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商業ギルドの魔王候補  作者: まる
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最後の時

【最後の時】


ユニオンに戻ると、バーシスの町でのポーションの販売について、皆に説明する。


「ポーションを自分たちで作って、自分たちで売りたいと言う気持ちはある」

「そりゃ、もちろんよ」


僕の切り出しに、トロナの言葉が重なり、全員が頷いて同意をしてくれる。


「しかしポーションを作れるのは、僕たちのユニオンだけで、この町全てのポーションを賄う事は難しく、他の町から輸入するのは必須でしょう」

「うむ、当然だろう」

「また僕達のユニオンだけが独占するのは、僕達にも、この町にも良い結果にならない」

「そうなんすか?」

「一つの組織が独占すれば、値段は自由になるじゃろう? 安い分には良いが、いくらでも高くし放題じゃ」

「なる程っす!」

「それだけではない。簡単に引き抜きなど、大手の商会の横槍、取り込み、いくらでも考えられるぞ」


全員がポーションの独占に絡む、色々な懸念事項に頷いている。


「結果、一旦商業ギルドにポーションを集めて、商業ギルドから販売する形になる」

「そうなると価格は、商業ギルドに委ねるしかないって事すか?」

「そこが問題なんじゃろうな・・」


ステインとリーハー先生が、悩ましげに顔を歪める。


「商業ギルドからの提案は、先ほど説明した二つ」

「輸入品を最低価格にして、ランク分けした自分たちのポーションを高く売るか・・」

「自分たちが、ひたすら安く卸して、平均価格でポーションを売るか・・」

「そんな分かりきった事! 安く広くが、私たちの、ユニオンの掲げる目標でしょう!」

「まあ、当然じゃな」


トロナの言葉に、満場一致で商業ギルドに安く卸す事になった。


「商業ギルドが、例えば月五十本のポーションを輸入しているとして、僕たちが月一本収めたから安くしてと言うは無理だし、それなら補助金として渡した方が良いぐらいです」

「そうだな」


ぶっちゃけセイテンの能力で稼いで、セイテンの能力でポーションを持ち込むのと変わらない。


「平均価格ともなれば、やはりある程度の本数は用意する事になるな」

「可能なら輸入数と同じ数は必要じゃろうが・・、流石に無理があるのではないか?」

「作成に無理をすれば、魔法薬師にも素材採取役にも負担をかけわよね」


ポーションを少しでも安くするために、一人ひとりに負担をかけても意味が無い。

一回二回なら無理すれば可能だろうが、一ヶ月、一年、十年と長期で考えた場合、僕たちだけじゃなく、町にも迷惑をかけることになる。


「ここ一ヶ月のポーション作成の流れから、一日にどのくらい作れそう?」

「私が見てきた範囲ですが・・」


今まで黙っていたコーホンが口を開く。料理人として、お留守番係として、みんなの動きを一番見ている彼女ならではだろう。


「一日ではなく、一週間のスパンなのですが、トロナさんがメインでポーションを作り、メインズさんとステインさんが、隔日で素材採取とポーション作成に携わってました」

「ふむふむ、一週間だとどのくらい?」

「一週間で休養日一日入れて、百本ぐらいだと思います」

「そう百本・・えっ!? ひゃ、百本!?」


運送費なども含めて、初級ポーションは銀貨一枚が相場だ。


銀貨一枚を出せる冒険者は、一日の稼ぎが平均銀貨一枚のランクD以上だろう。

それ以上のランクでも、ポンポン買える代物ではない。


「さっき少し言ったけど、商業ギルドは一日五本計算で一週間に四十本程度じゃないかな? 勿論、種類を豊富に取り揃える意味もあるんだけど・・」

「ば、倍以上作ってるって事? このユニオン・・」

「・・末恐ろしいの」


とんでもないことが判明した。

しかもポーションを作れないので、素材採取の依頼がなく、ポーションに使われる素材は手付かずで、取り放題と言う。


