双子姉妹
新連載です
宜しくお願いします
「ふー……」
最後に舞台演劇の小道具のチェックをして、片付けをしている一人の少年の姿があった。居村優大、高校二年生。彼は演劇部所属で主に演出、照明担当を行っている。
7月に行われる県内高校の演劇大会に向けて、劇の練習をしているまっ最中だ。片付けをしながら、彼はこの劇の演出について考えていた。
「あー、まーた立って考えごとしてる~」
「本当。思案ばかりしてたら、すぐ夜になっちゃうよ」
「あ、藍、萌」
そうしたら演劇部の練習場所であるトレーニング場の入り口から声をかけてきたのは、彼の幼馴染である双子姉妹の藍と萌だった。
彼女達は瓜二つの整った顔をしているが、姉の藍は可愛らしいボブヘアの髪型をして、一方の妹の萌は背中まで伸ばし前髪も長い髪型をしており、ぱっと見では双子とは分からないほどだ。
「もうそんな時間か」
「早く片付けて帰ろう」
「優君、手伝うよ」
萌がそう言って、優大と一緒に演劇器具を片付ける。
「よし、片付けられたことだし、次の電車ももうそろそろ来るから帰ろう!」
藍は明るく張った声を上げてパンと手を叩く。彼女は主に仕切り役なのだ。
「はーい、はい」
優大は萌と一緒に先を歩く藍の後を追った。
翌日になり、優大は玄関を出るといつもそこに藍と萌が待ってくれているのだが、今日は困惑気味の萌と少々不機嫌な藍の姿があった。
「仕事が大変なのか?」
「うん……」
「姉さん、この前のヒットした映画で仕事が増えたから、昨日も台本読みで大変みたい」
「そうか」
藍は学業と並行して女優業もしている。元々は優大が所属している地元劇団の子役であり、ちょいちょい脇役でテレビや映画に出ていたが、この春休みに生徒役として出た映画が当たり、その演技力が映画業界で注目を浴びた。
「萌だって、文学賞の二次通過したんでしょ?」
「え? そうなのか!?」
「うん。昨日、連絡が来たの」
「やったじゃん、おめでとう」
「うん、ありがとう」
一方の萌は子供の頃から好きで書いていた小説を最近になって出版社へ応募するようになっていた。遂に二次通過したのか、凄いと優大はいたく感心した。
「はあ~、最近私は学校に行くのがこの頃の癒しだわー」
「へーやっぱ陽キャ様の発言はやっぱ違うなー」
藍は学校に行くと、クラスの陽キャグループとよく絡んでいる。しかし彼女はスクールカーストをあまり気にせず、他の子とも分け隔てなく交流するので、男女問わず憧れの存在だ。
「そうかしら?」
「ふふ、姉さんはうちの学校の人気者だから」
「そんなことないわよー。二人が大人しいだけよ」
「藍はパリピ過ぎんだよ」
「なに言ってるの? ちゃんと節度は弁えているわよ」
「じゃあ良いパリピだ」
「何それーww」
そう彼らは他愛ない話で盛り上がる。
「けど藍ってパリピの割に彼氏作らないのな。作りたいとは思わないのか?」
「んー、そんなことないけど、やっぱり告白してくる男子って大概私の表面しか見てないばかりなのよねー。やっぱりもっと私の内面を知ってから好きになって欲しいのよ」
「ふむ、なるほど。それは彼氏になる方も大変だな」
「それぐらい普通でしょ。けどしばらく仕事が忙しくなりそうだから、当分彼氏作りはしないでしょうね」
「確かにそれはそうだな、なるほどね。じゃあ萌はどうなんだ?」
「え、私? 私は……まだ……かな……?」
と言いながらも、萌は頬を赤らめながら顔を俯く。
「そういうあんたはどうなのよ!? まだあんな夢物語みたいなこと望んでいるわけ?」
「はあ!? なにが夢物語だよ!? 確かに彼女を見たのは県大会の劇での一回切りだったけど、あんだけ凄い芝居が出来るんだ! 今でもどこかで一流の女優を目指して頑張っているに違いない!」
「その子に会いたくて一流の演出家目指すなんて、本当にお子ちゃまなんだから! けどその子あれ以来見てないんでしょ? 今頃演劇辞めて、彼氏作ってるんじゃない?」
「まさかまさか、そんなわけないだろう……?」
「……」
「ふーん、私には関係ないからどうでも良いんだけどねー」
「ぬぬぬ……」
そして学校に着くと、三人のクラスに入って、各自のグループのところへ行く。
藍はスクールカースト上位である陽キャグループ、優大は並のグループ、萌はサブカル系のグループだ。
藍はサッカー部、バスケ部と華やかな子達と話しており、萌は萌で文芸部仲間で仲良い子達と楽しくワイワイしている。
「居村おーす」
「おう、和也」
村上和也、優大の中学時代からの無二の親友で、色んなところから学校関係の情報を仕入れる情報通だ。
「ま~た、藍さん校内の男子をフッたんだって? お前の幼馴染は大変ですなー」
「まあ、あいつはモテるのがデフォみたいなものだからな」
「なにやら今回はキックボクシングのエースだったらしいぞ。それを容赦なくフる辺り流石の一言だ」
「ふーん、そうなのか。あいつからは何も言わないから、全く分からん」
「藍さんは俺にとって女神同然だから、いつまでも俺の救世主でいてほしい」
「はあ……」
まあ高校生男子の会話とはこんなものである。
そして学校終わりいつものように演劇を終え、小道具を片付けていると、
「優君」
「お、萌か。もう片付け終わるからちょっと待ってくれ」
「うん」
「あれ? ところで藍は? まだ部活か?」
「ううん。姉さんは仕事で先に帰ったわ」
「お、そうかそうか」
そして片付けを終わり、優大は萌と一緒に帰る。
「なんか二人で帰るのは新鮮だな」
「うん」
「けどまあこれから藍は仕事が増えるだろうから、なかなか藍とは一緒に帰れなくなるな」
「うん…」
「寂しいことだが仕方ない」
「うん、そうだね……」
「あ、そう言えば萌の言ってたアニメ見たんだけどさ、内容は微妙だったけど、なかなか声優さんが良い芝居しててさ良かったよ!」
「ほんと? それは良かったー」
「なかなかリアルな演技をしてて、臨場感のある芝居だったな」
「うん、そうそう。そうなんだよねー」
実は萌も小学校の頃に劇団に入っていて、芝居のイロハはよく分かっている。だからそういう話も好きなのだ。しかしそれだけでなく萌は優大といるこの時間がたまらなく好きなのだ。
「どうかしたか萌? そんなに嬉しそうに」
「うん、うん。何でもない~♪」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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