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悪徳のフランチェスカ  作者: 長月 灯
令嬢は感傷に浸る
18/54

18、奸計の一翼

 急な訪問であったが、グリンマー侯爵は早々に面談の機会を設けてくれた。


 エリザベスの説明を聞き、紙片に目を通した侯爵は眉を顰める。

「伯爵家で起きた事は聞いておりますが、まさかリチャード・グラナート殿がそのような事を……」


 信じかねている様子ではあったが、侯爵はエリザベスの保護を申し出てくれた。

「……少し、父君と距離を置いた方が良いのでしょう」

「助かります、侯爵」

 静かに同行を見守っていたザフィーア公爵が口を開く。

「もう一つ、頼みがあるのですが……グラナート伯爵家に騎士を送りたいのです」

 私では、そのような権限を与えられないでしょうが……と彼は悔しそうに俯いた。

「少し大仰な気もしますが……伯爵の潔白を証明する必要もありますしね。私も、陛下に掛け合ってみましょう」

 侯爵は立ち上がる。

 彼の対応に、エリザベスは感謝した。



 グリンマー侯爵夫人と令嬢に手厚い歓待を受けたが、エリザベスは心休まらなかった。

 勧められたお茶や本にも手が付かず、そわそわと外を眺めていたが――


「エリザベス嬢、大変な事に……」

 夜更け過ぎ、グリンマー侯爵が血相を変えて屋敷へと戻って来た。

「まさか、あのような事が……」

 疑って申し訳ない、と彼は頭を下げる。

「あの、一体、何が……」

 戸惑うエリザベスに、侯爵は重々しく口を開いた。


 王宮の騎士達が赴いた際、グラナート伯爵は激昂し帰るよう怒鳴ったらしい。

 王家の書状を見せられて、伯爵は渋々従った。

 騎士達は屋敷中をくまなく捜索し、最後に見つけた。

 裏庭の倉庫の中、芋をしまうような袋に押し込まれていた赤毛の女性を――


「赤毛……まさか、サラなの!?」

 自分が探していた侍女の特徴を聞き、エリザベスは思わず立ち上がる。

「どうして……あの倉庫は……」

「王宮から医師を呼び手当てさせました。一度、目を覚ましたらしいのだが……」


 最初、彼女はひどく取り乱したらしい。

 伯爵家の女中を激しく拒絶し、騎士に縋りついたという。

「お願い、お嬢様を、エリザベス様を助けて! 旦那様に殺されちゃう! アネットみたいにって奥様に言ってたもの! エリス様がこれを見せれば分かるって!」

 そう言って、お仕着せの衣嚢から花を出した――萎れたキツネノテブクロを。


「それからは、ずっと眠っているそうだ。どうやら、飲まず食わずで長い間監禁されていたらしく……」

「サラ……」

 震えるエリザベスの肩を、侯爵夫人が擦る。

「……伯爵家の者達は別の場所に移した。当家とザフィーア公爵家から使用人を寄越しているから安心しなさい。貴女も少し休んでから戻るといい」

 今すぐ会いたい気持ちを抑え、エリザベスは頷いた。



 翌朝、グリンマー侯爵家の馬車に乗り、エリザベスは伯爵家へと戻った。

 出迎えたのは、見慣れぬ顔の使用人達。

 案内された客室では、見覚えのある女性が寝台で眠っていた。


「……サラっ」

 咄嗟に駆け寄るが、傍にいた使用人に止められる。

「……回復には時間がかかるそうです」

 サラは穏やかな寝息を立てているが、顔は青ざめており頬もひどく痩せこけていた。

「そうね……起きたら、また声を掛けてちょうだい」

 使用人に頼むと、エリザベスは客室を後にした。



 エリザベスが次に向かったのは、別館にある自室。

 扉を開けると、焼け焦げたような臭いが鼻を突いた。

 燃えた寝台を見て王太子と義妹の最後を思い出し――頭の片隅へと追いやる。


 衣装棚を開けると、うさぎのぬいぐるみが隅に蹲っていた。

「フランチェスカ」

 エリザベスが声を掛けると、ぬいぐるみはゆっくりと動き出す。

「……おかえりなさい、エリザベス」

 彼女は小さく手を上げる。

「屋敷が騒がしかったけど……貴女、上手くやったの?」

「……ええ、サラが見つかったわ」

 エリザベスは友人を強く抱きしめた。

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