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はばたけ雛鳥  作者: 海鈴
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平穏なる部活と新顧問

生物室に入ると、三村におっそーいと言われた。

そんな三村の周りにはこの部屋にいるであろうほとんどの後輩が、前と同じようにそこにいた。

三村は性格故かなんなのか、後輩になつかれやすい…というより、多くの後輩に多分先輩だと思われていない。そう言った訳で、基本的に部活中なんかはいつも、後輩に囲まれていた。

そんな三村にごめん、とだけ返すと別にいいけどねぇーと別に気にしてないといったふうに返事を返してきた。

そんな三村に俺の後ろにいた、元山さんが先輩ー!と声をかけた


「んお、ふぅちゃん、朝ぶりー!」

「えへへ、先輩朝ぶりだよー!」

「今朝の話を聞いて、気になったから来てみちゃったよー」

「ありがとう先輩ー!」


…今朝の話…?


三村が今日部活に顔を出す理由はてっきり、部誌を渡す付き添いだけだと思っていたが、それだけでは無かったというのだろうか。

卯月はそんな二人のやりとりを見て、内容がわかっているのか、今日一番困ったような顔をした。

卯月は知っているのだろうか…?

気になった俺は、三村に声をかけることにした。


「三村、今朝の話って一体…?

たしか三村、今日は部誌渡しの付き添いじゃ…」

「あー…ね、いや、今日は元々この部活に来るって朝決めていたのよ

ふぅちゃんと、ここのざきざきの話を朝、たまたま聞いてさ」


そう言ってちらりと崎村さんを見やる。


「それは、多分後輩ちゃんたちから話してもらった方が早いから、とりあえず置いておいて、私はその内容聞いて、ちょっと心配になったから様子見に来ようと今朝決めてたんだ

それで休み時間中に、かすみが部誌配りに行くからついてきてって言うから丁度いいと思って

部長くんにはしっかり話してなかったねー、ごめん」


そういって珍しくちょっと申し訳なさそうにした。

そんな彼女に大丈夫。気にしてないよ、と返す。

にしても、だ。この部活に似つかわしくない、どこか不穏な気配を感じる。


この部活は伝統的に、自由気ままに、マイペースに、好きなことをみんなで自由に、そして仲良くやっていく…そんな感じの風潮であるのがうちの部、生物部だ。

そんな少なくとも俺が良いなと思っていた伝統が、なんとなく崩れるような、そんな不穏な気配がする。


いや、そんなことはきっと無い。


そう思い、不穏な考えを押しやる。

考えすぎは悪い癖だ。直さなくては。


気を取り直し、この部屋に居る部員に訪ねた。そう言えば、まだ部長たちの代は来てないものの、着実に人が増えてきているな…

まあ、話を聞くには多いほうがいいだろうけれど。


「その、話の内容って…?そんな悪い感じのことなの?」


そう尋ねると、はいっ、と元山さんが言う。


「さっき部長さんを引き留めようとしたのは、その話をするためなんです。実は…」


そう、元山さんが切り出した。

途中途中、他部員のツッコミや、ちょっとした愚痴、脱線していく話をまとめるとつまり…


「まず一つ目として、顧問の1人の御山江平先生が、お笑い研究部の顧問に飛ばされた

それはたしかに少し悲しいことだけど、本題はここではなく、御山先生の代わりに入ってきた人が、なんとなく嫌な感じがするってだけのこと?」

「だけじゃないんす!だけじゃあ!」


その声を皮切りにわいわいと、みんなが一斉に喋り出した。

そんな中三村が、はいはい1人ずつねーと後輩を窘める。

その場が少し落ち着き、それだけじゃない、と言った浜田蓮くんが話し始めた。


「ちょっとだけ愚痴になってしまうけど、その新しい顧問、盛長一誠先生、って言うんすけどすっっごい頼りなさそうなんですよ

その上、なんかもう、こう…」

「生理的に無理」

「ザキそれ。生理的に無理

その上前回、好きな動物とか興味ある研究とかについて書けとか言うよく分かんないアンケート出してきますし…」

「本当によくわかんないよなぁーあの先生ー」

「ははは…いや、でもその先生確か新任だし、たしかにやる人少ないとはいえ、顧問にせっかくなったんだから、みんなのこと知りたいと思うのは当たり前だと思うんだけれど…」


再びざわついたのを見て、そう言うが、「それもそうだけど、違う。生理的に無理」と、大半の部員に返されてしまった。


「…心配って、こんなこと?三村」


じとりとした目でちょっと三村を睨む。

正直生理的に無理とは、穏やかではないが人の感性の問題であるし、そんなに大きな問題ではないだろう。…少し嫌いという人数は多いが。

すると、あはは…とどこか遠くを見ながら三村は答えた。


「まぁ、そうっちゃそうだねぇ…あのぉ、みんながこんなに生理的に嫌う先生も珍しいなと思って…?ツラでも拝んで笑っちゃおっかなぁ!って思って…

うん…なんかごめん…」

「全くだよ」

「…でも」


と言い三村は、ううん、やっぱ何でもない!忘れて忘れてー!と言った。そしてそのまま、何かを考えているような、どこか彼女に似合わない難しい表情をしだした。

そこできられたら気になってしまうが、本人は言いたくなさそうなので別に聞かないでおくことにした。

ふと、先程から黙っている卯月の方を見やると、やはりこちらもなんとなく難しい表情をしていた。


それからすぐ、部長を始めとする高1の面々が部活にやってきた

つかれたー、と言いながら入ってきた彼女らは、俺たちがいるのに気づくと、こんにちは!と元気に挨拶をしてきた。

まだ渡さないのかと、卯月に聞くと、まだ顧問の先生いらしてないし…いらしたら渡すよ。と答えた。まぁ、まとめて渡す方が楽だし、それが良いだろう。


そこから暫く、高1の面々と俺は話した。

今はトップとしてどうだとか、少々事務的な話と、先ほど後輩らが話していた、新顧問のこと。


聞いてみると、選り好みしない部長を始め、見事に全員、いい印象を抱いていないようであった。

部活がいつも始まる時間の2、3分前、何となくひょろっとして、白衣を着た、なんとなく理系といえばこんな感じ、というイメージにぴったりなメガネをした先生が入ってきた。

それを見、渋川くんが「あの人です」と耳打ちで教えてくれた。

別に、見た目から理系タイプの人間は苦手な人はいるだろうが、それほど多い訳では無いだろうし、別に俺は盛長先生のことはパッと見なんとも思わなかった。

少なくとも、その時点では。


そうして部活が始まった。

卯月も、三村も、何故だか未だに少し難しい表情をしている(ただ、三村においてはちゃっかり、後輩の隣に座り、いかにも部員ですと言ったふうに後輩達の中に紛れているが。)

暫くすれば、もうひとりの顧問、上条ゆいこ先生もいらっしゃるだろうし、みんなから現状について少し話が聞けたし、部誌を無事にみんなに配って、そしてそのまま帰ろう。

そう、思った。

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