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エイリアン チャンネル Q  作者: 百乃梨玖
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パート4 「宇宙の放浪者」

パート4 「宇宙の放浪者」


アリサ「はい。今日もお時間となりました。お付き合い頂きありがとうございましたー」

ADが終わりのキューを出す。カメラが引きの画面になって、スタジオ全体を写す。出演者が手を振る。

AD「はい、お疲れ様でしたー」

メインモニターが消され、出演者たちが立ち上がって出ていく。

エイリアンチャンネルでオンエアを終えたアリサのペンダントが急に震えだした。

アリサ「え、何、何?」

慌ててペンダントを取り出して表面をタッチする。するとペンダントの表面がモニターに変化した。そこには“emergency”の文字が光っていた。

アリサは慌てて転送室へ駆け込んだ。


渋谷の芸能事務所

急いで社長室へ走り込むアリサ、ドアをバタンと開けると、そこには社長が椅子に腰掛けてタバコを吹かしていた。

アリサ「え、え、どっち?」

本当の社長か、ESО審議官が乗り移ったものか、区別がつかなくてあたふたするアリサ。

社長(ESО審議官)「私だよ、アリサ隊員」

アリサ「その低い声は・・・・あ、緊急事態ってなんでしょう?」

社長(ESО審議官)「これを見てくれ」

と社長室の大型テレビに映像が映し出される。太陽系の惑星の軌跡がCGで映し出される。

アリサ「これが何か?、いつも見慣れているやつですよね」

社長がリモコンのボタンを推すと、その図に明らかに惑星とは違う軌跡が映し出される。冥王星より遥か彼方の宇宙空間から軌跡が伸びてきて太陽付近で急激に方向転換して別の方向へ向かうきれいな双曲線が描かれた。

