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商業ギルドの魔王候補  作者: まる
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商業ギルドへの移籍

【商業ギルドへの移籍】


トロナは、冒険者ギルドのギルドマスターの出した裁決に唖然とする。



『オプファと、新人つぶしのパーティが戻るのを待つ』



「何、馬鹿なこと言ってるんですか!?」

「落ち着いて、トロナちゃん。あなたの言い分は分けるけど・・」


ダンジョンまでの距離を考えると、帰ってこれるのは早くて明日である。




受付嬢も納得していない様子だが、ギルドマスターの決定に逆らえない。


サブギルドマスターは、オプファと新人つぶしパーティについて、こう証言した。


「常日頃から、ダンジョンに連れて行け、パーティに入れろと騒ぎ立て、迷惑を掛けていた。何度断っても、しつこく言い寄るので仕方なくパーティを組ませた。トロナに嫌がって見せたのは演技だ」


トロナの証言は、薬師ギルドの前での出来事でもあり、多数の証言がある。


「新人つぶしのパーティが、オプファを無理矢理連れて行った。その際に自分への暴行もあった」


ギルドマスターは、サブマスや、トロナの話しから判断する。


「冒険者が、ダンジョンに入りたいと言うのは当然だ。これについては両者平行線だから保留する。ただしギャーギャー五月蝿いから、仕方がないと言って、パーティに入れたのであれば責任は取らせる。またトロナへの暴行の責任も取らせる」


