#4失敗しないと誓った日
昼休みも変わらずに勉強をして、五時間目の社会も適当に終わらせて、やっと学校が終わった。
時間的には特に長くないのに、めちゃくちゃ長く感じた。
周りの子たちが、放課後遊ぶ予定を立てているが、無視して帰る。
洋介がなんか言っていた気がするが放置だ。
今はさっさと帰りたい。
親が共働きだったので、放課後は祖母の家にお世話になっていた。
なのですぐに祖母の家に向かう。
ドアを開けてそのままいつものように入る。
やばい、めちゃくちゃ安心する。
少しの違いはあるが、十年後と全然変わっていない内装にとてつもない安心感を抱いてしまう。
「おかえり颯ちゃん」
十年後と少ししか変わっていないばあちゃんが迎えてくれる。
僕は泣きそうになってしまった。
「ただいま」
周りが誰も知らない人のように感じて、不安だらけだった中、ここだけは全然変わらない。そのことに心の底から安心しているのだ。
とりあえずランドセルを下ろし、冷蔵庫の中に入っている麦茶を飲む。
「ふー」
めちゃくちゃ落ち着く。もうここで引きこもりたい。
そう思ってしまうが、そんな暇はない。
すぐにランドセルを開けて勉強道具を取り出す。
一応父から、帰ったらこの分の勉強をやってから遊びに行きなさい、と言われていたので、帰ってきてすぐに勉強を開始してもばあちゃんは何も不思議がらない。
あぁ、落ち着いて勉強できるってなんて素晴らしいんだろう。
横にはばあちゃんが持ってきてくれたお菓子もあるし、ずっとここで勉強していたい…。
環境が相まって僕はめちゃくちゃ勉強に集中できた。
お陰で今の部分はもう問題ない。
「あとはほかの教科かな…」
そう思って理科の教科書を取り出そうとしたところで、玄関のドアが開く。
「ただいまー」
「おかえり、恭ちゃん」
兄、恭弥が帰ってきてしまったのだ。
兄は今中1で、授業が小学校よりも長い。
さらに結構時間が遅いので六時間授業の日だったのだろう。
兄が帰ってきたことによって何が面倒なのかというと。
「おじゃましまーす」
「こんにちはー」
「お、颯太」
といった感じで、友達を三人もつれてきているのだ。
もちろん全員知り合いだ。
というか、一人は、今でも付き合いがあった。
唯一かかわりが続いていた、北海道の友達だ。
こいつとの縁は大事にしたいので適当にするわけにはいかないが、今は勉強をしたい。
「颯太も一緒にゲームする?」
兄がそう聞いてくる。
「いや、今は勉強したい」
ただただ本音をぶつけた。
全員が少し驚いた顔をするが、特に何も言わずに上の階に上っていく。
そんなに僕が勉強してちゃおかしいのか。
まあとりあえず、これでまた勉強ができるぞ。
――――――――――――――――――
「お邪魔しましたー」
そういって兄の友達が帰っていく。
兄はそのままテーブルを挟んだ僕の対面の椅子に座る。
僕は勉強を中断していた。
テーブルに食事が運ばれ始めていたからだ。
見覚えのある料理たちが並んでいく。ばああちゃんの定番料理だ。
「颯太今日はどうしたんだ?」
兄がそんなことを聞いてくる。
まあ対して勉強せずに遊んでばかりだった弟が急に勉強しまくってたら聞きたくもなるだろう。
「いや、勉強したくなっただけだよ」
そなままの回答をする。
せっかくの二週目の人生だから後悔したくない。だから勉強をしたくなった。それだけだ。間違ってはいない。説明は省いているが。
「ふーん。まあいいけど」
このころは兄と仲は良かったが、兄がわざわざ弟と遊ぼうとはしなかった。
中学生にもなって、弟ばかり遊んでいるのが恥ずかしくなったのだろうと、今だからわかる。昔は急に遊んでくれることが減った兄が嫌だったが。
このころから僕は一人でゲームをすることが多かった。そんな悲しい記憶がよみがえってきている。
まあ今はその方が都合がいい。勉強に集中できるから。
そんな感じで適当に考えごとをしながらテレビを見ていたら、夜ご飯がすべてテーブルに並んでいた。
今の時間は18時だ。違和感しかない。
いつもなら大抵バイトをしている時間だ。働かなくていいって幸せだ。
