遭遇
8階層は熱帯雨林フィールド。
「ようやくハワイっぽくなりましたね」
ミレイが呟く。
「えっハワイってこんななの?」
俺のイメージはビーチと火山くらいしか印象はなかった。
「ハワイは結構こういう感じの場所ありましたよ。観光ツアーで行きましたし」
「へぇ~こういうフィールドで虫がいないのは助かるな」
実際こういう場所にいる虫は危険度も高い。
「そうですね。でも虫系かもしれませんよ」
「虫だったらこの階層はスルーだな」
「虫苦手ですか?」
「俺はゴキブリが出たら裸足で逃げ出すレベルだぞ。普通の虫もできれば遠慮したい」
「意外ですね。普通につぶすタイプかと思ってました」
「触りたくもないし見たくもない…ミレイは平気なのか?」
「私は平気ですね。実習とかで色々見ましたし」
そういえば医師免許取ろうとしてたんだったこの方。
そんな無駄話がよくなかったのかこれがフラグというやつなのかその階層はインセクト型モンスターだった。
「トンボですね」
トンボが1mくらいになったモンスターが飛び回っていた。
「うへぇワシャワシャ気持ち悪い…すぐ次いこう…」
そういってモンスターはスルーして次階層に向かうが速い上に死角がなく何度か戦闘する羽目になった。
触りたくないが俺の攻撃は磁界操作か打撃しかない。
ほとんどをミレイの魔眼にだより、ほとんど倒さずに8階層を後にした。
「まだ気持ち悪い…」
「モンスターいるときの顔ちょっと可愛かったです」
「仕方ないだろ…虫はニガテなんだ…」
ミレイはアキラの初めての弱味の発見に内心喜んでいたりする。
それなりに広かった8階層を抜けて到達した9階層はまたしても熱帯雨林。
「ということは…」
嫌な予感が的中するものでこの階層も同じインセクト型モンスターだった。
「いやーだーーーーーー」
ここは芋虫型だったので避けることは容易だったが見た瞬間から鳥肌が止まらない…
動きも緩慢だったのでこのすぐに駆け抜ける。
「あれはハワイの固有種の芋虫なんですかねぇ見たことない模様してました」
「いやだぁ聞きたくない」
2階層連続でインセクト…最悪だ。
「そういえば日本はインセクト系いなかったな」
20階層までにはインセクト系は確認されていなかったはずだ。
「日本でもどこかのダンジョンで確認されてたと思いますよ。新宿はいないですけど
」
「うへぇ…じゃあそこは絶対潜らない…」
記念すべき10階層に到着した所、そこは俺もみたことがあるような海岸線だった。
「おお、これこそ俺の知ってるハワイって感じ」
ヤシの木生えてるし広い砂浜にどこまでも続く海。
「確かにハワイの海岸って感じですね」
「ここまできたご褒美かな…」
そんなことを言っていたのはいいが問題があった。
「これ次の階層ってどこですかね」
ソフィアの為にボス部屋も確認したいのだが海岸を歩いてても一向に無い。
それどころかモンスターもでないのだ。
「まさか海の中なんてことないよな?」
砂浜を歩いているが海の中はまだ未確認だった。
「水棲系のモンスターもいますけどこの広い海を探すのはなかなか…」
海に入ればモンスターがいる可能性はあるが砂浜が続くだけで何も目標がないのだ。
正確にはあるにはあるのだが…
「そうなるとやっぱりあそこなのか?」
「あんな建物があるなんて普通はありえないんですけどね…」
そう、風景だと思って気にしないようにしていたのだがかなり大きなホテルが立っているのだ。
何かの罠の可能性もあるので慎重にホテルに近づく。
入口でミレイに生命感知で調べてもらうも反応はない。
モンスターはいないようだ。
