18、奸計の一翼
急な訪問であったが、グリンマー侯爵は早々に面談の機会を設けてくれた。
エリザベスの説明を聞き、紙片に目を通した侯爵は眉を顰める。
「伯爵家で起きた事は聞いておりますが、まさかリチャード・グラナート殿がそのような事を……」
信じかねている様子ではあったが、侯爵はエリザベスの保護を申し出てくれた。
「……少し、父君と距離を置いた方が良いのでしょう」
「助かります、侯爵」
静かに同行を見守っていたザフィーア公爵が口を開く。
「もう一つ、頼みがあるのですが……グラナート伯爵家に騎士を送りたいのです」
私では、そのような権限を与えられないでしょうが……と彼は悔しそうに俯いた。
「少し大仰な気もしますが……伯爵の潔白を証明する必要もありますしね。私も、陛下に掛け合ってみましょう」
侯爵は立ち上がる。
彼の対応に、エリザベスは感謝した。
グリンマー侯爵夫人と令嬢に手厚い歓待を受けたが、エリザベスは心休まらなかった。
勧められたお茶や本にも手が付かず、そわそわと外を眺めていたが――
「エリザベス嬢、大変な事に……」
夜更け過ぎ、グリンマー侯爵が血相を変えて屋敷へと戻って来た。
「まさか、あのような事が……」
疑って申し訳ない、と彼は頭を下げる。
「あの、一体、何が……」
戸惑うエリザベスに、侯爵は重々しく口を開いた。
王宮の騎士達が赴いた際、グラナート伯爵は激昂し帰るよう怒鳴ったらしい。
王家の書状を見せられて、伯爵は渋々従った。
騎士達は屋敷中をくまなく捜索し、最後に見つけた。
裏庭の倉庫の中、芋をしまうような袋に押し込まれていた赤毛の女性を――
「赤毛……まさか、サラなの!?」
自分が探していた侍女の特徴を聞き、エリザベスは思わず立ち上がる。
「どうして……あの倉庫は……」
「王宮から医師を呼び手当てさせました。一度、目を覚ましたらしいのだが……」
最初、彼女はひどく取り乱したらしい。
伯爵家の女中を激しく拒絶し、騎士に縋りついたという。
「お願い、お嬢様を、エリザベス様を助けて! 旦那様に殺されちゃう! アネットみたいにって奥様に言ってたもの! エリス様がこれを見せれば分かるって!」
そう言って、お仕着せの衣嚢から花を出した――萎れたキツネノテブクロを。
「それからは、ずっと眠っているそうだ。どうやら、飲まず食わずで長い間監禁されていたらしく……」
「サラ……」
震えるエリザベスの肩を、侯爵夫人が擦る。
「……伯爵家の者達は別の場所に移した。当家とザフィーア公爵家から使用人を寄越しているから安心しなさい。貴女も少し休んでから戻るといい」
今すぐ会いたい気持ちを抑え、エリザベスは頷いた。
翌朝、グリンマー侯爵家の馬車に乗り、エリザベスは伯爵家へと戻った。
出迎えたのは、見慣れぬ顔の使用人達。
案内された客室では、見覚えのある女性が寝台で眠っていた。
「……サラっ」
咄嗟に駆け寄るが、傍にいた使用人に止められる。
「……回復には時間がかかるそうです」
サラは穏やかな寝息を立てているが、顔は青ざめており頬もひどく痩せこけていた。
「そうね……起きたら、また声を掛けてちょうだい」
使用人に頼むと、エリザベスは客室を後にした。
エリザベスが次に向かったのは、別館にある自室。
扉を開けると、焼け焦げたような臭いが鼻を突いた。
燃えた寝台を見て王太子と義妹の最後を思い出し――頭の片隅へと追いやる。
衣装棚を開けると、うさぎのぬいぐるみが隅に蹲っていた。
「フランチェスカ」
エリザベスが声を掛けると、ぬいぐるみはゆっくりと動き出す。
「……おかえりなさい、エリザベス」
彼女は小さく手を上げる。
「屋敷が騒がしかったけど……貴女、上手くやったの?」
「……ええ、サラが見つかったわ」
エリザベスは友人を強く抱きしめた。




