パート1 「父の死の秘密」
ロシア チェリャビンスク州上空をパトロール中のESО(地球治安維持隊)パトロール隊UFО内は警報音で慌ただしくなっていた。
隊長「なんだ、あの火の玉は! 連絡受けてるか」
隊員A「いえ、受けてません」
漆黒のはるか上空から火球が地球に向けて猛スピードで落ちていく。
隊長「このままじゃチェリャビンスクの市街地に落下するぞ」
隊員A「隊長、あそこは人口十万人以上ですよ、大変な事になります!」
隊長「早く応援を要請しろ、こちらはできるだけのことをするぞ」
隊員A「はい、分かりました」
UFО内は最大級の緊迫感が訪れている。
隊長は数多くの機器のスイッチを的確に操作している。
隊長「スキャンしたら、あればどうも大型UFОだ、生体反応もない」
隊員A「完全に制御不能になっていますね、無人のロボット制御タイプと思われます」
隊長「そうか、無人なら思い切って落とせるな、よし、ウルトラハイドロソニック弾発射―!」
UFОからためらいもなくミサイルが発射されて落下している火球に命中する。
隊員A「隊長、駄目です。UFОが巨大すぎて効果がありません。分解されません。」
隊長「エネルギー弾が尽きるまで打ち尽くすぞ」
ミサイルの発射ボタンを連打する。
隊員A「駄目です、びくともしません。このままでは人口密集地に落ちます、あと3分です」
隊長「くそー、どうすれば・・・、せめて軌道だけでも変えられれば、直撃は免れることができる」
隊長「そうだ、このUFОの動力源はマイクロブラックホールだったな」
隊員A「た、隊長、もしかして・・・」
隊長「そうだ、そのもしかしてだ、こいつをぶつけるぞ。これならブラックホールの縮退効果であのUFОのエネルギーをだいぶ吸収できるはずだ」
隊員A「そうですが、それをぶつけるためには、直前にマニュアルでマイクロブラックホール炉の安全装置を解除しないと」
隊長「わかってるさ、お前は先に脱出しろ、俺も後で逃げる」
隊員A「私がやります、隊長はまだ小さなお子さんがいるじゃないですか。俺は独り身なので、悲しむ人もいません」
隊長「おい、死ぬ前提で話をするな、ちゃんと逃げるから、大丈夫さ、先に行け!」
と笑いながら、パトロール隊員Aの座席の非常脱出ボタンを押す。
隊員A「隊長―――」
隊員Aを乗せた脱出カプセルが空中に放出され、それがだんだんと小さくなる。
隊長「さぁ、行くぞ!父さんはちゃんと帰るからな、アリサ」
隊長はUFОを操縦して火球のすぐ近くまできた。
隊長「マイクロブラックホール炉、安全装置解除!」
パトロール隊UFОのエンジンが暴走を始める。
隊長「よし、これでよしと。さて脱出するぞ」
と、自分の座席の脱出ボタンを押す・・・・が反応しない。
隊長「しまった、エンジンのエネルギーが逆流して脱出装置がおかしくなっている」
もう火球は目の前に迫ってきている。
隊長「ああーーーーー」
パトロール隊UFОは隊長を乗せたまま、激しく火球にぶつかっていった。轟音とともに爆発する火球、その反動でパトロールUFОのマイクロブラックホールは飛び出していった。狙い通りにマイクロブラックホールと火球が反応しエネルギーが相殺して、火球はだいぶ小さくなった。しかし完全には相殺されず、いくらかの破片は地上に落ちていった。ESОパトロール隊隊長はそのUFОと運命を共にしたのだった。でもそのおかげで人口密集地にUFОが墜落する最悪の事態は避けられたのである。
TVスタジオ
これから番組が始まる。ADが指でカウントを始める。
AD「本番行きますー、はい5、4、3、(2)、(1)、(キュー)」
(2)と(1)のカウントは指だけの身振り、(キュー)は指で“Q”の文字(宇宙人のADなので指自体が文字の形)になっていた。
TVモニタに番組タイトルが大きく現れる
『エイリアン チャンネル Q』
そしてオープニングが流れる。
次にTVカメラはビーナス星人MCのアリサにズームする。
アリサ「はぁーい、日曜の夜いかがお過ごしですかー、宇宙のアイドル アリサがみんなにいい事教えちゃいまーーす」
モニカ「アリサちゃん、今日も飛ばしてますねー(苦笑)」
