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エイリアン チャンネル Q  作者: 百乃梨玖
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パート2 「残された花嫁」

エイリアン チャンネル Q パート2 「残された花嫁」


これから番組が始まる。ADアシスタントディレクターが指でカウントを始める。

AD「本番行きますー、はい5、4、3、(2)、(1)、(キュー)」

(2)と(1)のカウントは指だけの身振り、(キュー)は指で“Q”の文字(宇宙人のADなので指自体が文字の形)になっていた。

TVモニタに番組タイトルが大きく現れる。

『エイリアン チャンネル Q』

そしてオープニングが流れる。

次にTVカメラはビーナス星人MCのアリサにズームする。

アリサ「はぁーい、日曜の夜いかがお過ごしですかー、宇宙のアイドル アリサがみんなにいい事教えちゃいまーーす」

モニカ「アリサちゃん、今日もさらに飛ばしてますねー(苦笑)」

モニカはこの番組のアシスタントの女の子である。アリサが結構のりが軽いので脱線しないように進行してくれている。

アリサ「はーい、元気だけが取り柄です、えへっ」

アリサ「それじゃ、さっそく今日のコメンテーターを紹介しちゃいます!」

アリサ「宇宙恋愛評論家のX星人ゼフィロさん」

カメラが紹介された方を向く。軽く会釈をするゼフィロ。

アリサ「ジャーナリストのY星人ロメオさん」

カメラが紹介された方を向く。軽く会釈をするロメオ。

アリサ「宇宙紛争専門の弁護士Z星人オリバーさん」

カメラが紹介された方を向く。軽く会釈をするオリバー。

アリサ「お三方、本日もよろしくお願い致しまーーす」

アリサ「早速今日のテーマですが、じゃじゃん『宇宙版ロミオとジュリエット』です、もうこの番組では恒例になってますが地球人と接触したケースを取り上げて、皆さんにはそんなことがないように気をつけてもらうってコーナーです」

とタイトルがモニターに出る。

アリサ「今日はなんだか、この番組らしくないタイトルですね(笑)」

モニカ「そうなんですよ、これまではUFО事故の話題が多かったのですが、今回は恋愛をテーマにお送りしたいと思います」

アリサ「アリサも憧れています、白馬の王子様が現れてさらってくれないかと」

と夢見がちになる。

ゼフィロ「アリサちゃんは可愛いから、引く手あまたでしょ。本当は彼氏いたりして」

アリサ「ゼフィロさん、まだアリサが話しを振ってませんよ、プンプン」

ゼフィロ「あー、ごめんなさい」

モニカ「アリサさん、じゃーそろそろ本題に入りましょうか」

アリサ「ОKー」

アリサ「今日は七十年前のヨーロッパ小国での事件です、モニカさん、概要説明よろしくです」

(モニカの説明時には回想シーン:再現ドラマがモニターに流れる)

モニカ「七十年前、F星人のUFОがヨーロッパ小国の山中に墜落しました。その中の乗員の青年は瀕死の状態で麓に下って行きましたが、途中で力尽きて倒れてしまします。そこへ近隣の村人の少女が通りかかり、村へ連れ帰り、献身的な看病をしました。その甲斐があり一命は取り留めました」

アリサ「娘は宇宙人を見てもどうも思わなかったのですか?」

モニカ「はい、F星人はほぼ地球人と同じ寿命で、容姿は地球人の基準ではイケメンなのです」

アリサ「わー、そうなんですね」

モニカ「はい、続けますね。F星人の青年は事故で一時的に記憶をなくし、自分が誰かわからない状態でしたが、娘は元気になるようにと話かけたり、料理を作って食べさせました」

