思わぬ足止め
新たな週が始まった。
月曜日は正直、これと言ってやることがない。
ただ、俺たちは受験生なので、勉強はもちろんやりはするが。
昼休みに入り、誰を誘うでもなく1人で弁当を広げる。
程よく部屋は暖かく、思わずふわあ、と口を開けて欠伸をする。…と、不意に何かが突っ込まれた。
「んんっ!?」
口の中に、程よいくらいにサクサクの衣と、エビのほんのりとした甘さが広がる。
どうやらエビフライを突っ込まれたらしい。
驚いて、自分にエビフライを突っ込んだと思しき目の前の人影を睨む。
そこには、いつの間に来たのか、なんの悪びれもなく机に手をつき微笑む明日の姿があった。
「俺も一緒に食べていい?」
「…別にいいけれど、人にエビフライを突っ込むのはどうかと思う」
「ごめん、そこに口があったから」
相変わらず少し睨んだまま、清水に苦情を言うと、と登山家のようなセリフを軽いノリで返される。
相変わらずだなあ…と言うと、ありがとうと返される。
別に褒めてはいないのだけれども。
「で」
「で?」
「今週はどうするんだ?」
「話し合い?」
「そ」
清水が口に豪快に自分の弁当に入っている生姜焼きを2枚頬りながら聞いてくる。
…清水は顔立ちがいいし、モテるのに何故残念な行動が多いいんだろう…
そんな彼を見つつ、今週ねえ…と呟く。
「やらないのか?」
「いや、勿論やるよ」
「なら良かった。あっ、生姜焼き食う?」
「別に人の弁当はいらない…」
そう返すと、清水はふぅんと不思議そうに呟き、大量に弁当箱に入っていた生姜焼きを一気に食す。
標準男子と比べると細身のその体のどこに、そんな大量の肉が入っていくのだろうか。
自分なんて直ぐそれが、脂肪に変わってしまうのに…
そこだけは女々しいかもしれないが、少々羨ましい。
それから他愛のない話をしつつ、昼を過ごしていると、
「ぶっちょっうっくーん!あーすひ!」
と廊下のほうから声をかけられた。唐突に話しかけて驚いたのか、少々明日がむせていた。
「どうしたの三村」
と、ズカズカとこちらに向かってくる三村に向かって問う。
「ねえねえ、今週の金曜、予定ある?」
それを聞いて、清水と顔を見合わせる。
金曜の放課後、みんなで集まって話し合いをする…と、一緒に決めたはずなのだが…どういう事なのか、と。
そんな自分たちを見て、一瞬キョトンとした顔をした後、三村は大声であーっ!!と叫んだ。
瞬間、清水からうるさい!と叱咤を受ける。
「で、何?」
「いやいやいや、真面目な清水くんと部長くんだからさ、忘れてないとは思うのだけれど…」
「今週の金曜、創立記念で休みだよ?」
「「…え?」」
どういう訳か、金曜は朝に集合して、三村とカラオケに行くことに決まった。
俺たちが忘れていたことがそんなに意外だったのか、暫く三村は笑っていたが、清水にどつかれ大人しくなった。
…それにしても、清水、三村とカラオケなんて初めてだし、特に歌えないんだが…何を歌おうか。