2-①
それから月日は経ち、セレーナは十八歳になった。
現在ではほとんどの人間がセレーナと関わることを避けたがる。国民全てを嫌っていたセレーナはそれで満足していたが、国王や王妃は彼女を心配した。
はじめのうち、国王夫妻はセレーナに友人を作らせようと、よく年の近い令嬢を集めてお茶会や小さなパーティーを開いていた。
しかし、セレーナは毎回悪態をついて彼女たちを追い返すだけで、誰とも仲良くなることはなかった。
ついにはセレーナが招いた令嬢の一人の処刑を命じる事態まで起こったため、国王夫妻は彼女に友人を作らせることを諦めた。
代わりにセレーナに婚約者を用意することにした。
王女とはいえ、悪評ばかりのセレーナの婚約者に名乗り出る奇特な者はほとんどいない。
しかし、国王がセレーナの婚約者になった者には多額の富と相応の爵位を与えると言うと、継ぐ爵位のない大貴族の次男や三男が候補としてやって来るようになった。
けれど、当然セレーナがそれを喜ぶはずもなく、婚約者候補に引き合わせられる度に暴言を吐き、時には暴力を振るって追い払った。
そんなことが続くうち、国王がいくら褒美を与えると言っても婚約者候補に名乗りでる者は誰もいなくなってしまった。
(やっと静かになってせいせいしたわ)
セレーナは自室の窓から外を眺め、心の内で呟く。ここ数ヶ月は誰も婚約者候補が送られて来ていない。
引き合わされたところで悪態をついて追い返すだけだが、セレーナには貴族令息たちの張り付けたような笑みを見るだけで不快だったので、今の状況に大変満足していた。
しかし、セレーナの平穏はあっけなく壊される。
「ひ、姫様。国王陛下がお呼びです」
「は? 一体何の用よ」
「その、婚約者候補に会わせたいと……」
「またなの?」
セレーナが不愉快さを隠さずに言うと、呼びに来た侍女は震えあがった。セレーナに八つ当たりで罰を言い渡されはしないかと恐れているのだ。
しかしセレーナは今日のところは八つ当たりする気はなかったようで、侍女に着替えを手伝うように命じて薄紫色のドレスに着替えると、素直に国王の元に向かった。
「おお、セレーナ。来てくれたか。急に呼び出してすまなかったな」
国王はセレーナの姿を目に留めると、眉尻を下げて言う。国王は過去に生贄にしてしまったセレーナに対して気を遣いどおしで、彼女には随分下手に出ていた。
「陛下、何か御用でしょうか」
「ああ、今日はセレーナに会ってもらいたい者がいるんだ。ヘンリット子爵家のロレンスと言ってな。年齢はお前と同じ十八歳で、両親が早くに逝去したためすでに爵位を継いでいる。身分は低いがなかなか熱意のある人間なんだ。向こうからお前の婚約者になりたいと言ってきた」
「子爵家の人間ですか」
さすがに王女の婚約者候補として身分が釣り合わなすぎるのではないかと、セレーナは眉を顰める。
「お前が気に入るようなら、爵位を上げて新しく土地を与えることも考えている。だからそのあたりは気にしなくていい。少し会ってみてはくれないだろうか」
国王はセレーナの機嫌をうかがうように言う。