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第11話 個性派揃いの生徒総会

 

 二学年と三学年の登校も始まり、学院全体が賑やかに騒がしくなった。

 新入生に対する上級生の興味はもっぱらセシルに集まり、毎日飽きもせず、休み時間の度に教室の外は沢山の見物人で溢れている。


 同学年は迷惑を考えるのか勇気がないのか、そんな事はあまりなかったのだが、上級生は年上と言う強みを武器にやってくるらしい。そうルルが教えてくれた。


 そんな野次馬達を観察していると、意外にもうちのクラスは有名人が多い事が分かった。


 まずはセシル。これは言わずもがなだ。

 次に双子のルルとナナ。神秘の国の美少女双子が入学してくると学院中で噂になっていたらしい。

 そしてゼル。有名貴族の三男らしいが、女好きって肩書の方が有名みたいだ。

 貴族ではないが、ミサ。彼女は入学前からプリメラの妹として周知されていたらしい。影が薄いからか見つけ出すのになかなか苦労するみたいだ。名簿に顔までは載っていないから仕方がない。

 意外だったのがレミーラだ。セシルの腰巾着だと思っていたが、実はゼルと同じぐらいの知名度があるそうだ。社交界では貴族の鏡と謳われているらしい。

 最後に一人、おまけで俺だ。有名人四人組に囲まれて座っているあいつは誰なんだと皆口を揃えて指を指していく。週の半ばにはその噂が回り、終わり頃には俺を見に来る人だかりが扉の外にできていた。俺には遠慮がいらないからだろう。一学年の奴らも混ざって、それはそれは迷惑だった。



「おめでとう。この学院で貴方の事を知らない人はいなくなったわね」

「……めでたい」


 からかうようにルルとナナが楽しそうに笑う。


「こんなつもりじゃなかったんだが……」

「逞しく生きろよ!」


 ゼルが親指を立て、グッと前に突き出す。


「お陰様でそう生きざるを得ねぇよ」


 そう言った俺の横で、微妙な顔をして笑っているセシルに気が付いた。


 ――また何かくだらない事気にしてんのか……


 少し考えて、セシルに聞こえるよう思ったままを口にする。


「まあこれで、お前らと一緒にいても引けを取らなくなったし、良かったかもな」

「え……?」

「俺、もうセシルと同じくらいこの学院で有名なんじゃないか?」

「う、うん?」


 何かを察したのか、後ろからゼルとナナも会話に加わる。


「確かにそうかもな! じゃあ俺らに感謝しろよ?」

「……お礼、待ってる」

「いや、何でだよっ」


 するとセシルがおかしそうにケラケラと笑い出した。


「ははっ、そうだね。これでみんな一緒に有名人だ」


 どうやら俺の発言はセシルを喜ばせる事に成功したらしい。ルルも満足そうに頷いてるから間違いないだろう。


「そうだ、後で久し振りにあのカフェへ行かないかい? 今日は生徒総会だけで終わりだって言ってたから先週の午前授業より早く終わると思うんだよね」


 セシルの提案に皆が首肯を返す。


「いいわね。本格的に授業が始まって少し疲れたわ」

「……賛成。美味しい物、食べたい」

「俺も参加で! お前も大丈夫だろ?」

「ああ。俺もそろそろ行きたいと思ってたところだ」


 ――フェリスの所にも顔を出したかったしな


「決まりね。それじゃあ少し早いけどそろそろ移動しましょうか」

「そう言えば生徒総会って何するんだ?」

「一ヶ月に一回行われる生徒主導の総会だよ。今日は今年度の役員メンバーの発表と部活動紹介がメインじゃないかな」

「この学院、役員会員以外は部活動への入部は必須だぜ。ちゃんと聞いとけよ?」


 ――そうか、部活は必須か……


「ほら、もう行くわよ。時間が無くなるわ」


 そうルルに促され、俺達は生徒総会が行われる講堂へと移動した。





 ******





 講堂に着くと、そこには座席の指示を行うエミリアと座席にプリントを配るレミーラ達がいた。


 ――珍しく来ないと思ったら三人とも手伝いに駆り出されてたのか


 この一週間、嘘吐き呼ばわりした事を謝ろうと何度か接触を試みたがなかなかタイミングが掴めず、未だに何も言えずにいた。レミーラに話し掛けようにも完全に拒絶されてしまい、近付く事もままならなかったのだ。


