りいはる
仮題『なにこれ』
雨宮春那のことが好き、ということが一体どういうことを意味するのか、私にはそれがわかっている。
危険人物――なんて言うと失礼かもしれないけど、実際そうだ。幼馴染でずっと一緒だったけど、最近じゃさっぱりクラスで喋らなくなったし。
けどそれでも、気持ちには嘘を吐けないし、私は嘘がヘタクソで隠し事も得意じゃなくて。
「璃伊奈って雨宮のこと好きなの?」
「えっ! 別に好きじゃないよ! 全然! むしろ嫌いだし!」
「……相変わらずわかりやすい」
「いやもーほんと! 嫌い嫌い!」
嫌い嫌い、と言ってみたけど、じいーっと見つめられると抵抗する気力を失ってしまう。
「……ちなみになんでそう思ったの?」
「しょっちゅう目で追ってるし、クラスであの子が喋っていると聞き耳立ててるし、男子がふざけて告白っぽいこと言ってる時の顔ヤバいし」
「ヤバくはないよ、ヤバくはないよね……?」
「ヤバいよ」
真顔でヤバいと言われてしまうと、そんなにヤバいのかと危機感すら覚える。見る人が見ればバレバレかもしれないのに、ようやく指摘されたのはやっぱり雨宮春那を好きということが非現実的にすら思えるからなんだろう。
けれど。
「早く告白した方がいいんじゃない? 一部男子に凄い人気でしょ」
「え、そ、そうかな」
「距離感近いし、あわよくばを狙っているやつ多いでしょ」
「それは、そうだと思うけど」
「先にとられるくらいなら……まあオススメはしないけど。見た目だけじゃない?」
「そんなことないよ。昔からかっこいいところあるし、剣道の試合に出た時なんて……ハッ! ハメられた!?」
「勝手にハマっておいて私に当たらないで」
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告白は早い方が良い。しかし時と場所を選ぶ必要がある。そしてなるべく人に見られないところで二人きりの時に喋る必要がある。
「は、ハル、ちょっといい?」
「え。……なんか久々。なんさね?」
「土曜とか、家に行ってもいい?」
「家? わっちの? えなんでぇ? エロ本とかいっぱいあるよ」
「それは、隠しておいて。ボクそういうの見ないから」
「じゃあなんでうちに……うちそういうのしかないよ。エロあるよ」
「エロはいらないから。家に行きたいだけだから」
「ヤリ目みたいなこと言うじゃん。私とヤリたいの?」
「ヤッ……ヤラないから!!」
「声デカいよ。いや別に、家に来るのは良いけど用件を聞かせて?」
口を開けばふざけてる、クソオタクの黙っていれば系残念美人。
春那を呼ぶ悪口は沢山あるけど、こんなだから男子と話が合って、オタクの女子ともよく喋っている。行動力もあるから気付けばクラスの中心で舵を取っていたりすることもある。
彼女を目的にすることは少ないけど、気付けば彼女を経由して何かをするような、よくわからない人。
別にそういうミステリアスさに惹かれたわけじゃないけれど、凄い人だなと思う。
家に来る用件は、何も思いつかない。隠し事が苦手だから。
「話したいことがあって……」
「ここじゃダメなんね。じゃあはい、ちゃんと親にも家にいるように言うよ」
「なんで?」
「ご両親に挨拶するんじゃないの?」
「ばっ! そんなわけないけどじゃん!?」
「冗談だって。声デカいよ。ないけどじゃんて」
既に、この妙に敏い春那に見抜かれているのか、見抜かれていないのか。わからなくて。
「恋愛相談とかだったら任せて。選択肢の出てくるゲームだったらほんと百発百中だから。最近は中出しか外出しの選択肢ばっかり選んでるけどね。あははっ!」
「う、うるさ~……」
春那は、そういう人だった。
――――――――――――――――――――――――――――