「落ち着け皆。あくまでも初級ならと言う条件がつく。他の種類にまで手を出せば、ここまでにはならん。商業ギルドの方の四十本も、オプファの予想でしかないだろう?」

「そうですね」

「上位のポーションになればなる程、一日の生産できる数も限られるからのぉ」

「そっすね、上位のポーションを作れば作るほど、その分、下位のポーションの数も減ってくるっすから」


上位のポーションは、より多くの魔力が必要になるとの事だ。

魔力を使う以上、残った魔力で下位のポーションを作らなくてはならない。


「今話し合った事を、明日、商業ギルドに持っていきます」

「うん、お願いね」


皆の意見を取り纏めて、ユニオン側の提案として用意する。




翌日、ギルドマスターは唖然とする。


「い、一週間で百本じゃと!?」

「ええ、初級と言う条件は付きますが」

「間違いありません。試供品としてそれ以上は持ち込まれてます」

「待て待て待て! そんなに持ち込まれたら、えらい事になるわい!」


エムファスの同意に、ギルドマスターは更に慌てる。


「高く売って安く買う、をされてしまうぞ」

「ポーションが安く広く売られるなら構わないんですけどね」


一番の問題は、ポーションの価格が下がりすぎて、逆に他の町から買いに来る商人が現れる事らしい。



ギルドマスターは内心、最初は焦りに焦っていた。


今なら分かる、薬師ギルドのギルドマスターの暴挙に至った気持ちが。

オプファを除く、ユニオンのメンバーであれば、こんな規格外な事は発生しない。


自分の想像も及ばないほどの、成長をオプファの存在はもたらす。


そこまで考えると、自分にはアドバンテージがあると冷静さを取り戻す。

オプファの能力を知っている自分であれば、上手くコントロールしやすいと。


ここまでの本数を揃えられるのであればと、一つの案を出す。



ギルドマスターが、何やら一人で百面相をした後、第三のアイデアを出してくる。


「オプファ君、一つ質問じゃが、お主の独自ルートを失っても、品質と数量は確保できるかのぉ?」

「・・ユニオンの資産を、少しずつ切り崩すことになるかもしれません」


独自のルート・・偽の旅団を失う、すなわち僕がいなくなった場合の質問。


「ふむ・・、もう少し基盤を固めると言う前提になるが・・」

「はい?」

「オプファ君、お主のユニオンで、ブランドを立ち上げてみんか?」

「「ブ、ブランド!?」」


ギルドマスターの提案に、僕とエムファスの驚きの声が重なる。


ブランドとは、他社の製品と区別するために、付加価値をつけた特定の製品の事だという。


「バーシスの町としては、継続して他の町から、ポーションのの輸入をする」

「はい」

「お主のユニオンから、お主たちが細かに設定したポーションのブランドを販売する」

「結局のところ、価格の問題が発生しませんか?」

「輸入品と全く被らない品質帯に分け、輸入品より安く売る」

「品質が被らないブランドなら、逆輸入しても問題ない・・かな?」

「それは冒険者次第。複数の薬を安く買っても、持ち物は増えるし、咄嗟に使い分けられるかどうか」


ポーションの多くは、液体であり、何らかの容器に入れて持ち歩く必要がある。

水と言う重さに加えて、容器と言う嵩張る物を冒険者がどう受け止めるか。


「特定の、効果が高いものだけ買い占められるのでは?」

「そうじゃのぉ・・。例えば初級の上中下とした場合、上は輸入品より高く、中と下は輸入品より安くにしたらどうかのぉ?」

「ああ、そういう事も出来るんですね」


僕達のブランドという新しい手法に、ギルドマスターを質問攻めを始める。


「待て待て! 改めて時間をとって・・、いや、エムファスと相談せい!」


絶対に長くなる話に、ギルドマスターが待ったをかけ、エムファスが後日ユニオンに訪れて、更なる話し合いをする事となった。




先ずは僕が、ギルドマスターとの話しをユニオンに持ち帰る。


「「「「ブランドを立ち上げる!?」」」」

