1、産まれてきたという罪
※残酷な描写があります
自分は、ただ存在するだけで疎まれる――その絶望を知ったのは、いつの頃だっただろうか。
王妃が第一子を産んだ日、王宮は荒れた。
国王夫妻のどちらとも似ない金髪碧眼の容姿、しかも『悪徳の象徴』と称されるフランチェスカ・エーデルシュタインを彷彿とさせる美しさ。
幾多の調査や審問を経て、不義の可能性は否定された。
しかし、王妃は赤子を拒絶し、王宮から放逐した。
王の世継ぎとなる筈であった赤子は、ザフィーア公爵家の養子となった。
物心ついた頃には、嫌でも周囲の声は漏れ聞こえる――両親が自分を捨てたという事実は、ライアンという少年を苛んだ。
幸いな事に、公爵はライアンを哀れみ、慈しみ、後継として育ててくれた。
そして、死の間際に一つの秘密を教えてくれた。
『この屋敷には、フランチェスカ女王の隠し通路がある』
エーデルシュタイン王朝の頃、フランチェスカ女王は永遠の若さと美貌に執心していた。
その為に、残酷な儀式や実験を繰り返していると噂されるまでになる。
老いと死を捻じ曲げるような振る舞いは、神の教えに反する。
教会と王宮の重鎮達は、女王の退位を進言すべく動いていた。
噂は本当なのか、と証拠を探していた当時のザフィーア公爵は、ある仕掛けを発見した。
王都の地下に張り巡らされた隠し通路と、各所に点在する実験室。
男女問わず幾多の遺体が並び、ここで凶行に及んでいた事は明白であった。
しかし、ザフィーア公爵は隠し通路の存在を隠匿し、女性の遺体のみを教会に差し出した。
それを証拠とみなし、重鎮達に進言された王子が女王を処断した。
現在に至るまで、ザフィーア公爵家は隠し通路の存在を公にすることなく、代々の当主のみに伝えていたらしい。
王宮や教会のみならず、王都の各地に繋がる地下通路――それを独占する事で、利があると確信して。
ライアンが初めて隠し通路を用いてたどり着いた場所は、王宮内の一角。
養父を亡くした時、ライアンは本当の両親に会いたいと思った。
この寂しさを埋める事が出来たら――しかし、彼はすぐに後悔することになる。
王家専用の庭園に、国王夫妻と第二子の姿はあった。
国王と同じ金茶の髪を持つ少年に、慈しむ眼差しを送る大人達。
自分を存在しないものとして振る舞う彼らを見て、ライアンは全てに絶望した。
その後、逃げるように地下通路を抜け、別の場所に辿り着いた。
そこは、平民たちが暮らす住宅街の近く。
市井では金髪碧眼の者は珍しくなく、皆が当たり前のように生活し、幸せを享受しているように見えた。
それからは、隠し通路を通って国中を見て回る事が、ライアンの小さな楽しみになっていた。
公爵家を訪ねる者など殆どおらず、誰にも知られる事は無かった。
“フランチェスカの再来”ではなく、ただ一人の存在として、どこかへ行けたら――いつしか、そんな願いを抱くようになっていた。