モニカはこの番組のアシスタントの女の子である。アリサが結構のりが軽いので脱線しないように進行してくれている。
アリサ「はーい、元気だけが取り柄です、えへっ」
アリサ「それじゃ、さっそく今日のコメンテーターを紹介しちゃいます!」
アリサ「宇宙ジャーナルのX星人ゼフィロさん」
カメラが紹介された方を向く。軽く会釈をするゼフィロ。
アリサ「宇宙評論家のY星人ジェーンさん」
カメラが紹介された方を向く。同じく軽く会釈をするジェーン。
アリサ「宇宙紛争専門の弁護士Z星人ドーロンさん」
カメラが紹介された方を向く。同じく軽く会釈をするドーロン。
アリサ「お三方、本日もよろしくお願い致しまーーす」
アリサ「早速今日のテーマですが、じゃじゃん『ロシア上空巨大火球 爆発の真実』です、もうこの番組では恒例になってますがエイリアン(宇宙人)と地球人が不幸にも接触したケースを取り上げて、皆さんにはそんなことがないように気をつけてもらうってコーナーです」
とタイトルがモニターに出る。
アリサ「ドーロンさん、我々エイリアンはまだ地球人とはおおっぴらには会っちゃいけないんですよねー?」
ドーロン「そうなんですよ、大昔はまだ地球人がそれほど知的ではなかったので、エイリアンもどんどん来て勝手に調査してたんですが、今ではある程度の文明と知性を持ち始めきているので、迂闊に我々エイリアンと遭遇してしまうと、大きな問題になってきちゃうんですよね」
アリサ「それで例の協定ができたんですよね?」
ドーロン「はい、地球に飛来してきているエイリアンの代表と地球の代表が極秘に話し合い、地球人が我々エイリアンを素直に受け入れる土壌、つまり文明の成熟というのですかね、ができるまでは直接コンタクトしてはいけないという協定をつくったんですねー、それが俗に言う『接禁法(直接接触禁止協定)』です。でも昔から地球に住み着いている宇宙人は対象外になってますが、自分がエイリアンとカミングアウトすることは禁止されています」
アリサ「ジェーンさん、これってちゃんと守られてるんですかー?」
ジェーン「あ、こんばんは、ジェーンです。もちろん守られてますよ、抜け駆けするとすぐわかる仕掛けがありますので。悪質な違反をした場合は太陽系内に入れないようにされちゃいます。皆さんよく知っているサングラスを掛けた黒尽くめの方たちが活躍してますよね(笑)」
アリサ「でもエイリアンの訪問はありますよね、その場合どうなるんですか?」
ジェーン「ESОが事前に連絡を受け、衛星軌道上の適切な一時滞在基地コスモベースに案内してます、このスタジオもそのコスモベースの一つにありますしね」
アリサ「この番組もその各地のコスモベースに滞在している皆さんに対してやってますものね」
ジェーン「でも不慮の事故は、かなりの頻度で起きてますよ」
アリサ「そうなんですよね、この番組はこの『不慮の事故』を減らすための手助けになればということで放送してるんです!」
かわいこぶりっこの格好で喋る。
ゼフィロ「地球上でこれまでUFО目撃など結構騒がれてますからねー」
アリサ「あーゼフィロさん、今振ろうと思ってたのにー、アリサがお願いしてからですよ、プンプン」
段取りどおりやらないと急に怒り出すアリサ。
ゼフィロ「あ、はいはい(汗)、あのー続けちゃっていいですか・・・」
アリサ「いいよー」
表情が急変してニコニコになる。
ゼフィロ「地球も五百年ぐらい前までなら、科学知識も少なかったので神秘的現象、化物、自然現象、精神錯乱などで誤魔化せたんですが、今はそれじゃなかなか厳しくなってますね、特にひどかったここ二百年の間はいろいろな事故が起きてますよ」
アリサ「そうですねー、この番組では昔起こった事故もどんどん取り上げていきたいと思いまっす!」
モニカ「アリサちゃん、じゃーそろそろ本題に入りましょうか」
アリサ「ОKー任せといて」
いつも脱線しそうになって、モニカにそれとなく修正されている。
アリサ「今日は二十年前にロシア上空で起きた事件です、アシスタントのモニカさん、概要説明よろしく!です」
ADが再現ビデオスタートのキューをだす。
モニタにモニカの説明に合わせて当時の再現映像アニメーションが出てくる。
