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悪徳のフランチェスカ  作者: 長月 灯
王子は正しきを為す
23/54

1、産まれてきたという罪

※残酷な描写があります

 自分は、ただ存在するだけで疎まれる――その絶望を知ったのは、いつの頃だっただろうか。



 王妃が第一子を産んだ日、王宮は荒れた。

 国王夫妻のどちらとも似ない金髪碧眼の容姿、しかも『悪徳の象徴』と称されるフランチェスカ・エーデルシュタインを彷彿とさせる美しさ。

 幾多の調査や審問を経て、不義の可能性は否定された。

 しかし、王妃は赤子を拒絶し、王宮から放逐した。



 王の世継ぎとなる筈であった赤子は、ザフィーア公爵家の養子となった。

 物心ついた頃には、嫌でも周囲の声は漏れ聞こえる――両親が自分を捨てたという事実は、ライアンという少年を苛んだ。



 幸いな事に、公爵はライアンを哀れみ、慈しみ、後継として育ててくれた。

 そして、死の間際に一つの秘密を教えてくれた。


『この屋敷には、フランチェスカ女王の隠し通路がある』



 エーデルシュタイン王朝の頃、フランチェスカ女王は永遠の若さと美貌に執心していた。

 その為に、残酷な儀式や実験を繰り返していると噂されるまでになる。


 老いと死を捻じ曲げるような振る舞いは、神の教えに反する。

 教会と王宮の重鎮達は、女王の退位を進言すべく動いていた。


 噂は本当なのか、と証拠を探していた当時のザフィーア公爵は、ある仕掛けを発見した。

 王都の地下に張り巡らされた隠し通路と、各所に点在する実験室。

 男女問わず幾多の遺体が並び、ここで凶行に及んでいた事は明白であった。

 しかし、ザフィーア公爵は隠し通路の存在を隠匿し、女性の遺体のみを教会に差し出した。

 それを証拠とみなし、重鎮達に進言された王子が女王を処断した。



 現在に至るまで、ザフィーア公爵家は隠し通路の存在を公にすることなく、代々の当主のみに伝えていたらしい。

 王宮や教会のみならず、王都の各地に繋がる地下通路――それを独占する事で、利があると確信して。



 ライアンが初めて隠し通路を用いてたどり着いた場所は、王宮内の一角。


 養父を亡くした時、ライアンは本当の両親に会いたいと思った。

 この寂しさを埋める事が出来たら――しかし、彼はすぐに後悔することになる。



 王家専用の庭園に、国王夫妻と第二子の姿はあった。


 国王と同じ金茶の髪を持つ少年に、慈しむ眼差しを送る大人達。


 自分を存在しないものとして振る舞う彼らを見て、ライアンは全てに絶望した。



 その後、逃げるように地下通路を抜け、別の場所に辿り着いた。


 そこは、平民たちが暮らす住宅街の近く。

 市井では金髪碧眼の者は珍しくなく、皆が当たり前のように生活し、幸せを享受しているように見えた。



 それからは、隠し通路を通って国中を見て回る事が、ライアンの小さな楽しみになっていた。


 公爵家を訪ねる者など殆どおらず、誰にも知られる事は無かった。



 “フランチェスカの再来”ではなく、ただ一人の存在として、どこかへ行けたら――いつしか、そんな願いを抱くようになっていた。

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