アリサ「いい話じゃないですか、なんでこれが事件なんですか?」

モニカ「アリサちゃん、慌てないでください。これから出てきますから」

アリサ「あ、ごめ~ん」

と舌をだす。

モニカ「年齢の近い二人ですから、必然のようにそこには恋が芽生えました。青年は献身的に自分を看病してくれた娘が愛しくてたまらなくなりました。そして段々と自分の記憶を思い出しても、娘への愛情は変わることはありませんでした。村の人達も彼を受け入れ、娘の結婚相手として認め始めていました。」

アリサ「ちょっと待って、F星の彼の記憶を思い出したって言ってましたよね、接禁法の事はどうしたんですか、ねーオリバーさん」

オリバー「あ、やっと振られましたね(汗)、今日は出番がないかと思ってましたよ」

話を振られてホッとするオリバー。

オリバー「この時はまだ接禁法はなかったんですね、個々の宇宙人の自己判断で地球人と接していました。ただ思慮分別ある宇宙人はむやみに地球人とコンタクトする事はまだ時期尚早と考えていたのは事実です」

モニカ「はい、続けますね。青年はUFОの不時着現場に村人達を連れていき、通信に必要な機材を持って村へ帰りました。そして本国へ救難信号を送ったのです。そして遭難から2年後、F星から救援のUFОが到着しました」

アリサ「よかったですねー、これで帰れますね」

モニカ「でも、悲劇はこれからだったのです」

アリサ「えーーー」

モニカ「F星人は先程オリバーさんからも説明があった『思慮分別ある宇宙人』でしたので、地球人とのコンタクトに関して非常にネガティブでした。当然娘をF星に連れて行くことも反対でした」

アリサ「それじゃ、青年が残ればいいじゃん」

モニカ「簡単に言わないでくださいね。実はこの青年、F星の王子だったです」

アリサ「えーー、ありがちー」

モニカ「王子は彼女と別れたくないので、抵抗を続けましたが、遂には側近たちが実力行使をしてしまいました」

アリサ「もしかして・・・・殺し・・・うっそー」

モニカ「もー話は最後まで聞いてくださいね。側近たちはフラッシュ・イレーサーを村人全員に浴びせたんです」

アリサ「あーフラッシュ・イレーサー(忘却光線)ね、ロメオさん説明してもらっていいですか?」

ロメオ「はい、今では当たり前になった装置ですね、現在管理局が不慮の事故でUFОや宇宙人を見てしまった地球人達に行っているものと原理は同じです。当時はまだ小型化されていなかったので、UFОから直接村全体に照射したのかもしれませんね」

モニカ「それで娘は彼の事を忘れてしまったので、王子はひどく嘆き悲しみました、でも最後は側近の説得に応じ、星に帰っていきました。せめてもの証として彼女に指輪を残したと言うことです」

アリサ「まー『ロミオとジュリエット』の話とは違っていましたが、ようするに愛する二人を引き裂く悲しい恋の物語ってことですね」

アリサ「地球人たちと接触してしまったら、その後悲しい結末になってしまうというお話でした。なので『接禁法』遵守をよろしくお願い致します。」

アリサ「では本日の教訓!」

アリサ「恋は盲目、熱くなったらお仕置きよ」

とお決まりのポースをとる。エンディングテーマが流れ出した。

アリサ「はい。今日もお時間となりました。お付き合い頂きありがとうございましたー」

ADが終わりのキューを出す。カメラが引きの画面になって、スタジオ全体を写す。出演者が手を振る。

AD「はい、お疲れ様でしたー」

メインモニターが消され、出演者たちが立ち上がって出ていく。

またゼフィロがアリサに近づき

ゼフィロ「アリサちゃん、今日一回も振られなかったんだけど、寂しいから今度はお願いね」

アリサ「あっ、そうだっけ、ごめん忘れてた。次はちゃんと振るね~」

X「じゃお詫びということで食事に行こうよ」

と弱みにつけこんでナンパをしてきた。

アリサ「事務所からすぐ来いってメールが来てるのー、すぐ行かないと社長さん、すっごく怒るのよ~ごめんなさい!」

と慌てている振りして誘いを断る。

ゼフィロ「アリサちゃーん、そんなーー」

アリサは急いで転送室に向かった。


渋谷の芸能事務所

いつものように社長室のドアをノックするアリサ。

アリサ「入りまーす、おはようございますー」

社長「おーアリサちゃん、今日もかわいいねー。ところで最近記憶がなくなることがあるんですよー、それもアリサちゃんと話してる時みたいなのですよ、何か心当たりあります?」

