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もしも十年前に戻ったら  作者: 茶々
プロローグ 二週目の始まり
8/28

#8道を示す立場


 僕たち家族は、神奈川県に引っ越した。

林さんの連絡先は聞いていない。

あの後習字教室に行くことはなかったので、林さんと会うことはなかった。

最後に見た顔があんなに悲しい顔なのは正直辛い。

さすがに、簡単には切り替えることのできない出来事だった。

 だが、切り替えなければいけない。

林さんもきっと僕のことは忘れてくれるだろう…。


「なわけあるかよ…」


 あの時の林さんの表情を見てそんなことを思えるわけがない。

そして僕も忘れることができない。

だが、僕は頑張らなければならない。

二週目を無駄にしないために。頑張らなければならないのだ。


 今は夏休み中なので、とりあえず勉強をする。

父には習い事の教室を探してもらえるように頼んでいる。

習い事は変わらず習字とピアノと学習塾だ。だが転校して、落ち着いたら、日曜日に英会話の教室を入れるつもりだ。重要だからね。

 とりあえず宿題を進める。

そういえば引っ越したことによって、兄と部屋が別々になった。

これは本当に助かる。

兄からやっかみを受けることが多かったので。


 兄は今中三だ。

本当なら受験勉強をするべきなのに全然していない。

僕が優秀になったことによって、少し未来が変わり始めているかもしれない。

おそらく兄は高校に行かないつもりだろう。

親も僕にばかり構い、兄のことを失敗作かのように扱ってしまっている。

少し申し訳ないが、兄も頑張ればいいだけの話なので、救いの手は差しのべない。

まあ兄は、僕みたいに二週目なわけではないので、少しかわいそうだったりするけども。

 

