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エルレア王国のセレーナ王女は、悪魔のような姫として人々から恐れられていた。
使用人が些細なミスをすれば怒鳴りつけ、気に入らないことがあれば容赦なく鞭打つ。
王宮を訪れる貴族たちのことも、敬意が欠けて見えればすぐに激昂して追い出した。そのくせ彼らの言葉にお世辞が見えればそれにすら怒り、馬鹿にしているのかと処罰を命じるのだ。
セレーナの横暴を国王夫妻は止めようとはしない。
それどころか二人ともセレーナに気遣って、彼女の望みは何でも叶えてやった。
セレーナの兄である王太子も、姉である二人の王女も、時折小さく苦言を漏らすだけで、強く咎めようとはしなかった。
彼らがセレーナに強く出られないのにはわけがある。
セレーナは五歳から十歳までの五年間、国のために魔女の元に捧げられ、奴隷同然の生活を強いられてきたのだ。
その魔女はこの国に数百年前から暮らしており、その強い魔力で他国からエルレア王国を守ってきた。
しかし、魔女は何も善意で国を守っているわけではなく、ただ強大過ぎる自分の力を試すために、他国の兵を殺しているに過ぎなかった。魔女の本質は、残酷で気まぐれだった。
あるとき魔女は国王に向かって、子供たちのうち誰か一人を自分の元へ寄こすように言った。
国王は拒否したが、魔女は従わないならばもう王国を守らないと言う。
国王は迷った。この小さな国は、魔女の力が無くては簡単に潰されてしまう。
国王は泣く泣く末の王女を魔女に引き渡すことにした。
将来王位を継ぐ第一王子は魔女に渡すわけにはいかない。同様に上の二人の王女も幼いうちからすでに他国へ嫁ぐことが決まっていたため、王宮に留めておかねばならなかった。
当時五歳のセレーナ王女だけが唯一まだ将来が定まっていなかったため、生贄として選ばれてしまったのだ。