はじまり。
「君。それほんとに本心? もう少し考えてみたほうが良くない?」
街の裏通りにひっそりとあるショットバー。よくわからないけどお酒の瓶が目の前いっぱい並んでる。
カウンターで此方を見て優しく微笑む彼。
ああ、あたしは今彼に告白をしたところだというのに。帰ってきたのはそんな言葉だった。
ほんとに彼が好きなのか?
そう改めて考えると実は少し違うのかもしれない。
ただただ今の雰囲気に飲まれ、こういう気持ちになっているだけ、なのかもで。
「だって優香、姫の事が好きなんじゃない?」
って。
ああ。ダメだ。
あたしは嘘をついている。
彼のその言葉に涙が止まらなくなったあたしは。
突然泣き出したあたしを宥めるでもなくじっと見つめている彼の顔をみながら、いったいどんな言葉を話していいか、この人に本当に申し訳のない事をしたのではないか。そんな罪悪感で思考がパンクしてしまっていた。
☆☆☆
「ねえ優香ちゃん」
場末? でないか。 繁華街のビルの6階に入っているちょっとお洒落なスナック? バー? 飲み屋さんのそういう名前は実はよくわかっていないんだけど、そんなお店。デルタ‘s bar。
大学のサークルの先輩に連れられて来たそのお店。
姫と呼ばれるママさんがすごく気さくで良い人で。あたしはこうして何度も訪れては色々と相談にのってもらっていた。
6席あるカウンターの一番左端があたしの特等席。
こっそりといつもそこに座って。
普段は周りの絵とかお洒落な陶器の照明とかそういったものを眺めながらアランビックっていう名前のブランデーを舐める。お酒の名前なんか良くわかっていないけど、姫さんに勧められたそれは凄く口当たりが良くて美味しかった。
グラスに氷を入れほんの少しのお酒を注ぎ。
舐める様に飲む。
そんな至福な時間を楽しみ。
姫の顔を眺める。
「大丈夫? 飲みすぎてない?」
そう優しく微笑んでくれる姫さんに、あたしは憧れていたのかもしれない。
卒業して会社員となった今も、月に一度はなんとか時間を作って訪れる。そんな感じでいたのだけど。
「あは。酔った様に見えますかー?」
あたしはそう甘えて。
「顔色からはまだ大丈夫そうに見えるけどね。それだけ笑顔になってるって事は相当酔ってるってことじゃないかな。優香ちゃん、笑い上戸? っていうか兎に角酔うと相好が崩れるからね」
ああ。一人で隅っこでにこにこしてるってことか。
まあしょうがないなぁ。
あたしはここでこうして姫の姿を眺めてるのが一番幸せなのだから。言えないけどねそんな事。