腐れ縁。
「んー、どうする? 優香ちゃん、飲み直す?」
亜紀さんがそう声を掛けてくれるまで5分ほどは固まって居ただろうか、時計がもう10時になってる。
地下鉄はあるけどその先のバスが危うい時間。
今帰るかもうちょっと居てタクシーを使うかの選択に迫られる、そんな時間。
そうでなくてもここに来るのはお財布的にはけっこうキツイ。散財なのだ。月に一度のお楽しみなのに、このまま帰るのも本当は少し切ない。
「んー。じゃもうちょっと飲んでく。カルアミルク下さいな亜紀さん」
グラスは片付けられていたから次の飲み物をとあたしはあまいお酒をお願いして。
席を一つずれて、国広さんの隣に腰かけた。
「御浜さんがこんな所で飲んでるなんて、想像つかなかったな」
「あたしもです。国広さんってこういう所来てるように見えなかったです」
「はは。そんな堅物に見えてた?」
「んー、そうかもですよー。っていうかお仕事以外で飲んでる風に見えなかっただけですけど」
「これでも昔からこの辺で飲んでたんだよ? ここに来るのは初めてだけどね」
「え? いきなり飛び込みですか?」
「まさか。実はここのママと同級生でさ、前から誘われてはいたんだけどねなかなか来れなくて」
「えー、姫さんとお友達なんですか?」
「ああ。あいつ俺に、『彼女連れて来い』なんて言うもんだからさ。なかなか機会が無くってね」
ああ、国広さん彼女居ないらしいもんね……。
けっこうイケメンなのにな。とか余計なこと考える。
「あー実は姫さんの事が好きなんだったりして」
「そんなんじゃ、ないよ。腐れ縁。俺とあいつはそんな恋愛ごととは無縁だな」
う、あたしずるいな。ちょっとした自己嫌悪とその言葉に少し安心する自分と。
「そっかー。ふふ」
笑みが零れる。
「国広さん? でいいかな? この子笑い上戸だからね、笑顔が可愛いからって飲ませすぎないでね」
「えー亜紀さん、あたしかわいい?」
「ほら。もうかなり酔ってる。かわいいかわいい。優香ちゃんはかわいいよ」
「あははー。ありがとう亜紀さん大好き」
そう言ってあたしはカウンターに突っ伏して。
記憶がそこで途切れた。