アリサ「えーーわかんないですよ、社長さんはいつも元気で若いですよ。ボケるなんて早いです」

社長「あのー別にボケたとは言ってないのですがねーーー」

社長(ESО審議官)「うーーん、乗り移るタイミングを考えないとまずいかな」

顔が強面になり、声のトーンが変わる。

アリサ「もー、急に変わらないでくださいよ。こっちの気持ちの切り替えもーー」

社長(ESО審議官)「ちょっと記憶操作する必要あるかな?」

アリサ「止めてください、社長さんはいい人なんですよー」

社長(ESО審議官)「うむ、この件はおいおい考えるとして、今日はちょっと困ったことがあってな」

アリサ「はい、何でしょう」

社長(ESО審議官)「地球の宗教法人のY教は知っているか?」

アリサ「あのイケメンのおじいちゃんが教祖の宗教法人ですよね」

社長(ESО審議官)「そっちで覚えているのか(苦笑)」

アリサ「教祖の歳聞いた時、びっくりしましたもの七十歳ですよね。全然見えませんよ。めっちゃ若いですよね。白髪ですがイケメンで、見た目は五十台後半ぐらいですよねー」

社長(ESО審議官)「その宗教法人が宇宙人排斥運動を展開している」

アリサ「え、宇宙人って公には知らされていないはずですよね、それなのに何故そんな運動が盛り上がるのですか?」

社長(ESО審議官)「この教祖が霊的な直感の持ち主ってのは知ってるかい、その能力で予言がとても当たるという評判でここまで大きくなった訳だ」

社長(ESО審議官)「ここが最近、『宇宙人が将来災いをなす』という教祖のお告げで大々的に排斥キャンペーンを行っているのだ。それが引き金になって、マスコミ連中が宇宙人の特集を組んで、宇宙人が地球に来て悪事を働いているという、噂がたってきている」

アリサ「きゃー、それは大変ですねー、ESОの存在もバレちゃたんですか?」

社長(ESО審議官)「いやいや、そんな核心の部分まではバレてはいない。でもこの運動がこれ以上広がると、これまで我々がやってきたことが無になってしまう恐れがある」

社長「そこで我々は教祖が何故そのような事を言いだしたのかを探るため、彼の出生を調査した。すると興味深いことがわかったのだよ」

アリサ「それはなんですか?」

社長(ESО審議官)「彼の生家で採取されたDNA解析より、彼はF星人と地球人のハーフだったのだ」

アリサ「あーそれって、今日ON AIRした『宇宙版ロミオとジュリエット』の話と関係あるんじゃないですか!」

社長(ESО審議官)「そうなんだよ、村の娘はF星人の子供を身ごもっていたんだ。でもまだ早い段階だったので誰も気づいていなかったのだ」


(再現シーンが流れる)

社長(ESО審議官)「だから、彼女の妊娠が判っても、記憶を消されていたので、本人さえも覚えがなく、周りの人々も全く、相手が誰かわからなかった。そして誰かが、処女懐胎を言い始め、神が授けた子供だという評判が広まってしまったのだ」

社長(ESО審議官)「おまけに生まれた子は、さっきも言ったが、非常によく当たる霊的直感を持っていたので、ますます神の子という噂は大きくなっていった訳だ」

アリサ「それで現在の宗教法人に至るわけですね」

社長(ESО審議官)「そこでだ、アリサくん、君がこの教団に潜入して教祖に宇宙人とのハーフだと言うことを伝え、ESОの意義を説明して、運動を沈めるように説得して欲しいのだ。自分が宇宙人の血筋だとわかれば考えも変わると思う」

