プロローグ
世界中にダンジョンが現れて三年が過ぎ生活の中にダンジョンが浸透してきた昨今、派遣先の工場がダンジョン特需の影響で潰れ無職となった25歳、暁 アキラは街を徘徊していた。
ダンジョン特需といえば景気がよく聞こえるが景気が良いのはダンジョンから得られるドロップ品やスキルなどを有効活用することができる企業に限られており昔ながらの中小企業などは逆に顧客を奪われるなどの影響を受け倒産する会社が後を絶たない。
アキラはよくある部品工場で働いていたがダンジョンから発掘された新エネルギーである魔石を利用する新しい製品への代替が進み新規顧客の獲得ができず納品先からの契約打ち切りもあり派遣社員として働いていたアキラは契約打ち切りとなった。
「はぁ、早々に契約打ち切りになったけどあの工場も長くはなさそうだ・・・」
呪詛を吐きたくなる気持ちもあったがあの工場の行く末を思うと同情する気持ちもあった。
ダンジョンが出来て仕事が増えたがその仕事をするにはある資格が必要だった。
その名は【探索者資格】である。
探索者資格はその名の通りダンジョンに潜る為に必要な資格のような名前だがこの資格の有用性は多岐に渡る。
ダンジョンが出来て世間に与えた一番の恩恵はやはり【魔石】と言われるエネルギー物質である。
このエネルギーは化石燃料に頼り切っていた社会に衝撃を与えた。
魔石から取り出せるエネルギーは、今まで人類が使っていたすべてのエネルギーを代替することが可能だった。
これにより車は、魔石を搭載することで排気ガスを一切ださない乗り物になり冷蔵庫もフロンガスを必要としなくなった。電気を生み出すのに使用していた核燃料などは危険なだけの無用な産物となりほとんどの地域で原子力発電所は稼働の停止が決定している。
しかしこの魔石を扱うには資格が必要なのだ、それが先程述べた【探索者資格】である。
資格と名はついているがこれは誰でも取れる資格ではない。ダンジョンに入る為にはある条件をクリアしなければいけなかった。
ちなみに探索者資格のない人間は魔石に触ることができない。それどころか魔石に関係する部品にも触ることができないのだ。どういう理屈かと言われれば非常に簡単である。探索者資格のないものが魔石のエネルギーを帯びた物を触ると静電気が走ったように弾かれるのである。魔石が生み出した電気や、熱を使う分にはこの限りではないが・・・この特性が非常に問題だった。
ダンジョン特需で盛り上がっているのはもちろんこの魔石関係の会社である、つまり魔石に触れない時点で論外なのである。実務に携わっていないものであればこの資格がなくても問題ないがアキラのように実務メインの人間にとってはこの特性が非常に厄介であった。
ある事情で派遣を渡り歩いていたアキラも最初はこのダンジョン特需によって湧いた雇用増大の恩恵に与かれると思っていたが無慈悲にもアキラには探索者の資格がなかったのである。
探索者資格を得る条件は唯一つ、魔力の有無である。
魔力を持つ人間は魔石を触れることができ、持たない人間は弾かれる。単純明快な特性である。
魔力を持たない人間は100人に一人の割合で存在する。
結構な高確率であるとも言えるし少ないとも言える。
そう、その100人に一人にアキラは選ばれてしまった。元々地位のある人間であれば影響は少なかったと思うがアキラは吹けば飛ぶような社会的弱者であった為、その影響はデカかった。
その時勤めていた大手会社では魔石の製品を扱うに当たり人員整理の為に、契約打ち切りとなった。
その後も色々な会社を転々としたが魔石製品が増えるにつれて雇ってくれる場所が減っていった。
そして、先程無職となった。
「次の職場を探さないといけないが・・・正直魔石を扱う会社じゃない以上同じことの繰り返しになりそうだ」
そんなことをつぶやきながら家路についた。
昔ながらのアパートだ。アキラが無職になっても焦ってないのは、このアパートのおかげでもあった。
魔力をもたない者は国から補助がでるのだ。それは、いま住んでいるアパートのような魔力なしでも暮らすことが可能な住宅の提供と、ある程度の金銭の補助もでる。死なない程度といえば聞こえは良いが普通の生活をするには足りない額である。
「ただいま」
といっても誰もいない1Kのアパートである。
郵便物をチェックするとある物が入っていた。
「今年も来たか・・・」
【探索者試験】再受講案内である
魔力がなかった者はその後、絶対に魔力を使えない訳では無い。時間が経ってから魔力を得る者もいる。
その為、年に1回魔力なしの者のところには再受講案内が届くのだ。特にこのような魔力なしの支援を受けている者は受けないと支援を受けることができない。
「ちょうど暇になったし明日にでもいってみるか」
コンビニで買ってきた飯を食べながら今後の不安を忘れる為に早めに床についた。
 