公平公正のギルドマスターとしての立場としてはやむをえないのかもしれないが、トロナからすれば、当然納得できない。




翌朝早くから、ギルドの建物を出たり、町の城門まで言ったりひたすら繰り返す。


他の冒険者が依頼を取って、ギルドから居なくなる頃には、救助にいける人たちが居なくなると、職員に詰め寄って言う。


「オプファは無理矢理連れて行かれたんですよ!? すぐに助けに行って下さい!」

「無理矢理かどうかは・・。それに無事に帰ってくるかもしれないし・・」


受付嬢の言葉が途中で止まり、視線が一点で止まっている。


トロナも受付嬢の視線を追うと、新人つぶしがギルドに入ってくるところだった。

ニヤニヤしながら・・。まるで全てうまくいったといわんばかりに・・


トロナはパーティの所に、駆け寄って喰い付く。


「オプファは!? オプファはどうしたの!?」

「あっ? 何だお前は?」


その言葉に、パーティの面々が顔をしかめる。


「お前・・、薬師ギルドに居た・・」

「ふん! 死んだに決まってんだろうが!」

「そ、そんなぁ・・」


トロナを押しのけ、サブマスの元へと向かう。

払いのけられたトロナは、呆然として膝から崩れ落ちる。


「よお、サブマス・・」

「新人つぶしの皆さん。ギルドマスターがお話ししたいそうです」

「あぁ!? ギルマスだぁ?」


受付嬢の言葉に、サブマスから、そちらへと視線を向ける。


「(ちっ・・、バレちまったのか)」


再びサブマスの方を見ると、渋い顔をしている。


「オプファさんは?」

「初めてのダンジョンに怯えて、暴走して、勝手にモンスターに突っ込んじまったよ」

「あなたたち・・。それなのに、良くへらへらして帰って来れましたね・・」

「別にへらへらしてねぇよ!」


受付嬢の怒りに、怒鳴り返す。


「すぐに救助隊の派遣を要請します。当然、費用はあなたがたに請求されます!」

「はぁ!? 何言ってんだてめぇ!」

「パーティを組んだ以上、責任を取るのは当然です」

「あいつは死んだんだよ! この目で見たんだからな! サブマス、すぐにあいつの死亡手続きをしろ!」

「そうだな。分かった」

「サブマス! あなたも何を考えているのですか!」


死亡と分かっていれば、救助隊の必要はない。少なくともそんな金を出さなくても済む。


サブマスは、すぐに手続きを行い、止めようとする受付嬢を新人つぶしのパーティが邪魔をする。


「あなたたちも! パーティとしての責任。更にはトロナちゃんへの暴行の責任があるんですよ!」

「うるせぇな! 手続きが終わるまで大人しくしてろ」


今の、この場だけ、何とかできれば。そんな刹那的な考えが男たちを支配していた。




全ての手続きを終え、ニヤついている男たち・・

そんな男たちに、怒り心頭の受付嬢・・

涙で歪む床しか見えていないトロナ・・


トロナの歪む視界に、ふと靴が入ると、僅かな期待にバッと顔を上げる。

男たちを責めていた、受付嬢も視界の片隅に移った人物に驚く。

そんな受付嬢をいぶかしんで、視線を追う男たち・・


「オプファあ・・」

「オプファさん・・」

「おまえ・・生きて・・」


茶色い髪に、茶色い瞳に戻ったオプファが、にこやかに声を掛ける。


「皆さん、おそろいで。ちょうど良かった、お話しがあるんですよ」


そんなオプファの背中に、トロナは飛びついていく。







関係者全員が、ギルドマスターの部屋に集められる。


「まずオプファがダンジョンに行く、行かないの言い分は、平行線だから保留する」


ギルドマスターが、話し合いの前に切り出す。


「格下の冒険者とパーティを組む場合のルール上、サブマスと新人つぶしのパーティには、それ相応の罰を下す」

「ちょっと待て、ギルマス」

「何だ?」


新人つぶしのパーティのリーダーが口を挟む。


「オプファは生きてるじゃねぇか!?」

「受付嬢」

「はい。オプファさんは、新人つぶしパーティの証言により、サブマスにより死亡処理がなされております」

「つまり、無事に連れ帰っていないと言う訳だ」

「ぐっ・・」


救助隊の費用をケチったための結末である。


「それから一般人への暴行行為。冒険者は力がある故に、事の外注意を払わなくてはならない。それは分かっているだろうな?」

「ちょっと触れたぐらいじゃねぇか・・」

「他の証人も居るらしいが? 地面に倒れて咳き込むほどの足蹴りだそうだが?」

「ちっ・・」


オプファを連れ去る行為を隠すための結末である。


「サブマスは、パーティを組む際の基本的な処理をしなかった。そもそもがその結果がこの混乱を引き起こしているのは理解しているな?」

「ええ・・」


不貞腐れたように、ギルドマスターへ返事を返す。




新人つぶしやサブマスの裁きが終わると、オプファに水を向ける。


「こいつらの沙汰は、追って伝えるとして。オプファ、おまえはどうする?」

「如何するとは?」

「死亡の取り消しの手続きや、こいつ等への責任追及・・」

「冒険者ギルド自体には、何の罰もないのですか?」

「・・ギルドに? あるはずがないだろう?」

「つまり僕のような存在はで続けると? 僕が初めてだったと?」

「冒険者は自己責任が原則だ。かかる火の粉を払えないようなら冒険者として、遅かれ早かれ死ぬことには変わりない? 逆に今回は稀なケースだ」


トップレベルの冒険者でなければ、オプファは路傍の石と変わらぬ、数多く居る冒険者の一人なのだろう。


そんな一人の冒険者の生き死にも、存在の有無も、ギルドマスターとしては些細なことに違いない。


「なる程、分かりました。そのまま死んだままで結構です」

「冒険者ギルドを抜けると言うことだな?」

「その通りです」

「分かった」


ギルドマスターの言葉をオプファは肯定し、ギルドマスターは承認する。






オプファとトロナは二人揃って、冒険者ギルドを出る。


トロナに限っては、オプファが無事に戻ってから、ずっとへばり付いたままだった。


「ねぇ、オプファ。冒険者ギルド抜けちゃって良かったの?」

