春うらら、のどかな新生活と、部活と
「私達はまだ、雛鳥だ。だけど羽ばたける、無限の可能性があると思う。だからお互い、頑張ろうな」
その昔、そんなことを言ってくれた先輩がいた
窓際の席、季節は春。その昼時。
友人達はみんな用事があるとかで1人弁当を食べ終え、することも無くただただぼうっと過ごしていた。
うららかな日差しが食後の体にはちょうど良く、うとうとし始めた時のこと、
ふと頬にひやりとしたものが触れた。
面倒臭いから無視しようと思ったら思いっきり頬をぐいと引っ張られ、よく通る声が頭上から降ってきた。
「ったくもーさー!無視なんてひどいんじゃないかな?ぶっちょー君?」
声の主は自分がよく知っている人。
自分がこの学校、中高一貫の進学校(自称であるが)に入ってきた時に初めて声をかけてくれて、それからずっと付き合いがある元気な少女。
自分に新たな道を見せてくれた、彼女は
「…三村、手冷たい…お前なにしてきたんだよ…」
三村琳湖。
自分に何があろうと元気に振る舞い、笑顔が大切!という言葉が口癖の彼女は俺に新たな道、新たな世界を教えてくれた恩人だ。
「ふむふむ、その質問にはめんどくさいから答えないとしてですな」
「いや別にめんどくさくもなんとも無いでしょう?」
「えっ?何?私聞こえない。今推しの幻覚しか見えないし、推しの言葉しか聞こえない
目の前にあるのは推しのおっぱい」
自分の言いたいことを早く言いたいのか話をそらすために、なにか、聞いてはいけないような気がする言葉をさらっと言い放ちニコッと笑う。
…イイヤツではある。イイヤツではあるのだが如何せん変なことしか言わないしいつでもテンションがおかしい。それに救われることは多々あるとはいえ、本当にこれだけは慣れない。頼むからもう少し、女という自覚を持ってほしい。
そう心の中でぼやいていると、ああそうだ、と三村はわざとらしく言い、続けた。
「今日の放課後、空いてる?部活、寄っていかない?」
そう、春の日差しには似つかわないほど明るい笑顔で微笑んだ。
別に放課後は空いているし、なんとなく俺はこの笑顔には弱いようで、断れない。
その問にとりあえず頷く。
それを見た三村は、嬉しそうによっしゃー!と教室中に響き渡るような声で叫んだ。
それをたしなめようとした瞬間、予鈴が鳴った。
予鈴を聞いた三村はちょっと嫌そうな顔をした後、いつもの表情に戻り、こちらを見た。
「んじゃっ、また後でー!それではーさいならぁー!」
それだけいうとドアに突進していった。
毎度ながら嵐のような奴だなぁと思う。
背中を見つつ、転ぶなよとだけ一言注意し次コマの支度をする。
嗚呼、でも午後の授業にはあまり集中出来なさそうだ。
久々にあの場所に行く、そんな予定ができてしまったのだから。