幼稚園の頃、春那の一人称は拙者だった。
時代劇が好きで、儂って言ったり拙者だったり。
男勝りで、男子にも喧嘩に勝って、剣道を習ってからはますます強かったのに飽きてやめて、いろんなアニメやゲームの趣味を持って、今みたいな人になっている。
思えば、破天荒、あるいは型破り。幼稚園の頃から成長していないとも言えるし、常識に囚われない自由人とも思える。
私はボクって言って、春那が浮かないようにしたこともあったけど、ずっとボクって言っているけど、十年以上言い続けているけど。
私、って言うことに何の抵抗も違和感もない。
ボク、って言う方が引っかかりを覚える。たぶん、そういうところはみんなに見抜かれているんだろうけど。
チャイムを鳴らして、玄関から部屋着の春那が出てきた。
「あっ本当に来たんだ。いらっしゃいな」
「お邪魔しま~す……ちなみに、おじさんとおばさんは?」
「両親あるあるを石崎ひゅーいのワスレガタキに合わせて歌うよ」
「おじさんとおばさんは?」
「歌を……」
「出かけてるの?」
「土日出かけがち」
「なんで最初からそう言わないの?」
「ここで圧をかけないとワスレガタキを歌われてしまいます。だから圧をかける必要があったんですね。RTAでは必須のテクニックです」
「もうちょっとわかるように話してくれない?」
「はいさ」
言いながら、春那は玄関に背を向けたまま動かない。
「……どうしたの?」
「部屋全然片付いてないけど良い?」
「……うーん、まあ」
「話すだけならここでもできるし」
「そんなに?」
「りーそういうの嫌いじゃん」
「……上がってほしくないなら、一応ここでもいいけど」
「じゃ、中見て判断してもらおうかな」
あー。という気のない溜息を吐いてやっと春那は玄関の扉を開けてくれた。
春那は美人だ。
いつ見てもサラサラに伸びた髪とメガネの似合う白い肌の文学少女って感じで、私とは正反対……性格的な意味じゃなくて、だけどそういうところもある。
こんな感じだけど、春那は頭がいいし、成績もトップクラスだから同じ高校に通うために私は凄く苦労した。髪は跳ねっ毛だから短くしたし、陸上もガサツだからいまいち成績が伸びてない。なのに、内面はこんな風に色々考えこんだりする。
春那は、そんな私とは正反対だ。ガサツな性格だけど、本当は凄く丁寧で、精細に色々なことができる。器用で、あんな風にしているのにクラスの立ち位置も保っている。
憧れるには離れすぎているけれど、ただ気持ちだけは幼稚園の頃から、きっと好きだったから、変わってないだけだ。
幻滅でもできたら、きっとそれはそれでいいんだろうけれど、それはずっとあった何かを失うことと同じだと思う。
「じゃ、開けますよぉ?」
「宣言しないとダメなの」
「じゃかじゃん! てっ! てーてーれー!」
鑑定団だ。と思って入った部屋は、思いのほか綺麗だった。
「あれ……思っていたより」
「ゴミ屋敷じゃないんで部屋は綺麗よ。ただこの壁一面の本棚はよく見ちゃだめよ。まだ未成年なんだから」
「ハルもそうじゃん」
「高校生がエロゲ持ってて何が悪いって名言があるんだよ」
「名言……?」
「わーしの心には突き刺さった」
壁一面、どころか壁三面くらい本棚になっているけれど、本だけじゃないな、なんかエロのものがいっぱいある。
残る一面はパソコンとデスクがある。生活感はない。
「じろじろ見んなよぅ」
「いや、どこを見ても、ねぇ」
「で、話はなに? 早く済ませよ」
居心地が悪いのか、春那が急かしてくる。
私は、それに応えるためにも。
「ハルって告白されたことある?」
「告白。そりゃもう攻略したおにゃのこは100人は下りませんぜ」
「人間にだって」
「人外のゲームばっかりしてないし余裕で」
「現実の話!」
「ああ、あるよ」
