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商業ギルドの魔王候補  作者: まる
8/33

受付嬢の皮をかぶった・・

【受付嬢の皮を被った・・】


かなり長い時間を割いて、ギルドについて説明してくれたエムファスは、一番最初に話を戻す。


「それでは、オプファ君の所属ギルドについて話し合いましょう」

「はい、お願いします」

「オプファ君は、どのような仕事をしたいと考えていますか?」

「えーっと、実は商業ギルドを紹介してくれたのが、薬師ギルドのトロナさんなんです」

「うん? どういう事かしら?」


あまり不幸話をするのは好きではないが、掻い摘んで話しをする。


何故この町に着て、冒険者となったのか・・

冒険者ギルドで、一体何があったのか・・

商業ギルドで、何をしたいと思っているのか・・


一通り話をすると、エムファスは、思いっきり顔を顰める。


「そんな事があったの・・。あの冒険者ギルドには、前々から黒い噂があったけど。なる程、これで合点が行ったわ」

「噂って・・、どんな噂なんですか?」


自分も関わった事なので、思わず聞いてしまった。


「あくまでも噂なんだけど、戻らないポーターとか新人が多いってね。しかも大半は独り者ばかり」

「なる程・・」

「ポーターは冒険者ギルドに所属するけど、臨時雇いは商業ギルドでも斡旋するから」


勿論それだけでは表面に出てこない。実入りが悪いと、冒険者たちはすぐに町を移るから。


町を移る冒険者に、着いて行くポーターも多いだろう。

新しくパーティを組んで、他の町に行く者も居るだろう。


自分だって関わりにさえならなければ、全く気が付かなかったに違いない。


「ゴメンゴメン、話が逸れたわね。それでオプファ君がやりたいのが、薬草の卸し業って事で良いのよね?」

「はい。今まで冒険者ギルドでやって来たように、薬草を採取して、ギルドに売ると言うのが一番合っているかと思うんです」

「なる程、確かに今までの経験を使う仕事と言うのは、良い選択だと思うわ」

「ありがとうございます。では僕に合うギルドと言うのは?」

「ん? もちろん我が商業ギルド、商人と商会のためのギルド! 薬草を卸すと言う仕事であれば、この商業ギルド以外にありえないわ」


エムファスの顔には、ようこそ商業ギルドへと書かれているようだった。


「まあ薬師ギルドって言う手もあるんだけど、専属で薬草集めの人を募集してないから、商業ギルドの方が良いと思うけど、どうする?」

「分かりました。商業ギルドへの登録をお願いします」


冒険者として殺されたオプファは、新たに商業ギルドの商人として生まれ変わった。






商業ギルドへの登録手続きが、一段落するとちょっと席を外してセイテンと話しをする。


「なあ、セイテン」

『何だ? 今忙しい』

「忙しいって、何してんの?」

『あん? おまえが言うのか? この俺様をこき使うおまえが?』

「へっ!?」

『おまえと話していると、俺様が馬鹿にされている気がするんだが・・。まあいい、冒険者ギルドへの復讐方法を模索している所だ』

「ああ、そう言う事だったんだ。ありがとう」

『礼を言うのが遅い。気づくのも遅い』

「ごめんよ、セイテン」


確かに世界に広がる巨大な組織を相手にするのだ、そう簡単にアイデアは出ないだろう。


セイテンが言うのは、正しくこの世界のありとあらゆる人間の生活に関する情報を集めてからではないと、効果的に動けないらしい。


『ふん。で、何のようだ?』

「いや、これから新しい生活をする上で、その・・先立つものと言いますか・・」

『金か? 金なら俺様もないぞ?』

「そうじゃなくて、ダンジョンのアイテムを少し借りても良いかな?」

『ダンジョンのアイテム? ああ、ドロップアイテムか、良いぞ。全部持ってけ』

「ありがとう。どうやって出せば良いの?」

『ちょっと待て、同期してやる』


すると身体の内側がモゾモゾと動いて、何か押し付けられる感覚がある。


『これで良い。一回全部売っぱらえ』

「うん、分かった」


セイテンとアイテムについて相談を済ませると、エムファスのところへと戻る。


「すみません、お待たせしました」

「いえいえ。で、相談したい事って?」

「はい、新しい生活をする上で、どうしても色々な費用が発生すると思います」

「そうよね。借金の申し込みかしら?」

「出来るのですか!?」

