デート
これからデートします
5話です
ミーンミーンと蝉は飽きもせず、夏の到来を待ちわびたかのように暑い空の下で鳴く。
「あちー」
「本当ね~…」
世間の学生は今夏休みまっただ中で、そしてこの炎天下の中、彼らは暑さに負けず青春を謳歌している。またここにも青春している二人の姿があった。いや、単にまだ幼馴染していると言うべきか。
優大は駅前に降りた後、藍と一緒に徒歩で市内の映画館に向かっていた。
「……」
「~♪」
藍はなにやら上機嫌で、彼の腕にぎゅっと抱きついて歩く。まるで恋人みたいだし、それに彼女の柔らかい胸が当たって……つーか…………、
「暑いっ! 離れろ!!」
「えーっ」
藍はぶーと顔を膨らませながら、しぶしぶ優大から離れる。なぜ珍しくこの二人が映画館に向かっているかというと、その理由は約1時間前まで遡る。
「優大デートしましょう」
いきなりだった。
「は?」
優大と萌は突然のことで戸惑った。
「デート? 萌は?」
「……」
「今日やる宿題も終わったし、折角の夏休みよ。2人で行きたいの!」
「いつも行くなら三人でどこかに行くじゃないか。どうしたいきなり?」
「もう朴念仁ね! デ……デートだから2人で行くのよ!」
優大はちらっと萌の方を見た。黙って下を向いている。
「ほら、デートに行くわよ!」
「お、おい。心の準備が……」
「なに男らしくないこと言ってるの! 私がデートプラン立てるから、行くわよ!」
そう言って強引に彼の手を引っ張って連れて行く藍と、その手を黙ってみる萌の対称的な姉妹だった。
で、今に至る。
「それで一体何の映画を見るんだ?」
「『彼は罪人』よ」
「えっ、それって……お前が出てる映画じゃね?」
「当ったりー!」
「……」
隣にいるのに、わざわざスクリーンを挟んでその本人が出ている映画を見に行かなあかんとは……となんか余計な手間をする気分になる優大であった。とはいえそんな彼女は今売り出し中の女優だ。この暑い中帽子にサングラスと変装に抜かりはなかった。
「よし。じゃあ、お前の演技がどこまで成長したか査定してやるよ」
「望むところ!」
そして彼らは映画を見に行くのであった。105分上映で、『現代の高校生とSNSの罪』をテーマにしたなかなか重い内容だった。エンターテイメント性が低かったからか優大は少々疲れる。
「考えさせられるという意味では良かったけど、好みの映画じゃない……」
「えー」
「でも演技の方は良かったよ。前より芝居のリアリティが上がってる。頑張ってるな」
「うん」
そして優大は映画のストーリーを振り返っていると、ふと中学時代に遭ったイジメのことを思い出す。結果的に言うとそのイジメはただの自演だったのだが、その当時は周りからイジメの主犯格だと思われていた。そしてその男子は男女ともに人気が高かったので、疑われていた優大は当然学校で孤立した。
しかし藍と萌はそんな優大の状況を見過ごさず、原因究明し、彼女達のお陰で疑いが晴れて、一応彼は学校の一員に戻れたのだ。
一方映画の主人公は味方がいなかったせいで、ありもしなかった罪だったのに、周りからの非難のストレスから本当に罪を犯してしまう。
僕はつくづく幸せ者だなと一人にやにやしながら思う優大であった。
「え? なに一人でニヤついてるの、キモ」
「は? なんだ? 人が折角幸せに浸っているのに、その言い草は?」
「え? あの映画見て? 好みじゃなかったのに?」
「あぁ、まあな」
「ふーん、そう」
てっきり自分の演技を見て感動したんだと思って満更でもない気持ちになる藍であった。
「次は萌を連れて見に行くか」
しかしこのタイミングで自分以外の名を彼が言ってしまい、彼女は折角の気持ちが台無しになる。
「なんで、そこで萌の名が出てくるのよ……!?」
「なに怒ってんだよ?」
「別に!?」
「? …それより次はどこ行く?」
「そうね、次は喫茶店に……」
とその時、藍のスマホが鳴る。
「ごめん、マネージャーからだ。はい、もしもし。え? 次のオーディションが取れた!? 本当!? うん、分かった。今すぐ行くわ!」
「仕事の電話か?」
「うん……。ごめん、行かなくちゃ……」
「分かった。行ってこい」
「うん。市内でマネージャーと待ち合わせだから、近いけどもう行くわ。じゃ……、あっ、そうそう。次の月9のドラマにもちょろっと出てるから見といてね」
「え? あ、そうなのか?」
「うん。次のオーディションの話で思い出したわ。じゃあまた明日ね」
「おう」
「絶対見といてねー。絶対に感想聞くからー……」
「分かったから、早く行け」
そう遠のく声になりながら、急いで向かう藍であった。そしてそれを眺めながら優大は一人呟く。
「頑張れよ、藍……」
◇◇◇
「はあ、今頃二人はデートか……」
一方で、いつも優大が寄る公園のブランコを漕ぐ萌の姿があった。優大と藍のデート中にこの公園に来て、一人黄昏れているのである。そして彼女はその二人すら知らないある出来事を思い出しながら、正面を眺めてあの日のことを回顧し始めるのであった。
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