アリサ「はい、やってみます。でも教祖に会うのは至難の技だと聞いていますが」

社長(ESО審議官)「毎年彼の生まれた村でチャリティー パーティーが開催される。これには必ず教祖が参加する、それに潜入するのだ。今回はサポート役も1名用意してある」

アリサ「アイアイサー」


ヨーロッパの小国の村

ESОの出張事務所のロビー

アリサ「ここでサポートの人と落ち合うことになっていたんだけど」

子供「アリサママ、こんにちは」

と5歳ぐらいの子供がニコニコと手を振りながら近づいてきた。

アリサ「あの子がそうなのね、今回のミッションは親子って設定だったものね」

子供は近づくなり立っているアリサにハグをしてきた。

子供「ママ、どこに行ってたんだよ、寂しかったよー」

と、もう演技がスタートしているようだ。アリサも頭をなでながら、

アリサ「ごめんなさい、ちょっとお出かけしてたの」

すると子供は後ろに回した手で尻をなで始めた。

アリサ『ちょ、ちょっとこの子、何? 初めて会ったにしては馴れ馴れしいんじゃ』

でも演技をやめるわけにはいかないので、アリサは屈んで子供と同じ目線になって

アリサ「どうしちゃったの、ちょっとしか離れてないじゃないの、甘えん坊ね」

と軽く頭をポンポンとした。すると子供はアリサの後ろにまわり、座っているアリサの前に手を回して抱きついた。

子供「だって、ママ大好きだもん」

と甘えた声をだすが、回した手はいやらしい感じでアリサの胸を揉んでいる。

アリサ「このガキー、ちょっと何すんのよ!」

と限界になったマリアは大きな声で出しながら子供を引き離す。

子供「ママ、それはちょっとまずくないですか、設定、親子ですよ、親子」

ちょっと低い小声でアリサに語りかける。アリサも小声で

アリサ「そ、そうだけど・・・あなたもちょっとは遠慮しなさいよ」

子供「アイドルのあのアリサちゃんでしょ、こんな時じゃないとモミモミできないじゃないの」

アリサ「あんた、誰よ、なんかいやらしいわねー」

子供「僕、H星人 のハリー、よろしくねー」と可愛く返事をする。

アリサ「ん、H星人・・・・あー大人だけど外観は子供の変態星人ね~」

子供「変態はひどいなー、偏見ですよ。外見がかわいいから仕方がないですが」

とニコニコ笑っている。

ハリー「でも今回のミッションにはH星人が最適じゃないですかー、ね、理解して頂けますよね」

アリサ「まー、そうだけど」

と納得いかない様子だが、

アリサ「わ、わかったわ、でも今度やったら承知しないわよ」

ハリー「はいはい、わかったよーママ」

と言いながら胸にタッチする。

アリサ「こらーー」

とアリサが爆発してハリーがぶっ飛ばされてしまった。


チャリティー会場

親子に化けたアリサとハリーが手を繋いで会場に現れる。

アリサ「なんて地味なドレスかしら」

用意された衣装にちょっと不満気味なアリサ。

ハリー「母子家庭の母親が豪華なドレス着てたらおかしいでしょ」

アリサ「わかってるわよ、それくらい。でもアイドルの私がこんな地味なドレスなんて」

ハリー「はいはい、仕事なんだから。そのへんは割り切ってね」

アリサ「もちろんよ、だってプロですもの」

ハリー「りょーかい」

ちょっと呆れ気味の返事であった。


他にも招待された母子家族や父子家族、大人に引率された孤児達など大勢やってきている。

アナウンス「これからY教主催のチャリティーパーティーが始まります。対象の方は招待状を受付でご提示いただき、ご入場ください。なお安全確保のためセキュリティーチェックをしますので、予めご了解ください」