「もちろん可能よ。まあ、条件があるけど・・、用立てる必要があるのかしら?」


商業ギルドは銀行システムもある上、お金も借りられるようだ。


「いえいえ、今のところは大丈夫です。・・大丈夫になるかどうかの瀬戸際です」

「ん? どう言う事かな?」

「冒険者として、今まで得られて手持ちのアイテムを買い取っていただけないかと」

「ああ、なる程ね。大丈夫よ、商業ギルドでもアイテムの買取は行ってるから」

「良かった! 今ここで出しても大丈夫ですか?」

「はい、どうぞ」


許可を得ると、セイテンに言われたように全部を取り出していく。


「じゃあ、お願いします」

「えっ!? マジックバック!? いえ、違うわね・・まさか空間魔法!?」


何もない所からアイテムが出てきた事に驚きつつも、エムファスは目を細めて能力の詳細を見抜こうとする。


空間魔法を使える人は殆どいない。商人で使えるなら、かなり有利な能力である。


「えっ、えっ、えっ!? どれ位あるのよ?って、まだある? ちょっと待って、待ちなさいって!? もう乗り切らないじゃない・・」


驚きは次々出てくるアイテムに打ち消され、戸惑い、焦り始め、今は悲鳴を上げている。


「えーっと、これで終わり・・かな?」

「そうですか・・」


近くに居た職員にも手伝ってもらい、あちらこちらにアイテムが分散してしまった。

あとで整理するのが大変そうである。


「これ全部で、本当に良いのかしら?」

「ええ、構いません。お願いします」

「本当に、本当に? ここにダンジョンボスのドロップ品とかもあるわよ? ざっとしか見てないけど、もしかしたらレアアイテムだってあるかも・・」

「はい、全部お願いします」


呆然とするエムファスと、商業ギルドの職員たち。


「計算するから、ちょっと待ってちょうだいね」


すぐに気持ちを切り替えて、慌しくアイテムを片付け始める。


提示された買取金額は、金貨で百三十枚となっていた。






かなりの金額を目の前に、これからの事を考える。


「(これを日々の生活で減らしてしまったら、薬草を買っていることと変わらない)」


一ヶ月の平均生活費が、金貨一枚である。


一年は八ヶ月で、一ヶ月は八週間、一週間は八日である。


節約すれば十年以上は働かずに済む。


しかし僕の目標は、一人でも多くの人に薬が届かせる事で、そのための薬草採取であり、トロナとの約束もある。


なら色をつけて薬草採取の依頼を出して、他人に取りに行かせると言うのも何か違う気がする。


「エムファスさん。このお金で何をしたら・・、いいえ、何が出来るでしょう?」

「えっ? それだけの金額があれば、大抵の事はできると思うけど?」


当然だが、オプファの趣旨が伝わっていないことに気づき、自分の目標を伝える。


「なる程、そういう目的があるのかぁ・・」


エムファスは、少し考える素振りをしてから切り出す。


「オプファくんには申し訳ないけど、もう少しお金があれば手立てはあるよ」

「お金があれば? どのような事でしょうか?」

「所持金を減らさないためには、幾つかの方法、大きく分けて三つのは知ってる?」

「へぇー、知りませんでした」


三つもある事に、驚きの声を上げる。


「簡単に言いえば、増やす、価値のあるものに変える、使わない、となるわね」

「えっ? 当たり前の事のような? 最後なんか特に・・」

「当たり前の事が出来ないから、皆が皆、資産を減らす事になっているんじゃないの?」


言われてみれば尤もである。


「例えば、どのようなものがあるのでしょうか?」

「もちろん商売一本。皆が必要としているものを、できるだけ安く買って、高く売る! これに尽きるわよ」


商業ギルドの受付嬢兼商人のお言葉は正しい。


「でも、上手くいかないから資金繰りに苦しんだり、大損したりするんですよね」

「何を言っているのよ! ハイリスクを如何にローリスク、ノーリスクにまでするか、ノーリターンを如何にハイリターンにまで上げるかが、商売の醍醐味じゃないの!」


あっ、駄目駄目なパターンである。エムファスは自分の世界に張ってしまったようだ。


「えーっとですね、もうちょっとソフトな手段はありませんか?」

「冗談よ、やーねぇ冗談。この町の主要な商品は、大手商会が握ってるから、今から商売を始めると、彼らのやっていない事を始める事になり、かなりのリスクを・・、でもそのリスクを以下に減らすかが・・」


