1-②
セレーナははじめ、魔女の元に行かされると聞いても全く嫌がらなかった。
むしろおもしろそうだと喜んだくらいだ。
しかし、魔女が迎えに来る当日、両親と兄姉が目に涙を浮かべて自分を見るのを見て、少しだけ不安を感じた。
「みんな、なんでそんなに悲しそうな顔をしているの? セレーナは大丈夫よ。セレーナが魔女さんの元へ行けば、エルレア王国はこれからも平和なんでしょう?」
セレーナは悲しげな顔をする家族を慰めるように言う。
そんな姿を見て国王は目を逸らし、王妃はこらえきれず嗚咽を漏らした。兄弟たちは胸が詰まって、何も言うことができなかった。
家族の反応が不思議ではあったものの、セレーナは魔女が迎えに来ると元気に手を振って去って行った。
少し心細いとは思っても、好奇心旺盛なセレーナにとっては、不安よりも未知の生活にわくわくする気持ちのほうが大きかった。
しかし、魔女の屋敷についていくらも経たないうちに、セレーナは自分の残酷な運命を思い知らされることになる。
「よく来てくれたわね、セレーナ。私、人間の子供で遊んでみたかったの。それもどこにでもいるような平凡な子供じゃなくて、王宮で大事に大事に育てられてきた子供で」
魔女はにっこり笑ってそう言った。セレーナも言葉の意味を理解しきれないまま笑みを返す。
すると、突然魔女はセレーナを蹴飛ばした。
「い……っ」
「笑うんじゃないわよ。胸糞悪い。私、幸せそうな子供が大嫌いなの」
魔女は冷たい目でセレーナを見据える。その手には鞭が握られていた。
「あ、あの、魔女さん……」
「そこから動くんじゃないよ。甘ったれて育ったあんたに痛みっていうものを教えてあげる」
「な、何するの……いや……」
怯えるセレーナに構わず、魔女は容赦なく鞭を振るう。
セレーナは初めて向けられる悪意と、終わらない痛みに、ただ震えることしかできなかった。