なんで現実の話、って言った私が現実を突きつけられているんだろう。
「断り方とか聞きたいの? そゆのはりーの方が器用にできそうだけど」
「え、えっと、どうだったの、その告白」
「みみっちい告白だったから『みみっちいこと言うなや』って断った。悪いやつじゃないけど、まあこの年頃の男子で私とつるむ奴なんて恋愛より遊びの方が楽しいもんじゃん」
「へぇ~……、いいの? 人間の恋人作らなくても」
「私も遊びの方が楽しい年頃かなぁ。男子とよくつるんでるけどさ、それは遊びとか趣味が合うのが男子が多いだけって話だし」
「思っていたより大人なんだ」
「さあね、ガキ過ぎるだけかもしれないし。それで、誰に告られた? 私からアドバイスできることなんてないと思っけど」
「それは、その」
「ほれ、恥ずかしがらずにお姉さんに言うてみ? 竹刀でバチボコにしてやるから」
「いや告白されたわけじゃなくて」
「なんだ。じゃあ……告るんかい?」
「……うん」
「よし言ってみ。そいつ竹刀でバチボコにしてやるから」
「なんでそんなに暴力的なの?」
「いやそこまで気にしてないけどさ。りーに好かれるなんて幸せなやつ、憎くなるもんだって」
「そう思う?」
「そりゃあねぇ。りー可愛いし。性格もいいよ。女の子らしいところもあるし。どこに出しても恥ずかしくない可愛い娘だよ」
「そんな風に思ってたの? ボク、って言ってるけど」
「ボクっ子は人気ジャンルだよ。りーは可愛いし、体つきもねぇ、ぐへへ」
「変態っぽい」
「恥じることはないってこと。それで嫌って言うやつがいたら私がバチボコにしてやるから。それで、りーが好きな幸せ者ってどこの誰さ?」
言うタイミングが難しい。本当に春那は予想だにしてないんだと思う。だから本当に言いづらい。
「そういえば、恋愛の相談は選択肢があったらいいって言ってたっけ」
「え? ああ、りーが遊びたくなりそうなメジャーなエロゲなら選択肢だいたい覚えていると思うけど」
「……幼馴染の女の子がさぁ、好きな女の子は、どのタイミングで告白するのかな」
「えぇ? 私は百合ものはあんまり通ってなかったし……」
幼馴染の百合ものかぁ、って春那はうーんと空を仰ぐように悩んでから。
目をぱちくり、私の方を向いて何度か瞬きして。
真顔になった。
「……遠恋だったらディスコードとかSkypeがオススメだけど」
「遠距離じゃないよ。家に行けるくらいには、近いから」
「……わたす?」
こういう場面でふざけるんだ。
無言で頷いた。
半信半疑だろうから仕方ない、なんて許しちゃうのは、まあむしろ春那にしては真剣に聞いてくれたからかなぁ。
春那は目を瞬かせて、咳払いして。
「気づかれないから自分から告白するのはありだと思うけど」
「けど?」
「えー……そもそも攻略対象じゃないから。よくて親友ポジション、くらいの」
「確か、さぁ。誰も攻略できなかったら、そういう親友エンドになるんだよね」
「……まあ、うん。詳しいね」
「よく聞いてるからさ。ハルの会話」
「……おう……」
「返事は?」
「あ、あー、一晩持ち帰っても?」
「後で翻してもいいから、今この場で聞かせて」
「いや翻して良かったら適当にOKするかもしれないじゃん」
「いいよ。今OKして後で断っても」
「わ、あ、あ」
春那はそういうことをしないから。
みみっちいでもなんでもいいから、率直な答えを聞きたくて。
「どうなの?」
「エグい面食いかい!? 自分で言うのもなんだけどエグい面食いか!?」
「いや違うよ!」
「自分で言うのもなんだけどこれ顔以外にいいところないでしょ!? ワシに顔以外なんかあるんか!?」
「そんなこと……」
「幼馴染なだけでしょ! そう思いますけど!」
「幼馴染なだけで告白するの!?」
「そうとしか思えーん!」
