優大の回想
久しぶりに投稿です
優大も帰りながら回想します。その内容とは?
7話です
「はあ……」
デートを中断し仕事の打合わせに向かった藍のために、ただぽつねんと一人取り残された優大はため息をつきながらとぼとぼと家に帰ることにした。そして帰りながら藍とのことを考えてみた。
◇◇◇
「藍ちゃん待ってよー」
「お姉ちゃーん」
「あははー、待てないよーだっ」
小さい時からよく遊んでいたのだが、まだその時は幼馴染と言えるほどの関係ではなかった。元々上村姉妹はこの町の生まれではなく、小学3学年の時に上城姉妹は両親の都合で引っ越してきたのだった。
そして優大が藍達を初めて認識したのは、彼女姉妹が彼の所属する劇団に来てからである。
「これからうちの劇団に入った上城藍ちゃんと萌ちゃんです。二人は双子だそうよ~! みんな仲良くしてあげてねー!」
「はーいっ」
「上城藍です、宜しくお願いします!」
「わ、私……は上城……萌……です。宜しく……お願い…しま……す……」
この頃から藍は明るくやんちゃだった。わんぱくなところは今も変わっていない。
一方萌もこの当時から少し引っ込み思案だった。そして、
「……」じー
「ん? 何?」
「ん……うんん。別に……」
「?」
彼女は優大の顔を見た。前年の大会で出会った少年だと気づいたのだ。しかし優大は萌があの時の少女だと露ほどもその時から気づいていなかった。
そして二人はこの劇団の仲間になり、藍はこの劇団で優大と一緒に芝居の稽古をし、萌は専ら稽古場で本を読んでいたのだった。
それから彼は同級生でご近所であるのが相まって藍達と一緒に遊ぶようになっていくのである。
また彼らの団結力が特に上がった出来事があり、中学の時に優大はある虚偽の罪で加害者扱いされ、周りの生徒から孤立したことがあった。しかし藍達姉妹はそんなの気にせずいつものように接してくれた(むしろ彼女達が解決してくれるまであった)。
それ以来彼は藍達をより大切な友人と思うようになった。
◇◇◇
藍は彼にとって昔からずっと輝かしい存在だった。芝居が上手くて、でも努力は怠らずに、いつもキラキラとしていた。また芝居をする時に自然とこぼれるあの笑顔は彼をいつも幸せな気分にした。そして歩きながらそういうことを考えていると、昔、藍があることしてくれたのを優大はふと思い出す。中学校で一人孤独になり、劇団でも自分の演技に躓いていた時の話だ。
◇◇◇
「はぁ……」
「ゆーうたっ」
「ん? 藍か、どうかした?」
「ん……。ちょっとこっちに来てっ」
「ん? 一体どうしたんだよ? どこに連れて行くんだ?」
「いいから、いいから!」
「お、おい……」
藍は彼の手首を持って、ホールの外にある廊下に連れて行く。
「廊下……?」
「さあ、ここでこの前した芝居をするわよ。あの劇の内容覚えている?」
「は? なんでいきなり……?」
「いいから! 私が江里で、貴方は主人公の倫太郎よ」
「え? でもこの前僕がやったのは同級生B……」
「いいから! あぁ倫太郎……。どうして貴方はこの町から離れてしまうの……?」
「そ、それは江里……。僕は転校しなければいけない理由が出来たからだよ」
「そんな……。ならせめて私と別れる前に、貴方と大切な思い出を残しておきたいわ」
「良いよ、僕に出来ることなら何でもするさ」
「そう、なら……ここで横になってくれる?」
「……ん?」
彼女は近くにある長めのベンチソファーの上をぽんぽんと叩く。
「えとー、この前の劇と違……」
「何でも……っと言ったわよね…?」
彼は彼女の急なアドリブに困惑したが、言うとおりにとりあえず横になる。そしたら彼女は彼の頭を優しく持ち上げる。彼が不思議に思っていると、下に向いたほっぺたに暖かくむにっとするものが当たる。なんだと思い目線を下げると彼女の脚があった。
「え? な、な、なにして……!?」
「静かにして…!」
「っ……?」
そして彼女は彼の頭を優しく撫で始める。
「あぁ倫太郎、私はいつも貴方のことを想っているから。今も、これからも…」
「……」
「例え貴方が苦しい立場になろうとも、私は常に貴方の味方よ」
「……」
「だから貴方も頑張って努力してね…」
「あ、あぁ………」
彼は芝居だったとはいえ藍の優しさに触れ、大いに励まされたのだった。
◇◇◇
「藍……」
彼は藍のことを想う。
(僕のことを大切に想ってくれる相手がいる。その気持ちをしっかり受け止めて、大切に……)
とその時、
「わあああああああ……」
と彼の脳裏に歓声が聞こえた。よぎったその歓声には二つの意味が込められていて、一つは夢にまで見る自分が演出する作品に対して。そしてもう一つは……、
◇◇◇
「おー、すごい演技だ!」
「素晴らしい!!」
と観客が叫ぶ中、その一人に混じって演劇を見ていた幼少の頃の優大も、
「…………すげーーっ」
と初恋の演技に初めて感動していたのであった。
◇◇◇
「……はっ!」
彼は改めて初心の気持ちを思い出す。
「いかん、いかん。気持ちが揺らいでしまった。初志貫徹。すまない藍、僕はまだ彼女のことを忘れられない……」
そう独り言を言いながら、優大は俯き加減でとぼとぼと家に帰るのであった。
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