プロローグ ~始まり~
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――【天魔大戦】
千年以上前に本当にあったとされる天使と悪魔の頂上決戦である。
天使率いる天界軍と悪魔率いる魔界軍、その争いの渦中となったのがヒトの住む物質世界<ヴィタリア>だ。
肉体を持たない精神生命体の悪魔はヒトを唆し、自分達のコマとして人間を使った。同じ精神生命体の天使は対抗するためヒトに力を与え、星を守れと人間をけし掛けた。
暗黒に覆われた空は太陽を隠し、光を失った大地からは緑が消え、そして精霊がいなくなった。
混沌な世界へと変貌したヴィタリアの地では魔物や幻獣が蔓延り、上空では天使と悪魔によるヒトを使った争いが長らく続いた。
そんな世界である時、一つの奇跡が起こる。
ヒトの身でありながら女神へと昇華する者が現れたのだ。女神は己の命と引き換えに強大で強靭な結界を星に施し、その結界は外界に存在する全ての精神生命体を拒絶した。
ヴィタリアへの直接介在が出来なくなった天使と悪魔の戦いは拮抗し、間も無くこの大戦は終焉を迎える――
今もヒトの世で語り継がれている、事実史だ。
――【ヴィタリア】
天界と魔界の間に位置するとされる巨大な星。
エーテルに包まれたその星は火・水・地・風の四大元素で構成され、精霊が生命の息吹を与えている。
精霊の与える息吹は自然界に魔素を生み出し、そこに生きる全ての生命体に魔力を宿らせた。
その魔力区分は大きく二つ、白魔力と黒魔力に分けられる。保有量で見た目にも顕著に特性が現れ、魔力が強ければ強いほど能力にも特性が現れた。
天魔大戦後、荒廃した星に太陽の光が降り注ぎ、緑の戻った大地に精霊が再び現れると、天使と悪魔の力を受けた星は以前よりも当たり前のように魔法が息づく世界となった。
魔力量が多く能力の高い者は魔法使いとして世界の安寧に励み、さらに能力の高い者は魔法騎士や賢者、召喚士や錬金術師といった様々な栄光職に就きこの星を守る責を負った。それは天界と魔界の均衡を保つ仲裁役も担う事になる。
その仲裁役の筆頭となったのが、ヒトで最も天使と悪魔に近いとされた者達だった。
ヴィタリアへの直接介在が出来なくなった外界の悪魔は考えた――同じ精神生命体の天使と悪魔じゃ勝敗は着かない。肉体を持つヒトを懐柔できた方に軍配が上がる、と
ヴィタリアへの直接介在が出来なくなった外界の天使は考えた――悪魔が受肉を果たせば神の領域まで侵攻を許す事になる。神の定めた秩序の維持にはヒトを人たらしめ続けなければならない、と
女神の結界に守られたヒトは考えた――天にも魔にも屈しない中立な立場を築かなければヒトの世界に未来はない。力を蓄え来るべき時に備えよう、と
そして悪魔はヒトと契約を交わし、天使は加護を与えて間接的に互いを牽制する事にした。
ヒトは精霊の力を借り受け、守護を授かる事により力を得た。
こうして天使、悪魔、ヒト(精霊)の三竦みが構成され、常に均衡が保たれる事になる。
さらにヒトはその両力を持つ人間をヒトを束ねる王として、星を守る守護王として据える事にした。
黒の王には七十二の悪魔と契約を交わしたソロモンと言う人物を、白の王には四大天使全てから加護を与えられたセラフィナイト家当代当主を。そして王達を支える人物を八名置いた。彼らが仲裁役の筆頭である。
彼ら先導の元ヒトの世界に平和と秩序が戻り、時は流れて女神の起こした奇跡から約千年後の現代――
ヴィタリアで一人の男児が目を覚ます。
宿命を背負い、運命の歯車を廻す者として――
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とある場所の深い森に隠された小さな家。そこに俺は兄と、兄の従者の三人で暮らしている。その森は濃密な魔素で満たされ、凶暴な動物や魔物が生息する非常に危険な場所であった。
俺はそんな場所で日々鍛錬を積み、勉学に励み、己の能力を高め続けている。
一つの夢を叶えるために――
そして今、その夢を叶えるために、俺は兄の従者と森の中で対峙していた。
「……クロス、最後にもう一度だけ聞く。考え直す気は無いか? お前がしようとしている事は決して簡単な事じゃない。失敗すれば、全てを失う事になるんだぞ」
「ああ、分かってるさ。でも、諦めるわけにはいかないんだ。絶対に」
断固たる決意を込めて言い放つ。そんな俺に、目の前の人物は眉を寄せて鋭い視線を向けていた。
※読む前に知っておいて欲しいこの世界
・時間の解釈
→一日は24時間/7日で一週間/7日目は一般的には休日扱い(日曜日)
・四季
→特定の場所以外は基本的に春夏秋冬
・貨幣
→金・銀・銅のコインのみ。銅一枚で食パン一枚、銀一枚でフルコース料理、金一枚で一ヶ月無職生活、そんなイメージ
・位分け
→大きく分けて貴族と庶民の二つ。王は別格。(白と黒、二人しかなれないので)