アリサ「さぁ入るわよ」

ハリー「おい、セキュリティーチェックだってよ、大丈夫かい」

アリサ「もちろんよ、ESОを舐めないでね。その前にその言葉遣いやめてね、そっちのほうがよっぽど怪しいわ」

ハリー「お前もな、ちゃんと母親らしく、してねーーママ」

と最後は子供口調になっていた。

レセプション会場の入り口に来たとき

セキュリティーチェック係員「あなた、どこかで見たことがある顔ねー」

まじまじと顔を見られるアリサ。

アリサ「えーどこにでもいる顔ですよ、ちょっと可愛いですが・・」

ハリー『あのなー、お前』

と心でつぶやく。

しかし、持っていたIDカードと同じだったので、無事通ることができた。

会場に入ると大きな丸テーブルが十卓ほど配置され、その上には食べ物や飲み物、お菓子が並べられていた。すでに多くの招待客が歓談していた。

司会が喋ってショーがスタートした。子供向けのゆるキャラによる人形劇や歌のおねえさんなどの出し物が交互に出されていった。しばらくして司会が、

司会「それではこれからY教 教祖のジョゼフ様からお言葉を頂きます」

会場の照明がいったん落とされ、複数の小さな丸いカラフルなスポットライトがくるくる回った。そしてスポットライトが中央で合わさると、そこに教祖の姿が現れた。割れんばかりの拍手、中には涙を流している者もいる。

教祖「今日はよく集まってくれた。皆さんは日頃から苦労をしながらも、明日を信じて一生懸命頑張っていると思っています。私も女手一つで育てられ、母親には苦労をかけました。 でも今皆さんが置かれている現状に絶望せず、前向きに物事を考えていけば、きっと道は開けます。そして我々も少しばかりですが、後押しして行こうと考えています。希望を失わず、自分を信じてください」

教祖が話し終えると、これまでで一番の拍手喝采の波で、特に大人たちが大声を出して泣きまくっていた。

司会「それでは、教祖様がひとりひとりにお声をかけられます。順番がくるまでご歓談ください」

教祖は付き人に付き添われてテーブルを回り始め、二言三言言葉をかけていった。付き人はそれぞれの家族のプロフィールが書かれたダブレットを操作しながら、教祖に教えていた。