エムファスが、ループしてしまった。


「(ん?)」


そんなループしている彼女が、何かを訴えかけるような視線を向けて入るのに気づく。


「(何だ? エムファスさんは僕に、何かに気づいて欲しいのか? えーっと、ギルドの話をした・・。素材の買取をお願いした・・。お金について聞いた・・。)」


心の中で指折り数えても、彼女が何を求めているか分からない。


「すみません、エムファスさん。何か僕間違っているんですか?」


思い切って彼女うにそう尋ねると、ププッと噴出してしまう。


「まあ、いいわ。この話しはもう少し後でね。もう少しソフトな・・、現実的なお話をしていきましょうか」

「は、はい。お願いします」


急にエムファスが、正常に戻ってしまった事に戸惑ってしまう。


「まず商業ギルドに登録して、商人になった以上、お金を稼ぐと言えば、商売以外にない、商売で活路を見出すものだと言うことは覚えておいて頂戴」

「はい」

「あなたが商売を始めたいと言うのであれば止めないけど、迷い悩んでいるのであれば、今はお勧めしません。理由はさっき述べた通りね」

「リスクとリターンですね」

「その通り。他にも情報を集めて、人脈を築いてとやる事は山ほどあるわ」


冗談ぽくは言っていたが、大切な事だったのだろう。


「となると、今出来る事は資産が減る事を、少しでも減らす事の一択となるわ」

「それは、どう言う方法ですか?」

「冒険者と商人の違いって何だと思う?」

「戦うとか? 所属ギルドが違うとか?」

「それもそうなんだけど、大きな差が定住性よ」

「定住性?」


あまり聞きなれない言葉に、首を傾げる。


「冒険者は、流れ者。オプファ君も言った戦うと言う事での死亡・・。よって家を借りると言う事や、買うと言う事は少ないの」

「ああ、そう言えばそうですね」

「オプファ君が商人となって、この町に根付くのであれば、宿代や食事代と言う日々の出費は大きなものになるわ」

「確かにその通りです」

「家を買って、自炊をすれば日々の出費を抑えられる」

「でも家を買うこと自体が、大きな出費では?」


家を買うと言うのは、纏まった金額や、そのお金を借りられるほどの信頼が必要になる。


「もちろん出費ではあるけど、財産を手にする事でもある。売れば纏まったお金が手に入る。ただあなたが何処に価値を置くかという事につきるけどね」

「なる程・・」

「何もしないでお金を得る事は出来ない。それはお金であれ、物であれ、あなたの才能や時間、存在そのものも含めて何かしらの対価が必要よ」

「僕の・・存在がお金・・か」


考えた事もなかったが、僕が存在しなければ、そもそもお金は要らないのだ。


何もしないでお金が入る? そんな事はありえない。


僕が存在して、お金を認識して使わなければ、お金があると分からない。

最低限、何もしないでもお金が入ると言う事を、僕が認識すると言う対価が発生する。


「話しが脱線したわね。私はあなたが資産を減らしたくないと言ったから、家の購入と言う案を出したの。これはあなたが纏まったお金を所持しているから」

「そうですか・・。もし持っていなければ?」

「これからその話しをするわ」


ちゃんと考えてあるわよ、とやんわりと返してくる。


「あなたに勧めるのは、借家に住んで自炊する事」

「借家って?」


冒険者だった、僕にはあまり聞きなれない言葉である。


「宿屋みたいなんだけど、家財が一切なくて自分で用意するの。その分、宿代じゃなく家賃って言うんだけど、かなり安くなっているわ」

「へぇー。でも僕が借家に住むのがお勧めの理由は?」

「大きく二つ。一つ目は、大きく生活が変わって、まず新しい生活に慣れる必要がある。もちろん、家を持つのも良いんだけど二つ目の理由によって勧めない」

「二つ目の理由は?」

「あなたの目標、夢を考えた場合、将来、あなたが薬局を開く可能性がある」

「ええっ!?」

「驚く事じゃないわよ? 誰かを雇って、あなたが採取した薬草を、薬にして売る。あなたはそう言うユニオンを設立させる可能性がある」

「あっ・・」


ユニオン・・、前に説明してもらった生産職系の大きなパーティ。


「そこまで考えた場合、今買える家よりも、薬を作ったり売ったりする施設を持った家が望ましい。でもそういった施設付きは、値が張って今の所持金では難しいの」

「それでもう少しお金があればって・・」

「そういう物件は、すぐに売れちゃう場合があるから、多少は無理しても押さえておいた方が良いのよ」

「なる程・・」


普通の家であれば、さほど問題にならないかもしれないが、いざ店を開こうとした場合、そういった店舗を探すのは大変なのだろう。


「また人を雇えるかどうかの収入が得られるかと考えた場合、先ずは新しい生活がどれ程のものか体感する必要がある。それに施設付きの家であれば、さほど値下がりしないで転売は可能だしね」

「そこまで考えて・・、ありがとうございます」

「いえいえ」


エムファスはにこやかな笑顔を浮かべて、話しは変わるけどと切り出す。


「オプファ君、指名受付嬢って聞いた事がある?」

「指名・・、受付嬢ですか? いいえ、全くありません」

「冒険者とかが、この受付を指名して依頼の手続きをしたいって言う仕組みね」

「へぇー、そんなのがあるんですね」

「指名された受付嬢には、手数料がもらえるのよ」

「・・・何処からでしょう?」

「いやーねぇ、分かるでしょう? 指名した冒険者からよ?」


ふと先ほどの、エムファスの訴えかけるような視線を思い出す。


全てのピースが出揃った事で、彼女の言わんとしていた事を理解する。


「商業ギルドにも、その仕組みはあるのですか?」

「勿論」


やっと理解してもらえたと、ニコニコ顔となるエムファス。


「エムファスさん・・。今後、指名しても良いですか?」

「ええ、とっても光栄よ」


いかなる場面でも商人であり、商機に繋げる、商業ギルドの受付嬢。


まだ駆け出しの商人にもなってい無かった事を、良い意味で僕は痛感させられる。





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