藍からの猛アプローチ
藍のアプローチが始まります
4話です
「おっはよー、優大ー!」
「お、おはよう…」
「お、元気ないぞこのー」
「お、おう…」
「……」
ここ最近藍の様子が変わった。彼女はやけに優大へ積極的に絡む。優大はこの幼馴染の変化にただただモタつく。
「仕事が調子良いのか?」
「うーん、それもそうだけどー、それだけじゃないけどねー♪」
「と、いうと?」
「うーんと、そうねー……」
「……」
「優大には秘密ー♡」
「なんだよ……」
「ふふん♪」
鼻歌まじりで機嫌の良い藍に困惑する優大と萌だった。
ある日のこと、学校の昼休みにて。
「おーい、居村~。食堂行こうぜー」
「おーう」
今日は親の都合で弁当がなく、優大は和也と食堂に向かおうとした時、
「優大~」
「おう、藍。なんだ?」
「あ、あのさー、…………これ」
「これって……弁当か?」
「うん……」
「どうしたんだこの弁当? もしかして萌が作った……」
「ち、違うわ! 私の手作りよ!!」
藍がそう言ってクラスの生徒達がざわつく。そして優大も初めての経験に驚く。今まで藍からそんなことなかったし、というかそもそも、
「お前、料理出来ないじゃん……」
「そ、それは周りのフォローをもらって……ね…?」
「ま、まじか…」
「うん……」
彼女は頬を赤らめ明らかに照れる。どうやら本当らしいと思う優大であった。そして弁当の蓋を開けてみると、中は彼の好物が入っていた。
「食べてみて?」
「お、おう…」
恐る恐る食べてみると、味はいけた。いや、むしろ美味しかった。
「美味しいな…」
「でしょでしょ!?」
「お、おう……」
彼の返事を聞き、大はしゃぎする藍であった。一方の和也は女神の作った弁当を食べる親友を寂しく眺めているだけであった。
キーキー。夕方の公園でブランコが鳴る。
優大は思い悩む時にいつもこの思い出の公園に来てブランコに乗っている。そしてその隣のブランコには萌がいる。藍は仕事のためいない。
「……」
「……」
二人ともしばらく無言でブランコを漕ぐ。そして先に声を出したのは萌の方だった。
「それにしてもここの公園懐かしいね」
「ん?」
「久しぶりに来たけど変わってない」
「帰る時にいつもこの公園の前を通るじゃないか?」
「いつもそこまで見ないから」
「まあ……そうか」
この公園は優大、藍、萌の三人の思い出がつまっている場所だ。暇さえあればよくこの公園に来て遊んだ。
「次、優大の番ね」
「よし、分かったー!」
「優君頑張れー」
いつもテキパキと先々動いて先導する藍、その後ろを付いていく優大といつも彼の近くにいる萌。それが彼らの基本パターンだった。しかしそれが変わりつつあった。
「で、この公園に立ち寄ったってことは……悩み?」
「うん……」
「……姉さんのこと?」
「あぁ……」
「……」
「あいつ、家ではどんな感じだ?」
「部屋から台詞読みの声は聞こえてくるわ」
「そうか……」
「……」
「弁当……萌が手伝ったのか?」
「え…………、うん」
「そうか……」
「……」
話が弾まない二人である。しばらく黙ったまま、彼らは静かにブランコを揺らす。だが今回は優大から切り出した。
「藍は……」
「?」
「藍は大切な幼馴染だ、それは間違いない。でもあそこまで積極的に来られては、僕だって男だ。あいつを一人の女子として見てしまう…」
「……」
「確かに藍は魅力的な女子だ。今まであいつの背中を追ってきたんだ。それは分かる。でも……、だからといって僕が藍を……一人の女子として意識してしまって良いのだろうか」
「……」
「僕ぐらいはちゃんと彼女の友人として接するべきだと思うんだけど、萌は……その……とある男子が自身の幼馴染を恋愛対象として見るのは……変……か?」
「そんなことは……! ……ない…、けど……?」
「……」
「……」
またブランコの音だけが聞こえる。
「……優君は……その……昔に舞台演劇で見た例の女の子のこと今でも好きなの?」
「もちろんさ。僕をこの道に導いてくれた子だ。あの感動がなければ僕は演劇の道に進んでなかっただろうな」
「じゃあさ……その子のこと忘れたら……ダメなんじゃないかな?」
「!」
「その子のことがまだ好きなら……その気持ちを今でも大切にしてほしい」
「……」
「……」
「そうだな……。分かった、そうするよ。藍の気持ちも大切だが、僕はまだあの子への想いが忘れられないから」
そう言ってからブランコを揺らし始める優大であった。萌はその隣で微笑みながらも、内心は私ってホント卑怯……と少し罪悪感に感じるのであった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ブックマーク頂き励みになります。
評価も頂ければ励みになります。