約束の日。
「だって。だって……。姫さん女の人じゃないですか……。好きになったって迷惑かけるだけ……。どうしようもないですもん……」
あたしは泣きながら、なんとかそれだけの言葉を絞り出した。
約束の日。
わりとお洒落なフレンチのお店で食事して。
その後連れられるままに栄のちょっと裏通りにあるショットバーに来て。
国広さんおすすめだっていうジントニックというお酒をいただいた。
思いのほか口当たりが良くて美味しいそのお酒を飲んでいるうちになんだかすごく酔ってきて、あたしは、
ああ、このままこの人とお付き合いすれば幸せになれるかな、
なんて気持ちになってきて。
「あたし、国広さんの彼女になれたらいいな」
なんてボソッと呟いた。
言ってしまってからすごく大胆な告白だったと自分の中であたふたしてた所に。
「君。それほんとに本心? もう少し考えてみたほうが良くない?」
と、思いもかけないそんな言葉が返ってきた。
カウンターで此方を見て優しく微笑む国広さん。
優しいその笑みと裏腹に、その目の奥はこちらを見透かすようで少し怖い。
確かにあたしの今の気持ちは打算の産物だ。叶わない恋を諦めるため、国広さんで妥協しようとしてる。
「だって優香、姫の事が好きなんじゃない?」
国広さんのその言葉に、あたしは涙が出て止まらなくなった。
☆☆☆
いつからだったろう。周りのみんなが言う好きとあたしの好きがすこしずれているのに気がついたのは。
周りの子が先輩や同級生の男子と付き合ったり別れたりしている中、あたしだけ取り残されていた。
告白は何度かされた。でも。そう言う気持ちになれなくて。
恋をしなかったわけじゃない。
初恋と自覚したのは中学一年の時。相手は部活の先輩だった。
バレー部に入部したものの、背も低くて運動神経も鈍いあたしはみんなの足手まといな状況で。
毎日のように体育館の倉庫で二年の先輩に叱責を受けていて。
その時も。
「もう、ボールを片付けるだけにどんだけかけてるの!」
「あんた真面目にやってるの?」
「やる気がないんだったらとっとと辞めたら」
そう。
何人かの先輩に取り囲まれてそう怒られて。
あたしが泣きそうな顔をして黙り混んでると、
「泣けばいいってもんじゃないよ! ぶりっ子もいい加減にしな!」
とか火に油を注いだらしくもっと叱責が激しくなり。
もうどうしていいかわからなくなっていた所に通りかかり助け舟を出してくれた三年の先輩、遥さん。
「あんたたちいい加減にしな。やりすぎだよ」
えーだってあたしたちだって一年の時には先輩にしごかれてー
御浜だけひいきですかー、ひどいー
そうぼやく二年の先輩たちを追い立て、
「大丈夫? 御浜さん」
そう優しく微笑むその姿にあたしは恋に落ちていた。
女性の先輩に恋するなんて、恋に恋した状態だって友達には笑い飛ばされた。
思春期には良くあること、だって。
あたしだって女性が好きなわけじゃない。
好きになった人がたまたま女性だっただけ。
その時はそう思ってたし、今でもそう考えている。
姫さんを好きになったのも、姫さんだから、で。
女性だから、じゃ、ない筈。
普通に男性を好きになったこともあった。
だから。
好きの基準がみんなと違う? そう悩んだりもしたけど。結局、あたしには恋って本当のところよくわからないのかもしれない。
☆☆☆
「優香ちゃん、一つ俺とゲームしない?」
そういたずらっぽく笑う国広さん。
あたしはその言葉にちょっと驚いて。いつのまにか涙が止まっていた。