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商業ギルドの魔王候補  作者: まる
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ギルドとは何なのか?

【ギルドとは何なのか?】


テストで疲れた身体を伸ばしていると、すぐに先ほどの受付嬢が戻ってくる。


「改めまして、テストお疲れ様でした。私は今回オプファさんを担当しますエムファスと申します、宜しくお願いします」

「オプファといいます。エムファスさんは、僕がテストに合格したから名乗られたのですか?」


軽くお辞儀をするエムファスに、思った事を問いかけると笑みを浮かべる。


「そう思っていただいても構いませんが、正確には新たな商談が始まったからですね」

「なる程、僕個人も商品だと?」

「違います」


突然笑みが消え、厳しい表情になり、はっきりと否定する。


「確かに人そのものを商品とする事もあるのが商人です。しかし商談とは、信頼関係を築くことに他なりません。あなたを商品と見たわけではなく、商人として新たな信頼関係の始まりと言う意味で、名前を申し上げたのです」

「す、すみません・・」


あまりの思い違いに恥ずかしくなり、平謝りする。


「いいえ、私の方も言葉が足りず申し訳ありません。そのように取られてしまわれても仕方がなかったのでしょう」


エムファスが再び柔らかい雰囲気に戻る。


「いえいえ、こちらこそ早とちりをしてすみません。では商談と言う事は、一応合格したという事でしょうか?」

「はい、テストには合格しました。もっとも合否に関係なく、商談は始まりますが」

「えっ? どう言う事でしょうか?」

「商業ギルドのテストに合格できる、素晴らしいカリキュラムをご紹介いたしますから」

「な、なる程・・」


どのような機会であっても、商機に結びつける。これこそが商人なのだろう。


「やはりこのテストは、商人としての適正を見るためのものだったのですね」

「適正・・とまでは申しませんが、商業に携わる者にとって、最低限の読み書き、計算は必要となります」


思った通りだ。冒険者ギルドだって、依頼書が読めた方が有利だし、計算できない者は、報酬の分け前で損をする事だってある。


「お客様とのやり取りだけではなく、商人同士のやり取りでも、これが出来なければ商談にさえ行き着きません」

「尤もだと思います」


商業ギルドに登録すると言う事は、出来て当たり前の世界なのだ。


「それでは、オプファさんが所属するギルドを考えましょうか」

「ちょ、ちょっと待って下さい。そうです、所属ギルドって何ですか? 商業ギルドに登録するんじゃないんですか!?」


そう振り出しに戻ったが、僕は商業ギルドに登録するのではないだろうか?