 実際、俺達が到着したのを見つけた彼女の表情ときたらまるで獣の威嚇である。他の四人はレミーラがいる事に気付いてないため、その威嚇は間違いなく俺へと向けられたものだ。


「どうしたもんかな……」

「ん? 何が?」

「いや、独り言だ」


 不思議そうな顔のセシルに苦笑いを返し、エミリアの指示に従って席に着くと、静かに始まりを待ったのだった。


 ・

 ・

 ・

 ・


『これより生徒総会を始めます。司会進行は生徒会長補佐、クロム=アレキサンドライトが務めます。それでは今年度の生徒会役員の紹介から――皆さんどうぞ、お上がり下さい』


 司会の進行に従い、総勢十二名の生徒会役員が壇上に上った。

 真ん中に立つ背の高い女生徒が二本の指を喉にあて、マイクテストを行うかのように声を発する。拡声魔法を施したようだ。


『あー……コホン。今年度の生徒会会長に任命されたラフィカ=アンバーだ。私達生徒会は皆の代表としてより良い環境作りとその維持に励んでいる。何か意見要望があれば生徒会が対処するので気兼ねなく申し出てくれ。皆の声は我々が責任を持って反映させてもらう。

 また、我々は君達への絶対指揮権を保有している。こちらの命令には速やかに従ってくれ。違反した者は厳罰に処する事になるのでそのつもりで』


 ハスキーな声で堂々と演説を行うこの女性は、この間緊急回線に応答したもう一人の人物で間違いないだろう。


 薄茶色のショートヘアに薄茶色の瞳、切れ長の目に尖った耳が特徴的だ。一般的な男子よりも背が高く、端正な顔立ちも相まって凛々しい格好良さが彼女にはあった。女性が惚れる女性……“カッコイイ”という言葉がピッタリな女性だ。

 実際、彼女が舞台へ上がった時に至る所から黄色い歓声が上がっていた。


 ――校長と同じエルフ族だな。でも何だろう、少し……違うような……


『それでは今年度の生徒会役員を紹介しようと思う』


 ラフィカの後ろに控えていたメンバーが名前を呼ばれ、一歩前へと歩み出る。

 以下、役職と役員名だ。


 生徒会長

  三学年 ラフィカ=アンバー

 副会長

  三学年 セラ・フィール・レイン

 会長補佐

  二学年 クロム=アレキサンドライト

 会計

  三学年 アナベル=シャーロット

  二学年 アレン=ランドルフ

 書記

  三学年 デイビット=ディアス

  二学年 ラブリ=エンジェルシリカ

 庶務

  三学年 ミハイル=イバーキン

      ジェニファー=モートレット

  二学年 アーサー=オールブライトⅢ

      コラン=コリン

      セオドア・ネヴィル・オブライエン


『以上、十二名が今年度の生徒会役員だ。そして……』


 生徒会長ラフィカが俺達の座る場所へと視線を向け、スッと片手を差し出し、皆の視線をそこへ集めた。


『新入生のセシル=エクレール=アクアマリン。彼がこのメンバーに加わる事が決定している』


 その言葉を受け、隣に座っていたセシルが立ち上がり、皆に向かって優雅に一礼をした。


 会場が盛大な拍手で包まれる。


『本来一学年の役員参加は夏休み明けから選考が始まるのだが、彼は私の推薦だ。皆よろしく頼む。――生徒会からは以上だ』


 生徒会役員が壇上から下りていくのを確認して、隣のセシルも席に着いた。


 すでに生徒会長から声が掛かってるなんてやっぱすごい奴なんだなと感心していると、講堂内に次のアナウンスが響く。


『続いて風紀委員会役員の皆さん、壇上へお願いします』


 委員長のイグナスを先頭に、総勢十七名の役員メンバーが壇上に並んだ。


 ラフィカと同じように拡声魔法を声帯に施すと、やはり威風堂々、ドスの効いた声でイグナスの演説が始まった。


『俺が委員長のイグナス=ドラコーンだ。秩序を乱し、風紀を侵す者は俺達が容赦なく叩き潰す。この学院に属す以上、内外は関係ない。どこに行っても恥じない行動を心掛けろ。お前らで対処できない事案が発生した場合も俺達が対処する。速やかに報告を上げ指示に従え。

