おはようございますって異世界人が突然現われたんですけど……
「センパイ、大好きです。付き合ってください!!」
いつもの帰り道――やっと言えたその言葉。
綺麗な夕暮れに包まれて、わたしは告白していた。
一年間……二年間……四年間も。中学校の頃から好きで好きでたまらなくて、愛おしかったセンパイへの告白。
センパイは一瞬驚いたようだったけど、すぐに真面目な顔持ちでこう返した。
「ごめん、俺今勉強と部活に集中したいからそういうこと気が回せなくて……ほら、来年から受験じゃん? だからせめて今年は。満喫した生活を送りたいな、ってね」
……分かっていた。前々からわたしに興味ないんじゃないか、って思ってた。
でもどうしても期待が拭えなくて、この時を迎えてしまったのだ。
台本のような綺麗な台詞。しかしそれは、満喫した生活には恋愛なんて必要ないということだろうか。
それって……どういうことだろうか。
「……どうしても、ダメですか?」
でもわたしは無理だった。
本当なら諦めるべきなんだろうけど……それでもせめて、足掻きたかった。
これでダメと言われたら諦めよう。
そう思いながら。
「それじゃあ……」
そこでセンパイは口に開くのだ。
そう。それは……。
「異世界転移させてくれたらいいよ」
………………。
…………。
諦めよっか。
ー ー ー ー ー ー ー
「あーもぉ! なんでセンパイそこでふざけたのかな!」
そして夜。
電話でわたしは友の小百合にひたすら愚痴る。
友は「まぁまぁ」とわたしを慰めてくれた。
「宮本先輩らしいって言えばらしいもんね」
「でもーー!」
「宮本先輩に告白したんだよ? それ位の勇気は。まあそんないい人じゃなかったっていうので諦めて、新たな恋に勤しんだら?」
「そう簡単に言うけどさ……」
わたしは口籠もる。
四年間も思い続けてきたんだよ? もう宮本先輩以外に恋するとか……そんなことできないよ。
と。
「まーそうだけどねぇ」
そう言って小百合は考え込んだようだった。
わたしは夜空を見上げながら、小百合の次の言葉を待つ。
どこか今日の夜空は……いつもよりはっきりしているように見えた。
「……じゃあ、どうするの? 諦めないなら」
分かるわけがない。
異世界転移でもさせてあげれば? と小百合は言った。
――そんな冗談、真に受けるわけがない。
「ま、いいよ。じゃあね」
わたしはどこか寂しさを覚える。そしてさよならの挨拶をする。
一人で考えたい――それを察してくれたのか「うん、じゃあね」と小百合は返事をしてくれた。
だからわたしは、ありがとうと言って切った。
――カーテンを閉めて、ふと天井を見上げる。
そのある線一つ一つを見ていくうちに、不思議と気持ちは休まってくる。
……あーあ。
わたし、振られちゃったのか。
無性に実感した。
そんな時に、少しその天井が光った気がした。
その光は、段々大きくなって……。
天井全てが光に包まれたその瞬間、わたしのそのベッドの中に。
ちっちゃな女の子が落ちてきた。
ドスッという柔らかい音と共に、彼女はベッドに着地する。
それからゆっくりと目線を、顔をこちらに向けてくる。
そして最初の一声は……。
「おはようございます」
「おはよう……?」
言ってからこんばんはだと気付く。まぁそんなのどうでもいいか。
「ここはどこですか?」
その声は何とも幼女のような、可愛い声。
わたしはその問いに、あなたは誰? と答えてしまう。
「質問に質問で答えるとかおかしくないですか? 答えて下さい」
「え、、、東京……?」
何て答えればいいんだろ。東京って答えるのは違う気がする……。
すぐに訂正しようとしたが、それを遮るように彼女は呟く。
「考えるにブリタニアじゃなさそうですね……う~~ん、これは……なんですか?」
そう言いながら触れるのは壁。
「え……コンクリート? 分かんない」
適当に答えるわたしに対して真剣に考える彼女。
っていうかあれ。
「早く答えて下さい」
「えっと、東京だよ?」
「ふざけずに真面目に答えて下さい」
……。ふざけず?
わたしは真面目に答えてるつもりなんだけど。
「えっと、台東区」
「そこってどこですか?」
「東京」
「まだふざけてるんですか? そんな地名あげて」
……ひょっとして、わたしが東京だって言ってることについてふざけてるって言っているんだろうか。
――ちょっと。ちょっと期待をしてしまう。
そんなことなんてないんだけど。でも、さっきからの言動ってまるで……
「地図を見せてください」
言われるがままにスマホを取り出してGoogle MAPを見せる。
「……なんですかこれ」
指をさすのは……何だろうか。
日本自体を指しているように見える。
「日本……?」
その後流石にそれは分かるか、とわたしは苦笑する。
しかし彼女は次に、真剣な瞳でこう言ったのである。
「日本って、なんですか?」
わたしの期待が、叶った気がした。