日和side
一度前線を離れたせいで日和の居場所はダンジョンにはなくなっていたのだ。
毎日上がってくるダンジョンの報告を教授と一緒に処理していくその過程でわかったことを論文にまとめたことでそれが世界的に評価され研究者としての知名度は上がった。
しかし、そのせいでダンジョンに潜る時間はさらに無くなっていった。
毎日、探索者から上がってくる報告やドロップ品、スキルを調べても蘇生に関する情報は出てこなかった。
そしてある結論に辿り着いた。
現在の探索してる層には蘇生に関する情報は無いという結論だった。
そうなるとさらに下層に潜る必要があるがその為には一人で潜るには限界があった。
5層より下は一人での探索が難しい。
モンスターが2体で絡んでくることがある。一人でそれを対処することが難しく5層より下は、二人以上での探索が推奨されていた。
日和はレベルは高いが戦闘技術は低く同レベル帯の半分の戦力にもならない。
当初は調査等の名目で半ば寄生することが出来ていたが、調査目的のパーティはかなり深いところまで潜っており日和を連れての探索をする余裕はなかった。
かといって野良のパーティに混ざってもレベルだけが高く魔力値も低い、有用なスキルもない日和をパーティに入れてくれる人は誰もいなかったのだ。
この時期は、死者も頻繁に報告されておりみんなかなり慎重になっていた。
最大数である5人でパーティを固定しダンジョンに潜るのが基本となっていた。
一部2人パーティで成果を出してるパーティもいたが二人共が戦闘能力が非常に高く、連携が出来ていた為、そこに混ざることは出来なかった。
そんなおり、調子に乗った探索者が20層のボスの間に突入しドラゴンを発見したという報告があった。
犠牲を二人出しながら帰還したようだが、このドラゴンの報告に日和は熱くなった。
(ドラゴンといえば回復アイテムや何か新しい発見があるかも…)
そう考えた日和は調査という名目で同行させてもらうことが出来ないかと、相談を持ちかけたが却下された。当然危険だからだ。
すでに研究者として名を馳せていた日和に万が一があってはいけないとダンジョン内への同行はすべて断られていた。
業を煮やした日和は野良のパーティを雇いダンジョンに潜ることを考えたがそもそも同行を許可してくれるパーティが無かったのだ。
命のやりとりをしている現場に研究者を連れて行くことのリスクを皆が嫌がった。
そもそもそのリスクを冒させるだけの金額を日和には用意することが出来なかった。
日和が手をこまねいている間にドラゴンが討伐された。
以前報告されていたドラゴンへの特攻スキル持ちが、初のドラゴン討伐を成し遂げたのだった。
ドロップ品に期待をしていたが中魔石、今までの魔石よりもかなり大きくかなりの高値を付けたが日和にとってはあまり興味のない物だった。
そしてこのドラゴン戦がネックとなり日和のダンジョン挑戦は完全に行き詰まった。
ダンジョンを日和という足手まといを連れてクリア出来るパーティなど存在しなかった。
一人でダンジョンに潜り少しずつレベルを上げた。
短剣の扱いを覚えひたすらにダンジョンで訓練した。
いつの間にか短剣技のスキルを得ていたが結局はドラゴン戦に挑むことも出来ず、日和は研究者としての毎日を送っていた。
自身の力で無理なら政府の力を借りようとダンジョンへの調査名目で高レベルの冒険者を雇うことを依頼したがすべて却下された。
日本のダンジョン探索は他国と比べてもかなり遅い、そもそも人命優先の為に石橋を叩いて渡るのではなく橋ごと作り直して渡る徹底ぶりだ。確かに他国の探索者よりも死亡率は低いが他国のダンジョンの探索はすでに40層に到達している。
遅々として進まないダンジョンの探索に嫌気が差していた。
他国のダンジョンの情報は易易とおりてこない。なぜなら国力に関わる部分があるからだ。
もしかして他国ではすでに蘇生の情報があるのではないか…そう考えると日に日に不満が募っていった。
日和はある論文を書いていた。
探索者と魔力値の関係、そしてダンジョンのエネルギーについてである。
探索者の魔力については個人差がある、ここまでは一般常識なのだが、家族をダンジョン災害で亡くした者は平均的に高い傾向があった。
国民の魔力検査で上がってきた情報を見ても明らかで、災害にあった地域とあわなかった地域では明確に魔力値に差が出来ていた。
固有スキルについてもある特徴が出ていた。
それは災害地域は戦闘系の固有スキル持ちが多く、非災害地域では技能系の固有スキル持ちが多い。
これも知り得た情報から導きだした真実だった。
これは海外でも同じ現象が起きていると立証することが出来た。
明確な地域のデータは入手することは出来ないが国としての情報で多数の地域で災害が発生した国と少ない国では魔力値に差が出ていた。
ここまで分かっていた。しかし、この情報を発表することは許されなかったのだ。
なぜか、それは災害にあった人間とあわなかった人間で優劣がついてしまうからだ。
真の意味で平等などということは存在しない。そんな事は大人になれば誰でも分かることだ。
しかしこれを発表すれば格差が、不平等が国民の知る所となる。
それは許されることでは、無かった。
そしてもう一つダンジョンのエネルギーに関する論文だった。
ダンジョンは、一体どこからエネルギーを得ているかという話だ。
無から有を生むというのならダンジョンが、世界を渡ってきた意味がない。
そこにはなにかしらの意思が介在すると考えたのだ。
ならばなぜ世界を渡ったのか断片的な情報を精査するとある結論に達した。
知性体の意思、もしくはそのエネルギーを求めていたのではないか?
エルフのいた世界ではダンジョン探索は、ほとんど進んでいなかったという。
そしてダンジョンは、充分なエネルギーを得られない世界を捨て、こちらの世界にやってきたという説だ。
その時、一番最初に行ったのがエネルギーの補給。つまりは餌となる知性体の吸収だと考えた。
ダンジョン災害に遭い亡くなった人の死体は、多くが消失し身につけていた物を除き見つかっていない。
そもそもこの事象が不自然なのだ、遺族には遺体の損壊がひどくという体で話しているが実際は完全に肉体が残っておらず現場には服などしか残ってなかったのだ。
そして吸収した人類の知識を基に今のダンジョンのシステムやスキルを構築したのではないかと考えていた。調べれば調べるほどモンスターやスキル等、現代にあふれるアニメやゲームと類似点が多すぎた。
まぁ当然のことながらこの論文も世に出ることはなかった。
ネットに放流してしまう事も考えたが目的の為に問題を起こしたくは無かった。
そしてもしこの仮説が正しければ吸収した人間を取り戻すことが出来るのではないか…ダンジョンは人間の肉体を求めているのならこんな回りくどいことをする必要はない。
ダンジョンが求めているのが知性体のなんらかのエネルギーだとすれば、京子をまだ取り戻すことができるのかもしれないと、それだけを希望としてダンジョンの研究を進めていた。