「じゃあ、ハルは、ボクのことそれだけ意識してるの?」
春那は一呼吸置いた。
「してるよ」
私も間を置かないと喋れないほどにドキッとした。
春那にとっての私は、どういう存在だったのか知らなかったから。
「ただ幼馴染なだけって、幼稚園とか進学先が一緒だっただけで特別視はしてるし。どんな風に振る舞っても、先生とか男子とかじゃなくて、りーにどう思われているかなって思っちゃうし」
「……思ってあんな感じなんだ」
「思ってこんな感じでゲスね」
口調は変えても、いつもみたいにやたら戯けているわけじゃない。
「でも私とりーは全然違うじゃん。私なんて女子からあぶれてふらふらしてる、どっかのグループに入れもしないぼっちだし。りーは陽キャのグループでうまくやってるし」
「そんな風に思ってないよ。ボクは、ハルのがすごいと思っている。自由に、好きなように振る舞っても嫌われてないし、堂々としてて格好良くて」
「そんないいものと思わないよこっちは。互いに羨ましく見えるものかもしれないけど
……
ってか私を好きになる要素はなに。幼馴染以外でkwsk」
「ずっと好きだったし憧れていたよ。何も怖いものがないくらい豪快で、男らしくて、でもこういう悩みとかも真剣に聞いてくれるし、剣道の時とかも格好いいし」
「ハッズいな。剣道はかなり前に辞めてるのに」
「頭も良いし、すごい人だと思うよ。同じ高校に行くためにすごい勉強頑張ったもん」
「そんなそこまで?」
「ボクの憧れなんだ。ずっと」
「憧れとは、……いや、なんでもない。ええー? マジ? うー?」
「どうしたの?」
「断る理由が思い浮かばない」
「……じゃあ、いいんじゃない?」
「いやある。りーに迷惑かける。私自身がハンディキャップじゃん。私と付き合う人間なんて損だよ」
「そんなの気にする人じゃないでしょ」
「いや気にする。人に人一倍迷惑かけるから。私以外の人間にその悪評は振りまきたくない」
「なにそれ」
「これも私のわがままだ。私は自由にするし、私だけが怒られればいい。私が自由にやった結果りーが怒られるのは違うでしょ」
「じゃあその時に守ってよ。悪いのは私だーってさ」
「それは……いややっぱ、考え直した方がいいよ。もっといい人は他にいっぱいいるし。ゲーム貸そうか? 現実の恋愛とか馬鹿馬鹿しいほど良いキャラいるよ」
「ハルがして欲しいって思うなら、しようかな」
「かぁー、卑しか答えばいね」
こんな風に嫌がられて、煙たがられていると、不思議と気持ちが固まってくる。
告白して断られたら普通は嫌な気持ちになると思うのに、春那が決定的な否定は何もしてこないから。
春那が私のことを大事に思ってくれているってわかるから。
まだ止まれない。
「良いのかい!? 恋人なんて、もう、爛れた関係だよ! 触手をけしかけるよ!」
「どういうこと?」
「すごい……エッチなことするよ、それはもう、ドスケベ。調教ものとか多くやっているので。triangleの魔法戦士シリーズとかやってるんで! NinetailのVenusBloodシリーズとかやってるんで!!」
「知らないけど。……いいよ」
「エッ!?」
「ハルになら、そういうこと、されてみても、……いいかも」
「お……。う……」
硬直した後。
顎を春那の指に持ち上げられて、目が合う。
首のこそばゆさも、真剣な表情でくすりともみじろげない。
こんな風に――こんな風に、かっこいいこともできるんだって驚いた。私みたいに、明らかに好意を持っている人になら、こんな大胆なことをしても問題ないって、そう思ったんだろうから。
「私のものにするよ?」
「……うん」
決めてくれたのかな。
でも春那の顔はどんどん赤くなっていって、ついにはすごい勢いで離れて、本棚に激突した。
「いや刺激が強すぎる! 初めてエロゲやった時のこと思い出すって!」