「そう言えば、先ほどもそのようなことを仰っていましたね」

「はい、冒険者ギルドでは、そのような事がなかったので・・」


オプファの言葉に、エムファスが苦笑いをする。


「では、ギルドについて少しお話しをしましょうか」

「はい、是非お願いします!」

「ギルドとは、組合・・同じ職業者の相互扶助を目的とした組織の事です」

「組合・・、相互扶助、ですか?」

「同じ職業の人が、情報交換や、技術の向上、一定のルールを決め、お互いに働き易いようにする集団、組織です」

「へぇー」


ギルドにはそんな役割があった事を、始めて知った。


「ギルドと言うのは、一応非公式ではありますが、大きく分けて町の外の依頼を果たす戦闘職系ギルド、町の中の依頼を果たす生産職系ギルドに分けられます」

「何故、非公式なのですか?」

「きっぱりと線引きできませんので。樵ギルドは町の外の森へ、船舶ギルドも海や河川に、商人だって行商や、買い付けなどで町の外へ出ます」

「当たり前と言えば当たり前でした」


町の外に出るから、必ずしも戦うとは限らない。


「先ほども言いましたが、ギルドとは同じ職業人たちの集まりで、逆にその技術、技能を持っていない人たちは、所属することが出来ません」

「あっ、そう言う事だったんですね。・・じゃあ、冒険者ギルドは何故、誰でも入れるのでしょうか?」

「どんな才能がある人も、必ず初心者です。ギルドに入る前のテストとして、見習いとして、弟子入りして技術を習得します」

「ふむふむ」

「しかし弟子として取れる人数には限りがあります」

「当然だと思います」

「そうなると世の中には、働けない人たち、無職の人たちが何千、何万と言う数になってしまいます」

「そうですね・・」


師弟関係は一対一が基本だし、多くて精々十人程度だろう。

もちろん職業訓練で同時に多くの人に教えることも可能だろうけど、同じ職業の人が、多く誕生すれば仕事を取り合うことになってしまう。


「そんな人たちに、色々な技術を習得させ、自立させる組織があります」

「代表例が冒険者ギルドなんですね」

「その通りです。本来の冒険者ギルドの薬草採取の依頼は、安全に読み書き、計算を学ぶ機会の提供であり、段階を踏む事で戦う技術を高めていけます」

「それがランクと言うシステムなんですね」


エムファスはそうですと頷いて、話を続ける。


「誰でもなれる反面、倒しても減らない、それどころか増えるモンスターの退治と言う実力主義も相まって、柄の悪い人たちが増えてしまい、本来の目的から離れてしまってきているようですが・・」


多分どんなギルドも、設立当初は高い志を持っていたのだろう。

でも組織が大きくなる事で、些細な事に関わる事が出来なくなっているのだ。


「でも殆どの人が冒険者ギルドに行く理由は何でしょうか?」

「ずばり短期間での収入になると思います」

「短期間の・・収入、ですか?」

「商業ギルドや、その他の生産職系のギルドに登録するには、ある程度の知識、もしくは技術が必要になります」

「先ほどのお話しですよね」

「試験に合格するまで、もしくは弟子入り出来るまで、無収入になります」

「あっ、そうか。冒険者ギルドは、それが無い」


冒険者になる人の多くは、殆ど手持ちのお金がなく、手に職も無い。

そして広く知れ渡っているのは、誰でも冒険者になれるという話。


「でも戦闘職系ギルドは、冒険者ギルドだけではないのに、どうして他のギルドに依頼しないのでしょうか?」

「良い所に気づきましたね。それが二大ギルドと呼ばれる、冒険者ギルドと商業ギルドの特徴なのです」

「二大ギルド・・特徴ですか?」


確かに商業ギルドと冒険者ギルドは有名だ。


「良く考えても見て下さい。依頼慣れをしていない人々はどのギルドに行ったら良いのでしょうか?」

「・・えっ!?」

「例えばモンスターの退治の依頼としましょう。代表的なのは、傭兵ギルド、狩人ギルド、魔導師ギルド、盗賊ギルドなどありますが、どのギルドに依頼しますか? 冒険者ギルド以外ですよ」

「そ、それは・・」


頭の中に思い浮かべるが、どのギルドに頼むべきか想像できない。


「最初は、依頼主は各ギルドを回っていましたが、たらい回しの挙句、自分の依頼を果たすのに適したギルドが少ない事が分かってきました」

「どうしてですか!?」

「モンスターの退治には、モンスターの種類、数を調べる、盗賊ギルド、罠が有効なら狩人ギルド、魔法た有効なら魔導師ギルド、肉弾戦が有効なら傭兵ギルドと、依頼主が一人で判断して、回らなければならかったんです」

