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零の風~あるパイロットの戦争~  作者: 佐久間五十六


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要求の矛盾

 海軍から製作サイドに対する要求は、矛盾に充ち溢れたものであった。勿論、ある程度の無茶ぶりは製作サイドとしても、覚悟はしていたものの、海軍の要求は想定を遥かに越えるものであった。

 海軍がそうした無茶ぶりをした背景には、日本を代表する名機が不在であった事が大きく影響していると考えられる。

 無論、海軍の無理難題が押し通らねば零戦と言う名機は生まれなかった事も事実である。

 しかしながら、海軍が平気で無理な注文を出来たとしても、その無理な注文を実現する為には製作サイドにそのしわ寄せが来るのは必然であったと言える。

 零戦の開発には、約6年の月日を擁したが、その時間の大半は無理、無茶をどうやって乗り越えるかと言うものに当てられた。こうした無理難題が無ければ名機零戦は生まれなかったであろう。

 あれだけの戦果を残した海軍機は無い。要求の矛盾が無ければ、名機が生まれなかったとは、何と言う皮肉であろう。まぁ、モノ作りとはその様なものである。期待をかけて時間をかけて作り出した自信作よりも、期待も時間もかけずに何気なく作り出した作品の方が、性能が上と言う事は往々にしてある。

 肩に力を入れ無い事は、ロクな結果をもたらさない為には、誰しもが経験している事だろうが、零戦製作は、良い意味で肩の力は抜けていたと言える。いずれにせよ、欧米に太刀打ち出来る航空機が必要不可欠なものであり、急を擁していた事は言うに及ばない。

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