「……いや、知らないよそんなの」
「リアルは犯罪だし! 全部フィクションで成人してて分別のある大人がプレイするのがエロゲであってりーに手を出したら私は」
「大人じゃないでしょって!」
「りーは私が手を出して良い人じゃないって!」
あんまり喚くから、春那な覆い被さった。
「じゃあ私は手を出していいの?」
心臓が破裂しそう。
これが初めてエロゲやった時の感覚なのかな。
「いないんだもんね、おじさんとおばさん」
「……土日出かけがちなんで」
どうしよう、この勢いで本当に。
悩んでいたら、春那の手が、私の胸を触っていた。
「ちょっ……!」
「……こういうことで、いいの?」
「いっ、いいけどっ」
左胸を押し込むように揉まれて、なんだか息苦しい。
こんなにドキドキするなんて……だからこそ、好きなのかもって思ってしまう。だって、嫌だって思わない。普段は、見られるだけで嫌って思うのに。
ついに、その時が来たんだって思っている。来ない可能性だって十分あった、一線を越えるっていう時。
「……なるほどね」
「な、何が」
「りーも心臓バックンバックンだから」
「……そういうこと?」
ただ、脈を測っていただけ?
「りーって本当におっぱい大きいよね」
「……いきなりなんの話なのさ」
「気にしないようにしてた。りーってそういうの嫌がるしコンプレックスっぽいし」
「……まあ、うん。よく見られるし」
「私も毎日適当に生きているようで、唯一と言っていいほど他人に配慮してるのはりーのこのおっぱいなんだよね」
「……ハルと違うのが嫌だったから」
「胸の大きさが? そうなんだ」
全然違うのに、春那に憧れていたから。
どんどん違っていく自分に自信さえなくしていた。
その度に春那が遠い人になっていくような気がして。
今捕まえて良かった、とも思うけど。
「私は、正直りーのこのおっぱいめちゃくちゃ好きだよ。めちゃくちゃにしてやるっていう妄想してた。……シてましたとも……」
「……え、最低」
「だから後ろめたかったのかも。りーでエロいことをよく考えるから声かけずらいみたいな」
「…………ギリギリ嬉しさが勝つかな」
「えぇ……、……本当にいいの? 私がりーを求めるのって、そういうことかもしれない。なんていうか正しい感情じゃないっていうか。おっぱい目当てっていうか」
「うぅ、それは……」
嫌さが勝ってきた。私の気持ちを考えて正直に話してくれている……っていう点を踏まえても嫌かもしれない。
私がこの胸をコンプレックスに思っているから、尚更そう思うんだろう。春那が好きと言ってくれてもプラマイでマイナス寄り。
「ここまで来たらもう私は、私は、うん。スケベしたいなぁ~」
「キモいよ」
「うへへ。どうせなら今のうちにいい思いだけさせてもらいますかぁ」
左胸をまさぐられる。高揚感も嫌悪感もないくらい、わずかな時間。
すぐに春那の手は止まった。
「いっ、いいの?」
「……いいって言ったら?」
「スケベするよ?」
「……そんなこと言って、ビビってない?」
「やっ、そんなこと……」
こんな風に目が泳ぐんだ。
見たことなかったかも。春那がビビっているところ。
成績とかテストとか友達とか、いざとなればなんとでもなることばかりだからかな。春那が何かを恐れるところっていうのは見たことがないかもしれない。
今だけかもしれない。
春那が、私に襲われることを恐れている。
「まあ、ビビるに決まって」
「そんなに好きなら押し付けてあげるよ」
「え、ちょっと待っ……」
覆い被さって、向かい合って抱き合うみたいにのしかかって。
「どう?」
聞かなくてもわかる。私の胸に響く、春那の胸の音が。
興奮か恐怖かまではわからないけど。
「す、相撲取る!?」
「キスしよ?」
相撲ってなに?