「そ、それは・・」


依頼主のとんでもない苦労が忍ばれる。


「そして依頼主を助ける方法として、冒険者ギルドと商業ギルドが窓口となった。依頼のマッチング、これが二大ギルドの特徴です」

「なる程!」

「これは他のギルドからも歓迎されました。依頼主の煩わしい手続きから開放されたのですから」

「そっか・・」


右も左も分からない依頼主が、毎日のように来られて、訳の分からない話をされては、ギルドとしても堪ったものじゃないだろう。


「ここから更に、クランとユニオンが派生しました」

「クラン? ユニオン?」

「冒険者ギルドと商業ギルドがマッチングをしていくと、パーティと呼ばれる二人から六人ぐらいのた職種の集まりが生まれてきました」

「色々な職業の人が集まった方が、依頼が果たし易くなったんですね」


一回一回、臨時のパーティを組むよりは、常日頃からパーティを組んでいた方が良い。


「とは言え、怪我や病気で動けない仲間が出てくると、パーティとして機能できず、全員が働きにくくなってしまった」

「そう言う事もありますね」

「万が一の場合に備え、他のパーティ同士と連絡を取り、助け合える方法が出来ました。パーティの拡大版で、戦闘職中心がクラン、生産職中心がユニオンです」

「戦闘職や生産職が中心って、どう言う事ですか?」

「クランの中に鍛冶屋が居たら、武器の修理をしてもらい易くないですか?」

「納得しました」


ギルドにしろ、クランにしろ、ユニオンにしろ、助け合うのが原点の組織ならば、エムファスの言葉は尤もだ。




そこまで話すと、エムファスがコホンと咳を一つする。


「では、お待ちかねの所属ギルドの決定にまいりましょうか」

「その前に一つ聞いても良いですか?」

「何でしょうか? 商業ギルドと、他の生産職系ギルドの違いです」

「先ほど申し上げた、生産職系のマッチングです」

「それだけですか? 冒険者ギルドは、働けない人たちのセーフティネットの役割を持ちつつ、マッチングをしていましたよね」

「まあ、たいした事はしていないのですが・・」


大した事はしていないと言った言葉の続きが、とんでもなかった。


「第一に銀行システムですね」

「えっえぇぇぇぇー。とんでもない役割じゃないですか!?」


家に持っておくのが危険なお金を、僅かな手数料で預かってくれる。

ギルドの登録証と連動しており、どの町でもお金の出し入れが可能だ。


宿屋暮らしの冒険者たちには、必須のシステムである。


「あと町に存在しないギルドの代理を行います」

「例えば、どんなギルドでしょうか?」

「屋台ってご存知ですよね?」

「えっ!? 屋台って、あの食べ物屋とかの屋台ですよね?」

「その通りです」

「王都や、大都市となりますと、美観の関係や、場所争いと言った問題から屋台を管理する、屋台ギルドと言うのが存在します」

「へぇー」

「しかしこの町には、屋台ギルドはありませんので、代行しています」

「なる程」


その町や環境によって、必要とされるギルドは変わってくるのは当然だ。

一軒や二軒のためにギルドを設立すると言うのは、あまりにも無駄が多すぎる。


「それから、商人や商会の管理」

「商業ギルドが、商人や商会の管理をするのですか?」

「管理と言いましても、違法性の高い物についてのみです。如何に儲けるか、この一点に関しては非常にシビアです。競争、駆け引き、潰し合いは当たり前ですが、恐喝、暴力、商売の邪魔をする等は、断固として許しません」

「商売の邪魔は良いのでは?」

「赤字覚悟の大安売りや、仕入先への圧力はやむを得ませんが、誰かに店を壊させたり、強面の人に店を占拠させる、商品の荷馬車や船を襲せたり、食べ物屋の前にゴミを撒かせたりと言う事です」

「それは犯罪ですね」


グレーゾーンも多々あるのだろうが、この辺りはきっちりさせる必要がある。


「あとユニオンの管理」

「ああ、なる程・・」


マッチングをする商業ギルドならではの仕事だろう。


「最後に町や各ギルドとのマッチングですね」

「商業ギルドのマッチングって、どんな感じなんでしょうか?」

「町の人たちの、あれが欲しいこれが欲しいを各ギルドに伝えたり、各ギルドのあれが欲しいこれが欲しいを、他のギルド、場合によっては他の町へと買い付けに行きます」

「例えば?」

「そうですね・・、この町では鉄が取れません。町の人々から、剣や包丁、鍬と言った鉄製の道具が欲しいと要望があれば、鍛冶ギルドに伝えます。今度は鍛冶ギルドから、鉄が足りないと要望があります。鉄の買い付けを商人や商会に依頼します」

「・・・・」

「鉄が手に入れば、今の逆の順番で町に行き渡るようにします」


聞いているだけでも、とんでもない労力と言うのが分かる。


「えーっと、ご苦労様です?」

「ありがとうございます」


何と言って良いか分からず、思わず疑問形になってしまったが、喜んでもらえたようだ。


「他にご質問がなければ、所属ギルドを決めましょう。先ほどの話ではありませんが、受け入れ先が駄目と言う場合もありますので、ご了承下さい」

「その場合はどうなるのでしょうか?」

「もちろんマッチングするまで、お手伝いいたします」


商人なのに、どうしてここまでしてくれるのか分からず聞いてみる。


「どうしてそこまでしていただけるんですか?」

「目先のお金に囚われる人は、所詮二流どまりの商人です。一流は人の中に価値を見出します。人との繋がりは、お金や物では得る事はできませんから」

「なる程・・」


目の前に居るのは、単なる受付嬢ではない、超がつく一流の商人なのだ。


「エムファスさん。ご指導、宜しくお願いします」


自分の先輩であるエムファスに、心からの敬意を表して頭を下げる。


「こちらこそ宜しく、オプファくん」


後輩オプファのこれからに期待して、満面の笑みを浮かべて応える。





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