モニカ「はい、事故の概略ですが、ロシア上空で巨大な火球が現れ、湖に落ちた現象です、その時ものすごい衝撃波で窓ガラスや建物が壊れた映像を覚えていらっしゃる方もいると思います」
アリサ「あれはすごかったですよね」
モニカ「実はあれは自然現象ではなく巨大UFО同士の衝突事故のなれの果てだったんです」
アリサ「えーーー、そうなんですか」
盛り上げるためにと大げさに驚く。
アリサ「でも落ちた湖から隕石の欠片が発見されたと報道されてましたけど・・」
モニカ「それはいつもの事後処理ってやつですね」
アリサ「あー、いつものやつですね」
苦笑する。
モニカ「はい、続けます。原因は月軌道近くで別々の星域からやって来た2台のUFОがほぼ同時にワープアウトした事です。両方共貨物船でしたが、一方は有人、これをUFО-A。一方はロボット制御の無人でした。これをUFО-Bとしますね。その2台が避ける間もなく接触して、無人UFО-Bは制御不能になってしまいました。」
アリサ「ジェーンさん、ワープアウト時の事故ってことですが、しょっちゅう起きてるんですか?」
ジェーン「これは広い宇宙でも滅多にない珍しいことなんですよ、出現座標が同じでしかも同時刻、天文学的確率です。それが不幸にも起こってしまったのです」
アリサ「現在地球の近くでのワープアウトは禁止されてますよね、ドーロンさん」
ドーロン「はい、そうですね。でも当時は今ほど運用が厳しくなく、何か特別な事情があれば、許されてましたね。まさか、それがこの事故につながるなんて誰も考えてないですよ」
アリサ「それからどうなったんですか?」
モニカ「制御を失ったUFО-Bは地球に落ちていき、火球となってロシア上空に現れました」
ゼフィロ「でも大した被害がなかったから、不幸中の幸いでしたよね」
アリサ「被害がなかったですって」
突然大きな声になるアリサ。
ゼフィロ「あ、すいません。まだ振られる前に喋っちゃいました?」
びっくりしてあわてて謝る。
アリサ「あはは、ごめんなさい、ちょっと興奮して」
申し訳なさそうに。
モニカ「まあ、結果的に地球人に人的被害はなかった訳ですが、衝撃波で建物は相当壊れましたね」
モニカ「それと、後になってから重大なことがわかったのですよ」
アリサ「それはなんですか?」
モニカ「それはUFО-Aは衝突した際にESОに連絡をしてなかったと言うことです」
アリサ「ESО・・地球治安維持隊ですね、宇宙から地球へくる宇宙人の監視を行う組織ですね」
モニカ「はい、それにはパトロール隊もあって、現在も地球に隕石等が飛んで来たときに砕いて大事にいたらないようにレスキューしてるんですね」
アリサ「宇宙人の監視だけじゃないんですね、ジェーンさん」
ジェーン「そうですね、ESОは地球の代表者と安全保障に関しても協定を結んでいて、来るべき情報公開に備えているわけです。地球を守る事は自分たちの利益にもなりますしね」
アリサ「話を戻しましょう、連絡をしないとどうなるんですか?」
モニカ「そうすると当然初動対応が遅れますよね。今回はたまたまそれほどの被害じゃなかったですが、一歩間違えば、ひとつの都市が壊滅する危機だったと言えましょう」
アリサ「そうすると今回はESОパトロール隊の出動はなかったということですね」
モニカ「事後にカムフラージュ処理をした記録はありますが、それ以外はないですね」
アリサ「そうですか、そうですよね・・」
ちょっとがっかりしたふうであった。
アリサ「当然、報告しなかったUFО-Aにはペナルティはあったんですよね」
モニカ「実はなかったんですよ」
アリサ「え、どうしてですか、ドーロンさん、どうしてだかわかります?」
ドーロン「確かに、事故後このUFО-Aの乗組員は非難されましたね。当て逃げでしたからね。でも冒頭でも話していたように非常に稀な出来事なので、誰も予想できなかったということで、刑事上のそれ以上の追求はなかったですね。地球には大きな被害がなかったと言うこともありますかねー」
ゼフィロ「噂ですけど、莫大な補償金が払われ被害者が示談に応じたらしいですね」