子供の頃って、こんなに時間が有り余っていたのか。この時間を勉学に使っていなかったのが理解できない。
対して難しい勉強をする必要もないのに。ほんと戻ってこられてよかった。戻ってきた理由はわからないが。
夕飯を食べ終えた後はいつも、テレビを見ながらダラダラしていたはずだ。
要するに勉強ができる時間だ。
予習をしておこう。
まあ一度習ったことのあることだから、復習なんだが。
少し時間がたったあたりで、家に帰る時間になった。
20時前あたりに、家に帰るのが日常だった。
ばあちゃんが車で送ってくれる。
今だから思うが、至れり尽くせりだ。ご飯も作ってくれて、家まで送ってもくれる。感謝しかない。
家につき、まだ親は帰ってきていなかったので、ふろを沸かして、寝る準備を始めておく。
親はいつも21時過ぎぐらいに帰ってきていた。
中学のころに比べると、だいぶ早い。忙しさが変わっていたのだろうか。
風呂ができるまでは、部屋の状況把握だ。
兄とは一緒の部屋で、勉強机が背中通しでぶつかっている感じで置いてある。
勉強中はお互いに姿が見えないし話もできない形になっている。
めちゃくちゃ都合がいい。
とりあえず、今日親が帰ってきたら塾に行きたいと言おう。
まずは勉強に集中できる時間を増やしたい。
あとは、ピアノと英語、そして習字も習いたい。
ピアノは年をとってからやっておけばよかったと思う瞬間があったからで、英語は絶対に役に立つ。習字は年をとってから字が汚いのが嫌になっていたのでやっておきたい。
全部やりたいが、さすがに全部はやらせてもらえないだろう。
まあそうなったら、英語だけでもいい。
何よりも重要だからな。
風呂が沸いたので風呂に入る。
兄は、机でラノベを呼んでいたので、何も言わずに先に風呂に行く。
兄は親に内緒でラノベを買っているので、親がいないときに読めるだけ読みたいのだろう。
あの頃はぼくもそうだったが、そのラノベはもう読んだことあるし、今後出るラノベも好きなものはあらかた読んでいる。
今更読む必要はない。読みたくなったら読めばいいだろう。
風呂の中で、自分の過去を振り返る。
前回の人生は、本当にくそだったな、と。
僕が小学五年生の時に兄が母の代わりをするという人を露骨に嫌い始めて。
僕は兄の後ろについていくだけの性格だったので、それに同調して徐々に嫌っていた。
まずその時点で僕の意思はない。
今思うと、精いっぱい家族になろうとしていたことが分かる。
まあ、兄が反発する気持ちもわかるが。
僕は本当の母の記憶もほぼないので、特に反発しようという気持ちはなかった。
そして、中学に入ってすぐに転校して北海道から関東に行った。
直後、僕は環境の変化に耐えれずに、学校を休みがちになっていた。
中二の時には、合計70日も欠席していた。
だが、中三で高校に行きたいと思い、勉強を真剣にやった。
結果高校には行けた。私立で親に負担はかけてしまったが。
だが、僕はすぐに不登校になった。
そしてそのまま学校をやめた。
今一番後悔しているのは、そこで学校をやめてしまったことだ。
そして、その時点で一人暮らしをしていた僕は、親に高卒認定を取ると言って、引きこもった。
バイトもせず、ただただ怠惰をむさぼる日々。
二度と戻ってこない時間だと何度も後悔をした。
そしてなんとか高校二年生の年で高卒認定を取り、大学受験資格を手に入れた。
そして、めちゃくちゃ頭の悪い大学に入り、バイトをしながら、それなりに通っていた。
だが、大学二年になり、行く意味を感じなくなり、通わなくなっていた。
バイトだけして、趣味にだけ全力で生きて、楽しくはあるが、色々ともったいない日々を歩んでいた。
そして昨日、いつも通りバイトから帰ってきてゲームして寝たら、こうなっていた。
なぜ戻ってこれたのかはわからない、だが、やり直せるチャンスを無駄にするのは嫌だ。
何度も考えてきた、やり直すチャンス。本当に訪れたのなら、後悔しないように全力で生きよう。
「よし!」
僕は風呂につかりながら自分を鼓舞するように叫んだ。
週一で土曜の0時に更新します。