心臓の音が私の胸に伝わってくる。私の鼓動よりも大きな、春那の音。
ハルは今まで見たことのない積極的な私を怖いと思っているんだろう。
私は、こんなに可愛いハルがいるところを初めて見た。
背が高くても、押し倒しちゃえば関係ない。
胸を触られていても、キスしちゃえばいい。
告白を断られても、襲っちゃえばいいんだ。
「ハルは、私のこと嫌?」
「……ふ、布団敷かせて……」
「……ダメ」
どうせなら、このまま。
―――――――――――――――――――――――
事はスムーズに進んだ。
別に私が暴走していたから乱暴にしたということもなく、ハルが性欲に任せてめちゃくちゃしたということもなく。
丁寧に、一つずつの順序をこなすみたいに。
キスをして、服を脱いで、愛し合った。
破天荒なんてこともなくて、特筆することもないくらい普通の、従順で、段取りを合わせたみたいな、静かな中での行為。
それが、大人……なのかな。なのかも。
落ち着いて、ことが済んで、向かい合って。
「……立てようかな。爆乳のボクっ娘幼馴染に告白されて襲われた件っていうスレッド」
「どういうこと?」
「インターネットで末永く爆発しろって言われようかな」
「わかるように言ってよ」
「こんな私でいいんですか? って。わからないことをたくさん言うよ?」
「……じゃあちょっとは普通にしてもらおうかな。やっぱり型破りすぎるし」
「えぇぇ~。普通って……」
「ボクが、ハルを、まともにする」
「かっこよすぎんだろ……。はぁ~あ」
ハルは深い溜息を吐いた後、私をじっと見つめて軽く咳払いした。
「じゃ、なるべくまともに頑張りますかな」
「……え、本当?」
「こんな人間なもんで、いい人見つけたらそりゃ合わせに行こうってなりますんで」
服を着ながらハルはティッシュで汚れた部屋を拭きながら。
「じゃ、とりあえずシャワーを急いで浴びてくださいな。ワシは別に、まあこれくらいの汚れと匂いなら今更家族も不審がらないと思うんで」
ものすごく嫌なことを聞きながら、その言葉に甘えることにした。
両親あるあるいいたい
両親のあるあるをいうわ
両親あるあるいうわ
両親あるある今すぐいうよ
両親あるある今すぐ言いたいあるあるいえるならいうよ
愚か者でもあるある言いたい あるある言いたい
たとえ誰かを傷つけたとしても
両親あるあるいうんだ
蒸し返すつもりは別にないけれど
あるあるいう あるあるいう
両親あるあるいうにはまだ速い
両親あるあるいいたい
両親あるあるいうわ あるある言う
あるあるいう あるあるいう 聞け
あるあるを言いたい 両親のあるある
そんなだらしない姿で言いたい あるあるってやつが好きだ
この頭の中の両親の あるある言いたい 言いたいのに
あるある言いたい 言えない 両親あるある言いたい
両親あるある言えたら楽なのに
身体が言うことを聞かない
あるある言うよ 両親あるある言うよ
あるある言う あるある言う
たとえ誰かを傷つけたとしても
両親あるあるいうんだ
蒸し返すつもりは別にないけれど
あるある言う あるある言う
両親あるある言うにはまだ早い
両親あるあるを言うよ
両親あるあるを今すぐ言いたい
あるある言う あるある言う
何十回(何十回) 何百回(何百回) 何千回(何千回) 飲み込んで
両親(両親) あるある(あるある) 土日(土日) 出かけがち