中はまさしくリゾートホテル。
しかも人はいないのに施設内は稼働しているのだから不思議だ。
自動ドアが開くしエレベーターも動く。
ホテルのカードキーまであるのだから無人な点を除けば普通のホテルだ。
「とりあえず上にいってみるか?」
「そうですね…」
慎重に上にあがる。
エレベーターに閉じ込められるのも御免なので階段であがる案内板をみると100階はあるようだ。
階段であがるのが嫌になるが仕方ない。
ある程度あがりながらミレイが生命感知を使用していく。
下の階層にはまったく引っかからない。
「私の感知範囲は狭いですからね…」
まだレベルの低いミレイの感知範囲は狭い。
それに魔力消費もそれなりに多いため余り多用出来ない。
「普通にホテルの一室あるならここに泊まればいいんじゃね?」
先ほどから階段エリアから出て様子を見ているのがちゃんとホテルになっている。
1階のカードキーを拝借してくれば普通に泊まれそうだ。
「いやいやダンジョンですよ。そもそもダンジョンにこんな人工建造物があるのがおかしいんですから」
まぁそれは確かに…今までこういった人工建造物は見つかっていない。
座標オブジェクトのような物は見つかることがあるがこういった近代的な物が見つかったことはない。
警戒するに越したことはない。
90階を過ぎ怠くなってきた頃…
「生命感知に反応あり。2階層上ですけど何かいます!」
ミレイの感知に反応があり警戒を強める。
そしてその反応のある場所に向かう。
そこは展望フロアのようになっていた。
慎重に対象に近づいていく。
かなり広いフロアの為、ある程度距離を取り帰還石を持ちすぐに撤退できるようにした状態でその対象を確認する。そこには一人の女性が優雅に景色を楽しんでいるようでリクライニングチェアに横になっていた。
「おい、あれ普通にリゾート満喫してる客に見えるが」
「私にもそう見えますけど…」
しかし髪は綺麗な紫のロング。薄手のピンクのロングドレスを完璧に着こなしているお嬢様といった感じだ。
「あの髪綺麗すぎじゃね?染めてもあんな綺麗にならんだろ」
地面に付くのではというほどに長い髪は綺麗な引き込まれるような淡い紫色をしており釘付けとなった。
「ああいうのが好みですか?」
「ああ…いやいや違くて…うーんでもあれは人間ではないな」
明らかに人間と違う箇所が一つ。
「耳ですね」
「ああ、人間にあんな耳は生えてない」
その女性の頭には2つの立派なネコ耳がついていた。
「とりあえず帰る手もあるが一度接触しとくか…」
「そうですね。何かダンジョンのことについてわかるかもしれません」
「俺が接触するからとりあえず帰還石をもって待機で何かあったらすぐに使って戻れ…いいか俺に構わずすぐに使え」
躊躇って事故る位なら使ってもらった方がこちらの損害は少ない。
沙月は心配性なので各個人に帰還石を3つずつ装備させている。
そう言い切って帰還石を握りながらミレイに有無を言わせずに彼女に近づく。
何か言いたそうにしていたミレイだったが先に俺が出てしまったので待機せざる負えなくなってしまった。
2人で接触して2人に何かあった場合、伝える者がいなくなってしまうからだ。
こういう冷静な判断ができるのは本当に助かる。
女性まで近づき声を掛ける。
「お嬢様お寛ぎですか?」
なんと声をかけるか迷いとりあえず執事風に声をかけてみたのだが…
「うむ。快適じゃ」
「えっ」
「えっ」
女性は起き上がりこちらを見る。
お互いに完全に予想外だったのかお互いの姿を見て固まる。
正面から見ると吸い込まれるような翡翠色の瞳にミレイ以上だと…!?