 そんなこんなで夏休みが終わった。

僕は新しい中学に通い始めている。

部活は変わらず演劇部。

 夏休み後最初の中間テストが終わり、結果が出る。

学年一位だった。

 そのせいか、僕は先生やクラスメイトから一目置かれる存在になっていた。

まあ転校生が頭よかったら、それなりに注目するだろう。

しかも僕は別にコミュ障というわけでもない。

普通に話すし、笑いもする。

だから嫌われるわけでもない。


 仲のいい友達もできた。

前の人生で中学から十年前に戻る直前までずっと仲の良かった、吉田だ。

前の人生では、アニメやゲームを勧めて、案の定はまって、一人暮らしを始めた後もずっとオンラインゲームをする仲だった。

僕がくそ人間だったからか、そいつも順調にくそ人間になっていき、一緒にくそ生活をやっていた。

 だが今回の人生ではそういう感じの関係ではなく、普通に仲良くなっている。

そいつも最初は普通に勉強ができていたので、一緒に勉強したり、一緒の塾に入ろうとも誘っている。

そうなれば一緒にまともになっていけるだろう。


 そんなわけで新しい生活もそれなりに充実して過ごしている。

勉強ができて普通に性格もいいからか、女子から告白されることもあった。

だが、全部断っていた。

理由はただ一つ。林さんの存在だ。

未練というわけではない。だがなんとなくほかの人と付き合う気にはなれない。

もしかしたら僕も林さんのことが好きだったのかもしれない。

 中一も終わりが近づいていた。

中一最後の期末試験が終わり、結果が出る。

僕は学年トップで、なんと吉田が10番目に点数が高かった。

前回の人生からは想像できないから、少し笑ってしまった。


 そして、三月。

兄が卒業する直前になった。

そんな時だ。

兄が家出した。



――――――――――――――――――



 さすがに親もだいぶ心配している。

だが僕はさほど心配していなかった。家出の理由は明確だし、どこにいるかも予想できる。

なので僕は親に、「いる場所の心当たりがあるから行ってくる」といい、夜の電車に乗った。

親は当然一緒行くと言っていたが、今兄と親が会ってしまうのはよくない。まあ僕が会いに行くのもよくないかもしれないが、親よりはましだと思う。

とりあえずいるであろう駅に向かう。

 兄はゲーセンに入り浸っていた。

そのゲーセンがある場所の近くのマックだ。

 なぜここにいるのかと思うのかというと、前回の人生で僕は兄と一緒に家出していた。

その時にそこに行っていたのだ。あの時は兄についていくだけだったので、兄の行動は一人でもさほど変わらないだろう。


 そんなわけで、そのマックについた。

二階席の端っこ。見覚えのあるシルエットがあった。


「なにしてんの?」


 僕は兄に話しかける。

イヤホンをつけているせいで気づいてくれなかった。

なので肩をたたく。

 そうするとこちらを振り返って、めちゃくちゃ驚いた顔をしている。

だがその表情もすぐ怒りの表情に変わり、こちらをにらんでくる。


「なんで来たんだよ」


「いや、家族が家出したら探しに来るでしょ普通」


「なんでここが分かったんだよ」


「だって恭弥いつもこのあたりのゲーセン入り浸ってんじゃん、だったらここにもすぐたどり着くよ」


「なんでお前はそんなに…」


 そこで言葉が途切れる。

まあ言いたいことはわかっているから、途切れても問題はないが。


「お父さんとあいつは?」


「来てないよ。というか来ないでって言っといた」


 ちなみにあいつというのは母のことだ。

兄は母代わりの人を拒絶しているので一度もお母さんとは呼んだことがない。

僕は普通に家族として過ごしているが。


「なんで…」


「だって、会いたくないでしょ。ついでに言うと別に連れ戻す気はないから安心して。ここにいれば補導されることもないだろうし、明日あたりに適当に帰ってくればいいよ」


 ここで一晩過ごしたことがあるのでおそらく補導されることはないと思う。

まあ前回の人生の話だが。


「なんでお前はそんなに大人なんだよ…弟のくせに」


 まあ精神年齢は23歳だからなぁ…。しかも前回の人生で失敗したおかげで色々と学んでるしね。


「経験の差かな。殆ど毎日の放課後に習い事して、大人と話すことが多かったからだと思う。お前もなんか初めたら変わるかもよ?」


 さすがに少しかわいそうなので色々と助け船を出したい。

そんな気持ちもある。


「経験ね…まあ確かにお前は全部続けられてるしな…。そりゃあ違うか」


 なんでか兄がおとなしい。

今回の家出と、僕と話したことで少し変化が訪れてるのかな?だとしたら今色々と教えるべきかもしれない。


「高校は行くの?っていってももう間に合わないけど」


 今はもう三月だ。

現状受験していない兄は今年高校に行けないことは確定している。


「もう無理だよ。俺はお前みたいにはなれないからな」


 自分自身をあざ笑うように話す。

だから僕は兄にヒントを出すことにした。

まるで昔の自分を見ているように思えたから。


「ねえ、中学卒業して、来年になったらアルバイト始めてみなよ。そして、パソコンを買ってみなよ」


 というようにおすすめをする。


「パソコン?」


「うん。パソコンがあれば世界は広がるよ。家にいながら仕事をすることも出来るし。お前が今までに触れてこなかったことも多く学べる。もしかしたらそれを本職にできるかもしれない」


 というのはバイトをさせるための口実でありながら未来を知っている僕ならではの助言だ。

僕の兄は機械にめちゃくちゃ強い。プログラミングを本やネットだけで学びソフトを作って収入を得ている時期があった。大した額ではなかったが十分に才能はあるだろう。


「でも…」


「そんなんだからお前はそうなんだよ。行動せずに諦めるのは本当によくない」


「…分かったよ。卒業したらバイト探して頑張ってみるよ。お前の言う事だ、少し信じてみるよ」


 なんだかんだで僕のことは認めてくれてはいたようだ。

ちょっとうれしい。


「まあ僕もサポートはするよ。お父さんに恭弥の道を邪魔したりしないように話をしたりとかね」


「ああ、ありがと」


「じゃあ僕は帰るね。明日には帰ってきてね」


「ああ、わかった」


 兄が普通に感謝してくれる。これで兄ともいい関係に戻れたらいいな。

そんなことを期待しながら。僕は家に帰った。

今日は習い事を休んでしまったが、それ以上の収穫はあったろう。

今後の恭弥に注目だね。

 さて、僕は僕のことをやろう。もうすぐで中学二年だしね。




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