「うん。輸入品と同じものをブランドとして立ち上げられないけど、僕達の細かく分けられたポーションであれば可能らしい」

「凄いじゃないすか!」

「ブランドか・・。確かに自分達で価格設定できそうだな」


皆もその一言に驚くが、僕の話に熱を帯びてくる。


翌日、エムファスがユニオンを訪れ、ブランドについての話し合いが始まる。


「どのくらいの価格にしたら良いですか!?」

「一日に、週に何本作ればブランドとして認められるっすか!?」

「今、商業ギルドで問題となりそうなのは何かのぉ?」

「ちょ、ちょっと待って!? 落ち着いて! ちゃんと話すし、聞くから!」


前日から既にに全員の興奮が高まっており、あまりの勢いに、彼女はビビッて逃げそうになったほどである。






少しずつ動き始めたポーション作りと販売、ユニオンのブランド立ち上げを考え、最大の協力者に感謝を告げる。


「ねえ、セイテン。ありがとう」


自分の心にも語りかけるように、セイテンに話しかける。


『寝ぼけているのか、オプファ?』

「・・えっ!?」

『お前はこれまでにで二度だぞ、人間に裏切られたのは』


セイテンは僕の感謝の言葉に、辛辣な言葉で返してくる。


「そう・・だったね」


バーシスの町で僕は死んだ事にされた。

ファーデンだって、もしかしたら新たな犠牲者が生まれていたかもしれない。


『鉱山の男も、魔石の町の男も、海の町の娘も、お前が見えているだけでこれだけ居る。

元薬師の娘も、ある意味、町に人間に殺されかけたと同じだ』

「・・うん」

『このダンジョンや町だけじゃない。数多の非業の死を遂げた魂は尽きぬ』

「そっか・・、そうだったよね」


二人の間に沈黙が下りる。


『今尚、復讐を叫ぶ魂は尽きぬ』

「そうなんだ・・」

『今の幸福で忘れたか? 復讐を忘れるほど幸福か、オプファ?』

「そう・・かも」

『ならば時は近い!』



セイテンは、オプファに聞こえないように、声なき声を上げる。


幸福に満たされたならば、絶望のどん底に叩き落して喰らい尽くそう。

第二の魔王の降臨と共に、この世界に、復讐をと叫ぶ魂の望みを叶えさせよう。



『オプファ。冒険者ギルドの方は、商業ギルドでの成功など歯牙にもかけては居らん』

「そうなんだ・・」


確かに冒険者ギルドの方から、僕にどうこうと言ってきた事は一切ない。


『やはり力を見せ付けた方が、単純で分かり易かった』

「そっか・・」


セイテンは痺れを切らしたのか、どうにもならない世界に見切りをつけたのか・・


「ねえ、セイテン」

『何だ?』


それでも最後の足掻きと言わんばかりに、セイテンに問いかける。


「ギルドに、冒険者ギルドに、世界に、復讐する方法の目処は付いた?」

『方法はいくらでもある。・・が、冒険者ギルドだけに限定するのは難しい』

「それなら簡単に喰われてやらないよ!」


僕がセイテンに、言葉を叩き付けると、セイテンはしばしの間沈黙する。


「・・・セイテン?」

『クッ・・、クックックッ・・、カッカッ・・、アッハッハッハアァー』

「セイ・・テン?」


突然沸き起こった、セイテンの高笑いに戸惑う。


高笑いと同じように、突然僕の視界が暗転する。






真っ暗な世界・・。でも星のような灯りが漂っている。


上も、下も、前も、後ろも、右も、左も分からない。

立っているのか、寝ているのか、浮いているのか分からない。

手足や首、体は動き、自分の身体を見て、自分の息も聞こえる。


ただ方向感覚だけが失われた不思議な感覚。


「ここは・・?」

『最も深く暗い闇・・。殺された人間たちの怒りと悲しみ、恨み辛みの集まる場所だ』


僕の呟きに答える声と共に、一人の人間が姿を現す。


黒髪と黒い瞳だけど、僕そっくりの姿をしている

漆黒の一枚の布を、身体に巻きつけ、肩をピン、腰を紐で縛っている。


真っ黒な空間なのに、漆黒の衣を纏ってさえ、はっきりと分かる存在感。


その服装だけ見覚えがある・・


「セイテン・・だね」