社長(ESО審議官)「これが地球の近傍を通過することが予測されている」

アリサ「彗星ですか?」

社長(ESО審議官)「いや、最大直径400mくらいの楕円小惑星だ」

アリサ「かなり大きいですね、でもこの軌跡だと地球にはぶつからないんでしょ?」

社長(ESО審議官)「そうだな、それは大丈夫そうだ」

アリサ「じゃ何が緊急なんですか?」

社長(ESО審議官)「ちょっと軌跡をよく見てほしい」

アリサ「うーーん、普通にしか見えないんですが」

と頭をかしげるアリサであった。

社長(ESО審議官)「実はこの軌跡からこの小惑星が太陽系外から飛来した“オウムアムア(恒星間天体)”とわかったんだよ」

アリサ「“オウムアムア”? それがめずらしいんですか?」

社長(ESО審議官)「アリサ君、ESОの隊員としてもう少し勉強したほうがいいな。実は太陽系外からの小惑星が発見されたのはこれが初めてなんだ」

アリサ「そーなんですねー」

あまりピンとこないアリサ。

社長(ESО審議官)「それで、これが小惑星の予想形状だ」

また画面が変わって、大きな岩石のCGが現れた。

アリサ「へー、これが小惑星なんですねー、でもなんかすごく平べったくて小惑星っぽくないですねー」

社長(ESО審議官)「そうなんだ、いいポイントに気づいたね。何かに見えないかね」

アリサ「何か・・・、あ、遠距離航行用UFОに似てますね」

社長(ESО審議官)「そのとおり、我々はこれをエイリアンが乗っているUFОの可能性もあると考えている」

アリサ「でも、そうだったとしても、なんか古臭くないですかー、表面も岩石がこびりついてますし。こんなんで宇宙を旅できるんですか?」

疑問符が頭に浮かぶアリサ。

社長(ESО審議官)「だから、それを調査することになった。アリサ君もメンバーの一人だ」

アリサ「えー、私なんて何の取り柄もなしー、行っても足引っ張るだけですよ」

と口では言ってたが、こんな岩石の塊を調べても面白くないし、休日が潰れるのがちょっと嫌だというのが心の声だった。

社長(ESО審議官)「アリサ君、仕事は派手なものばかりじゃないよ、こういう地味な仕事もESОとしてのキャリアを積むためには必要なんだよ」

アリサ「えー、それはわかりますけどー」

と渋るアリサであったが、社長はちょっと嫌味っぽく、

社長(ESО審議官)「アリサ君は、いろいろ掛け持ちしているから忙しんだよね。モデル・タレントの仕事はちょっとお休みしようか」

と言葉の最後はちょっと強めに半ば強制的な口調であった。

アリサ「あ、それはーー、私の美貌が活かせるお仕事なんですよーー、それがなくなったら・・・はい、わかりました、やらせていただきます!」

怒ると怖いESО審議官と知っていたので、これ以上の妥協は無理と悟ったアリサは今回のミッションを渋々受け入れたのであった。

あるコスモベース

UFОが何機も格納庫されている。

その一機の下でコスモスーツを身に着けたオウムアムア調査隊のメンバーが一同に会していた。

アリサ「あ、アミーちゃん、久しぶりー、あなたも選ばれてたのね」

アミー「アリサさん、お久しぶりです。UMA探検隊以来ですね」

アリサ「あの仕事続けてるの?」

アミー「アリサさんに刺激されて、私もモデルめざそうかなと考えているんですよ」

アリサ「あー、モデルね。あなた、ちょっとかわいいからまぁーいい線いくかもねー、でも私がいるから、トップは無理かもね」

アミー「そ、そうですねー でもアリサさんは相変わらずですねーハハハ」

アリサの性格はよくわかっていたので、軽く受け流す。

二人で世間話をしていると背後から声をかけてくる者がいた。

?「アリサママー、どこ行ってたんだよー、僕は寂しかったんだよー」

アリサ「ん? どこかで聞いたような声が・・」

と振り向くと、そこには後ろに手を組んでニコニコ笑いながら立っている子供がいた。

アリサ「あーー、H星人、あんた何でいるのよー」

以前アリサとコンビを組んだ、見た目は子供、でもその実態はエロい大人のH星人のハリーであった。

ハリー「なんでいるのよって、僕もこのミッションに呼ばれたからさ、えっへん!」

アリサ「なんでお前が! Hな事しか取り柄がないくせに」

ハリー「あー、ひどいな。忘れたのですかー、この前のミッションでは僕がいないと解決しませんでしたよねー」

と自分の活躍を誇示するように胸を張っている。

アリサ「そ、そうだけどさー。今回は必要ないでしょ」

ハリー「必要あるから呼ばれたんでしょ」

アリサ「・・・・・・」

何も言い返せないアリサであった。不満そうな様子である。

アミー「まぁまぁ、何があったか知りませんが、同じミッションの仲間なんだから仲良くしましょうよ」

と中に入ってその場を収める。

いつの間にか計十名くらいのメンバーが集ってきていた。

しばらくして今回のミッションの隊長から説明があった。

隊長「各星系から集められた精鋭の皆さん、今回のミッションの概要は既に聞いていると思うが、これから冥王星公転軌道付近に飛来しているオウムアムアの調査へ向かう。地球への直接の被害はないとの予測だが、気を引き締めて調査に当たるように。いいな!」

全員「アイアイサー」

と調査UFОに乗り込む。一瞬にしてUFОは大気圏を抜けて宇宙空間に出た。

隊長「ワープ開始!」

あっという間にUFОは漆黒の空間に飲み込まれていった。


冥王星公転軌道付近

なにもない空間に突然ワープアウトしてくる調査UFО。

アニー「見て見て、あれが今回のターゲットじゃない?」

はるか向こうに点の状態の塊が見える。

ハリー「地球に危険がないのになんで調査するんだろう」

アリサ「あれ、聞いてないのかなー?」

勝ったような感じで返事をする。

ハリー「もったいぶらずに教えろよ」

アリサ「通常の小惑星にしては形が整い過ぎていて、もしかしたら宇宙船じゃないかって」

アニー「もし宇宙船なら、中にエイリアンがいる可能性があるしね」

ハリー「でもさ、エイリアンいたらとっくにESОに連絡しているんじゃないのか」

アリサ「それが呼びかけも何度もやったけど応答が無いんだって」

調査UFОからスキャンビームが出され小惑星の内部の様子がモニターに映し出される。

隊長「おお、これは!」

内部の断面図には中が空洞になっている状態がくっきり映っている。

何よりも無数の生体反応が出ている。

アリサ「なにこれ」

アニー「この点の数からすると1000人規模の生体反応よ」

隊長「通信を試みているが、全く反応がない、やはり乗り移って調べるしか無いな。アリサ、アニー、ハリーいくぞ」

アリサ「え、私も」

ハリー「さぁーいくぞ」

と、ハリーに後押しされる。

横付けされた調査UFОから4人が出てくる。そして宇宙遊泳をしながらターゲットに張り付く。

アニー「外側の岩石はカムフラージュに使ってるみたいね、そんなに厚くないわ」

隊長「どこか、中に入れるエアーロックがないか探すんだ」

しばらく探索していると岩石に直線的な切れ目ができている箇所が見つかった。

隊長「ここが怪しいな、でも隙間が狭くて中に入れない」

ハリー「はーい、出番ですね、いってきま~す」

と子供体型なので、狭い隙間に入り込めるハリーが中に入っていった。

しばらくして

ハリー「隊長さーん、壁に認証パネルみたいのがあるんですが。どうしましょう」

隊長「よし、解析するからケーブルを伸ばしてくれ」

すると内部からスルスルとケーブルが出てきた。それを捕まえるとハンディターミナルに接続した。ピピピとスクリーンキーボードを操作すると、画面上に“Complete”の文字が出てきた。

隊長「よし、開くぞ。周りから退避して」

その言葉で近くにいた隊員が離れた。それを確認して隊長がエンターキーを推すと、岩石だと思われていた壁が縦に観音開きに開いた。

アリサ「おー、開いた」

ハリー「先にはいりまーす」

と一番近くにいたハリーが飛び込んだ、それに続いて残りの4人も入った。

入った場所はエアロックのようで他の区画からは隔離されているようだ。

隊長は先程のハンディターミナルを別の端末に接続するとしばらくして内部の扉も開いた。

隊長「中に入るぞ、最大限の注意を払え」

全員銃を構えてそろりと内部へ入った。隊長はまだ何かチェックをしていた。

隊長「空気組成は地球と似ているな、酸素が多いから我々と同じ酸素代謝系生物のようだな」

狭い機材がむき出し廊下をソロリソロリと進んでいくと、光がチカチカしている扉があった。

隊長「ここが臭いな」

同じ様にロックを解除する。

隊長「よし、いくぞ」

とみんなの顔を見渡すと緊張した表情。

隊長「3,2,1」

とばっとドアを開けるが、何も反応はない。

銃を前に突き出しなから警戒して部屋に入っていく。

明らかにコントロールルームのようだが、誰もいない。

4人が部屋に入る。あたりを見渡すが計器類が動いているだけだった。

アリサがふと何かを感じた。

みんなに目配せをする。アリサが部屋の隅の床下に指をさす。みんなそれを取り囲むように静かに移動する。隊長がその床下のパネルを渾身の力で引き上げる。

するとパネルの下の狭い空間に痩せこけた白い顔のエイリアンが丸まって潜んでいた。

その顔は非常に怯えていて、ブルブル震えていた。

エイリアン(アレッサン)「た、助けてください」

とか細い声で叫んだが、次の瞬間、気を失ってしまった。


アレッサンが次に目が覚めたとき自分の周りに4人の見慣れぬ者たちが立っていた。

アニー「あー、よかった、やっと気がついたみたい」

アリサ「心配しなくていいわよ、私達この船を調べに来ただけで悪者じゃないから」

ハリー「あのさー自分で悪者じゃないって言っても説得力無いよ」

隊長「驚かせて悪かった。体調はもういいですか、話せますか?」

皆が柔らかい口調で話かけたので、少しは安心したようだ。

エイリアン「あ、大丈夫です」

相変わらずか細い声ではあったが。

それから調査隊は訪問の主旨を話し、この船のことをいろいろ聞き出した。

概略はこうだった。

彼らの母星で大規模な戦争が勃発して最終兵器が使われた。そのせいで汚染物質により居住不能になった。よって複数の宇宙船に乗って当てのない旅に出た。各々の船には1000名ほど乗っていてコールドスリープ状態となった。この船はその一つであった。オートパイロットプログラムが船内および船外を監視していて何かあった場合は1名を強制的に起こして判断をさせる事になっていた。今回は移住可能の星(つまり地球)がセンサーにかかったので、このアレッサンが起こされたようだった。それでいろいろ地球について情報収集をしようとしていたが、肝心の通信機器が故障しており、コンタクトが取れない状態となっていたのだ。