「うーん、あのまま居れば、きっと同じような目にあうんだろうなと思ったら・・ね」

「じゃあ、これから如何するつもりか考えてない訳ね?」

「うん、そうなるね」


確かに切欠は冒険者ギルドの対応かもしれないが、飛び出した先の生活を何も考えていなかった。


「だったら、商業ギルドに登録したらどう?」

「商業ギルド? でも僕、商売なんてやった事ないよ?」

「今まで通り薬草を集めれば良いんだよ!」

「えっ、どう言う事?」

「商業ギルドに、商品を卸す商人は居るよ? オプファものその一人、薬草を卸す商人になるの。何処からか買ってくるか、採取してくるかは関係ないわ」

「なる程、それなら出来るね」


二人はその足で、商業ギルドへと向かう。




商業ギルドの建物が見えてくると、トロナは突然離れて行く。


「えっ!? どうしたの?」

「ごめん、オプファ、後は自力でお願い!」

「・・はぁ!?」

「薬師ギルドに、昨日から一度も戻っていないから!」

「・・ああ、なる程ね。分かった!」


手を振りながら遠ざかる少女の後姿に、出来るだけ大声で返事をする。


「とても心配掛けたんだろうな・・」

『ふん、これでおまえの復讐も終わりか、つまらん。台本通りの結末とはな』


頭の中に、セイテンの声が響いてくる。


ダンジョンを脱出した後、新人つぶしパーティを潰す方法を、あれこれと二人で考え、色々なパターンを想定したのだが、単純に、淡々と、話が終わってしまった。


「なあ、セイテン」

『何だ?』

「僕に力を貸してくれ」

『うん? もう力を貸しているだろうが。何を言っている?』

「あんなんじゃ僕の心は満たされない。更に僕みたいな人間が生まれるだろう」

『まあ、そうだろうな。それで?』

「冒険者ギルドに復讐をしたい」

『おいおい、一個人がか? 世界をまたに掛ける巨大組織に喧嘩を売るつもりか?』

「黎明の子、明けの明星よ」

『あん?』

「もろもろの国を倒したものよ」

『なんだぁ?』

「魔王セイテンよ」

『・・・・・』

「おまえの力を借りれば、冒険者ギルドに復讐できないか?」


セイテンのいぶかしむ感覚から、驚きの感覚、そして歓喜の感覚へと変わっていく。


『・・・クックックッ、あーはっはっはっはぁー。おもしれ、おもしれぇよオプファ。お前の方から、俺様を焚き付けてくるなんてよぉ』

「魔王セイテン。僕の命と魂を差し出そう。だから力を貸してくれ」

『我は魔王セイテン、委細承知した! 冒険者ギルドに恨みを晴らし、満たされたお前をどん底に落として、魂を喰らい、俺様は真の降臨をなすとしよう!』


二人は約定を交わした。

自分の死と引き換えにしても、自分のような人間をもう出さない方法を残したかった。






オプファは一人、商業ギルドの扉を開けて中へと入っていく。


「いらっしゃいませ、商業ギルドへようこそ」


扉を開けて最初に目のあった、肩を超えるユルフワの濃い茶髪に、少しきつめの同じ瞳の受付の女性が声をかけてくる。


「こんにちは」

「本日はどのようなご用件でしょうか?」


僕をお客と思ったのか、営業スマイルを浮かべて優しげに対応してくれる。


冒険者ギルドのように、ギリギリスレスレの服装ではなく、清楚な、肌の露出の少なく、身体の線を浮かび上がらせないワンピースなのだが、何故かドキリとさせられる。


とても彼女に似合っているなぁ、と思ってしまう。


「ありがとうございます」

「えっ!?」

「褒められたような気がしましたので」


彼女の笑みに、冷や汗が流れる。商業ギルドの受付嬢は、心が読めるのだろうか?


「そ、そうですか・・。あの今日は、商業ギルドに登録したいと思いまして・・」


何とか心の動揺を押さえ込んで、今日来た目的を告げる。


「そうですか。では簡単に登録までの流れをご説明いたしますね」

「はい、お願いします」

「まず最初にテストを受けていただきます」

「えっ・・、テスト?」

「テストに合格しますと、どのギルドに所属するか決定いたします」

「どのギルドに所属? 商業ギルドに所属ではなくてですか?」


分からない事だらけである。


冒険者ギルドであれば、名前だけで、しかも代筆可能で登録できた。


「では別室にて、テストを行います」


オプファの質問は完全に無視され、別の部屋へと案内される。


部屋は長テーブル幾つか並べられた会議室のような感じで、その一つの席に座り、待つように言われる。


「一体、テストって何が起こるんだろう・・」


そんな事を考えていると、先ほどの女性が入ってきて、自分の前に羊皮紙を四枚ほどと、筆記用具を置く。


「制限時間はありませんが、あまり時間がかかるようであれば打ち切ります。では、羊皮紙を返して、始めて下さい」

「は、はい」


羊皮紙をひっくり返すと、色々な文字が書かれている。


まず一番上には、自分の名前を書く欄がある。


「えーっと、オプファ・・っと」


名前を書いた後、下の方を見ていくと計算問題がある。


「一桁から、三桁までの足し算と引き算か・・」


これ位であれば、特に問題なく解ける。


「今度は文章問題か。何々・・木の板が銀貨一枚、釘が十本で銀貨一枚、木の板が五枚と、釘が三十本で幾らになりますか? か。えーと、銀貨八枚?」


こんな計算問題ばかりではない。


「ん? あなたは財布を拾いました。どうしますか? って。如何しますかって言われても、衛兵に届けるかなぁ」


そんな設問を、羊皮紙四枚分こなし、それぞれのページに自分の名前を書き、更に一番最後に、自分で解きましたというサインとして、自分の名前を書いて終了となる。


「はい、お疲れ様でした」

「・・はい、とても疲れました・・」


ぐったりするオプファの一言に苦笑いを浮かべると、元の受付まで戻る。


受付嬢は、再びお待ちくださいと席を外して、自分の前から姿を消す。


「なる程・・ね、これが商業ギルドか・・」


オプファは久しぶりに頭を使って、凝り固まった身体を揉み解しながら、そう呟いた。





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