ドーロン「でもその後、冥王星の公転軌道以内でのワープアウト行為は厳しい制限がかかりましたけどね」
モニカ「事後談ですが・・」
モニカ「UFО-Bはもともと月に荷物を下ろすので、前々から申請をしていたらしいんのですが、UFО-Aは取引に遅れるってことである顧客の強い意向で突然予定ワープアウトポイントを変えたらしいですね」
それを聞いてアリサの体が小刻みに震えていた。
モニカ「アリサさん、じゃまとめをお願いします、今回の教訓!」
しかし、次の瞬間キリッとなって、
アリサ「今回のように事故を報告しないと、それ以上の大きな事故につながる危険もありますので、必ずESОに連絡してくださいね」
アリサ「はい、今回の教訓!」
にこやかな顔に戻って。
アリサ「急がば回れ、ワープアウト! 地球に近づいたら、お仕置きよ」
とお決まりのポースをとる。するとエンディング映像とBGMが流れ出した。
アリサ「はい。今日もお時間となりました。お付き合い頂きありがとうございましたー」
と可愛く手を降ってお別れの挨拶をする。
そしてADが終わりのキューを出す。カメラが引いてスタジオ全体を写す。出演者が手を振る。
AD「はい、お疲れ様でしたー」
メインモニターが消され、出演者たちが立ち上がって挨拶をして出ていく。
するとコメンテーターのゼフィロがアリサに近づいてきた。
ゼフィロ「ごめんねアリサちゃん、振られないのに喋り始めて。お詫びにご飯食べに行こうよ」
とお詫びにかこつけたナンパをしてきた。
アリサ「うん、問題ないですよ。面白くしているだけですから 全然ОK―」
とけらけら笑いながら対応する。
アリサ「でもごめんなさい、事務所からすぐ帰って来いってメールが来てるのー、ご飯はこの次ね~」
とさらっと誘いを断る。
ゼフィロ「残念だなー、じゃ今度絶対だからね」
と指でアリサに念押ししながら後ろ向きで名残惜しそうに去っていく。
一人きりになるとアリサは急に真面目な顔になって、転送ブースに向かった。
日本の渋谷にある芸能事務所
その女子トイレのある個室にアリサは転送された。
アリサ「なんで転送先がトイレなのかしら、もうちょっと違うところにしてくれないかなー。他の人が用を足している時に転送されたらどうするよ、全くー」
と、ぶつぶつ独り言を言いながらトイレを出てくる。廊下に出ると従業員や他のタレントとすれ違がうと急にニコニコになって会釈をする。社長室と書かれたドアをノックする。
アリサ「入りまーす、おはようございまーす」
事務所社長「おーアリサちゃん、いつも可愛いねー。ところで何の用事?」
と、話しかけた時に急に社長の体がフリーズした。次の瞬間温和でにこやかだった社長の顔が急に険しくなり、声のトーンも低くなった。
社長(ESО審議官)「アリサくん、今日のTV内容はちょっと辛かったな」
アリサ「大丈夫ですよ、もう二十年経ちましたから」
アリサ「でも審議官のその急激な変化はやめてくれませんか、こっちも緊張しちゃいますよー」
社長(ESО審議官)「そんな言われても、この体の持ち主と私の性格は違うのだから、合わせられないぞ」
アリサ「似た人探せばよかったにー、私は元の社長さんの性格好きだなー」
社長(ESО審議官)「コホン、それは、置いといて。本題に入るぞ」
アリサ「はーい」
社長(ESО審議官)「昨日、冥王星近辺でワープアウトしたある大型UFОの検問を行った。するとどうも宇宙麻薬らしい反応が出た、のだが・・・・」
アリサ「ええっ!」
社長(ESО審議官)「でも、巧妙にカムフラージュされているので、100%確実な証拠がはない。よって泳がせて地球での取引での確証を掴んでから、逮捕することになった」
アリサ「そこに私が潜入するのですね」
社長(ESО審議官)「そうだ、それにこれは君に因縁がありそうだ」
アリサ「なんですか?」
社長(ESО審議官)「その船が二十年前、例の事故を起こしたUFОなんだ」
アリサ「戻ってきたんすねー、父が死ぬ原因を作った船が・・・」
社長(ESО審議官)「お父さんは本当によくやってくれた。彼の英断がなければ今頃宇宙人と地球人はこんなに友好な関係は築けていなかったかもしれない」
アリサ「何故父の死は隠されたのですか?未だに公開されていないし・・・」