アレッサン「我々は旅をはじめて既に500年も経っています。これが最後のチャンスを思っています。ぜひ我々を地球で受け入れてください。お願いします」

と涙を流しながら懇願する。

アニー「かわいそう、なんとかならないのかしら」

アリサ「これは緊急事態だからなんとか出来ますよね」

隊長「できればなんとかしたいが、我々だけで判断はできない、『接禁法』もあるし」

アリサ「この状況を見れば、この状況はもう危機的ですよ、なんとかしなきゃ」

ハリー「アリサ、気持ちはわかるけど感情的になっちゃだめだよ、1000人もの人間を受け入れることは簡単なことじゃない」

めずらしくハリーが真面目な顔で話をしている。

隊長「まずは食料の補充と我々と通信できる機器を設置して上の判断を仰ごう」

隊長はアレッサンに向かって

隊長「この状況を地球の上層部に伝えますので、しばらく待っていてください。この船の状態も必要ですので、データを頂いてもよろしいでしょうか」

アレッサン「お願いします、お願いします、1000人の命がかかっています。データはもっていってください、よろしくお願いします」

彼らを懇願する目で見渡していた。

アリサはその目を見て、絶対に助けるんだと決心した。


地球に戻った調査隊はESОと地球代表の会議に出席することになった。

円状のテーブルに十人程座っている。アリサ、アニー、ハリーはそのテーブルの後ろつまりESО審議官の後ろの席に座っている。

議長「これから冥王星軌道付近で発見されたオウムアムアについて協議を行う。まずはこれまでわかっていることをまとめて報告してくれ」

隊長「既にデータをお手元のタブレットにお送りしておりますので、概要はご理解いただいていると思います。あのオウムアムアは母星を失った1000人ものエイリアンを載せた移民船でした。船出より既に500年経過しております。その殆どがコールドスリープで冬眠中で、1名だけがこの事態に対応すべくコールドスリープが解除されています。彼はこの船の老朽化が激しため、今回が最後のチャンスと思っており、地球への移住を希望しております」

ESО審議官「船体データを解析しましたが、彼の言っていることは正しいと思われます。母星で大規模戦争が勃発し、汚染物質が星を覆い始めたため、脱出の為の急造された船のため、長期の航行は極めて難しい状態で、これまで無事だったのが奇跡としか言いようがありません。エネルギーも底をつきはじめており、もってあと100年から200年と思われます。幸いなことに彼らは酸素を呼吸として利用できる代謝構造ですので、その点は問題ないと思われます」

地球代表A「君たちの話を聞いていると移住ありきで話が進んでいるようだが、『接禁法』のことは忘れてはいないだろうね」

ESО審議官「もちろんです、ですから今回の対応を協議すべくこの場を開いているのです」

地球代表A「知って通り、我々の文明レベルは君たちにはまだまだ及んでいない。今の時点でエイリアンの存在を公にすれば、パニックが起こり、最悪は排斥運動が起こるだろう。戦闘も勃発するかもしれない。だからそれをソフトランディングさせるためにあなた方と協定を作った。幸いあなた方が思慮分別のある紳士だったので、現在までうまく運用されていると思う。今回その1000人を受け入れたなら、それは根底から崩れてしまう。せっかく今までうまくやってきたものが・・・」

地球代表B「1000人も人知れず暮らしていけるような場所は地球にはないし、仮にあったとしてもそれは隔離された施設のようなものになるだろう。それは彼らにとって決して幸せなものではないと思うが。このような大掛かりのプロジェクトを行えばエイリアンの存在を隠し通すことは非常に難しいだろう」

地球代表A「我々は何も彼らを見殺しにしようとは言っていない、何か他に代替案はないのでしょうか。その可能性をまず議論すべきと思いますが」

ESО審議官「おっしゃるとおりです。それでは我々で検討した案を複数提示したいと思います。隊長いいかな」

隊長「はい、まず現状の状態ですが、先程も審議官が話しましたが、非常に機体が脆い状態です。ですので、改造等はほぼ不可能と考えております。なのでワープ航法装置等を付加することも厳しいかと思います。エネルギー源もこちらで言う原子力のようなものですが、彼らの星独特な組成をしたものであり、代替はできないと判明しました。つまりエネルギーの補充もできません」

議長「で案は?」

隊長「移住は無理でも一時滞在の可能性を調べてみました。宇宙船ごと地球に着陸させる方法です。しかしこれは彼らの船の老朽化が激しく、急激な減速によって機体が破壊される可能性が高いです。もしそれを耐えたとしても大気圏突入にはとても耐えられません」

議長「うーん、これじゃ案にもならないじゃないか」

隊長「可能性と言えば、以下の方法がございます。まずは全員をコールドスリープから目覚めさせ、我々が用意した船に乗り移らせるものです」

議長「おー、それがいいのではないか!」

隊長「しかし、彼らの船の機構上、同時に1000人の解凍はできません。1回に10人、1週間ほどかかります。つまり全員解凍に100週、約2年かかる計算です。彼らの船だと今の軌道で約半年で太陽系外に出てしまいます。なので今すぐ始めても全員の救出は無理です」

