姫。
「で、今は優香ちゃんだれとも付き合ってないんだ?」
「そそ。まだだれとも、ね。まだ真剣にそういう関係になった事ないんだよね」
「もったいない。 優香ちゃんかわいいからよりどりみどりだったろうに」
カウンターに立つのは亜紀さん。
宝塚系美女。
雰囲気は男性みたいな所もあるけど、どう見ても美女、だよなぁ。
背もすらっと高いし綺麗。
この間からカウンターに入ってる従業員さんなんだけど、ちょっと不思議な雰囲気な人。
「なんだったら俺と付き合う? デートしよっか明日の日曜日」
「あは。軽すぎるでしょー亜紀さん。っていうか亜紀さんってそういうキャラだった?」
「あー、信じてないな。まぁしょうがない? っていうかちょっと優香ちゃんと昼間に会ってみたかったのは本気」
「そうだねー。楽しそうだけど亜紀さんとデート。でもねー」
ガラン
「あ、いらっしゃいませー。お一人? こちらの席にどうぞ」
カウンターの真ん中に新規のお客案内する姫さん。
「優香ちゃんごめんね」
そう言ってちょこんとあたしとそのお客の間に座る。
亜紀からおしぼりを受け取りそのお客にさり気なく渡し、メニューを見せながオーダーを取る姫。
今日はボックスに2組お客さんが来てて、姫さんはそっちにかかりきりだ。
こういう機会でもないと声も聞けない。
そんな事を思ってお酒を舐める。もう酔ってる? あたし。
シャンシャンって亜紀さんが氷を砕く音。
そのお客が頼んだのはあたしと同じブランデーのロックだった。
姫さんもボックスに戻り、亜紀さんも目の前の新規のお客さんに一言二言声をかけてる。
あたしは目を瞑り、かかっているBGMに聴き入った。
そろそろ、帰るかな。
今夜はまだまだお客が来そうだ。
静かな雰囲気が好きだけど、とか思いっきり自分勝手な事考えて。
でもお客が入らなくてここが潰れちゃっても嫌だしなぁ。って、そんな風にも考えつつ。
「亜紀さん、そろそろあたし帰るね」
そう会計を促して席を立った。
「え? 御浜さん?」
思わぬ声にそちらを見ると……。
そこにいたのは会社の先輩。国広さん?
さっきの新規のお客さん、あたしの横に座ってた人がそうだったみたい。
「国広さん……」
驚いて。
あたしはそう一言呟いて固まった。