社長(ESО審議官)「その当時はまだESО自体に懐疑的な地球人上層部も非常に多かった。おおっぴらに地球の周りを勝手にパトロールしていることも知らされてなかった。これから地球と友好協定を結ぼうという時にこの事故は非常にまずいものだったのだよ」
アリサ「それで隠蔽を」
社長(ESО審議官)「UFО同士の衝突で地球を危険に晒した事自体もまずいので、あくまでも隕石が落ちたということにしたのだ」
アリサ「そうだったんですね」
社長(ESО審議官)「本来なら英雄の君のお父さんの事が、表に出ない事には我々も遺憾に感じてはいる」
アリサ「そう思っていただける方がいるというだけでも父は幸せと思います」
社長(ESО審議官)「そうか・・じゃ早速潜入してもらうかな」
アリサ「で、どこへ?」
社長(ESО審議官)「マジシャンKのところだ、荷物の宛先が彼の会社になっている」
アリサ「あの有名なマジシャンのですか?」
社長(ESО審議官)「そうだ、実は彼はM星の宇宙人だ、彼の祖先の頃から地球に住み着いている。彼のマジックは知っているかね?」
アリサ「はい、瞬間移動とか、物体移動ですよね。空中でいきなりいなくなったと思ったら、客席の後ろから出てきたりとか。甘いマスクと派手な演出で女性客も多いですよね」
社長(ESО審議官)「そのマジックは元々M星人が持っているサイコキネシス能力なんだ。祖先はピラミッド建設などで力を発揮していたらしいが、いまではおおっぴらには使えない能力だ」
アリサ「そうなんですねー、マジックのテクニックじゃないんですね、がっかりー」
社長(ESО審議官)「そうさ、M星人なら子供でもできる、距離は十メートル程だけどな。ははは」
社長(ESО審議官)「お前には今度開催されるショーのダンサー兼アシスタントで潜入してもらう、もう手配済みだ、他の部下たちにはKの息のかかった他の場所を当たらせる」
アリサ「はやーい、いつも手際いいですね(苦笑)」
社長(ESО審議官)「君はエイリアンチャンネルQで顔が知れているから、変装は念入りな」
アリサ「アイアイサー!」
社長(ESО審議官)「最後に、これは言おうか迷ったのだけど・・・・」
アリサ「なんですか??」
社長(ESО審議官)「このKは二十年前あの船が地球にやって来た時にワープポイントを無理に変えさせた張本人だ」
アリサ「なんですって!」
社長(ESО審議官)「だからと言って、いらぬ感情や先入観で物事を見てはいけないぞ、ここで話したのは初めて知って動揺しないようにだ」
アリサ「大丈夫ですよ、こう見えても私、プロの調査官ですから」
社長(ESО審議官)「そう言うと思ってたよ、頼むぞ」
マジシャンKのショー会場(アメリカ ニューヨークのスタジアム)
マジシャンKがショーをやっている後ろで他のダンサーと踊っているアリサ。
アリサ『今日のショーが終わる頃に宇宙船の荷物がここに運ばれてくるかもしれない、Kから目を離さないようにしてなきゃ』
と心の中でつぶやく
次の演目、メインの瞬間移動ものだ。まずアシスタントダンサーが3名が檻の中に入れられた。アリサもその中に入っている。そして檻に幕をかぶせ、マジシャンKが掌を広げくるくるまわし呪文のようなものを唱え始める。中にいるアリサ達には事前に『起こることはマジックだから心配しなくていい。移動したら、そこで指示を出す者の言うとおりにしろ』と言われており、細かい事は聞かされていなかった。
マジシャンK「はい、3,2,1」
の声と同時に檻の床が開いた感じがして下に落ちていく、しかし次の瞬間には観客席後方の控室にいた。飛ばされた他のダンサー達が、
ダンサーA「えー凄い、もうこんなところにいる、何が起こったのか一瞬すぎてわかなかったねー」
と驚いている。
アリサ『確かにマジックで飛ばされたと言われればそう思うような演出だわ』
と心でつぶやく。
弟子A「はい、みなさーん、私が合図したら観客に愛想を振りまきながらステージに戻ってくださいな」
ちょっとして弟子から合図が出て、言われたとおりににこやかにステージに戻った。観客からは割れんばかりの拍手喝采だった。