ESО審議官「ただこの案では救出したあとの彼らの処遇についてはさっきの議論に戻ってしまいます、どこか受け入れ先が無いと漂流は続くことになります」

この様なやり取りを聞いていたアリサが急に立ち上がり喋り始めた。

アリサ「どこかの星が彼らを受け入れるって選択肢はないのですか!」

その言葉に出席してるメンバーがばつの悪そうな顔でお互いを見回す。

アリサ「地球が無理なら遥かに文明の発達している他の星なら可能性が高いはずです」

ESО審議官「アリサ、それは無理だ」

アリサ「どうして無理なんです?」

ESО審議官「地球に滞在しているエイリアンはその星の代表で来てるわけではない。本星に問い合わせてもこのような重い案件にすぐに結論を出すことはできない」

アリサ「こんなやり取りをしている間にも宇宙船はどんどん太陽に近づいてきて、そしてあっという間にいなくなっちゃうんですよ。1000人もの人間の命がかかっているんです、可能性がどうのことの言う間に行動を起こしましょうよ。『接禁法』や“本国の許可”って言っている場合じゃないでしょ」

と感情的にまくしたてた。横に座っていたアニーとハリーがやめろという感じで横から手を引っ張って座らそうとする。でもアリサは続ける。

アリサ「地球人もそろそろ現在置かれておる自分たちの現実を見つめて、次のステップに進むべきじゃないですか。今回の件はそれを考えるいい機会だと思います」

ESО審議官「アリサ、やめるんだ」

それは決して怒ったものではなかったが、声のトーンは非常に重く、これ以上はダメだという抑制の声であった。

アリサは口を尖らせて黙った。目からは涙が溢れ出しそうになっていた。そしてそのまま会議場から飛び出してしまった。


アリサが廊下に飛び出してロビーに向かっていたら、偶然ジョセフ教祖にぶつかった。

ジョセフ「アリサさん、どうしたんだ」

アリサの泣きそうな顔を見て声をかける。

アリサ「ジョセフさん」

とそのままジョセフの胸の中で泣き出してしまう。

ロビーの待合用の低い椅子に並んで腰掛けてこれまでの経緯を話すアリサ。

ジョセフ「そうか、そうか、アリサさんは今大変な仕事しているのですね」

優しく声をかける。

ジョセフ「みなさんもこの1000人の命を軽んじているわけではないと思いますよ。誰も地球が今後どのような方向に行ったほうがいいか、真剣に考えているからこそ、そういう話になるのですよ」

アリサ「それはわかっているのですが、いい方法が見つからないのですよ」

ジョセフ「そうですね、難しい問題ですね」

決心したようにアリサに話しかける。

ジョセフ「でもこれは私の考えですが、まだ地球の民にエイリアンの事を知らせるのは時期尚早ではないかと思うのですよ」

アリサ「え、どうしてですか?」

ジョセフ「私が例の宇宙人排斥運動を扇動したじゃないですか、あの時もすぐにブームになって異常な盛り上がりになりました。確実にエイリアンがいるってわかってないのにですよ。それだけこの地球人の多くはまだエイリアンに不安の気持ちを持っているのではないですかね。もちろん今となってはアリサさんみたいに地球のために頑張ってくれている人が多いってわかってますよ」

アリサはその言葉を聞いて、そうかもしれないと落ち込んでしまった。

アリサ「ところでジョセフさんは何故こちらへ」

ジョセフ「父の星へ帰る日程が決まったのですよ、それでいろいろ打ち合わせに来ました」

アリサ「あー、それは良かったですね、これで家族3人、水入らずですね」

ジョセフ「これもアリサさんのおかけですよ、ありがとうございました」

アリサ「いえいえ、私はESОの仕事をしたまでで」

ジョセフ「ここにF星のUFОが半年後に迎えに来ることになっています」

アリサ「それじゃお別れですね」

ジョセフ「また地球に来ることもあるかもしれないので、その時はよろしくお願いしますね」

アリサ「はい、お元気で」

ジョセフ「これから本国の父の部下と亜空間ホログラム通信で打ち合わせがありますから、失礼しますね」

アリサ「あ、あれですね(ニコ)」

と別れる二人であった。


会議場

アリサが出ていった後も議論は続いていた。

ESО審議官「いろいろでましたが、それでは別の船に移動して旅を続けてもらうという案を彼らに伝えます」

地球代表A「よろしく頼むよ、地球人が無慈悲な者だと思われないように。これも苦渋の選択なのだと。必要な物資の提供は我々で全面的に請け負う」

ESО審議官「わかってますよ、我々も気持ちは同じです」


ESОパトロール コスモベース

アニー「アリサが出ていったあともいろんな案が出されたんだけど、やっぱり決めてはなくて」

ハリー「今回のネックはやはり彼らの船の老朽化が激しくて物理的な方策が取れないことにあるね、それがクリアされたらやりようはあるんだけどなー」

アリサ「そうだね~、だから少しでも救える方策が優先されたわけよね」

アニー「ここでまた誰を助けるかって選択させるのも酷よねー」

アリサ「はーー」

と大きなため息が出る。

隊長が部屋に入ってきた。

隊長「ため息つくのもわかるが、決まったことをちゃんと伝えることも俺たちの仕事だ、さぁー船と回線をつなぐぞ」

と通信機の調整を始めた。

しばらくしてオウムアムアと交信ができるようになった。

隊長「感度はどうですか、聞こえますかーー」

アレッサン「はい、聞こえます」

モニターに映し出される。

隊長「お待たせしてすいません、こちらで検討した結果をお伝えします」

アレッサン「はい」

隊長「まずあなた方の船は老朽化が激しく、今後の航海に耐えられない可能性があります。ですので、こちらの用意した宇宙船に乗り換えていただこうと思っております。しかし、頂いたデータよりコールドスリープ装置ごと積み替えることはできないので、一旦スリープアウトしてから乗っていただくことになります」

アレッサン「ありがとうございます、新しい船をご用意いただけるのですね、とても嬉しいです」

隊長「ただ・・・」

アレッサン「ただ、なんでしょう?」

隊長「全員は無理だと思われます」

アレッサン「え、どうしてですか!」

非常に驚いた様子。

隊長「あなた方の装置は一度に10名くらいしかスリープアウトできません、それに動けるように回復するまで1週間ほどかかるようです。そうすると全員処置するまで約2年かかります」

アレッサン「2年かけてやればいいじゃないですか」

隊長「その間に宇宙船は太陽系外に出てしまい、我々がサポートできなくなってしまいます。救出活動は長くても半年になります。それにご用意できる船ですがコールドスリープ可能なものは定員300名なのです」

アレッサン「ちょ、ちょっと待ってください。なんでコールドスリープが必要なのですか?

