怒るしかない。いや泣くもあるか…泣かんけどいやすでに泣いてんな…俺。


 気付くと涙が溢れていた。

 今の今まで気付かなかったことに内心呆れている。


「正解なんてない…だけど不正解はある。あなたの無駄な自己犠牲精神は二人にとっては全くの的外れで裏切りで望んでなんか絶対に無い」


「う…」

 言葉がでなかった。

 さっきまでの言葉は自分を守る為、正当化する為に吐いていただけ。

 そこには何も詰まって無くて言い訳を並べていただけ。

 そんな自分が本当に情けなくて惨めで申し訳なくて…その場に崩れ落ちた。


「だったら…俺はどうしたらいいんだ…あの二人に報いるにはどうしたら…」

 一度決壊した涙腺は止まらない。

 溢れ出る涙が床に落ち水滴が溜まる。

 大の大人がこんなに泣くなんて情けない…そう思ってはいても涙は止まらなかった。


「部外者である私達がとやかく言ったってあなたは納得できないでしょうしそれで行動が変わるなんて思ってません…」

 ミレイがこちらに近づいてくる。


「あなたの罪を許せるのはあなたしかいません。だけど…あなたを大切に思っている人間はここにいます」

 俺の顔を上げて急に口を塞がれる。

 目の前にはミレイの顔があってそれがキスだと気付くのに数秒かかった。


 すぐに離される口。

「弱ってる男に無理矢理するのも罪ですね…でもあなたは私の大切な人だから生きて欲しいです…この気持ちはあなたには否定できませんよね?」


 驚きのせいか涙が止まった。

 生きて欲しいか…母にも言われてたっけな…

「俺の唇は高いぞ…」

 目の前のミレイにそう告げる。


「うっすいません…色々と勝手言ってそれに…」

 そういって自分の唇に手を当てる。


「色々吐いてすっきりしたわ…いきなりどうって訳じゃないけど善処するよ」


「その政治家みたいな言い方は好きじゃないです」


「今はこれが精一杯だ。人間いきなりは変わんねーよ」

 そう言って笑う事ができた。

 心の底から笑顔に慣れたのはいつぶりだろうか…そう考えると本当に助けられたんだなと思えた。


「うっ…その顔は反則です…」

 ミレイが顔を手で覆う。


「なんだそりゃ?」

 そう言って顔を覗こうとすると…。


「ストーップ!!!!!それ以上のイチャイチャはダメです!!!!」

 沙月が声を上げた。


 今になって周りを見たがカレンとソフィアは口を手で覆い驚きの表情を浮かべ。

 沙月は手を握りしめなにやら怒っているように見える。

 カナタは笑いを堪えるように腹を手で抑え声を押し殺すように笑っていた。


「とりあえずアキラさんの件はこれで終わりです。誰も何も言いませんし今後それを問題にすることもありません…だからこれからもよろしくです」

 そう言って沙月がこちらに頭を下げた。


 それに呼応するように全員がこちらに向かい微笑んだ。


「こちらこそよろしく頼む」

 本当に良い奴らだと思った。そして守りたいとも…その為には俺を…いやその考えは良くないんだよな少しずつ変えていこう。

 そう思い天を仰いだ。


(ちょっと今更だけど生き方変えてみるよ、母さん)

 決意を口にできない辺りまだ踏ん切りがついてないのかもしれないが少しずつ…少しずつ変えていくしかない。

 そんな簡単に変えれるほど根は浅くないのだから。


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