2話
太陽が優しくふりそそぐ庭の一角で、アビーは沈痛な面持ちでいた。昨日の婚約破棄を思うとこれから先の未来が輝かしいものとは思えなくさせているからだ。
結果的には、婚約は正式に破棄されることになり、第二王子とクラーラは正式に婚約することになった。第二王子のワガママが通ってしまったのだ。まあ通ってしまったというよりかは強引に通したと言うほうが正しいだろう。違約金やらなんやらの手続きを父親と兄がすることとなり、モンゴメリ家は朝から慌ただしい。
アビーは、もう第二王子と結婚することは無くなったし、衆人環視の中で婚約破棄をされてアビーを娶ろうという人間はいないだろうし、しばらく後ろ指を指されるだろう。
何より、今までの努力が全て価値のないものとして否定されたような気がして、何をする気も起きなかった。部屋にいるとラドクリフ王国史や外交についてなどの本が積まれていて否が応でも婚約破棄の件について考えさせられるから庭に出てきたというのに庭にいても思い出してしまう。側に控えるメイド達は皆気を遣って声を必要以上にかけてこないし、母親も優しく接してくれるものだから、いたたまれない。
婚約破棄の件は相当なダメージをアビーに与えたが、昨日の一連の出来事の中で一つ気になることがあった。それはロニーの放った、じゃあ、彼女は僕が貰いましょうか、という言葉である。もし冗談であってもあの言葉をあの中で言える胆力があるのは凄いことだと思うが……いや、どうだろう。
ロニーの真意は二日後に判明した。ドライデン家からアビーとの婚約を正式に申し込んで来たからだ。モンゴメリ家もそれを了承し、結婚の準備をして、半年後に慎ましく結婚式を挙げた。アビーの従兄弟はどうなることかと思ったけど、良かったなと言ってきて、呆けた顔でうん……と返事をしてしまい心配された。
半年間があっという間だった。ロニーは顔を合わせた時からずっと優しかった。きっと幸せになれるだろうと思わせるほど。だからこの結婚に何も異議なんてない、ただあまりにも手早く進み過ぎて思考が追い付いていないだけで。
アビーはずっとどうしてあの時に婚約しようか、なんて言ったのかずっとロニーに聞きたかったが何となく聞けないままにここまで来てしまった。仲を育んでから聞こうと心に決めた……達成されるかどうかは分からないが。
ドライデン家に嫁ぐに辺り、吸血鬼について調べ直した。いわく、
・血を吸う(動物であれば大体飲めるが人間の血の方が質が高いらしい)
・肌が白い
・吸血鬼の数は少ない(上に人間と交わるようになってから吸血鬼の血が薄まりつつある)
・吸血鬼の血の濃いほど能力が高くなる
・吸血鬼は人間と結婚したら結婚相手の血しか飲めない
結婚するにあたって重要なのは最後の項目だろう。結婚したら相手の血しか飲めないのであれば基本離れる訳にはいかない。一日一回で足りるらしいが遠方に行く場合は着いていかないと駄目だろう。だから夫婦仲をあわよくば良く、出来れば悪くはさせたくなかった。
とにかく頑張ろう、アビーはそう心に誓った。
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サブタイトルを2話に変えました。