そして最後の大トリはマジシャンKが空中浮揚して、忽然と消え、観客として座席から出てくるというもの。アリサはタネを知っているからそれほどでもなかったが、観客はこのステージ一番の拍手と歓声、スタンディングオベーションをマジシャンKに対して与えた。
ステージに戻ったK、観客に向かって、
マジシャンK「皆さん、今日はありがとう! 皆さんの熱気で感激でしたー、でもまだ終わらないよー最後にとっておきをやっちゃいますので。それではミージックスタート!」
アップテンポな音楽が大音響で鳴り出し、会場はますますヒートアップした。すると突然スタジアムの上空二百mぐらいにスタジアムより少し小さいぐらい大きさのホットケーキ状のバルーンが現れた。白いボディーにプロジェクションマッピングでポップな映像が映し出されている。突然アリサのペンダントがブルブル震えだした(胸の中で震える感じ)。アリサは慌てて舞台の裏へ駆け込んだ。
アリサ「あーん、何、急に!そうか宇宙船の例の荷物に発信装置をつけてるって言ってたわね」
取り出して、表面を触るとディスプレイに変化し、表示された矢印が上空のバルーンを指している。
アリサ「そっか、これはバルーンに偽装した小型UFОね、麻薬を積み替えてここに運んで来たのね」
アリサ「うーん、どうしよう。ここままだとKが乗り込んで飛び去ってしまう」
ESО審議官(イヤリングから音声のみ)『アリサ、信号はこちらでも確認した、すぐパトロールUFОを出すが、間に合わないかもしれない、UFОに乗り込んで現物を特定して逮捕するんだ」
アリサ「どうすれば・・・二百m上空に浮かんでるんですよ」
ESО審議官(音声のみ)『お前の靴とブレスレットに反重力飛行装置を組み込んである。それで飛び乗れ』
アリサ「えー、早く言ってくださいよー。わ、わかりました。やってみます、いややります!」
そう言うが早いがステージ衣装を脱ぎ捨て外に飛び出し、反重力飛行装置のロックを解除して一気に空へ飛び出した。ステージではマジシャンKがMCをしていた。
マジシャンK「本日、本当に最後のマジックは、私が上空のバルーンにここから登っていきます。もちろん、ロープなんかありませんよ。“これを見たあなたは今夜歴史の証言者になる!”」
と決め言葉を出ながらステージの真ん中に立つと空を仰いで、両手を高く上げる。マジシャンKの体が少しずつ空中に浮いていく。それを見た観客はさっきよりもヒートアップしていく。これは瞬間移動能力で非常に短い距離で連続してゆっくり上がっていくように見せているのである。
先に上空のバルーン(UFО)にたどり着いたアリサ。登ってくるKの為にハッチは開いていた。そこから中に入ると操縦室で数人が談笑している。物陰でその様子を伺う。
乗組員A「もうすぐボスが乗り込んでくる、そしたらすぐ出発だ」
乗組員B「そしたらお得意さんところへ早速持っていく手はずになっている。今回は大量に仕入れたから大儲けできるぞ、前回は賠償金で儲けがほとんどとんでしまったからな」
乗組員A「そうだな、二十年前は焦ったぜ、ワープアウト直後の事故。そりゃ、逃げるしかないだろ、こっちは宇宙麻薬を積んでるんだから、ははは」
これを聞いて怒りがこみ上げるアリサ。
麻薬が入っているケースを開けて中を確認する乗組員B。
乗組員B「今回のは最上級品だからめったに手に入らない逸品だ。一塊でいいから自分も使ってみたいなー」
と中身を持ち上げしげしげと見てクンクンと鼻で嗅ぐ仕草をする。
乗組員A「おい、ボスにバレると殺されるぞ。早くしまえ」
乗組員B「いいじゃないか、見るぐらい。俺もボスの怖さは知ってるからな」
と、渋々麻薬をケースに戻す。アリサはその光景をしっかり目に焼き付けた。
アリサ『現物確認、やっぱりそうだ。それに二十年前も麻薬を持ち込んでいたんだ、だからESОに連絡しないで逃げたのね、それで父さんは・・・・許さないわ!』
アリサは反重力装置のゲージをちょっと上げると、二人の前に出ていった。
乗組員A「なんだ、お前は!どこから来た」
アリサ「もう証拠は上がっている、麻薬密輸の現行犯で逮捕します」