船を乗り換えて地球に行けばいいだけですよね?」

隊長「それは・・・地球はあなた方を受け入れることは出来ないのです」

アレッサン「そんな、どうしてですか?」

隊長「地球はまだあなた方より文明が進んでいないのです、ですから我々エイリアンの飛来に大部分の人が気づいていません。あなた方を受け入れるということはエイリアンの存在を知らしめてしまうことになるのです」

アレッサン「知ったから、どうなるのですか? いつかコンタクトはありますよね。それが今じゃないですか」

隊長「これは関係者でさんざん議論して来たのですが、そういう結論となりました。申し訳ないがそこは理解してほしい」

と深々に頭を下げた。

アレッサン「あ、そうですよね。我々の要求だけを通すことって無いですよね。地球には地球の理由があるし、勝手に入ってきたのはこちらだし、無条件に助けろっていうのも失礼な話ですよね・・」

最初は興奮していたが、自分たちの論理でものを進めてしまったら、戦争を起こしてこんな事になってしまった自分たちと同じことだと理解したのである。

アレッサン「で、でも、バラバラになるのはなんとかならないのですか?、これまで500年間ずっと1000名でずっと一緒で来たのです。ここで誰かを選ぶと言うことは出来ません」

隊長「それもごもっともです。我々もできるなら全員救いたい、しかし物理的に無理なのです」

隊長も唇を噛みして言葉を絞り出す。

アレッサン「なんとか、なんとか、ならないのですか」

必死に食い下がるアレッサン。

隊長「ひ、一つだけ、方法があります」

アリサ、アニー、ハリー「え、なんて言っ・・」

驚いた顔をする。

アレッサン「ほ、本当ですか!」

隊長「これはまだ誰にも言っていない私だけの胸にしまっておいたものです」

アレッサン「は、早く教えてください」

隊長「この船は太陽に近づくとその重力を使ってスイングバイして方向を変えるようセットされています。その軌道はもう二度とは太陽系に戻ってこれない軌道です。そのタイミングをずらして太陽を回る公転軌道にするのです。そうすれば救出の時間が稼げます」

アリサ「何だ、いい案があったじゃない。なんで言わないのですか」

隊長「そう簡単ではないのだ、この方法は非常に成功確率が低いのだ。まず1点目、この船は非常にガタが来ているので、急激な進路変更に耐えられるか。2点目、その際、航行プログラムの制御がうまくいかないと軌道がずれて太陽に引っ張られる可能性がある。3点目、さっきも言ったが、コールドスリープができる船は300名分しか乗せられない。他の700名は別の船でスリープアウトした状態で年を取りながら旅を続けるしか無い。確かにその代替船にはワープ機能があるので、今よりは高確率で居住可能な星を見つける機会は増えると思うが、何年かかるかは運次第だ。それなら最も安全で確実な最初の案で300名を確実に救ったほうがいいのではと思ったのだ」

アリサ「何言っているの、こっちがいいに決まってるよ」

ハリー「でもそうかな、この案はやってしまったらもう後には戻れない。0%か100%の賭けだ」

アレッサン「いや、この方法でやりましょう。確率が低くてもみんなで助かる方を選びます」

アレッサン「私は今回たまたまシステムによって目覚めさせられましたが、実は今まで何度か目が覚めた者がいたのです。彼らが残した引き継ぎファイルを見つけて読んでみたら、いろんな事がわかりました・・・・。

内容は異なりますが彼らも、その時々でいろんな決断をしていたのです。

例えば、ある者は隕石群に船が突入して穴が空きそうな事態に遭遇した時、必死に迎撃をしたようです。もちろん、防衛システムの手を借りてですが。その時不覚にも通信用アンテナを破壊されてしまったらしいです。それを非常に悔いていました、今後の航行に支障がでるかもしれないと。でも彼はアンテナを失いましたが1000人の命は守ったのです。それは誇れることと思います。

その後目覚めた者達も、この出来事に賞賛のコメントを寄せていて彼の行動を讃えています。でも共通してコメントされていることはこのような状況になった者は自分の判断で事に当たれということです。もしそれでみんなが死ぬことになっても誰も責めたりしない、自分を信じて行動しろということです。私も先人のその言葉を糧にして行動しようと思っています。今回みなさんが我々のために色々やってくれていることに感謝いたします。でもこの船の最終判断を下すのは私だと思っています」

と誇らしげにこの船の歴史を語る。

アレッサン「だから、私はこの方法を選択します。確率が低くてもみんなで助かる方を選びます」

今のエイリアンはアリサたちが見つけた時のおどおどした様子でなくしっかり信念を持った目に変わっていた。


これによりエイリアンの救出方法が決定した。

それに合わせてESО中心で救出計画が練られた。

船が火星軌道まで到達するのに2ヶ月、そこから太陽まで1ヶ月半、計3ヶ月半で準備をやらなければならない。

コールドスリープ可能な宇宙船、それ以外を運ぶ宇宙船が地球に来ているエイリアンたちの協力で調達されていた。また彼らの船の航行プログラムの解析を行って、どのタイミングで軌道を変更させるのか、シミュレーションが重ねられた。もちろん、彼らの船への影響度も十分に加味されている。

それまでにも少しづつコールドスリープを解除して乗組員を保護していくこともできたが、シミュレーションの結果がその都度変化して微妙な影響を与えてもいけないと、保護は軌道変更が完了してからとなった。


いよいよ決行1日前

アリサ達は彼らの宇宙船へ乗り込み、最終確認をしていた。

アリサ「大丈夫きっとうまくいく」

アレッサン「ありがとうございます、いろいろやってもらって感謝しています」

アリサ「本当はさ、地球で受け入れられれば、一番良かったのだけどね」

アレッサン「それを言うのはもうやめましょう、あなた方がいたおかげでここまで出来たわけですから」

アリサ「だけど・・地球もそうだけど、他のエイリアン達も受け入れてはくれない・・・それが悔しくて」

アレッサン「私、システムに起こされてからいろいろ調べてみました。銀河系の周辺部で星もまばらところで、このチャンスを逃がすとまた500年はほとんど何もない宇宙空間を旅することになります。でもご存知の通り、我々の船の動力源でもって200年ぐらい。ですからダメ元でもこのチャンスに賭けるしかなったのです。私だけだったら強硬に地球に着陸しようとして粉々になっていたでしょう」