 最後にお前らへ忠告だ。いかなる場合においても俺の言う事は()()だ。異議主張があれば覚悟を持って自ら俺に伝えに来い。以上だ』


 イグナスの迫力に会場中が静まり返る中、仕事は終わりと言わんばかりにイグナスがその後の事を違う人物へと丸投げにした。委員長補佐と言う役職に就くジェシカ=ライトニングが溜息をつきながら一人一人名前を呼んで役員紹介を行っていく。

 以下、役職と役員名だ。


 委員長

  三学年 イグナス=ドラコーン

 副委員長

  三学年 シエン=ムラサメ

 委員長補佐

  二学年 ジェシカ=ライトニング

 第一実動部隊

  隊長 三学年 ヴァイス・D・アレクサンダー

  副隊長 三学年 フェイ=ウォン

  実動隊 三学年 ジョシュア=オーレン

          グレタ・ウェルベルチ・レグラホーン

      二学年 リュカ=リオン

          ネア=マキーネ

          ヴァニラ=ミルキークウォーツ

 第二実動部隊

  隊長 三学年 クレア・クリストファー・セレスタイト

  副隊長 三学年 ブライアン=スチュワート

  実動隊 三学年 ガウ=ロウ

          キリル=ヴァルナフスキー

      二学年 イロハ=ナナツガヤ

          メアリー=ヒルトン

          バーニー=キャメロン


『風紀委員全十七名、皆よろしく頼む』


 そしてイグナスを先頭に壇上を下りていった。



 次に紹介されて壇上に現れたのは三十八ある部活の部長達だ。その中から部活動連盟、略して部連という組織の体育会系会長と文化系会長が前へと進み出る。その瞬間、なぜか上級生達がハラハラし出した。


『新入生諸君! まずは少し遅いが祝いの言葉を送らせてくれ。入学おめでとう、そしてようこそ! ()()()君達を歓迎する!』


 熱血漢そうな男がうるさいぐらいのアクション付きで言葉を述べる。その横で神経質そうな男が顔をしかめ、片耳に指で栓をしながら言葉を続けた。


『新学年を迎えた皆さんも今一度熟考し、新しい事にもチャレンジする良い機会です。()()()新入生と共に、皆さんも歓迎します』


「ああん?」と熱血漢そうな男のこめかみに青筋が立った。


『皆、我々と一緒に気持ちのいい汗をかこうぜ! 青春を()()()()過ごしちゃダメだ! 健やかな体、清い精神、強い心――我々体育会に属すれば必ず手に入ると約束しよう!』


「あ゛ぁ?」と神経質そうな男の顔が険しく歪んだ。


『私達文化部に属せば知性と品格を兼ね備えた紳士淑女となる事を約束します。知的好奇心を刺激し、芸術という感性を爆発させて皆さんの生活を心豊かなものにしましょう。私達に()()は存在しません』


