初めて出会った二人
今回で優大の初恋相手が分かります
6話です
この話は今から9年ほど前に遡る。
「ねーちゃん、まだー?」
「ちょっと待ってー」
「ちぇっ。今日が姉ちゃんの(演劇)発表会なんて、やだなー」
この時優大はまだ誕生日も来ていない年7歳の頃の可愛らしい子供で、もちろん彼は年相応に多感な時期で、演劇よりも外でスポーツする方が好きな少年である。むしろこの頃は演劇を嫌っており、観客席で見るだけで暇すら潰せないつまらないただのお披露目会としか思っていなかった。
「優大、おまた」
「遅いよー」
「出来たわ。それじゃあ行きましょうか」
そして優大母は優大、彼の姉で当時地元の劇団に所属していた小学5年生の実咲を連れて県内有数のホールに向かう。
「相変わらずデカイわ~」
「いつぶりなん?」
「あんたがまだ保育所の頃からだから、もう4回目ね」
「ふーん……」
しかし全く興味がなかった。それよりも彼はこのホール内を走り回ることしか頭になかった。そして県内演劇発表会が始まった。初めの3分は見ていたがやっぱり面白くない。それに姉が出るまで演目がまだ4つ先であった。母も姉の方に行って、彼は観客席で一人だった。つまりウロウロし放題なのである。
「行こっと」
つまらなく感じた彼は案の定ホール内の探検をし始めた。演劇観るよりよっぽど楽しく感じ、一人そこを散策していると、一人うずくまって、指で廊下を突く少女の姿があった。
彼とさほど年の差はなく、衣裳を着ておめかししている彼女のその姿はとても綺麗で彼はすぐに心打たれた。
(こ、こんな可愛い子がいるのか……!)
声をかけるか悩んだが、何をしているか気になったので彼女に声をかけた。
「何してるの?」
「え? あ、指で♡を書いているの」
「ふーん。で、衣裳を着てるってことはこの発表会に出るの?」
「うん、そうなの」
「いつ?」
「昼からなの」
「そっかー……。お芝居は好きなの?」
そしから彼女は少し間を開ける。
「嫌いじゃないわ。……でも」
「……?」
「人前に出るのが苦手なの……」
「……」
そうか、だからこの子は少しいじけてるように見えるのかと優大なりに思った。
「よし! じゃあちょっとうろうろしに行こうぜ」
「え?」
彼は彼女の手を引っ張ってホールの外の広い芝生に連れて行く。そこはホールの裏にある広々とした丘で、小山がぽこぽことあって、休日になると親子連れの人が集まる県内でも人気のスポットだ。そしてもう少し奥に行くと、花が沢山咲いているガーデンに出る。
「どうだ。ここは?」
「きれー……」
「いいだろ?」
「うん。いつも終わったらすぐに帰ってたから知らなかった」
彼女は目をキラキラさせて、夢中で花畑を眺めていた。そして二人は芝生の丘に戻って、衣裳を汚さない程度で駆けっこした。
「どうだ。楽しいか?」
「うん、楽しいよ」
「そうか、それは良かった」
廊下で初めて会った時と違った彼女の嬉しそうな顔を見て、優大は彼女に自分の意見を伝えた。
「好きなことしようぜ」
「え?」
「生きられるのは一回きりだ。楽しく生きないとつまらないぜ?」
これは自分自身が常々思っている言葉で、あんなにいじけてる彼女を思い出し、たまらなくなって言ったのだった。しかしそしたら彼女は頭を垂れる。
「でも……ママがなんて言うか……」
「自分で決めて、好きなことをしたら良いんだぞ!」
「!」
彼女は目を見開きながら、少年の顔を眺めた。
「分かった、ありがとう。そうしてみる!」
そうして二人はお互いに見て笑い合っていると、ホールの午前のチャイムが鳴る。
「あっ、イケない。そろそろ戻ってみんなと合わせとかないと!」
「行ってら。今日は頑張ってこいよ」
「ありがとう。えーと、名前はー……?」
「優大っ。優しいと大きいで、『ゆうた』」
「大きいで、『ゆう“た”』って読むんだ。変わってるね」
「よく言われるよ」
「ありがとう優大君。頑張ってくるから!」
「おう」
そうして彼女はみんなのいるところへ向かった。
「見つかった?」
「ううん?」
「もう! 一体どこ行ったのかしらー?」
「ママー。姉さーん」
「あ、いたっ」
「もう、どこ行ってたの!? 探したわよ!」
「ごめんなさい。ちょっとここで知り合った子と遊んでて」
「?」
「もうとにかく、ご飯食べて準備しましょう。みんな待ってるわ」
「うん、分かった」
「じゃあ行こうか、萌」
「うん、姉さん」
こうして彼女はこの劇を最後に文学の道に進むのであった……。
◇◇◇
「はあ……」
回顧を終えた萌はため息を吐いて、またブランコを揺らす。
(好きなことするだけじゃあ恋の発展はしないものね……。そしてまさかの姉さんも優君のこと……。でも私の方が姉さんより早く優君と出会ってるし、想いの気持ちも負けてない……! ただ……)
藍のあの行動力は萌も脱帽するほど自分にない魅力であった。
(でもかといってそのままにしていたら、いつか優君を姉さんに取られてしまう……!)
このままじゃいけない、と強く思った萌は揺れるブランコから軽く飛んで、たっと綺麗に着地して自分の意志を言葉にして叫ぶ。
「私もまた変わらなきゃ」
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