3-①
その日から、ロレンスは頻繁に王宮にやって来るようになった。
毎回腕一杯のプレゼントを抱え、セレーナが姿を見せれば言葉を尽くして褒めたたえる。
国王夫妻はそんなロレンスの態度をすっかり気に入り、セレーナに対して頻繁にロレンスを正式な婚約者にしてはどうかと勧めてくる。
「……冗談じゃないわ」
セレーナは低い声で呟いて、先ほどロレンスから受け取ったばかりの花束を窓から投げ捨てた。
セレーナにはロレンスの態度が気に入らなかった。彼はセレーナがどんなに罵っても表情一つ変えず、怒るどころか幸せそうにするばかりなのだ。
ロレンスから受け取るプレゼントだって毎回その場で突き返すか、部屋に戻ってから捨てるだけなのに、ロレンスは懲りずに毎回プレゼントを持ってくる。
彼をいたぶって玩具にする予定だったセレーナは、予想外の反応ばかりするロレンスが非常に不愉快だった。
「セレーナ様、お久しぶりです」
侍女からロレンスが来たと言う言伝を受け、セレーナが応接室に向かうと、ロレンスは満面の笑みでセレーナを迎えた。
「久しぶりって、三日前も来たじゃない」
「三日もセレーナ様に会えないのはつらかったです……。今日もプレゼントをお持ちしました。このネックレス、セレーナ様に似合うと思って」
ロレンスはそう言うと、はにかみながら縦長のビロードのケースをセレーナに渡す。セレーナがふたを開けると、中には青い石のついたネックレスが入っていた。
王女であるセレーナにとっては、なんてことのない品物だ。しかし、ネックレス自体は到底安物には見えず、ロレンスにとっては高い買い物であっただろうことは予想がついた。
「いらない。こんな安物を私につけさせる気?」
セレーナは蓋をしめ、ビロードのケースを突き返す。毎回飽きもせず身の程に合わないプレゼントを渡してくるロレンスには呆れていた。
「そ、そうですよね。次はもっとセレーナ様にふさわしいネックレスを用意します……」
ロレンスはケースを受け取ると、悲しげな顔で謝った。
セレーナがいくら暴言を吐いても動じないロレンスだが、彼女がつまらなそうな顔をしたときは打って変わって落ち込んだ表情をする。セレーナはいらだちを隠さず言った。
「あなたごときに私にふさわしい物なんて用意できるはずないじゃない。もう持ってこないで。私、この間あなたにもらった花束も、その前にもらったブレスレットも、全部捨ててしまったわ」
「お気に召しませんでしたか? それは申し訳ありませんでした。セレーナ様の好みに合いそうなものを探したつもりだったのですが、まだまだでしたね……」
ロレンスはしゅんとした顔で言う。
その顔を見て、セレーナの胸にはわずかに罪悪感が生じた。同時にロレンスごときに罪悪感を持つ自分を強く嫌悪する。
自分はそもそも、ロレンスをいたぶって苦しむ顔が見たかったはずなのだ。なぜ思い通りに落ち込ませることができたのに、こちらまで落ち着かない気持ちになっているのだろう。
セレーナが自分の感情に苛立っていると、ロレンスが気持ちを切り替えるように明るい顔になって言った。
「セレーナ様、私はまだまだ未熟ですが、いつか必ずセレーナ様を喜ばせてみせます」
ロレンスはそう勢い込む。
セレーナはそんなロレンスの顔を冷めた目で眺めた。
(私の機嫌を取れれば、お父様にもお母様にも気に入られて、将来安泰ですものね)
セレーナには、ロレンスの目的がよくわかっていた。
彼はいつもセレーナを褒めたたえるが、本気で自分に好意を持っているなんて自惚れてはいない。彼はセレーナの後ろにある、国王たちからの恩恵が欲しいだけなのだ。
考えていると、セレーナはだんだんイライラしてきた。
「ロレンス、ちょっとこっちに来てくれるかしら」
「はい。わかりました」
セレーナが言うと、ロレンスはすぐさま従う。ロレンスがセレーナの足元に跪くと、彼女はにっこり笑ってその頬に手を当てる。