 ガッと額を突き合わせ、二人の視線がぶつかり合う。

 見えるはずのない火花がそこに飛んだ。


『お前……毎回毎回言ってくれんじゃねーか』

『一度言ったぐらいじゃ鳥頭には意味ないからな』

『っんとにネチネチネチネチ! 陰気に研究ばっかしてっからそんな性格が捻じ曲がるんだ‼』

『馬鹿の一つ覚えみたいに常に走り回ってるハッスルバカが! 馬鹿に付ける薬はないって言葉がお前ほどぴったりな奴もいないだろうなっ』

『んだとコノヤロウ――っ』

『あーーほんとうるさいっ‼』


 もうめちゃくちゃだ。


 トップに触発されて他の部長達も言い争いに参戦し始めた。見守っていた上級生達もいざ争いが始まると、待ってましたと言わんばかりに面白おかしく囃し立てている。


 生徒会長は眉間を抑えて溜息をつき、風紀委員長はおかしそうに笑い、司会のクロムは苦笑いでお手上げ状態だ。


「これ、この学院の名物らしいんだ」


 そうセシルがコソッと教えてくれた。


「毎年こんな仲が悪いのか?」

「仲が悪いというか……まぁ今年の部連会長達は前年に類を見ないらしいけどね」


 そんな体育会と文化部の争いは、飽きたイグナスの怒声が響くまで続いたのだった――


 ・

 ・

 ・

 ・


 結局、三十八全ての部活紹介が終わる頃には終業時間が優に過ぎてしまっていた。総会が終わると今日はその場で解散となり、一度教室に荷物を取りに行ってからカフェへ向かおうという事になった。


 ふとレミーラを探すと、今度は片付けの手伝いに駆り出されているようだ。さすがに教師へ貴族としての文句は言えないのか、ふてくされながらも黙々と手を動かしている。


 視線を感じたのか、レミーラがこちらへ目を向けた。


 ――あ、気付いたな。また凄い顔してるが……言うなら今か……


 俺はそう決心し、セシル達に先に行っててもらうようお願いする。


「どっか寄るの? 待ってようか」

「いや、すぐ追いかけるから先に行っててくれ」

「じゃあ荷物持って来てやるよ。したら真っ直ぐ来れんだろ」

「ああ、助かる」


 そして俺は一人講堂へ残り、変わらず怒気を孕んだ目を向けるレミーラへと歩み寄った。


「あー……っと」

「…………」

「この前は……」

「よく話し掛けてこれますわね。この無礼者が」

「は?」


 レミーラが静かな怒りを向けて言い放った。


「いや俺は……」

「わたくしが身動き取れないのを確認して何ですの? まさか好機とばかりにセシル様と約束なんかしてませんわよね」

「ああ、この後昼食に……」

「――っ⁉ 性懲りもなく……あんたって奴は……」


 握りこぶしをつくり、レミーラの体がワナワナと震えだした。


 ――ヤ、ヤバイ……このままだとまた爆発されるっ!


 そう判断し、咄嗟に思い付いた事を提案する。


「そ、そうだ、お前も来ないか?」

「…………ハァ?」


 一瞬俺が何を言ったのか分からなかったらしい。キョトンと目を丸くしたかと思ったら、みるみるうちに怪訝な表情へと変わっていった。


「いやだって、セシルと居たいんだろ? なら来いよ。待っててやるから」


 そうすれば着くまでの間に謝れるかもしれない。道すがら話せなくてもあいつらの前ではいい顔をするレミーラだ、話を聞いてくれるタイミングもあるだろう。そう思ったのだが……


「何でわたくしが……」


 レミーラが俯いて何かボソッと呟いた。しかし、肩を震わせながら呟かれた言葉は俺の耳には届かない。


「え?」

「何でわたくしがって……言ったのよ‼」


 勢い良く顔を上げ、キッと鋭い目を俺に向けると、レミーラが吐き捨てるように言葉を発した。


「それが調子に乗ってるって言ってるんですわ! どこまでわたくしを侮れば気が済むのかしらっ」

「ちょっ、だから俺にそんなつもりは……」

「おだまりなさい!! 次はないですわよ……次、わたくしにそんな口を利いたら喉を掻っ切ってやりますわ!」


 フンっとそっぽを向いて踵を返すと、レミーラは振り返る事なく講堂から出て行ってしまった。一人その場に残された俺は深い溜め息をつく。


「また失敗……」


『女はヘソを曲げたらなかなか直んないんだ――』


 おばちゃんの言葉が頭の中で反芻された。そんな可愛いもんじゃない気がするが、俺の勇気もむなしく、更に関係を悪化させてしまったようだ。


「女って難しいんだな……」


『アンタ、女の扱い分かってなさそうだもんねぇ――』


 おばちゃんの言葉が再び、俺の頭の中で反芻された。


 

 

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