アリサ達の番になった。教祖が彼女らのプロフィールを確認する。

教祖「あなたは若くして身ごもり、それから一人でお子さんを育てて来たのですね。私の母と境遇が似てますね」

アリサ「自分の責任ですから、この子にはできるだけやりたいことをやらせたといと思っています。今の生活は苦しいですが、この子と二人で楽しくやっております」

と子供の頭をなでながら子供と共に目をキラキラさせて元気に答えた。

教祖「なかなかバイタリティがありますね、お子さんも利発そうだ。そうだプレゼントをあげよう」

と付き人から箱を受け取るとハリーに渡そうとした。

ハリー「わーい、ありがとう」

とはしゃぎながら受け取ろうとしたところ、足が突っかかって手に持っていたオレンジジュースを思い切り教祖にぶちまけてしまった。

アリサ「あなた、何やってるの! 教祖様誠に申し訳ございません、慌てん坊で落ち着きがないもので」

と恐縮しまくる。シュンとなる子供。

教祖「なになに、子供はそのくらいがいいんのですよ、私も何度もかけられてますよ。慣れっこです。お子さんを叱らないでください」

と、非常に温和な表情で話しかけた。

付き人「教祖様、控室でお召し替えを」

と、一時的に教祖を控室へ連れて行った。目配せをするアリサとハリー。

教祖がいなくなった後、アリサ達もトイレに行くふりをして会場を離れた。

アリサ「計画どおりね、過去のパーティーの様子から、教祖の行動はある程度把握できたから」

ハリー「どう、うまいだろ、俺の演技。ちゃんと自然に見えただろ」

アリサ「はいはい、でも本番はこれからよ」

控室の前にきた。入り口に護衛が立っている。アリサが道を間違えてふりをして近づく。

アリサ「すいません、トイレってどこでしょう?この子がもう我慢できないって」

ハリーは股間を押さえて、わざとらしく動く。

ハリー「ママーもう、もれちゃうよー」

護衛「もーしょうがないな~、あそこを曲がって・・・」

と廊下の先を指差してアリサから視線が離れた。その瞬間アリサは護衛の首元に強力なチョップをお見舞した。倒れる護衛。アリサとハリーは扉を開けると、ばっと飛び込んだ。そこには着替え中の教祖と付き人が2名いた。

アリサ「頼むわよ」

と叫ぶと同時にハリーが口から催眠光線を出した。付き人2名に命中して眠ってしまう。

教祖「君たちは何だ! 本来の出席者じゃないな」

アリサ「手荒い真似をして申し訳ございません、どうしても教祖様と直接お話がしたくて」

教祖「何の用じゃ」

ちょっと怒った感じで。

アリサ「現在Y教でキャンペーンをしている『宇宙人排斥運動』の件です。何故宇宙人に対して辛く当たるのですか?」

教祖「儂が知らないと思っているか、世界中で宇宙人絡みの事件が数多く起こっていて、その度にもみ消しているではないか」

アリサ「宇宙人だって地球人と仲良くなりたいって思ってますよ」

教祖「何故そう思う」

アリサ「教祖にはお話しますが、我々は宇宙人です。まだおおっぴらに公にできる段階ではありませんが、地球人と有好な関係を築こうと日夜努力しております。我々はそういう組織に属しております」

アリサ「それに、ご実家を調べさせてもらった時、教祖様の持ち物がありまして、DNA鑑定をしたところ、F星人と地球人のハーフであると言うことが判明しました。教祖様も実は宇宙人だったのですよ」

教祖「私が宇宙人だから、宇宙人に対する攻撃は止めてということか」

アリサ「あ、はい」

教祖「そんな事か・・・ハハハ」

アリサ「えっ、もしかして知ってらっしゃったのですか、自分の出自を」

教祖「母が大事に持っていた指輪を最近調べたのじゃ、特殊なホログラムでF星の座標が示されていた。それとこれまでの他の宇宙人情報を儂の直感力で推理したところ、ある結論に達したのじゃ」

アリサ「その結論とは?」

教祖「地球にやってきた私の父は私の母を見初め、子供を作ったはいいが、最後は邪魔になって記憶をすべて消して自分の星に帰ったという訳じゃ。その後残された母はものすごい苦労をして儂を育てあげてくれたというのに」

教祖「そのような父つまり宇宙人こそ、自分勝手な恥知らずの者たちじゃ」

アリサ「教祖様のお父様への恨みは非常に大きいようですね、でも事実はそうだったのでしょうか」

教祖「お前が何を知っておる!」

アリサ「もちろん、私は存じておりません、でも本人たちは知っているはずです、ぜひ真実を」

と指をならすと他のESОの職員が車椅子を押しながら入ってくる。

教祖「あ、お母様」

アリサ「お母様は記憶を消されていました」

教祖「やっぱりそうではないか」

アリサ「でも、消したのはお父様ではなく、その側近の者達です。」

教祖の母「ジョセフや私はすべてを思い出したのじゃ、お前のお父様はとても私に優しく、そして愛してくれました。星からお迎えが来たときも、自分は残ると言ってくれた。でもお父様はその星の跡取りだったので、側近の者がどうしても連れて帰りたい一心でみんなの記憶を消してしまったのです。そう私までも何もかも忘れてしまった。それにお父様は嘆き悲しみ、私達が食うに困らないだけの蓄えを残して星に帰ってしまったのです」

