ある食堂にて
とある食堂に二人の若者が現れた。一人はライトアーマーを身に纏いバトルアックス肩に乗せた戦士と、もう一人は魔導師の服を着ているのに魔法の杖をまるで剣みたいに腰に挿している銀髪の女性であった。
「あ、アックス、あそこが空いている」
魔導師の服を着ている女性が、空いている所に向かう。
「おいおい、ミラ・ジュン、待てよ」
アックスと呼ばれた若者が彼女を追いかけた。
「ほら、空いていた」
「目が良いのだな」
アックスが彼女を感心そうに眺める。
「そうでしょう、僕達は目が良いのが自慢なのよ」
「僕達だって、さっきもそう言っていたね』
アックスが不思議そうなの顔をしたので、ミラ・ジュンは笑った。
「あ、そうだ。私とミラとの見分け方を教えてあげるわ」
「キミとミラのだって」
アックスが彼女を静かに見る。
「はい、ご存知だと思いますけど、まずは瞳の色が違います。それと、あの子の一人称はボクって言います」
「ボクか、どうしてだい」
アックスは、彼女の様子から、見当をつけたが確認の為に訊ねた。
「私の為なの、私が一人称をオレなど、男言葉を使わない様にする為に」
「いい子なのだな」
アックスの言葉を訊いて、彼女は笑う。
「有難う、アックス」
「さて、飯でも食べろうか」
彼はジュンが座らうとしていた椅子を引いた。
「なにをしているの、アックス」
ジュンはその行動に不思議そうな顔をする。
「キミが座りやすくしたのだよ」
「そうなの」
ジュンは顔を少し紅くした。
「いいから、座れよ」
アックスはジュンを座らせて、自分は別の椅子に座る。
暫くすると、ウェトレスがやって来た。
「ご注文はなににしますか」
「じゃあ、このチキンの蒸し焼きセットとバナナスペシャルを」
「じゃあ、俺はスペシャルステーキを」
それを訊いたウェトレスは『わかりました』と笑顔で言って下がる。
「なぁ、それが、キミが言っていた手か」
アックスが訊ねると、ジュンは笑った。
「そうだよ。こうすれば、食いしん坊のミラが目覚めると思って」
「そうか、そうだといいな」
アックスも笑っていると、食事が来たので、二人は食べ始める。
ジュンは食事を食べ終わると、バナナスペシャルをゆっくりと食べたが、少し首を横へ振った。
「ミラ、目覚めて、あなたの好きな、バナナスペシャルだよ」
「どうだった」
アックスは心配そうに見つめて訊ねる。
「だめだった。反応がない、恐らく、意識の奥の方に行っているのかも」
その時、店の出入り口が大きく開かれて、一人の茶髪の若者が現れ、店内を見回して、ジュンを見つけるとニヤリと笑って近づいて来た。
「やぁ、ミラ、どうしたのだよ。急に消えたりして」
そんな、彼をジュンは睨みつける。
「あなた、誰なの、本当のダレスなら、僕達のことは、ミラ・ジュンと呼ぶのよ」
それを訊いたダレスと呼ばれた若者は顔を歪ませた。
「寄生虫よ。何故、お前が其処にいる。封じたのはお前のはずだったのに」
「はぁ、なにを言っているの」
ジュンは訳のわからない顔をする。
「まぁいい、今度こそお前を封印して、ミラを開放して、ワシの仲間にする」
ダレスが不気味に笑った。
「そうは、いかない」
ジュンは椅子から腰を浮かして、腰から外した魔法の杖を構える。
「そんな物で、どうするつもりだ」
ダレスが笑っていると、彼女は魔法の杖の一部を横に回して引き抜くと、すると、そこには刀身が輝いていた。
「なんだと」
ダレスは目を皿の様にした。そのダレスに彼女は剣を向ける。
「さぁ、ミラを開放しなさい」
「ちょっと待て、ジュンよ。お前はなにを考えているのだ。ミラさえいなければ、そのカラダはお前の物になるのだぞ」
ジュンはそれがごく当たり前の様に言う。
「バカか、お前は、そのカラダは、本当は自分の物だと思ったことはないのか」
「まぁ、覚醒した時は、そう思っていたこともあるけど、でも、ミラには勝てないと思ったわ」
ジュンはその時のことを思い出して思わず苦笑した。
「やっぱり、バカだ。お前は」
「バカでいいじゃない、私は私、あなたはあなた、だから、それでいいのよ」
ジュンは瞼を閉じる。
「それは違う、そのカラダは自分の物と、何故、そう思わない」
ダレスはそう言って、腕を振り魔法で、黒い兵士達を呼び出した。
「こうなったら、最初の予定どうりに、お前を封印して、ミラをワシの仲間にする」
ダレスが合図をすると、その兵士達はジュンに襲いかかって来た。アックスが助けに入るが、その兵士達はジュンの振るった剣で消えてしまう。
「バカな、只の剣がそんなチカラを持っている筈はない」
ダレスは大声を上げた。
「この剣は魔法のチカラによって、邪悪な魔法を打ち消すことができるのよ」
ジュンは剣を構える。