動物調停補佐官クオリ - 始まり -
夢に出てきた優しい蛇に短いお話を付けて上げました。
小さな青縞蛇のクオリは新任の動物調停補佐官です。
調停官のリカンと共に畑周りでの揉め事を丸く収めるのが仕事です。
リカンは大きな緑蛇。
動物界では有名な七弁護士の一人でもあります。
もともと畑は青蛇セイルの管轄でした。
セイルは名を馳せた七弁護士で人間にも良く知られた存在でした。
いつも堂々としていて、媚びない姿勢が心を惹きました。
食料分配の助けをするのが調停官の主な任務です。
畑から作物を取りすぎると人間が罠や柵で邪魔をするので人の事も考えます。
脅かすのも良くありません。
人に嫌な思いをさせると自分たちに返ってくるのです。
その点、セイルは上手く取り仕切っていました。
畑で動かず鼻を効かせ、動物界、人間界両方のルール、思惑に精通していたのです。
何時しか農民にとってもセイルは欠かせない畑の主となっていました。
ある時、少年が兎の赤ちゃんを持ち帰ろうとしました。
あまりに可愛くふわふわで、飼いたくなったのでしょう。
横で見ていたお母さんはピーピー声にならない声で泣いています。
セイルは思わず兎を抱く少年を怒鳴りつけました。
「赤ちゃんを放せ、さもないとお前なんか飲み込んでしまうぞ!」
少年は驚き怯え、兎を置いて逃げました。
話は直ぐに村中に伝わりました。
人々は集まり相談します。
「退治しよう」
それが結論でした。
動物達にとっても同じです。
人に恐怖を与える代表がいては困ります。
そう、セイルは人に干渉してはならないという調停官の掟を破ったのです。
察したセイルは自ら姿を消しました。
暫くして動物と人間の関係が、ぎくしゃく仕出しました。
偉大な調停役がいなくなったのだから当然です。
動物達は食物を奪い合い、奪われた農民は苦々しく対策を考えます。
双方が疲れてきた頃、セイルに一喝された少年が言いました。
「戻ってきて、悪いのは僕なんだから」
村人達にも同じ気持ちが芽生えていました。
少年以外は直接セイルの言葉を聞いていないので尚更です。
少年の心に動物達も同意しました。
新たな調停官は動物だけでなく人間にも顔が利く者を選ぼう。
セイルのように。
そしてリカンが選出されました。
そのリカンを見張る役目もあるのでしょう。
補佐役も設けられました。
クオリです。
リカンは普段は何もせず黙っています。
たまには調停官らしい発言をしていたセイルよりずっと静かです。
しかし誰かがクオリの進言に詰まらない文句を付けると鋭い眼差しで黙らせます。
心強い味方の後ろ盾もあって、クオリは殆どの場合、物事を解決へと導きます。
少しお喋りすぎる嫌いはありますが。
そんなクオリにも一つ、どうにもならない問題があります。
それは、みんなの願いです。
「セイルに帰ってきて欲しい」
少年の他は口にしなかった想い。
セイルを胸に、今日もクオリは畑を走り回ります。
仲間のため、そして人のため。
リカンは落ち着いた目で彼らを追っています。
どっしりリカンと、ちょこまかクオリ。
二人のお話は、これから。