反重力装置の反発力を推進力に使って強力なチョップとキックを御見舞する。抵抗する乗組員たち。しかし、怒りも加わったアリサの敵ではなかった。あっという間にのされてしまった。落ちていた麻薬が入ったケースを取り上げるアリサ。すると背後で、
マジシャンK「お嬢さん、ケースから手を離してくれませんかね」
アリサが振り向くとそこにはマジシャンKが電子銃を持って立っていた。
アリサ「う、しまった。もう着いていたのか」
マジシャンK「こんなことをするのはESОの方ですね、検問されたときから用心して、母船から小型UFОに載せ替えたのによく突き止めましたね」
アリサ「お前はマジシャンを隠れ蓑に裏ではこんな事やっていたのね。お前のせいでどれだけの人が不幸になっていると思うの!」
マジシャンK「何言ってるのかわからないね、そもそもESОなんかが、自由貿易を制限すること自体、ナンセンスと思っているからね。もっとお互いの利益のために自由にすることが自然じゃないかい」
アリサ「お前みたいな、自分の事しか考えない奴がいるから。ちゃんと地球人と対等に付き合って行く仕組みが大切なのよ」
マジシャンKをきっとにらみつけるアリサ。
アリサ「これまで多くの知的生命体が滅んでいった悲しい過去の反省のもとにこの協定は作られているのよ、あなたにはわからないでしょうね」
マジシャンK「それはそれは高尚な事で。でもモノには本音と建前ってのがありましてね、誰しも自分の利益が一番欲しいのさ」
アリサ「黙れ!」
と叫ぶと反重力装置の目盛りをさっきより少し上げ、コマのように回転しながらマジシャンKに向かっている。Kも銃で応戦するが、アリサの動きが早く不定のためなかなか命中しない。
マジシャンK「くそ、これをくらえ!」
と物体移動の能力で床に散らばっている大量の物々をアリサ目掛けてぶちまけた。
アリサ「キャー」
と言って回転が止まり、床に伏せった。
マジシャンK「ははは、俺の能力でこのままお前を瞬間移動させて船の外に追い出してやる」
とまた集中し始めた。アリサはペンダントを引きちぎると渾身の力を込めてKに投げつけた。
反重力装置の力で何倍もの速度に加速されたペンダントはKの脇腹をえぐった。
マジシャンK「ギャー、何をする」
とよろめく。
その反動で体勢が変わりアリサを飛ばそうとしていた力が自分に向かい、消えてしまったK。
アリサ「あー、Kが・・やばい逃げられちゃう」
残念そうな顔になるアリサ。するとESО審議官の声が聴こえる。
ESО監視官(音声のみ)「アリサ、外を見てみろ」
UFОの窓から外を見ると、パトロールUFОが到着していて、蜘蛛の巣のようなものに引っかかっているKの姿があった。
アリサ「え?」
ESО監視官(音声のみ)「UFОの周りに瞬間移動を無効にさせる重力波ネットを張って置いたんだ。彼の能力に出し抜かれないようにね」
アリサ「はやーい、いつも手際いいですね(笑)」
ESО監視官(音声のみ)「うむ、伊達に長いことこの仕事はやってないからな」
この後マジシャンKの持っていた顧客リストより顧客が芋づる式に逮捕された。
渋谷の芸能事務所
社長(ESО審議官)「アリサくん、お父さんがしたことは明らかには出来ないが、今回の件でその原因をつくった連中を逮捕することができた。少しは供養になったと思うのだが」
アリサ「はい、そうですね、父も浮かばれると思います」
アリサ「父をいつまでも誇りに思い、これからも頑張ります」
社長(ESО審議官)「うん、これからもエイリアンチャンネルとESО調査官との二足のわらじで頑張ってくれ(微笑む)」
アリサ「あのーモデルもやってるんですけどーー、忘れちゃ困ります!(怒る)」
社長「あのー、アリサちゃん、何怒ってんのかなぁー。僕なんか変な事言っちゃった?」
アリサ『あ、もういなくなっちゃった、人の言うことは聞かないんだから』
アリサ「あーしゃちょー、なんでもないです。独り言です、怒ってなんてないですよーー」
と、慌てて否定する。
社長「あーそれなら、よかったー。アリサちゃんに嫌われると困っちゃうから」
アリサ「はい、これからもお仕事頑張りまーーーす」
いつもの軽いアイドルモードになって返事をするアリサだった。
(エピソード完)