その女性の目が一気に猫のような目に変わり殺気があふれだす。
取得した危険察知が発動しており頭のなかで警報のように鳴り響く。
初めてのスキルの発動だったが、目の前の女性のヤバさは身体全体でわかるレベルだった。
咄嗟に腰を低くして回避態勢をとる。
一挙手一投足を見逃さないように彼女を見つめる。
彼女との距離は2m…躱せる。
彼女は床を蹴り一気にこちらへ距離を詰める。
そして右手をあげ振り下ろす。
これなら後ろに下がれば躱せる。
しかし猫というワードがチラつき後ろではなく右に回避した。
その直感は正しかったようで俺の服を爪が掠めて切り裂かれていた。
そこで振り下ろされた手を左足で踏みつける。
それを振り下ろした手を使いバク転のように躱す女性。
身軽だなぁ…
明らかに格上だとこのやりとりでヒシヒシと感じていた。
しかし、このまま撤退するわけにはいかない。
情報を得なければいけない。
「お嬢さんそこまで警戒しなくても現状こちらに敵意はありませんよ」
ここでやり合うつもりはない。
そういってあちらの情報を引き出すしかない。
なんせ喋れるモンスターなんて貴重すぎるのだから…
「へぇいま明らかにこちらに攻撃を加えようとしてきたのは敵意ではないと?」
どうやら足で踏みつけるつもりだったのは気付いていたようだ。
「あくまで自衛ですよ。そちらが何もしないのであればこちらも何もしません」
先ほどの攻撃であれば躱すことはできる。
だが恐らく攻撃を当てるのは不可能だ。
まぁ帰還石がある分気分的には楽だが…
「良い男のようだし話相手にでもなってもらおうかしら」
両の手から飛び出していた爪が仕舞われる。
しかし、まだ駄目だ。
危険察知がまだ警報を鳴らしている。
敵意は消えていない。
「足だけでももらってからね!」
先ほどと同じように一気に加速してこちらに近づく。
どうやら俺の足を切り裂こうと今度は低空姿勢のままこちらに横なぎを加える。
その攻撃を飛んで躱す。
これが狙いだったようで空中に飛んだこちらに追撃をかける。
しかし、こちらには空間軌道がある。
足場を作成し今度はこちらから仕掛ける。
渾身の隙を付いた蹴りだったのだが間一髪といった所で躱される。
「レディの顔めがけて蹴りを放つなんて顔に似合わずなかなかやるわね」
「一撃で気絶させるなら顔が一番ですからね。こっちも余裕がないんだ勘弁してほしい」
「今の攻撃を躱されたとなると並大抵の攻撃では当たらなさそうね」
「お褒めに預かり光栄です。お嬢様」
口調を統一する余裕もない。
だがあくまでも敵対心を抱かせないようにのらりくらりといくしかない。
「ふーん、面白い男ね…あなた」
何が気に入ったのかわからないが、突然危険察知の警報が止んだ。
「それはどうも…」
一気に緊張が解け強張っていた身体から力が抜ける。
今のは本当に冗談抜きで死ぬかと思った。
「あなた魔力無さすぎね。私の力が全く効果がでないなんて」
「それは悪かったですね…えっ!?能力!?」
何かを使われていた感覚に全く覚えがない。
「いまもう一人の彼女のとこにはいかない方が良いわ」
そういわれてミレイがいた場所を確認するとミレイはいなくなっていた。
「いつの間に…」
目の前の人物に集中しすぎていてミレイには全く気が配れていなかった。
「あなたと対峙した段階で私の能力を発動したからね。おそらく異変を感じて帰還石を使ったんじゃないかしら。あの状況で声を上げずに行ったのだからそっちもほめてあげるわ」
「一体何をしたんだ…」
ミレイの身に何か起きたのは間違いない。
ミレイが声すら上げずに帰還石を使用するなんてよほどの事態だったに違いない。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。ちょっと発情させただけだから」
「えっ…発情?」
目の前の女性が言ったこと理解できず、困惑していると…
「実際あのままだったらあなたに襲いかかってたんじゃないかしら…」
そういって妖艶にほほ笑む姿に俺はいつかのあの人を思い出していた。