アレッサン「それだけではない、衝突は地球にも大きな影響を与えてしまう可能性もあった」

アレッサン「我々は自分たちの星でささいな行き違いから全面戦争に突入して、星自体を滅ぼしてしまった。だから他の星を巻き込んでしまうことはもう絶対に避けなければならないのです」

アニー「そうよ、今はこのミッションを成功させることだけを信じましょう」

アリサ「そうね」

アレッサンが今回の決定についてアリサたちを責めていないことをわかってちょっとホッとしているが、心の中には今回のミッションがうまくいっても、それはまだ解決ではないことにまだ少しわだかまりがあるアリサであった。


ミッション当日

オウムアムアとアリサたちのUFОのコンピュータは物理的な通信ケーブルで接続されていた。

オウムアムアの機器が不安定であるので、無線でのコマンド送信は遅延の可能性があったので、確実な有線方式で行くことにしていた。

隊長「コマンド投入、30秒前、異常なし」

彼らの船のコンピュータにコマンドを送って、推進器からエネルギーを出力し軌道を変える方法である。あまり急激に行うと船体がばらばらになる可能性が高いので、徐々に噴射をかけていくやり方である。

隊長「コマンド投入、10秒前、9,8,・・・」

とカウントが始まった。シミュレーションは何百通りもやり、成功の確率はかなり上がっていたので、あとはこのコマンドを投入するだけだった。

隊長「3,2,1投入!」

自動的にセットした時間に推進装置を起動するコマンドが送られた。

“プシュー”と音をたてエネルギーが噴射される。わずかに船体が揺れるが、アラートは出ない。

ハリー「成功か?」

船は僅かであるがこれまでの軌道とは違う方向に向かい始めた。

隊長「まずは成功だ、ただ1回でなく、何度も微調整をしながら方向を変える必要があるからまだ安心は出来ないぞ」

最初の噴射から十分が過ぎようとしていた。

隊長「いよいよ大詰めだ、あと10回ほど姿勢制御すれば完了だ」

隊長の顔にも余裕の笑みが出てきた。

みんなその時間が過ぎるのを固唾を飲んで待っていた。

するといきなり全面の空間が明るくなり始めた。

隊長「な、何事だ!」

隊員A「ワープアウト反応です」

隊長「なんだと、禁止宙域、それも太陽近傍でのワープアウト、一体誰だ!」

と叫ぶが、それを止めることは誰もできない。実体を現したUFОは猛スピードでアリサたちが乗っているUFОとエイリアンの船の間を突っ切っていった。すんでのところで衝突は回避された。

拙速していた機器にワーニングが出て警報音が鳴った。

隊員A「隊長、今の衝撃で通信ケーブルが切断されました!」

隊長「コマンドは完了していたか?」

隊員A「いえ、あと2コマンドが未送信です」

隊長「すぐ影響を解析しろ」

隊員A「もうやっています、このままだと・・・地球に衝突するコースです!」

隊長「なんだと!」

隊長は周りを見渡した。

隊長「誰がやってくれるか、精度は落ちるが無線でコマンドを送る、そのための設定をエイリアンの船でやる必要がある」

アニー「了解!私がやるわ」

と言うが早く、スペースバイクに乗って飛び出していた。

隊長「他はシミュレーションやり直しだ、手伝ってくれ」

慌ただしくなった船内。

アニーはアレッサンと連絡をとってハッチを開けてもらい中に入った。


隊員A「隊長、大変です。先程のUFОがまたこっちへ向かって来ています」

隊長「これは明らかに妨害工作だな」

アリサが真っ先に反応した。

アリサ「小型UFОで出るわ」

と言い残すと、格納庫に走り去っていた。

あっという間に小型のUFОが飛び出した。


アリサ「あんた達何者なの? 今大事なミッション中なのよ、邪魔しないでくれる!」

敵UFОはその言葉を無視するように真っ直ぐにエイリアンの宇宙船めがけてとんでくる。

明らかに攻撃の意図があるようだ。

アリサ「伊達にアイドルやりながらESО隊員やってないのよ!」

と叫びながらミサイルをぶっ放す。敵も小刻みに機体を揺らして回避する。

アリサ「ちょこまか、しやがってーー」


隊長「アニー、準備は良いか?」

アニー『設定完了、いつでもОKです』

隊長「よし、コマンド送信!」

と中途半場になってしまった制御を戻すべく、コマンドを送る。ただ無線で送っているので微妙なタイミングの精度は低い。コマンドを受けた宇宙船がまだ小刻みに噴射を繰り返して軌道を変えていく。

隊長「どうだ、進路は?」

隊員A「うまく行ってます、地球直撃のコースは外れそうです。でも当初の公転軌道からはだいぶズレています。このままだと木星方向に向かって太陽系を出て行ってしまいます!」

隊長「そうか、しかしもう太陽でのスイングバイが使えないから大幅な進路変更はできない・・・」

苦悩の表情になる隊長であった。


アリサはしつこく攻撃してくるUFОに頭がきていたので、いつものアイドルをすっかり忘れていた。汚い言葉で罵りながら、ミサイルを発射していく。

ハリー「おーい、アリサ、まだやっつけてないのかー」

と別の小型UFОでハリーが合流した。

アリサ「何よ、遅いじゃない、あんたのために残しておいたのよ」

ハリー「はい、はい、じゃ、共同戦線いきますかー」

と二手に別れてUFОの進路を狭めて、宇宙船に攻撃できないようガードした。

しかし、このUFОは非常にすばしっこくて、なかなか照準を定める事ができない。

ハリー「アリサ、ピンポイントのミサイルじゃ、あのUFОは落とせない、この前装備されたフローズン(冷凍)ビームを使おう」

アリサ「OK、でもあれば大きなダメージは与えられないよ」

ハリー「ものは使いようさ、UFОの前面にビームを撃ってくれ、あとは俺がやる」

アリサ「なんだかわかないけど、任せよ。失敗したら、お仕置きよ」

アリサは指示どおりUFОの進路を塞ぐようにビームを斜めに撃つが、すり抜けられて効果はない。

ハリー「それでいい、何回も撃ってくれ」

アリサはその言葉を信じて何度もトライする。

何回目の照射のとき、ハリーがそれにクロスするようにビームを撃った。するとアリサのそれとぶつかってUFОの前面に氷の面が広がった。それは広範囲に広がったので、不意を突かれたUFОは避けきれずぶつかってしまった。

