#1もしも十年前に戻ってきたら
「は?」
目が覚めた僕は、第一声に疑問の声を上げた。
まず目入る景色が昨日とは違うからだ。
そして耳に入ってきた自分の声にもう一度疑問が浮かぶ。
「え…、は?」
疑問が尽きない、そりゃあそうだろう。耳に入ってきた声が、自分の声ではないし、明らかに高すぎる。
この声が自分の声なのかさえ疑わしくなる。これはまるで、声変わり前の男子の声だ。
僕は布団から起き上がって周りを見渡す。
そして思い出す。
「子供のころの部屋…?」
わずかな記憶だが、実際みることではっきり思い出す。
この部屋は小学生のころに過ごしていた部屋だ。
「でも、なんで?」
僕は中学一年の時に引っ越して、その後も引っ越しを繰り返して、この家に住んでいたのは遠い昔だ。
なのになぜか、今この部屋にいる。しかも昔の記憶のままのこの部屋に。
「あ」
そこで思い出した、じぶんの声が高いことに。
「嘘だろ…?」
自分の想像していることが事実な訳がない。
そう思っていたが、その想像を確信付ける事が直後に起こる。
「何しゃべってんの?」
二段ベッドの上で寝ていた兄が僕に声をかけてきた。
当然声は高い。
やる気のなさそうな低い声ではなかった。
「いや、特に何も」
昔の僕がどのような感じでしゃべっていたかなど、記憶があるはずがない。だから、できるだけ話さない。
とにかくだ、兄に話しかけられたことで確信した。
僕は子供に戻っているらしい。
「まあいいや、ていうか何してんの?」
「いや、変な夢見て戸惑ってただけ」
勉強机の前に突っ立っている僕が不自然に見えたのだろう。兄が疑問を投げかけてくる。
これ以上不審がられるわけにもいかないのでさっさとリビングに向かおう。
そう思ってリビングに行くドアを開ける。
まずは一人になって現状を把握しよう。
「おはよう」
リビングに出たら、父と母。まあ実の母ではないが。とにかくその二人が朝食の準備をしていた。
たしか、こういう時は…。
「テーブルに運ぶものある?」
「サラダの皿お願い」
よし、違和感はなさそうだ。
朝起きたらいつも配膳を手伝っていた記憶があった。だから記憶通りにしたがどうやら正解だったようだ。
配膳した後は椅子に座って全員が座るのを待っていたはずなので椅子に座る。
やっと落ち着ける。とにかく状況把握だ。
「トイレ行ってくる」
そういって僕は立ち上がる。
トイレに入った僕は大きくため息をついた。
「はぁ…、どういうことだよマジで。昨日まではいつも通りクソみたいな生活してたはずなのに…。なんで小学生に戻ってるんだよ」
小声で愚痴をつぶやく。
とりあえず状況確認しよう。そう思いトイレに貼ってあるカレンダーに目を向ける。
「えっと…今は…、は!?2010年!?」
流石に衝撃がでかすぎて声が大きくなってしまう。
リビングまではそれなりに距離があるので、おそらく声は聞こえてないと思う。
「ちょうど10年戻ったってことか…?ということは今は、小5か…?」
去年の九月僕は成人していた。
そして今年は2020年だった。
日にちも昨日の日付だった二月三日から一日進んだだけだったので、本当にちょうど十年戻っただけなんだろう。
十年戻っただけ、ってのはおかしいだろう。こんな大ごとがだけで済まされるわけないのだから。
初めまして茶々と申します。
この小説のプロットは私自身の人生です。
この物語の主人公が十年前に戻らなかったのが今存在している僕です。
ふとした日の夜、十年前戻れたらどうするだろうなぁ、と想像したのが始まりでした。
妄想を書いていくうちに面白くなってきたので小説として投稿してみました。
色々とおかしい点が多い小説になるかもしれませんが、楽しんでいただければ嬉しいです。