教祖「何故そのことを今になって思い出したのですか?」

アリサ「逆フラッシュ・イレーサーをかけたのよ、簡単にいうと消された記憶を復活させる装置で」

教祖「でも、置き去りにされたという事実は変わらないじゃないですか」

自分の中で葛藤している様子。

アリサ「じゃぁ、この人にも話を聞いてみましょ」

すると部屋の真ん中が急に明るくなり、段々と光が収束され人の形になってきた。

そこには白髪で腰の曲がった老人が実物大ホログラムで現れた。

教祖の母「ジョージさん!」

教祖を振り返り、

教祖の母「あなたのお父様よ」

F星国王「ああ愛しいジュディーよ、儂はずっと君のことを思っていた。あの時、君が私のことをすべて忘れてしまったのでもうここにはいられないと思い星に帰ってしまったが、後で後悔の連続だった。君が儂にしてくれた事がどうしても心の中から離れなかったのだ」

教祖の母「ごめんなさい、私はずっとあなたのことを忘れていたわ。でもこのアリサさんのお陰で何もかも思い出したのよ。私の記憶はきっと大事にしまわれていたので、昨日の事のように溢れ出てくるわ」

お互いに再開を喜び、大粒の涙が止まらない。

教祖の母「これがあなたの息子のジョセフよ、あなたはあの時私が身ごもっていることを知らなかったから、びっくりしたでしょう」

F星国王「私の息子・・・どこか私に似ているな。 すまん、お母さんの事を置いて帰ってしまって。でも彼女を愛していたことは嘘ではない。本当に残って一緒に暮らそうと思ったのだ」

呆然とする教祖。

教祖「宇宙人を恨むあまり、私の直感も邪念が入ってしまい正しいことを導けなかったということか、とんでもない勘違いをしていた・・・・・」

F星国王「どうだろう、今からでも遅くない三人で暮らさないか、私の星で」

アリサ「幸い教祖様には配偶者も子供もおらずお母様もほとんどご親戚がいない状態なので、ちょっとあと処理をすれば辻褄が合わせそうなんです。今のESО協定では本当は駄目なことなんですが、この事情を地球側の代表に話をしたら特例として認めていただけることになりました、もちろんご本人達の意思が第一優先ですが」

教祖の母「私は行きたいです、最後をあなたと一緒に暮らしたいのです。ジョセフ、お前はどうだい?」

教祖「私は散々あなたのことを恨んで、すべての宇宙人を敵だと思ってしまった。だからせめてこの誤解だけは解いてから・・・、でも行ってもいいのですか、お・と・う・さ・ん」

F星国王「もちろんじゃ、これから3人仲良く暮らそう、儂はもう長くないが、これまでできなかった愛情をすべてお前たちに注ぐつもりじゃ」

車椅子の母親を真ん中にしてその傍らに国王と教祖が立ち、人共涙を流している。

アリサ「うーーん、よかった、よかった」

ともらい泣きをするアリサ。


アリサの芸能事務所

アリサ「今回はいい事したって感じですねー」

ニコニコ顔のアリサだった。

社長(ESО審議官)「アリサくん、ちょっと言いにくいことなんだがね」

アリサ「なんですかー」

社長(ESО審議官)「君が使った亜空間ホログラム通信なんだけど、あれって思いの外、すごくコストがかかったんだよねー」

と困ったふうに話す。

アリサ「へーそうなんですかー、でもあの後教祖様が『宇宙人が将来災いをなす』ってお告げを取り消したので、宇宙人排斥運動は急激にしぼんでいきましたよねー」

社長(ESО審議官)「うむ、あれは非常によかった。これで当分ESОに対する風当たりもなくなる。でもコストがかかったことは事実なんだよー(泣)」

アリサ「私はどうしようも出来ませんよー、キャハハ。それは審議官が考えることですよね、偉いんだから」

社長(ESО審議官)「あーあ、使っていいよなんて言わなきゃよかったな」

と頭を抱える審議官であった。

(エピソード 完)


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