藍の危機
少し暴力シーンがあります
2話です
「うー、あちー」
「本当、暑いわ~」
「うん…」
夏の高校総体を終え、日に日に太陽の出る時間が長くなる頃彼らはいつものように三人で登校する。この時期になると日増しに衣替えをして、どんどん夏仕様になる。
そしてこの時期になると、男子として嬉しいことが起こる。運が良ければシャツから女子のブラジャーのホックが透けて見えるのだ。
最高の時期だと興奮がやまない優大であった。
「優大、顔に出てるわよ」
「!?」
「優く~ん。またヤラシイこと考えているでしょー…」
「まさかまさか、滅相もない! 私は演劇に一途な男ですよっ?」
幼馴染の双子姉妹がじーと彼を見る。
「まあ、男の子だもん。仕方ないよね」
「う……」
「けどこんな変態と一緒に登校してると思うと、身の毛がよだつわ。私のこと変な目で見ないでよね?」
「心配するな。お前達にそういう気持ちはさらさらない」
「は? それはそれで腹が立つわね」
「あん……どっちだよ? ん? どうした、萌。そんなにむくれて?」
「……別に?」
「?」
なんだ……と思った優大は藍に小声で声をかける。
「おい藍。あいつどうして怒って……どうした藍。そんなに落ち込んだ顔して?」
「え!? ううん。別にっ、何でもないわっ」
「?」
藍の奴……仕事は少し落ち着いたと言っていたし、多忙だからではないと思うが、一体どうしたのだろうか。
二人の様子が分からず、ただただ困惑する優大であった。しかし藍のことに関しては意外なところから話を聞いて分かるのであった。
「なにい~、ストーキングー!??」
「しっ! 馬鹿、声がでかいよ!?」
村上が神妙な顔して言うものだから、何かと思ったらまさかの内容だった。
「え? あっ、すまん。……で、その情報は確かか?」
「あぁ、間違いない。確かな情報だ。藍さんが信頼する部活仲間に言ってたそうだ」
「……」
藍は不定期であるが仕事のない時にバスケ部に行っている。
「……で相手は?」
「少し前にキックボクシング部の奴がフラれたって言ったの覚えているか?」
「週に一回はフラれているんだ。いちいち覚えて……まさか……」
「あぁ、どうやらそいつらしい……」
「……」
人一倍しっかり者の藍だ。心配させまいと言わなかったのだろうが。まったく藍のやつ…と優大は内心苛立つ。
「んで、手口は?」
「うーん、細かいことは分からないが、他には彼女を頻繁に呼んだりといった迷惑行為だな」
「…………なぜ奴を止めない?」
「相手はキックボクシングのエースだ。何かしら反抗するのはやはり怖いのだろう」
「……」
優大は歯を食いしばった。
「分かった村上、サンキューな。萌と少し考えてみるよ」
「おう。俺が出来るのは情報提供のみだ。すまない」
「いや助かるよ。また情報が入ったら教えてくれ」
「分かった。くれぐれもお前も気をつけろ」
「おう」
そして昼休み、萌を人気のない階段へ呼び、藍のことについて相談した。
「まさか、姉さんが、そんなことになってたなんて……」
「急を要することかもしれない。大事がある前にケリをつけないと。何かアイデアないか?」
「あるにはある…………けど……」
「どうした?」
「それだと優君が危険」
「大丈夫だ。体がタフくらいなのが僕の取り柄だ。で、作戦は……?」
「ゴニョゴニョ……」
「うわー。痛そうだ。よし、分かった。やってみよう」
そして優大と萌は作戦を開始した。
◇◇◇
「藍ー……」
「どうかしたユミ?」
「またー彼が~……」
「またー? はあ、分かったわ。ちゃんと言ってくるわ」
「藍、気をつけて……」
そして藍は例の男子が待っている校内裏のところに向かった。
「……で何かしら?」
「なんで俺と付き合ってくれないんだよ!!?」
「だから言ってるでしょ? 私は貴方のような人をちゃんと知らないし、そもそも知り合ってすらないからよ。その上私にストーカー行為までするんだから、付き合わないに決まっているじゃない」
「…………俺を……誰だか知っているか……?」
「? キックボクシングをしてるのは知っているわ」
そしてこの男は藍の両手を掴んで、思いっ切りその両手を彼女の頭の上に持ち上げた。その拍子に彼女の胸がきゅっと強調した状態になり、持ち上げた振動でぷるっと揺れる。
「きゃっ! なっ、なにするの!? 離して!!」
「てめーの顔、ぼっこぼこにしてやる!!」
「止めて! 女優は顔が商売道具よ! そんなことすれば私の仕事が……!」
「そんなこと知らねーよ!! 男を散々たぶらかしやがって!! 地獄に落ちろーーっ!!」
「きゃ…………っ」
「止めろーーー!!!」
優大は豪快にこの男の横腹にミドルキックを決める。
「ぐっ!!」
こいつは少しよろけた。
「藍、大丈夫か!?」
「優大……」
「よし! いま助けるからな」
「優大危ない!!」
「え?」
ゴッと鈍い音が頭に響く。奴は優大の側頭部に裏拳を入れた。
「ぐはっ!」
優大はものの見事に一発で倒れた。
「ゆうた!!?」
「くそ……、この野郎め。まあ、いいこれで邪魔者はいなく……うっ!!」
優大はこいつの両脚に思いっ切り抱きついて、動かなくさせる。
「くっ、離せ……!」
「離す……かよっ!!」
「くそっ、離せ!!」
「……え、ぐはっっ!」
やつは右手で優大の頭を掴み、地面に叩きつける。
「ゆうたっ!!」
「へっ……。ざまあみろってんだ……」
優大の絞っていた力はみるみる弱まっていく。
「ゆうたー! ゆうたー!」
藍は泣きじゃくって壁にもたれながら言う。
「次はてめーの番だ。こいつと一緒に地獄におくってやる」
「あんたっっ。絶対に許さないから……!」
藍はキッとめいいっぱい睨みつける。
「許さないのはてめーの方だ……」
ファンファンファン!! どこからかサイレンの音が鳴る。
「な、なんだ……!?」
「これって……」
……
優大が目が覚めたのは病院のベッドの上だった。
「ここは……?」
「優大!!」
「優君……」
二人とも泣きべそをかきながら、彼の隣に座っていた。
「大丈夫よ……ここは病院のベッドの上……」
「馬鹿! それよりどうしてあんな無茶をしたの!!」
「騒ぐなよ……。頭に響く……」
「だって、だって~~……。私とっても心配したんだから~~…」
「それよりどう助かったんだ……?」
「……念のために撮影しながら、私が貴方のスマホで警察を呼んでおいたの」
「……流石は萌だな」
「で、どうしてここまで危険を冒してまで、こんなことしたの!?」
「はあ……? なに言ってんだよ…? 幼馴染が困ってたら助けるのは当たり前だろ?」
「!」
藍は優大の言葉を聞いてドキッとする。
「……ところであいつはどうなるんだ?」
「分からない。とりあえず警察に捕まって連れて行かれたわ……」
と優大と萌が話しているその声が藍の耳にはまったく届かずに、彼女は困惑しながらただ呆然と優大を眺めていた。
(なに……、この気持ち……?)
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