ハリー「よし、今だ! ミサイルを撃て」

ハリーの叫びに瞬時に反応するアリサ。両UFОから動きの鈍った敵UFОにミサイルの雨が降った。

アリサ「いっただきーー」

とそれがラストショットになった。

爆発するUFО。

ハリーは冷静に、爆発した一部氷漬けになったUFОの残骸を回収していた。


アリサとハリーが調査船に帰ると、中はどんよりとしていた。

アリサ「どうしたの? 暗い顔して」

戻ってきていたアニーが

アニー「軌道修正に失敗したの、公転軌道には入れなかったみたい」

アリサ「えー、どうするのよ」

隊員A「地球にぶつかる軌道をはずすのに必死で」

隊長「あの状況でここまでやれたのは最善だった」

アリサ「完璧じゃなかったの?」

アリサもみんなの努力はわかっていたが、必死で計画を立て、後少しでうまくいくと考えていた事が崩れていくのが悔しかった。涙がいつの間にかアリサの頬を伝って落ちていった。もうどうしても彼らは救えないのか。


エイリアンの宇宙船

足どり重くアリサたちは今回のミッションの結果を知らせに行った。

隊長「申し訳ない、何者かの妨害が入って予定の軌道に入れることはできませんでした。

宇宙船が太陽系を出る約3か月の間でできるだけの方を新しい船に移そうと思います」

アレッサン「3か月ですが、精々100名ですね。あと900人はこれまでと同じように眠ったままということですね」

しばらく目を閉じて考えていたが、パッと目を開いて

アレッサン「もういいです」

アリサ「え」

アレッサン「全員で同じ運命を受け入れることにします。これまで一緒に旅をしてきましたので、これからもみんな一緒に行きたいと思います、わずか100名では文明を築くことも出来ませんので」

アリサ「100名でも生き残れば、何かの希望がつながるかも」

アレッサン「はい、ありがとうございます。500年間、我々は一縷の希望を繋いできましたが、これが我々の運命だったのです」

アレッサンの決心は固く、アリサ達は打ちのめされて肩を落として宇宙船を後にした。

この船がまた何者かに狙われないように護衛のUFОは付けていた。


ESOパトロール コスモベース

アニー「それにしてもあの妨害をしたのは誰だったの? あとちょっとで公転軌道に乗せられたのに」

ハリー「アリサが落としたUFОの破片から面白いものが見つかったよ」

と回収した氷漬け破片がモニターに映される。そのあと分析結果のグラフが示された。

アリサ「何、何?」

ハリー「アクセラニウムさ」

アリサ「ん? どっかで聞いたような?」

アニー「アリサ!忘れちゃったの? UMAの件!」

アリサ「UMA? あーーー、あの捕まえたS星人!」

アニー「そう、S星人が密かに掘っていたレアアースよ」

アリサ「てっことは、今回の件はS星人が犯人ってこと?」

ハリー「まぁー、性急に決めつけられないけど、何らかの関係はしてるよね」

アニー「この前私達が摘発したから、その腹いせ?」

ハリー「それはわかないけどね、彼らはあの事件で太陽系出禁になってるから、恨みは持っていると思うよ」

アリサ「何なのよ、そんなちっちゃなことで1000人もの命が危機にさらされているのよ」

アリサの怒りがまた沸騰した。

アリサ「もう手はないの、このまま彼らが行ってしまうのをただ見ているだけなの?」

アニー「宇宙船はこの前のミッションで無理させたから、一層ガタがきているはずだよね」

ハリー「宇宙船を整備して、できるだけ長持ちさせるぐらいしかないかなぁ、ちゃんとした改造ができれば状況は変わるのだが・・・」

アリサ「改造ねー」

モニターに映された氷漬けにしたUFОの破片をなんとなく見ていたアリサの脳裏に何かがひらめいた。

アリサ「ねぇねぇねぇ、ちょっと聞いて、なんかひらめいたかも!」

アニー「なになに?」

アリサは急にコンピュータを叩き出して、宇宙船の軌道をモニターに映し出した。

アリサ「あーー、通るよ、通る」

アニー「どうしたの、急に。何が通るの?」

アリサ「宇宙船がエウロパの近くを通るのよ」

ハリー「それがどうした?」


アリサが興奮した面持ちでみんなに説明し始めた。

するとみんな納得して

アニー「その手があったか」

ハリー「早速隊長に連絡して裏付けをとろう」

みんなの顔が急に明るくなった。


アリサの案がシミュレーターにかけられ、十分実現性が高いと認められた。

ESOが中心となって再度ミッションが始まった。

船が木星の衛星のエウロパに近づいたタイミングでエウロパから汲み上げた水を船体に向けて放水を始めた。

エウロパの表面は少なくとも厚さ3Km以上の氷で覆われているが、強い潮汐力の変動に晒されている。その潮汐力で発生する熱によって表面の固い氷層の下は深さ数十から百数十Kmにわたって氷が融け、シャーベット状で液体の海になっており、水の供給には事欠かなかった。

宇宙船の表面はみるみる間に氷に覆われていく。

アニー「氷ってすごいよねー」

アリサ「だよねー、これが十分の厚さになれば航行に耐えられる強度持つはずよ」

ハリー「でもよく思いついたな」

アリサ「昔、地球のアニメで見たのよ、不時着した宇宙船の外壁が壊れて、再度宇宙に飛び出せなくなったのだけど、氷をまとって補修して無事帰路につけたってやつ。宇宙空間なら氷は溶けないし気密性もバッチリ」