『その通り』

「ここは・・、魂の集まる場所って言ったけ?」

『怒りと悲しみと、恨み辛みを持った魂たちの・・、魔王の揺り篭だ』


もう一度漆黒の世界を見渡して、セイテンの方の向く。


「僕を喰らうのかい?」

『ああ。十分幸福を感じただろう?』

「でも僕の望みは叶えられていない。それでも僕を喰らうと?」

『悪いがもう時は過ぎた。俺様一人ではどうにもならないんだよ。せめてお前は俺様の中で飼い殺ししてやろう、魂としてな』

「ちょ、ちょっと待って!? どういう意味!?」


セイテンは僕に背を向けると、歩き始める。


「何処へ行くんだい!?」

『んん? お前には見えないのか? 分からないのか? 感じないのか?』

「・・えっ!?」

『もう一人の魔王の胎動が』


足を止めたセイテンが指し示す方には闇しかない。が、確かにナニカがあるのが分かった。

黒い世界にあって、セイテンと同じように、際立った黒いナニカが・・


「これって・・、新しい魔王・・なのか?」

『そう! そして、この闇に浮かぶ星々こそ魔王の糧にして、寄る辺無き魂の輝き』

「なっ!?」


この闇に浮かぶ星明りの全てが、見殺しにされた人々の魂?


「何て数なんだ・・」


再びセイテンが、第二の魔王の方へ向かう。


「セイテン・・、君は何をするつもりだ?」

『第二の魔王が俺様を呼ぶ、一つになれと。同じ思いの魂たちが共鳴しあっているのさ。言っただろう? 時はもう過ぎ去ったと』

「セイテンと第二の魔王、どちらが残るんだい?」

『どちら? オプファ、お前はまだ分かっていないなぁ。何度も言っただろう、数多こそ俺様たちなんだぞ?』


両手を上に広げ、魂の一つ一つが魔王だと、魔王になるんだと言う。


「・・なあ、セイテン。頼みがあるんだけど」

『何だ?』

「僕の魂を喰らっても良い。だから僕の考えた復讐の方法をやって欲しいんだ」

『ほぉ・・。俺様にも考え付かなかったのにか?』

「第一と第二の魔王が一つとなれば、今のセイテンより大きな強い力が使えると思ったからね」

『言ってくれるな・・。それで?』


歩みを止める事なく、首だけをこちらに向ける。


「冒険者たちに復讐する方法・・、ダンジョンを創り替えてみないか?」


咄嗟の一言を、セイテンに告げた。






−Bar 堕天使−


二人の女性が並んで、自分の世界に起きた事の結果を話し合っている。


眼鏡をかけた女性が、もう一人の女性に話しかける。


「私たちが甘かったと言う事でしょうか・・」

「違うわね。信頼していなかったと言うべきかしら?」

「信頼・・、傷つくのを黙って見ているのがですか? 今回は運が良かっただけでは?」

「上司の言葉を借りれば、それでも尚、耐え忍び見守るのも使命の一つらしいわ」


魔王と言う存在が、たった一人の少年の言葉に左右されるとは思いもしなかった。

今回は勇者でもなく、為政者でもなく、ただどこにでも居る少年が世界を救った。


神と人間の賭けと言う天秤は、今回に限り、人間側の勝利と言う形に傾いた。


「あなたの言う通り、今後このような幸運は二度と起こらないかもしれない」

「そうです、その通りです」

「しかし私たちが見殺しにした結果、とてつもない可能性を示したのも事実」

「それは・・そうですが」

「今は私たちが人間から学ぶ時期だと思うのよ」

「私たちが・・学ぶ、人間たちから・・」


店員から差し出されたグラスに口をつける。


「これから先、私たちが身を切られるような思いが待っているかもしれない」

「はい・・」

「しかし私たち世界管理者が、人間の可能性を潰すわけにはいかない。潰してはならないのよ」

「そうですね・・」

「今の魔王に因って人間がどうなるのか、見守り、見定めましょう」

「分かりました・・」


店員が磨き上げられたグラスを光に当てながら、グラスに写るもう一人と微笑む。





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