13、救済の手立て
※残酷な描写があります
リリー・グラナート伯爵夫人に、娘の死亡を伝えたのは家政婦長だった。
彼女はすぐさま倒れ込んだらしい。
食事も取らず臥せっていたが、お茶ぐらいは……と侍女が声を掛けた際に、異変に気付いた。
夫人は深く昏睡し、いくら刺激しても反応がなかった。
「以前に出した薬を大量に飲んだのでしょう」
伯爵家に再び呼ばれた医師は、汗を拭きながら答えた。
「もう少し発見が早ければ、手の施しようがあったかもしれませんが……」
その呟きに、義母の侍女が崩れ落ちた。
「ローズの遺体と同じ部屋に入れておけ」
医師を見送った後、伯爵は執事に命令すると書斎へ戻って行った。
(お母様の時と、同じだわ……)
遺体を一瞥すらしない冷酷な姿に、背筋が震えた。
屋敷の者達が粛々と働き、静かに夜は更けていった。
(これからどうするべきかしら……)
エリザベスは物憂い気分が晴れず、暗く染まった空をぼんやりと見つめていた。
自分の婚姻から始まった、度重なる醜聞。
ペルレ王朝成立以来から続くグラナート伯爵家も、王家との関係が危うくなってしまった。
この屋敷がどうなるか、と考えたら――
(早くフランチェスカに知らせた方が良いわ)
そう決断すると、窓を開けて身を乗り出す。
何か、白いふわふわした感触が、エリザベスの顔に張り付いた。
その衝撃に、エリザベスはその場に尻餅をつく。
「な、何が……?」
そっと瞼をあけてみれば、目の前には二本足で立つ白い――
「ぬいぐるみ?」
エリザベスの膝ぐらいの大きさの、毛足の長い兎であった。
「久し振りね、エリザベス」
軽快に前脚を振る、兎のぬいぐるみ。
「……フランチェスカ?」
姿形こそ違えど、その声は、地下室に住む友人のそれ。
「ええ。偉大なる女王、フランチェスカ・エーデルシュタインよ……少し、小さくなったけど」
困ったように自分の両耳を掴む姿は、とても愛らしい。
無意識に手を伸ばして膝の上に乗せてしまった。
「フランチェスカ……一体、何があったの?」
その問いに、フランチェスカは顔を上げた。
「本当に驚いたわ。井戸に火のついた人間が落ちてくるんですもの。地下室も全焼よ。落ちていたぬいぐるみに移る事しか出来なかったわ……」
「まあ……」
きっと、義妹が持っていたのだろう。
膝の上で跳びはねる彼女を、強く抱きしめた。
「良かったわ、貴女が生きていて……実は――」
エリザベスはここ数日の出来事を語った。
「あら、婚約者が……それに、ローズと王子が、ねぇ……」
フランチェスカは、柔らかい手でエリザベスの頬を包んだ。
「お辛かったでしょうに……」
「ええ……そうなのよ、フランチェスカ」
自らも災難に合った筈だが、此方を気遣ってくれる友人に、エリザベスの心は温かくなっていく。
「私、これからどうすれば……」
王太子の国葬に身内の葬儀、屋敷の管理や他家との遣り取り……。
これからの事を考えるだけで、胸の鼓動が荒くなるように感じる。
「サラの事も先延ばしで……」
「大丈夫よ、エリザベス」
励ますように、フランチェスカは前脚でエリザベスの肩を叩く。
「私がこの体を得たことも、きっと天のお導きよ。この体なら、屋敷の中にいたって不自然ではないもの」
私が調べてあげる、と胸を叩くフランチェスカ。
その姿が頼もしく、そして愛らしかったため、エリザベスは思わず笑みが零れた。
「……問題ありません」
家政婦長が倉庫の扉を閉じる。
そこには、新しい錠前が取り付けられた。
後は、裏庭への通路に柵を設置すれば、忌まわしき場所は封印される。
使用人達の作業を、エリザベスは父と共に眺めていた。
隣にいても、会話は一言も無く。
険しい顔つきで倉庫を見据える彼の真意を、エリザベスは測りかねていた。
ただ、去り際の呟きで、自分をどう思っているのかは理解できた。
「リリー達の葬儀が終わったら、屋敷を出る準備をしろ」