アニー「それに周りに纏うだけなら補修による船体への負担は少し、それになんと言っても氷の中にワープ推進エンジンを埋め込めば最新式の宇宙船に早変わりってわけね」

アリサ「そうそう、これでずっと長く旅できるし、その間に移住できるところが見つかるかもしれない。本当は受け入れられればよかったけどね」

ハリー「精一杯できることはしたんだし、あとは彼らの運にかけるしかないね。少なくともこれで希望の光は長くなったはずだよ」

とアリサの尻をぽんと叩く。

コラコラと手を取り上げられるハリー。


みるみる間に宇宙船の周りの氷が厚くなり、後部にはワープ航法用のエンジンも取り付けられ形が整ってきた。

アレッサンが最後の別れに調査船に来ていた。

アレッサン「いろいろありがとうございました、これで本当にお別れですね」

アリサ「運に任せるやり方しか出来なくてごめんなさい」

アレッサン「我々の最初に比べれば格段に状況は向上しました。これであと500年は頑張れます」

アニー「アレッサンもこれからコールドスリープに入るのよね」

アレッサン「はい、今回の出来事を記録に残してから私も再び戻ります、次起きた者がちゃんと状況を分かるようにしておかないと。今回の変化は尋常じゃないですからね」

アリサ「ははは、そうですね、船の形がまるっきり違いますからね」

アレッサン「それじゃ、もう行きますね、本当にありがとうございました。あなた達のことはずっと忘れません」

と連絡用のコスモバイクの後席に乗って自分の船に向かっていった。

しばらくしてアリサに緊急の音声通信が入った。その相手はジョセフ教祖だった。

アリサ「どうしたのですか?、ジョセフさん」

ジョセフ「まだ彼らは旅立っていないかい?」

アリサ「あ、もうすぐですが」

ジョセフ「じゃちょっと待ってもらっていいかい、話したいことがあるのじゃ」

アリサ「あ、はい、でも・・わかりました、繋ぎます」

アリサ「アレッサン、たった今あなたと話したい人から連絡がきているから繋ぎますね」

アリサはジョセフの通信をアレッサに切り替えた。

確か、ジョセフはアレッサンのこと知らないはずだ、何故連絡しようとしたのか不思議なアリサであった。

モニターで会話の様子を見ているアリサ、アニー、ハリーだったが、会話の始めたアレッサ

の顔が刻々と変化していった。最初はハッと驚いた表情、それから目がかっと開かれ焦点が固定されたかと思うと、目尻から滝のような涙が溢れ出てきた。

ハリー「おいおい、どうしたんだアレッサン」

アリサたちからは映像だけで音声は流れてなかったのだ。

そして最後あたりは笑い泣き状態になっていた。

会話が終わったらしく音声が切り替わった。

ジョセフ「話は終わったよ、彼が私の申し出を受けてくれた」

アリサ「なんの申し出ですか?」

ジョセフ「もちろん我々のF星への移住の話じゃよ」

アリサ「なんですって、彼ら移住できるんですか、あーー」

そのジョセフの話を聞いた途端、アリスの目からは大粒の涙が溢れ出た。もちろんアニーもハリーも同じ様に泣いていた。


あの時、そうアリサが会議場を飛び出してジョセフとぶつかった時、話を聞かされたジョセフはその後にあったF星関係者との打ち合わせの際にこの話を出していたのだ。その時はF星までの航路の確約もなかったから可能性としての話でしかなかったのだが。

その後本星の父からのビデオメールが届いた。

そこにはF星の置かれている現状が語られていた。それに寄るとF星は文明の老年期を迎えており、科学技術のこれ以上の進歩もなく、人口も減少しており、あと2000年もしたら人類は滅びてしまうだろうと予測されていた。なので新たな住民に移住して貰えれば、少しでもこの状況を変えられるのではないかと考えたのだ。ただ王の一存だけではそのような重大事は決められないので、民にその是非を確認していたのだ。それはそれほど心配することもなく合意が取れた。

ただ、受け入れの星は出来てもそこまでいく手段がなければそれは実現できなかった。

その時アリサが宇宙船の修復方法を見つけ、ワープ航法推進装置までつけたという地球からの連絡をもらい、連絡してきたと言うわけである。


ジョセフからのこの吉報により、F星へ向かう進路がコンピュータにインプットされた。もちろんワープも可能なので、F星まではおおよそ2年で到着する計算だった。

ジョセフも星に帰る日時を彼らと合わせ、この船をモニターしながら航行することにした。これにより安全にF星に帰れることになるのだ。


アリサ「じゃお願いします」

アリサは調査船の中、ジョセフは自分たちが帰るUFОにいてモニター越しで話している。

ジョセフ「F星の優秀なクルーたちが一緒だから心配ないよ、ちゃんと彼らを本星に連れて行きますよ」

アリサ「心配なんかしてません。彼らに1000年越しの幸せを与えてやってください」

ジョセフ「わかりました、それでは出発しますね」

ジョセフの乗ったUFОからトラクタービームがアレッサン達の船に照射された。このおかげで航行制御はすべてジョセフのUFОで可能になる。

次第にスピードを上げていく2つのUFО、やがてワープホールが眼前に出現し、あっという間に2つの影が消えていく。

アリサ「あー行っちゃったなー」

アニー「今回の件はアリサの大手柄だったね、ジョセフさんと知り合いじゃなかったら実現しなかったね」

アリサ「いや、私の力じゃないよ、彼らが運命を引き寄せたんだよ。宇宙はこんなでっかいのに、こんな銀河の辺境でいろんなベクトルが交差して奇跡が起こったんだよ。1000人の夢がそれを引き起こしたのだと思う」

アニー「そうだね」

アリサたちが船内から見ている宇宙には何でも吸い込んでしまうような大きな暗闇が続いていた。しかし、このどこかで新た生命が誕生し、そして新しい歴史が始まっていくのだ。

地球人はその様な壮大な出来事が起こっていることにはいまだ気づいていなかった。それを知るのは果たしていつのことになるのであろうか。


(エイリアン チャンネル Q 完)


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